現代入り椛   作:喜求

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1話:勘の良い老婆

「ここが…外なのか?」

 

 

 河童の作成したワープホールなる代物。それを使って外の世界とおぼしき場所に飛ばされた椛は、森の中にいた。

 

 なんでもここが装置のある河童のラボとの特異点だとかいって、任務が終わればここに帰ってくる必要があるらしい。

 

 

「……?外に出た影響か?」

 

 

 能力の千里眼を使っても、今いる山が見える程度だ。妖力も半分以下に落ちている。これが忘れられた妖怪の力なのか。

 

 

「あの神社の者達はよくこんな世界で生きられたものだ」

 

 

 幾年か前にやってきた守谷を名乗る神社の2柱と現人神。

 

 彼女らはこの外の世界から来たという。力も大分制約を受けていただろうに。

 

 

「ふむ、荷物は無事みたいだな」

 

 

 荷物の詰まった頭陀袋を開き、転送の際に欠落がないかを確認。

 現状の持ち物は報告書用の筆記具、換金用の調度品。普段着の着替えと文から貰った絶対に着たくない服、帰還用の無線機(一回限りの通話)だった。

 

 

「とりあえず、人里へ降りてみるか」

 

 

 まずは周囲の確認だ、人の通りそうな道の目星はすでについている。問題があるとすれば……

 

 

「協力者をどうやって探そうか……」

 

 

 凄く帰りたい気分だ、天狗の外の世界進出とかもうどうでも良い気分だ。

 

 

「あ~もういや……っと、スイッチを切るにはまだ早いか」

 

 緩みそうな気を慌てて引き締める

 

 椛は自分の能力を利用して、誰もいないときになるとオフの性格が出てしまう癖がある。

 

 任務を言い渡されたあとの言動がまさにそれだ。しかし幻想郷には音や風を使ってあんな独り言を拾える妖怪が山といるのだが、そこを気にしてはストレスで体毛が抜けかねないと椛は深く考えないようにしていた。

 

 

「身体能力は……少し落ちたが気にならない程度か」

 

 

 体の調子を確認しながら、椛は山を下り始めた

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 山を下りながら約半刻。能力を使うまでもない距離に田畑が見え始めた。

 

 

「そのまま行くのは……危ないかな」

 

 

 なにせ自分は妖怪で、特徴的な耳と尻尾が出ている。

 

 妖術でなら隠せなくもないが、弱体化したこの状態では元々苦手な変装術は期待出来ない。

 発動出来たとしても、貴重な妖力を消費してしまう。

 

 

 となると、後は帽子か何かで耳を隠して、尻尾は丸めるなりしてなんとかするしかない。

 

 

 急な任務だったために耳を隠せる帽子なぞ用意してなんか……

 

 

 

 

「これ……しかないか」

 

 

 文の餞別、どこから仕入れたのかは知らないが、椛に着せたくて考えたのであろう一式の服には帽子も入っていた。

 

 洋風のデザインなので、普段着には合わない。違和感を無くすには一式を着なければならないというカラクリだ。

 

 

「もしかしなくてもこれを狙ってたんだろうなぁ……」

 

 

 

 諦めるしかないと判断し、木陰に身を潜めて見える範囲全てを確認してから着替えた。

 

 

 

 ……

 

 

 

 ………

 

 

 

 

 

「戻ったら一回ぶん殴る」

 

 

 

 鏡がなくとも能力で自分の全身を観れる椛は、自分の目に写った姿を見て一人顔を赤らめていた。

 

 

 

 

 

 行きたくない、行きたくはないが仕方ないと鞭をうち、悶えていた体を起こす。

 

 

 さっさと任務を終わらせてしまおうと、半ばやけくそに山を出て畑の畦道を歩き民家へと歩く。

 

 

 数分もしないうちに頭が冷え、辺りの景色を改めて見ると。山に囲まれた農村地帯だということがわかる。

 

 

「ここら辺はあまり幻想郷と変わらないな、ここだけかも知れないが」

 

 鉄の箱に黒い車輪を付けた物体が走っていたり、河童の自称秘密基地でみるような黒く細い線が空に張られていたりと。少々趣は違うが、概ね幻想郷のそれと大差はなかった。

 

「此方の方が作物の育ちは良いようだ。変な匂いがするのは気になるが……っと、誰かいませんかー」

 

 

 すぐ目の前まで来ていた記念すべき第一民家のドアを叩き、中の反応を窺う。

 いや、能力で人がいるのは見えているし、生活音や人の匂いもするので居るのはわかっているのだが。郷に入っては郷に従えというやつだ。

 

 

「はーい……わあべっぴんさんやねぇ、こんな綺麗な娘親戚におったっけなぁ」

 

 

 出て来たのは大分顔にシワのある老婆だった。

 ニコニコと生気を感じるその笑みに、外の世界でも老人は変わらないらしい。

 

 

「ああ、えっと、旅をしているのですが本日の宿を探しておりまして。厚かましいとは思いますが今晩泊めさせては貰えないでしょうか」

 

 

 今考えついたばかりだが、旅をしているのもあながち間違いではないし、今晩の宿がないのも事実。悪くない訪問理由だと椛は思う。

 

 

「そうかえそうかえ、その歳で旅とは肝っ玉据わってるねぇ。こんなボロ屋で良ければいくらでも泊まっていくとええ」

 

「かたじけない」

 

 

 堅苦しいなぁと言いながらおばあさんはこちらへ手招きする。

 まさかすんなり許可をもらえるとは、少し予想外だ。

 

 

「ほらほら、あがりんさい」

 

 

 言われるがままに家へと通される。

 木造の家に瓦屋根。聞かされていた外の世界の建築様式との食い違いに若干の戸惑いを覚えつつも、あてがわれた部屋に荷物を置く。

 

「あと、孫娘がきちょるけん仲良くしや」

 

「孫娘…ですか」

 

 

 つまり若者、この方の年齢を考えるなら20やそこらだろうか?

 幻想郷の若者はなにを考えているかわからない、こちらでもそうだと考えると非常に相手にしづらい。

 

「ああ、"ともえ"っちゅーねん。今買い物さ出てもらっててなぁ。もうすぐ帰ってくるでよ」

 

 

 周囲を確認してみるとこの家から60間(約109メートル)程の距離に手提げ袋をもって向かってくる女性がいた。恐らく彼女がともえという人間だろう。

 

 その人物はまっすぐこの家の玄関へとやって来て扉を開けた。

 

「おばあちゃんただいまー」

 

「おぉ、おかえりともえ。いつもありがとねぇ」

 

 ともえは少々雑に靴を脱ぎ、おばあちゃんに顔を見せようと部屋に来たところで目が合った。

 

 

「あれ、お客さん?」

 

 相手からすれば見知らぬ不審者であろう椛に対し、特に警戒心といった表情を見せないともえ。その反応を見るによくあることなのだろうか。

 

 

「あぁ、旅しとるっちゅーて宿探してたんじゃと……そういえば名前はなんといったけな」

 

「申し訳ありません、紹介が遅れました。私、犬走椛と申します。今晩はお世話になります」

 

 一礼し、感謝の意をしっかり伝える。これは人も妖怪も関係なく良い印象を相手に与える。

 

「椛ちゃんか、珍しい苗字だね。私は橘巴(たちばな ともえ)、ともえでいいよ」

 

 

 よろしくね、そう言うと巴は買ってきた荷物を持って台所へと消えていった。

 

 

 おばあさんは、それをしっかり確認した後台所に聞こえないような小さな声で。

 

 

「あんたぁ、真神(まかみ)様やろ」

 

 

 

 ……

 

 

 

 数秒の、はたまた数瞬の沈黙。

 

 

 

 

 

 

「……また、随分と懐かしい呼び名ですね。私の祖母の代ですよ、その名は」

 

 

 帽子を取り、スカートの中で丸めていた尻尾を出す。

 

 

「なぜ私が真神の一族だとわかったんですか?」

 

 

 まさか妖怪かと疑われるのではなく、祖母の名が見抜かれるとは。

 

 

「なぁに、年寄りの勘ってやつさね」

 

 まるで何処かの巫女のように勘といってのける。

 カッカッカッ……と笑う姿は悪戯に成功した子供そのままだ。

 

 

「確かに私の祖母は真神と呼ばれていました、しかし今や妖怪の身。祖母のように悪を倒したり厄除けだなんてことは期待しないでください」

 

 

 昔はその信仰から神格さえ持っていた祖母だが、幻想郷へ越してきた際に信仰は薄れ、元の人食いの印象が強まり妖怪化したと聞いている。

 

 

「いんや、ここらは昔真神様によって救われた土地さね、神様か妖怪かなんぞ関係あらへん。そんのお孫さんに今度はこっちが恩を返す番や。なにか困っとるんやろ?」

 

 

 つくづく老人の勘は恐ろしいと感じる椛。しかしこれは好都合だ、無理難題な任務にやっと希望の光が差した。

 

 

「それでは、一つ頼まれてはくれませんか」

 

「ええよ、この老体に出来ることならね」

 

 

 もちろん無理はさせない。祖母が助けた人々を無下にするほど落ちぶれたつもりはない。

 

 

 

 

「ともえさんと、友達にならせてください」

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 またも沈黙。しかし、今度はおばあさんが呆ける番だ。

 

 

 

 

「カーッカッカッカ…面白い娘さね、そんなもんでよけりゃいくらでもなるとええ。私からも話は通しちゃる」

 

「感謝いたします」

 

 

 深く一礼。本当に助かった。上手くいくかはまだわからないが、これでコネを作るという任務に足掛かりが出来た。

 

 

「おばあちゃーん、お昼ご飯出来たよー」

 

「あいよー。ほら、あんたもいくべよ」

 

 

 手を引かれ、若干戸惑いつつも着いていく。

 

 

 任務へ希望が見えたからか、それともこの人の優しさに触れたからか。はたまた祖母の名残を感じたからか。

 

 

 

 椛は此方に来て初めて笑顔を浮かべた。

 

 




椛の祖母はかつて日本武尊軍を道案内したという白狼、大口真神という神様……って設定です

追記:誤字脱字報告有難うございます!
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