現代入り椛   作:喜求

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お久しぶりです(小声)


6話:お留守番

 

「それじゃあ行って来るけど、本当に大丈夫?」

 

 

 

背嚢を背負い、本日三度目となる確認をする巴。

 

その顔は本当に心配をしてくれているようで、不意の来客が来たときの対応を記したメモまで渡してくる始末。

 

まるで初めて子供に家の留守を預ける親のようだ…実年例は真逆であるが。

これでも幻想郷では自活していたのだ、最低限の生活力はある。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、出掛けるときは必ず連絡しますし火元の確認もします。鍵もきちんとかけますから」

 

「そう?でも何かあったら直ぐに電話してね、授業抜けてくるから!」

 

いくらなんでも過保護である。

 

「流石にそこまではしなくても大丈夫です…出掛けるとしても近くを散歩するだけですよ」

 

 

巴の春休みが終わり、私と出会ってから初めての登校日が来た。

とはいっても、単位とやらの取得は殆ど終わっていて、残りは少々足りない出席数の確保の為だとか。

 

午前中には終わり、お昼過ぎには帰ると言うがどうしてそこまで心配出来るのか。

 

「ってもう時間ないや、いってきまーす!」

「いってらっしゃい、気を付けてくださいね」

 

少し慌ただしく出発した巴、それを見送ると一転して辺りを静けさが覆った。

 

「……静かですね」

 

 

 

 

さて、何をしようか

 

時刻は現在『07:36』巴が帰るまでまだ二と四半刻以上もある。

 

折角の一人なので、調べものをするのも良いが外にでてみるのも良いかと考えている。巴がいなくても外を出歩けるようにならなければ任務にならない。

 

そういうこともあって準備ができたら外に出よう。

 

「火元は…問題なしですね、窓の鍵も……閉まってます」

 

 

眼で見るだけでなく、しっかり触って確認する。

こういうのは意外と無意識に確認したと思って見落としてしまうものなのだ。視覚に聴覚に触覚に嗅覚、五感をいくつも活用して確認を取るのが一番である。

 

必要なことは確認出来た、あとは外に出るだけだが…。

 

 

「そういえば、すまほには地図が入っていると言っていましたね」

 

教えてもらった地図あぷりというのを開いてみる。

すぐに画面が切り替わり、地図らしき絵が出てくる。

 

「位置情報のオン?…とりあえず"OK"というのを押しておきましょう」

 

なにやら表示された同意を促す文字、なんとなくOKを押してから少ししたところで、画面が動き中央に青い点が現れる。

 

「これは…自分の位置でしょうか?」

 

自分で見た周囲の建物の配置を地図と比較すると、どうやらそうらしい。

 

「便利なものですね、散歩程度なら私には不要ですが...」

 

かなり遠くの情報まで見れるようだ、自分の目だけでは得られない情報量がここに記されている。

これを書き写すだけでも充分成果として持って帰れそうだ。

指を滑らせるという慣れない操作に苦戦しながらも、周辺の情報に目を通していく。

 

「この辺りの施設は……ろ、ローセン? 取り敢えずここに行ってみましょうか」

 

道を地図と自分の目で確認し、財布と鍵を手に玄関を出る。

しっかり鍵を閉め、念のためにドアノブを捻る。

 

「…では、行きましょうか」

 

最後に帽子をかぶり直して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、見るのとこうして感じるのとでは違いますね」

 

まずは匂い、車から出てるガスは河童の工場から漂うように鼻を刺す。

そして音。人より鋭い聴覚は道行く人間の息遣いまでも聞き取れる。

最後に風。背の高い建物が多いことから風の吹き方が天狗の里とも森の中とも違う。

 

視覚が優れているからといって、視覚以外の情報を棄ててはいけない。母の教えてくれた事の一つだ。

 

車が走る所を避け歩道と呼ばれていた道をただ歩く。

道の広さに対して遭遇する人それほど多くない。朝の仕事場に向かう人が多い時間帯を避けたのは正解だった。

何れ確認のためにその時間帯も出歩くつもりだが、もう少し人並みの振る舞いを覚えてからにしようと思う。

 

「ちょっとあんた、危ないよ」

「え?」

 

中年女性に声をかけられ足を止める。

その直後目の前を車が通過していった。

考え事にふけるあまり信号を見落としてたようだ。

 

赤信号は止まらなければならない、まだ慣れてないこともあってか意識が甘かった。注意しなければ目立ってしまう。

 

「ありがとうございます、少し考え事をしていまして気が付きませんでした」

「綺麗な肌しとるのに怪我でもしたらもったいないわよ、気をつけてねぇ」

 

軽く手を振り去っていく女性。

その手にはガサガサと音のする買い物袋、びにーる袋が握られていた。

袋にはLAWSENの文字、私が向かおうとしているローセンとやらの帰りだろうか。

 

進行方向を見れば肉眼でもわかるほどに大きな看板が立てられていた。

看板と言えば店先に掲げるものであるが、あそこまで大きくする必要はあるのかと疑いたくなる。

 

今度はきちんと歩行者信号が青になったことを確認しローセンへと向かう。

店先には車が複数停められており、数人が店内にいるようだ。

作りとしては以前この街へ来る際に立ち寄ったコンビニに似ている。違う名前だったが同じ系統の店ではあるらしい。

 

タイミングよく店から出てきた人の動きを確認し、それを真似て店内に入る。

あの時は店内まで入らなかったが、入ってみると意外が多い。

食品から飲料、日用品も含め豊富な品揃えもそうだが、所狭しと並べられた品々はどれもこれも状態が良い。

 

奥のガラス戸で出来た飲料が置いてある場所でCoffeeを見つけた。

まだあの味には苦手意識が残っているので、その横にあったお茶を取る。

 

買い方がわからないので、他の品を見るふりをしつつ他の客が精算するまで待つ。暇つぶしがてら窓際の棚をみてみると、こちらには本が並んでいるようだ。

その横には新聞もある。

 

こちらの世界の新聞を読んでみるのもいいと思い、適当に一つ取り丁度会計に向かった客の後ろにつく。

 

結果として、大きなトラブルなく新聞とお茶を手に入れた。

 

買い物は向こうでもよくしていたというのに、不思議と緊張感があった。

 

 

すぐ裏手に子供向けと思われる遊具が置いてある敷地があり、長椅子が置かれていたので適当に座り新聞を広げる。

 

まず驚くべきは情報の幅広さ。

幻想郷で発行されるものは一つの大きな出来事を中心に余白があれば適当な話題を差し込む程度のものだったのに対し、こちらの新聞は多過ぎるとも呼べるほど多彩な分野の出来事が所狭しと書き連ねられている。

 

しかもそれが直近の出来事で固められている。日刊と書かれているということはもしかして毎日発行されているのだろうか。

到底一人で収集できる情報量ではない。

明らかに多くの人員を使って組織的に作られたものだ。

 

妖怪の山でも複数人で調査し結果をまとめて報告する機会というのはあるが、それにしたってここまで手広く扱うことはない。

 

 

情報の波に揉まれ目眩すら覚え始めた頭を切り替えるべくお茶を飲む。

よく冷えていて、携行に優れているこの容器も素晴らしいものだ。

低価格で容器ごと販売できる技術力にも目を見張る物がある。

 

うまく報告書にまとめられる自信がない。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

あれから家に戻り報告書の方向性を考えていた頃、巴は帰ってきた。

 

「おかえりなさい、ともえ」

「もふもふさせて!」

 

帰るなり荷物も降ろさず飛びついてきた巴をいなし長椅子へと向かわせる。

たたらを踏むこともなく一直線に突っ込んでいき「わぷっ」という可愛らしい声と共に柔らかい肘掛けに顔を埋めた。

 

「んもーひどーい!」

「触るのは構いませんが先にやることがあるでしょう」

 

注意してあげれば渋々といった顔をしつつも台所へ手洗いに向かう巴。

この素直さは両親の育て方がとても良かったのだろう。妖怪としての加虐心がそそられて仕方がない。

 

「あれ、新聞なんてあったっけ」

 

戻ってきた巴は机においていた新聞とお茶に気がついたようだ。

 

「いえ、これは私が先程買ってきたものです」

 

特に隠すことでもないのでそのままの報告をしたのだが、巴は何故か頬を膨らませていた。

 

「むー…なんで私を連れてってくれなかったのよー」

 

どうやら一緒に行かなかったことにご立腹のようだ。

 

「買い物くらい一人でできますよ、子供じゃないんですから」

「そうじゃないぃ」

 

すっかり拗ねた顔をしてしまった巴。

素直な分わかりやすいがこういう時は少々面倒くさい。

 

ので、こちらが折れて早々に機嫌を取ることにする。

 

「ではこの後はともえに連れてってもらいましょうか」

 

そういって尻尾を差し出してやれば、打って変わって満面の笑みとなった表情で尻尾に飛びついた。

表情がコロコロ変わるのは見ていて楽しい。

 

「うへへー、じゃあこの後は映画館にでも行こうかなぁ」

 

手で撫で頬ずりをして最終的に顔まで埋め始めた巴の表情は、千里眼で見るまでもなくさっきよりもだらしないものであるのは間違いなかった。

 

 

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