勘違いで最強の冒険者に祭り上げられました。助けてください 作:帰りたい教会
はるか昔、魔具と呼ばれていた魔法の力を内包したオーバーテクノロジーであるその道具は、現在宝具と呼ばれている。現代文明では再現できない特別な力を持つアイテムが、有する力によっては一つで一生遊んで暮らせる程の金額で売れる物もある正真正銘の財宝だ。
例えば、尽きることなく水が湧き続ける水筒。
例えば、自分の傷を一瞬で治してしまう指輪。
例えば、被れば空を飛べるようになる帽子。
日々多くの研究者が血と汗と涙を流してなお、いまだにたどり着けた者はいないといわれている。そう目の前のマッドサイエンティストを除けば。
「今回のは出来がいいんだ。何と、魔法を吸収する指輪だよ!?やっぱり私は天才だと思うんだよね」
他のものが聞けば卒倒するだろう。一握りの遺跡やダンジョンにしか、宝具は存在していない。そのオーパーツである宝具をこのマッドサイエンティストはホイホイ製造できるのだから。
「ああ、そうだな。それで何時になったら満足するんだ?」
「確かに私はかつて魔具と呼ばれていたものを完成させている。しかし、伝説の聖剣や魔剣には及ばないのだよ」
「あれは空想上の代物だろう?」
「いや、あれらは実在したよ」
確信を持つ彼女の眼には、嘘だとは断じることができない何かが宿っていた。
「あれらは神具と言われている。神々が作った道具だとね。であるならば、私は作りだした暁には神ということになるだろう?」
野心の灯をともし、目を見開くその様は狂気的に普通の物から見れば見えるのだろう。しかし、長い間一緒にいる俺からすればその姿はひどく悲しげにその上破滅的に見える。
「まあ、俺には関係のないことか・・・。とっとと完成させて俺を解放してくれ・・・。マジで速く引退したいんだ」
「たぶん無理だと思うけどね」
とある冒険者の話
最初はただの新入りが来たのかと思ってたんだ。14歳のガキが冒険者本部に来たんだ。誰だって最初はそう思うだろう?王都の冒険者はレベルの高い依頼ばかりが回される。とてもガキができるような優しいものではない。少しもんでやろうと思って俺はそのガキに近づいたんだ。
「おい、ここはガキの来る場所じゃあねえぞ!!!」
「退いて」
互いの息遣いを感じられる程の至近距離で受ける恫喝の言葉は、ありえないほどの凄惨さを帯びていた。
欠片の温もりも宿さないガキの緋色の瞳が自身の姿を映しているのが良く分かる。その双眸からは何の感情も読み取れず、ただ絶え間なく放たれる殺意だけが彼の意思を雄弁に物語っていた。
俺はいつの間にか己の咽喉へと突き付けられた手に視線を移す。殺気を振りまいている相手に、この至近距離では回避も防御もあったものではない。指先一本動かそうものなら、即座に“何か”をされるだろう。
そのまま首の骨をへし折られるのかもしれないし、或いは頸動脈を切り裂かれるのかもしれない。否、そんな生温い事は言わず、首から上が跡形も残さず消し飛ばされたとしても不思議はない。
何にせよ、物言わぬ死体が一つ出来上がるのは間違いないと思わせる何かが、あのガキからは感じ取れた。
黙って引いた俺は仲間たちに笑いものにされたが、後日喧嘩を打った冒険者があのガキに半殺しに会ったと聞いて俺の予想は正しかったと証明された。あのガキに喧嘩を売ったのはこの王都でも有名なのノーネストと呼ばれる五人組の冒険者グループだった。上から三番目の『銀剣級』の冒険者グループだったこともあり、話題を呼んだ。少し遅れて、あのガキがある街では英雄扱いを受けるほどの実力者だという話を聞いた。そんな冒険者がいることは知っていたが、まさかこんなガキだったなんて・・・。
その事件以来、誰も不用意にはあのガキに近づかなくなった。それからほどなくして、王都に襲来したドラゴンを討伐したことであのガキは最上位の冒険者『金剣級』となった。
あのマッドサイエンティストの隠れ家は、特殊な結界に守られており普通は入ることができない。入る手段は三つ。偶然結界が何かの拍子に緩み、入れる場合。結界を破った場合。もしくは、彼女自身が自分の隠れ家に招く場合だ。
彼女が人を招くはいつの間にか拉致られており、気づけば隠れ家にいる。用事が済めば、いつの間にか宿にいるのだ。全く持ってどういう絡繰りなのか・・・。
本日もそんな不思議現象を体験してから、貯金を下ろすためにギルドに行く。そして、俺がギルドに入った瞬間、普段の喧騒など嘘のように静まり返った。ギルドは仕事の斡旋をしてもらうだけに場所ではなく飲み屋にもなっており、かなり酒を飲みに来る冒険者が多い。後、受付の女の子がアイドル並に可愛いのでそれを見い来るバカも時々いるのだ。そのため、いつもは絶えず喧騒がうるさいのだが・・・。
「し、『死神』だ」
「め、目を合わすな殺されるぞ・・・」
「あの目・・・何人かやってるって・・・」
・・・これだよ・・・。俺のせいなのか・・・これ?なんだよ、死神って。何でそんな物騒な通り名がついたんだよ。公の場では、英雄だとか調子いいことばっかりのくせに。
俺がしたことと言えば、襲ってくる変なやつらを妖刀に撃退させていただけだぞ。断じて誰も殺してない。目つきは義眼のせいで悪く見えるんだろ。あと、寝不足でクマが・・・。
・・・俺のせいじゃない。俺は悪くない。
俺は黙って血と興奮の匂いを撒き散らしている冒険者集団の中を、肩で風を切って進んでいく。
「な、何の御用でしょうか?レイン様」
受付嬢が恐る恐る俺に問いかける。頼むから普通に扱ってほしいものだ。俺はこの息が詰まりそうな場所から早く逃げだしたい。何時までも、からんでくる冒険者をあしらえるとは考えてないし、早く否かに引っ込んで薬草積みでもしていたい・・・。だから・・・
「しばらく王都を離れるっとギルド長に伝えておいてください」
「は?」