当初3~4万字程度の小説を書いていきたいと思います。それ以降の続編は様子をみて決めていこうと思います。ですので、回収できない伏線もたくさんあります。
また、ダークファンタジーとなりますので一部残酷な表現がございます。ご注意下さい。
それではよろしくお願いいたします!
「……ひとつだけ、我儘をいいか?」
前を歩く男は突然立ち止まるとそう口にした。普段から頼み事などしない男の急な申し出に少女は言葉に詰まる。
明らかな疑問符を浮かべる少女の表情に僅かに笑みを浮かべ、男は言葉を続ける。
「ここで俺を殺してくれ」
突拍子もないような男の願いに少女の時間は凍る。
――――分かっていた事だった。
――――避けられない事だった。
だが、その現実を目の前にして少女の身体は動こうとしない。
目の前で硬直する少女を見てもう一度僅かに笑むと男は少女との数歩ばかりの距離を詰め、その身体を強めに抱き締める。ハッと我に帰る少女の意識を他所に男はその耳元で短くしかしはっきりと少女に届くように一言呟いた。
辺りは一面銀世界。日も登りかけて誰にも踏まれていない新雪を眩しいほどに輝かせている。
厚着したコートの上からでもわかる男の温もりから意識を外す。先程まで止んでいた雪は再び降り始めていた。
――――これもこの人の力、なのでしょうか?
古の魔神にはその感情で天変地異を引き起こした者もいると今になって昔の事を思い出す。男もこの状況に悲しんでいるのだろうか?と。
次第に落ち着いていく少女の様子を見て男は両腕を解く。そして自身の腰に吊るした細身の剣を引き抜くと器用に柄を少女に向け突きだした。
「そろそろお別れだ」
あくまで口調の変わらない男。まるで何かの作業をこなしているかのように。
少女は無言で柄を握ると剣先を男の胸に向ける。
「―――――」
男の唇が僅かに言葉を紡ぐ。
少女は大粒の涙をその目に蓄えて、しかし笑みを浮かべて。
「……貴方はずるいです」
剣は静かに男の胸を貫いた。
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――――――
――――
「―――俺、大きくなったら勇者さまになるんだ!!」
台所で料理をする母親の傍で少年は目を輝かせながら夢を語る。
落ち着きがなく動き回る息子の言葉に優しい笑みを浮かべながら母親は手元の食材を手際よく鍋に放り込んだ。
「それならお野菜もしっかり食べないとダメね」
「う……」
鍋に蓋をし
竃に置かれた少し小振りの鍋からは食材と調味料の混ざった何とも食欲を掻き立てる湯気が立っていた。普段より少しばかり贅沢をした食事。それほど裕福ではない少年の家庭にとって、それは今日が特別な日であることを表していた。
今日は少年の10歳の誕生日だった。
10歳になると半人前として、
――――勇者、というのはいわゆる冒険者。歴史上で幾度となく国や世界の危機を救ったと名を継がれる伝説的な存在として今でも子供たちはその活躍を昔話や紙芝居、喜劇で目に耳にする。これらの勇者はその出身、種族、性別など同じであることは殆どない。ただ、唯一それらに共通することがある。
――――勇者は唐突に現れ、そして消える。
未だかつて貴族や数多の戦争を乗り越えた軍人、数多の冒険者を屠ってきた魔物をも容易に仕留めた冒険者。それらの中から後に勇者と呼ばれる者は生まれたことがない。それが裕福でない少年や同じ境遇の子供たちに憧れの目を向けられる理由だった。
誕生日にはしゃぎすぎた為か、少年は不意に強い眠気に襲われる。もうそろそろ父親も帰ってくる頃だ、帰ってきた父親を出迎えるためにもここで眠りたくはないと、両手で目元を強く擦る。そんな少年の気持ちを知ってか知らずか、母親は少し休みなさいと優しく少年を諭す。
――――つぎに勇者さまがくるのは何年あとになるのかな?
母親に諭されるまま寝室に向かった少年が眠りに落ちるまでさほど時間は必要でなかった。
―――――――
―――――
―――
ゆっくりと瞼を持ち上げる。
視界に広がるのは、やや白みがかかった空とそれを取り囲むように空へと伸びる大樹の環、そして日の光に負けて姿を消そうとしている大小2つの月。普段から見慣れているはずなのにどこか違和感がある。
再び瞼を閉じたい体の欲求を抑えて、ゆっくりと上半身を起こす。視線を体の周囲に廻すと随分前に消えたであろう焚火の跡、食べかけのオオシカの肉、そして空になった
どうやら知らず知らずのうちに眠ってしまったようだった。
さらに視線を動かしながら、両手で持ち物を確かめる。辺りは大の大人5人が輪になる程の幹をもった大樹が群生している。人気どころか獣の気配もない。これも見慣れているはずなのに違和感しかないのは昨日の酒がまだ残っているせいか。
両手で自分の体を確かめる。財布、ポーション類といった貴重品は無事だ。傍に置いた一振りの剣の柄を握る。傍目には判らないが力が刀身に満ちていく。
剣を戻し、枕にしていた
――――またあの夢か。
体と意識が定着したところで思い出す。
最近になって毎晩のように見る夢だ。しかし思い出そうとしても母親の顔だけは思い出せない。それどころか、そこから今に至るまでの記憶というものが男にははっきりとしない。
一度目を瞑り意識から夢を追い出す。今日はこのまま大森林を出て近傍の町に到着する予定だ。再び空を見上げればすでに明るく日は昇っていることがわかる。
「……」
感覚が戻ってきたところで男は気付く。男の位置からそう遠くない大樹の陰に隠れる何かいることに。何をするわけでもない、ただこちらの様子を伺っているようだった。
大森林、しかもこんな奥深くは普通、町人が入り込む場所ではない。魔物か、あるいは山賊の類か。
意識は置きつつも、手早く荷物をまとめ立ち上がる。向こうから仕掛けてこない限りこちらから何もするつもりはない。
向こうから仕掛けてこなければ。
突然、気配の方向から強い力を感じる。
――――魔法……魔術師か。にしては魔法の発動が遅い。
腰を落とし背中に背負った剣の柄をゆっくりと握る。感覚は大樹に隠れた魔術師とその魔法に向ける。どんな有能な魔術師でも魔法の発動後は僅かに隙が生まれる。初撃の魔法さえ回避すれば単独の魔術師は敵ではない。
生み出される魔法に集中する。しかし、その魔法は違う形で男に牙を向く。
魔術師から魔法の気配が消える。と同時に今まで何も気配がなかった背後に大きな力が生まれるのを感じとる。
「――――――ッ!!」
後方から瞬間的に繰り出される風の刃。男は反射的に身体を逸らすことで刃を避けるが背負った背嚢に掠めたらしい、背嚢は大きく破れ、中身の食料やポーションやらが破裂して零れ落ちている。
「
男の問いかけにも表情を全く変えない女型の精霊”シルフィード”がそこにはいた。
背丈容姿こそ少し長身のエルフといったところだが、彼女は精霊。魔力が強いといわれるエルフを遥かに凌ぐ魔力と魔法を持ち合わせている。
「……会話は出来んか。そちらが退かないなら無理やりにでも退いてもらうとしよう」
無言を貫くシルフィードを前に、男は全く顔色を変えず背中から剣を引き抜く。再び刀身に満ちていく力を感じながら片手に剣を握り下方に構え、身体の重心を下げる。
男の攻撃態勢を感じ取ったのか、シルフィードは再び魔法を発動しようと片手を持ち上げた。
「無駄だ」
瞬間、シルフィードの視界から男は消えた。突然消えた男を探すように視線を左右に動かす。しかしどこにも男は見当たらない。
次の瞬間、残像すら残さず消えた男を探すシルフィードの背後から呟くような声が聞こえた。
「じゃあな」
声に気付き振り返る頃には男が片手に握った剣はすでに下から上へ斜めに切り上げられていた。
「――――――!!」
刹那、驚いたような表情を見せて、風の妖精は光の粒となって消滅した。
シルフィードが完全に消滅したことを確認した男は「さて」と視線を当初の大樹の方へ向けると再び重心を落とし地面を蹴る。
初めと違い力は殆ど感じ取れないが、未だにそこにいることは確かだ。妖精の乱入という不測自体はあったが、こちらの消耗は殆どない。
男は瞬間的に加速すると大樹の裏に隠れている魔術師の前に現れる。姿こそ見えていなかったものの、感覚で捉えた位置に剣を振ることは造作もないことだ。瞬間的に、魔術師の体は大樹ごと2つに断ち切られるだろう。しかし、男の剣はその軌道を急に逸らし大樹のみが無残に切られて轟音を立てて倒れる事になった。
別に再び仕掛けることはしない。剣は男の意思で逸らされたのだった。対して魔術師からも男に対する攻撃はなかった。否、できなかった。
剣を背中に収めながら男は魔術師に近づく。
「……どういう事だ」
男の視線の先には大樹の切り株にもたれ掛かり気を失っている少女がいた。年はおおよそ15くらい。種族は
―――――面倒ごとに巻き込まれたか。
気を失い魔杖以外何も持っていない少女を放っておける訳もなく、男の計画は大きく変更せざるを得なくなったのだった。
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―――――――
―――――
私は逃げた。
逃げるしかなかった。
故郷を離れ、言葉も分からない国の小さな村にたどりつき、そこで小さな農場を営む老夫婦に匿ってもらえることになった。
言葉も分からない、異国の者を何も聞かず快く受け入れてくれた。そしてまるで孫娘であるかのように優しく接してくれた。
1年程経って、言葉も分かるようになり、村を歩くことも多くなった。老夫婦が事前に説明していたのか、村の習慣なのか、村の人たちも私に対してとても温厚だった。
数年が経って、私はこの優しい村で一生を過ごすのだと、本気でそう考えていた。
しかし、私の犯した罪が私を許すことは無かった。
ある日、老夫婦のおじいさんが普段見せたことのない険しい表情で部屋に入ってきた。「今すぐ逃げなさい」と。
戸惑う私を他所におじいさんは私が持てるだけの食べ物、そして路銀を用意して持たせてくれた。
まだ状況を理解できていない私を、旅で村を訪れていた旅人に頼み込み、逃がしてくれた。別れ際に、「本当の孫娘だと思って接していた。気を付けて行きなさい」と送ってくれた。
その後の老夫婦と農場、村の事はわからない。ただ、その全てが無事であることを祈るしか私にはできなかった。
旅人は西の町に向かうと言っていた、そこなら異国の旅人も多く、同郷の者も探せるだろうと。しかし、その旅路も途中で終わる。
強力な魔物の出る大森林を迂回しようとしたところで私たちは盗賊に襲われた。そこからの事はよく覚えていない。ただわかることは、旅人は盗賊に無残にも殺され、また私だけが逃げ延びたということだった。
大森林に入ったら追手は来なくなった。魔物を嫌ってのことだと思う。数日間、方向も分からず森を歩いた。空腹と喉の渇き、脚の痛みで何度も諦めかけた。でもその度にあの老夫婦の顔が思い浮かんだ。諦めるわけにはいかないと。
やがて、森の中で数日ぶりに人を見つけた。助けを求めて駆け寄りたかった。しかし、まだ残った私の頭はここが魔物の出でる大森林だと言う事を思い出させた。大森林に入る前、盗賊に襲われた事を思い出す。あそこにいる者もきっとそうだ。
もう私を護ってくれる者は誰もいない。そして逃げ切れるとも思えない。でも生きなければいけない。
私は賭けに出ることにした。
故郷の母から禁じられている力、私の罪。
――――――精霊召喚を。
―――――――――
―――――――
―――――
「……ん」
ゆっくりと目を開ける。周囲に満ちた太陽の光が眩しくて、すぐに目を細める。いつの間に眠ってしまっていたのだろうか?記憶がはっきりしないためよく覚えていない。久し振りにしっかりとした睡眠をとれたためだろうか、身体の節々はまだ痛いが、調子はいい。そして、身体が起きてくるに従って、記憶も次第に戻ってきた。
――――確か、盗賊がいて私は……無事ということは、何とかなったのでしょうか?
「……起きたか」
不意に男の声が聞こえた。声の方に顔を向けるとそこには男の背中があった。大柄でも小柄でもない、しかしがっちりとした背中。
そこには今は鞘に収まった一本の剣。記憶が正しければ、精霊により倒したはずの男。
少女は反射的に逃げようとする。しかし、身体は全くいう事を聞かなかった。そんな少女の動きを見てか男は振り向かないまま、言葉を続ける。
「別にあんたをどうこうしようって考えは無いから心配するな。それと無理に動かない方がいい」
そこまで話して男は少女の方に振返る。そのまま一度少女の様子を見て再び口を開く。
「悪いが、寝ている間に杖を見させて貰った。召喚士だったんだな」
「……」
「別にそこはどうでもいい。ただ珍しいものを見たってだけだ」
男は無言の少女を気にも留めず「そんなことより」と言葉を続ける。
「消耗した状況で、精霊なんて召喚するもんじゃない。下手したら死ぬぞ。見たところ、もう何日も何も食べてないんだろう」
「……」
「まあ、詮索はしない。まだ身体は動かないだろう、もう少し休め。……本当はポーションがいいんだが、お前さんの召喚した精霊のお陰で全部ダメになったから、時間を掛けるしかない」
「……あ、ありがとうござい―――――ッ!!」
彼女の感謝の言葉は、空腹を訴える身体の叫びにより掻き消された。
「……ゆっくりと食べろ」
男の差し出した、干し肉と堅パンを顔を真っ赤に染めながらも受け取り、顔が見えないように少しずつ口にする。
数日ぶりの食事。どちらも携行食として保存が効く反面、美味しさという観点では劣る。それでも久しく口にした食べ物は言葉では言い表せない程に美味しく、彼女の心と身体を満たしていった。
満腹とまではいかなくとも、十分すぎるほどの食事に少女は目に涙を浮かべながら「ごちそうさまでした」と感謝の気持ちを述べる。
「落ち着いたか?それなら今は寝ておくことだ」
「……貴方はどうするのですか?」
「ここにいる。夕食の時には起こしてやる。気にせずに休め」
男にそう促され、彼女は再び身体を横たえる。登り切った日の光が温めた空気が疲れ切った身体には妙に心地よい。
まだ出会って数時間しか経っていないのに不安や心配といった気持ちが全く湧かない。
少女が深い眠りに落ちるまでそう時間は掛からなかった。
――何日ぶりだろう、こんなにもゆっくりと眠れたのは。
――何日ぶりだろう、こんなにも気持ちよく眠れたのは。
――何日ぶりだろう、こんなにも安心して眠れたのは。
農場のおじいさんから逃がされてからこちら、隙を見せないようにどこか気を張っていたところがあった。周りに少女に見方はしてくれる者はいない。唯一、助けてくれた旅人も呆気なく盗賊に殺されてしまった。
状況としては今も余り変わりはないはずだ。少女の近くには精霊を撃退するほどの力を持った男がいる。まだ生かされているという事だけでこの男を信じる事はできない。しかし、何故だか彼女は居心地の良さを感じながら眠るのであった。
目を覚まして最初にしたことは、男の姿を探すことだった。少女が寝る前まで男が座っていた場所に視線を向ける。そこに男の姿は無かった。
彼女は内心に焦燥感を振り払うように首を左右に大きく振る。程無くして、大樹の裏に隠れた男の背中を見つけてほっと一息つく。
既に日は落ちかけて、日中でも光の入りづらい森林は数十歩先も見えない程に暗くなっている。そんな中、火を焚く男の周りだけは明るく、少女の不安と焦燥感を和らげていた。
「あの……」
完全に目も覚めたところで、男の背中に声を掛ける。が、彼女に返ってくる声は無く、代わりに彼女に届いたのは僅かな湯気に乗った調味料の香りだった。鼻孔をくすぐる香りに彼女は鼻をすんすんと鳴らす。はっきりと感じる調味料と肉の香りは鼻孔を通り胃袋を直接刺激した。
「丁度出来たところだ」
そんな少女の仕草を知ってか知らずか、男は不意に大量の湯気が立ち上る椀を少女の方へ差し出してきた。
すべて見透かしていると言わんばかりの男に恥ずかしさからか顔を赤く染めながら、無造作に突き出された椀を受け取る為に、男の傍に寄る。
「ありがとうござい、ます」と複雑な心境を抱きつつも、謝辞を述べ適当な場所に座る。手に持った椀は木製のもので、内容物の温度がジワジワと彼女の手のひらに伝わってくる。
季節は既に夏季を過ぎ、四季の存在するこの地域では、そろそろ秋季に入りかけ少女のような薄手の着物では少しばかり寒い。
「(……あったかい、それにいい匂い)」
両手に抱える椀の温かみを感じつつ同時に強く鼻孔を刺激する匂いの元をのぞき込む。椀の中は茶色のどろりとした汁の中に大きめに切られた野菜と肉の入った
「食べていいぞ」と男に差し出されたスプーンを右手に持つとゆっくりとシチューを
「……おいしい」
「ふん」
口に広がる心地よい温かさと粗雑ながらしっかりと味の染み込んだ肉の塊。久しく食べてないような懐かしい味に自然と漏れ出る感嘆の呟きに男は「当然だ」と言わんばかりに鼻を鳴らした。
「2、3訊かせてもらう事がある」
夕食を終え、椀や鍋を片付けた後、出された珈琲を同じように冷ましながらゆっくりと啜っていた少女は男の抑揚のない質問に緊張した面持ちで頷く。
「先ず、お前は何処から来た?見たところただの町娘ではあるまい。何者だ?」
短い質問を投げかけ、男は少女を改めて見る。世間の流行りなど露程も知らない男でも少女の恰好が一般的な町娘のものでない事はわかる。また、それが魔物の巣くう大森林を歩くようなそれでない事も。
少女は少し俯きながらも男にそれまでの経緯を伝えた。
―――――ここよりさらに東の小さな村、そこの農場で暮らしていたこと。
―――――数日前に村を訪れていた旅人に連れられ、西の町を目指して村を逃げ出したこと。
―――――盗賊に旅人は殺され、命からがら森に逃げ込んだこと。
―――――飲まず食わずで森を彷徨っていたいたところ男を盗賊だと思い、精霊を使って倒そうとしたこと。
―――――ただ1つの事柄を除いて。彼女は男の質問に答えた。
彼女の答えを一通り聞いて、男はさらに懐疑の視線を少女に向けるが、「そうか」と短く呟くと、さらなる質問の意図がない事を言外に示す。
何か考え事でもしているのだろう少女を他所に、おもむろに立ち上がると「明日は早い、休むぞ」と手早く辺りを片付け始める。そして、荷物の中から暖かそうな動物の毛皮で作られた寝袋を取り出すと少女に「大森林の夜は寒い。使え」と少女の前に投げた。
しかし、見るからに暖かそうな寝袋を前に少女は優しい笑みを浮かべ、「いいえ」と頸を左右に振る。
「あなたも知っての通り、私は召喚士です。召喚術とは何も魔物を生み出すだけでは無いのです。この世界に在る5大元素。その精霊さんの力を借りる事で寒さや暑さを凌ぐこともできるのです」
ほんの少しだが胸を張っているように見える少女に「そうか……便利なものもあるのだな」と男は感心したようなしかし納得していない表情を浮かべながら寝袋に入る。
しかし、男と召喚士の少女が眠りに入る事はまだなかった。
「―――しゅんっ!くしゅんっ!」
「……」
僅かな時を空けて、少女の押し殺したくしゃみが男の耳に入ってきた。
続けて鼻をすする音も聞こえてくる。
「使え」
「……いえ、私は大丈夫ですから」
入っていた寝袋から出ると、少女に使うように促した。しかし、少女は寝る前と同様に頸を振る。
言うことを聞かない少女に男は面倒くさそうな表情を浮かべると言葉を繋いだ。
「……分かっている。今の身体では召喚術が使えない事は。そのまま病に
強制力ある男の言葉に、少女は少し考え「……分かりました、ですが」と承諾するが、同時に男に1つの条件を提示する。
「その、あなたも一緒にという訳にはいきませんか?」
見れば少女の顔は熱があるのではと疑いたくなるほど朱く染まっている。
完全に意表を突かれた男は少女がこのような条件を提示してくるとはまったくの予想外で「どういうことだ」とすかさず意図を探る。
「その……私一人だけというのは、駄目、です。あなたも一緒ならば、その……」
少女を見れば、表情は朱く染まるもその目は強く男に向けられている。他意はなく本当に自分だけが寝袋に入ることを許せないのだろうことは男に向けられた視線から伝わってくる。
男の勘が梃子でも動かないという彼女の意思を感じ取る。とあれば、執りうる回答は一つしかなかった。
「……しかたない、だが狭いぞ」
「――ッ、私は構いません!ですが、もしあなたが狭いと感じるのであれば、いつでも追い出してもらって構いません」
こうもすんなりと通ると思わなかったのだろう、男の妥協に固く結んだ表情を緩めると、「はいっ!」と、少女は年相応のあどけない笑みを浮かべ、複雑な表情を浮かべる男と寝袋に入ったのだった。
いかがでしたでしょうか?
駄文で読みづらいと思いますが、逐次修正したいと思います。
物語はこの少女と男を中心に進みます。
それでは次話でお会いできたら幸いです。