幼馴染は煽りカス   作:ペルー来航

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藍沢凛斗は負けず嫌い。

 

 

「ファーーーーーーwwwwww」

 

 

 耳を劈くような甲高い叫び声。無駄に綺麗に伸びるHI-Cボイスを響かせて奴は今日も楽しそうに笑った。

 

 俺はコントローラーを握り締め、俯く。目の前の4Kテレビでは、『YOU WIN』と『YOU LOSE』の文字がデカデカと存在を主張する。

 

 また、負けた。俺のガノンドロフの攻撃は届かなかった。

 狡くないか。強過ぎないかゲッコウガ。

 ちくしょう……! と憎しみを込めて隣に視線を向けると、そいつは鼻の穴を最大限に開いて俺を見下していた。

 

 

「くぅ〜〜、また勝ちました。勝って、しまったァ! あーつれ! あーーーあああつれぇー! 勝利の美酒、たまんね〜w」

 

 

 ストゼロをグイッと一飲み、煽情的に喉を鳴らす。

 この小島玲香という名の――眉目秀麗、文武両道、でも煽りカスと大体のコミュニティで畏れられている彼女は――不本意なことに我が幼馴染だった。

 

 勝利の美酒に、酔う!w と、まさに煽るのが生き甲斐って感じで恍惚な笑みを浮かべる玲香に、俺はコントローラーをそっと床において向き合った。

 

 

「おい、クソ煽りカス。俺にもそれ寄越せ」

 

「っは? っは? 負け犬に呑ませる酒なんざねぇんだよなぁ」

 

「うっざっ」

 

 

 こじんまりとしたアパートの一室に、どどんと置かれたマイベットを占領してほざく玲香。

 その手から缶をひったくって煽る。

 ごきゅ、ごきゅ、と喉を鳴らせば、グレープフルーツ味に、アルコール特有の苦味が合わさった雑多な刺激が口内に響く。

 

 まだ若いからか、酒の美味しさなんて分からないけど。

 でもこの何ともいえない感情をグズグズに溶かしてしまいたくて、せめて見た目だけでも精一杯美味そうに飲み干してみせる。

 

 

「あっ……も、もう。まけいぬのくせにぃ」

 

「うっせ……おえ、けふ。次は負けねぇからな……!」

 

「てゲップすんなよ汚いな!」

 

 

 床の上のコントローラーを拾い上げて、今度はベッドの上にどかりと座り込む。

 まっじ。何が美味しくて学校の皆はこれを毎日飲むんだろう。ほんとにわかんない。

 

 

「あーもう。ダサすぎだよねw 負けてヤケ酒しておえってなるとか、うけるw」

 

 

 同じように。

 コントローラーをもって俺の隣に座り込みながら――しかし的確に俺を煽ってくる玲香の言葉を無視してレバガチャする。

 

 

 ゲームを入れ替えて、次はテトリスを始める。

 こいつは得意なゲームだ。いっつも、勝てはしないけど接戦まで持ち込める――という、俺の淡い希望すら見抜いて煽ってくる玲香の声をBGMに、俺はほんの少しだけぼんやりと脳をうわつかせた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 玲香と初めて出会ったのはいつだったか。その詳しい始まりはもう思い出せないくらい昔のことだった。

 気づいたら一緒に居て、何をするにも一緒。

 小学生の頃とかは特に、よくお互いの友達に馬鹿にされたりからかわれたりしたけど、その度に俺は『絶対こいつの傍を離れてなるものか』と思って言い返していた。

 

 玲香も、小学5年生位までは煽ることを知らなかった純粋な子供であったから、頬を染めて袖を握ってきたりだなんだって可愛いものだった。

 

 

 このままこいつとずっと一緒に居続けるんだろうなぁって、子供心に思っていたし、多分20回位は結婚の約束もしてたような気がする。

 

 子供のいうこと、なんて馬鹿にされそうだけど少なくとも俺はマジだった。

 玲香を守れるようなかっこいい男になってやる! って本気で思っていたんだ。

 

 

 しかし。転機は意外とあっさり訪れた。

 これは忘れもしない、玲香の10歳の誕生日の日。

 あいつは父親からパソコンを買ってもらったんだ。

 子供特有の好奇心と吸収力をもって、その日の内にパソコンを使いこなしていき――そして玲香は変わってしまった。

 

 

『やっぱ男は身長180は無いとね』

 

『3Kって知ってる? 高身長高収入高学歴って意味なんだけど、凛斗(俺の名前)はひとつも持ってないね』

 

『将来は医者か政治家と結婚する』

 

『ぷーくすくす、またテストの点数私に負けてるの? わーダサいw』

 

 

 小6の始業式。

 春休み中におばあちゃん家に行っていたせいでおよそ2週間ぶりになってしまった玲香は、色々とねじ曲がってしまった煽りカスになっていた。

 怒涛の勢いでぶちかまされた、昔では正直理解できなかったその言葉の数々に――しかし心をグチャグチャに叩きのめされて。

 

 

 俺はその日初めて、玲香の前で泣いた。

 

 

 

 

 それからの毎日はいつも煽られてばかりだった。

 中学に入ってからその才能を開花させて、学業やスポーツ、その他やることなすこと全てに精通して行った玲香。

 見た目も順調に育っていき、所謂クラスのマドンナになる迄時間はかからなかった。

 一方俺は逆に、そこら辺からついて行くことが出来なくなって行った。

 見た目はまぁ並、よりちょい上くらい。勉強はどうにも伸びず、スポーツはまぁ出来なくはないけど女の子の玲香にいつも僅差で負ける(といっても玲香が飛び抜けているだけだけど)。

 日々魅力的になり続ける玲香と、イマイチうだつの上がらない自分。それを比べてがむしゃらに足掻いても距離は開いていくばかり。

 

 才能なんてクソ喰らえ。そう思って奮起しても、俺が汗ダラダラで登った一歩を軽々と超えていく玲香。

 さらに言ってしまえば、俺の周りの男なんて基本俺より格好良くて、背が高くて、なんでもそつなくこなす奴なんていっぱい居て。

 良い奴らだから嫌いになんてなれなかったけど、だからこそ自分のウチに溜まっていく醜い感情を嫌悪した。

 それは中学も高校も変わらなかった。

 思春期は訪れて、玲香との喧嘩も増えた。

 

 玲香とはずっと一緒、だけど。

 気づいたら俺は必死に食らいついてばっかりになってしまった。

 当の玲香本人なんて、寧ろ煽ってばっかりで。

 俺は、それでも一緒に居たいって、玲香にワガママばっかり言って一緒に居続けたんだ。

 勝ちたいから、っていう理由をつけて。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「――と、凛斗? 何ぼーっとしてんの。まさかあれっぽっちのお酒で酔っちゃった、とか?w おいおいおいおいお」

 

「うっせ。反応すんのがめんどかっただけだバーカ」

 

「おっ、図星かな?」

 

 

 玲香の声で現実に引き戻される。

 この煽りカス。一応シリアスになってた筈なのに容赦無い。

 寧ろこいつがここまでタチの悪い奴だからこそ、一緒にいようとし続けられるというか。

 きっとこいつが昔のままだったら、俺はどっかのタイミングで自分から離れていたんだろうなって思った。

 

 かぶりをふって、画面に向き直る。

 チラリと横を見てみれば、ほんのりと頬を赤く染めた玲香が居る。

 

 ちくしょう、かわいい。やっぱ、好きだ。

 

 悔しくて、でも嬉しくて。

 スタートへのカウントダウンに意識を高めながら、考える。

 

 

「――もっと頑張んなきゃ」

 

 

 小さく口にしただけの筈なのに、それに耳聡く気づいてめちゃくちゃ煽ってくる玲香を気にせずにコントローラーを動かした。

 

 

 ずっと、傍にいれればいいのにな。

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