仔熊のミーシャに愛をこめて 作:つきや
平和な日本でぬくぬくとオタクをしていた俺は、ある日突然、徴兵されたばかりの若造になってハガレンの世界にいた。
混乱したままイシュヴァール戦役の真っ只中に放り込まれ、混乱したまま銃を取り、混乱したまま殺し殺され生き残り、相棒ができて互いの命を預けあうようになってやっとこの世界を現実のものと認識したというか生きている実感を持ったのに非現実的な錬金術が学んでもいないのに使えることに気付いたり、潜りの錬金術師として殺されそうになったり、いつのまにやら古参兵として新しい将校の面倒見たり部下がついたりして、けれど結局、血と怨嗟の渦巻く戦場で敵国の民間人もろとも皆殺しになった。
国家錬金術師の火力は無差別で無慈悲。
知ってたもちろん。
部隊の連中だけでも助けられないかと頑張ったんだが、ちょっと深淵を覗こうとしたら覗き返されたというか、対価は相棒の命ってなんだそれ。
仮初めの身体になんの価値もないから、他の大切なものを頂戴ってなんだそれふざけんな。
なぜか一緒にいた相棒はそれを了承してしまい、だからふざけんなって言ってんだろ取るなら俺の命取れよボケ!と手を伸ばして扉を潜り、相棒ともども現実世界に生まれ変わって三度めの世界。
ちなみにどうでもいいことだが、二人とも錬成陣なしで錬金術が使えるようになっていた。
しかし、そのために銃を持つ手を空ける気にはならず、革手袋やナイフや指輪やトランプに錬成陣を刻んで使っている。
そう。いまさら銃を手放すなんて怖くてできない。
イシュヴァールの地獄を見た後に、普通の生活はできなかった。
俺と相棒は崩壊前のソ連の孤児院で育ち、追い出され、軍隊に入ろうとして国家保安委員会にスカウトされた。
で、やっとここがコナンの世界だと気付いた。
なぜなら、俺が黒の組織のジンだったからだ。
ちなみに相棒は相棒のまま、ウォッカになった。なんだこれ。
とりあえず、怪盗キッドとルパン3世を探してみた。コラボはしていなかった。
さて、スパイ天国の日本でスパイホイホイな黒の組織だが、ジンとウォッカも例に漏れず、実はソ連のKGBに所属していた。
というか組織自体、KGBが冷戦時代に隠れ蓑として作った組織だった。
ちなみに、敵国アメリカや属国日本のスパイどもに、組織の背後にいる国の存在はバレていない。
他のどの国のスパイよりも、KGBのスパイが見つかり処刑されることが多いからだ。
不要になったものを「これが最後のチャンスだ」と告げて潜入捜査をさせ、証拠なんて作り放題で追いつめて処刑するのである。
見せしめにもいいし、ソ連との繋がりを誤魔化すのにもいい。最後の最後に役立って、死んだ奴らも本望だろうさ。
この世界は平和だ。
血と煙硝で噎せ返る世界とは遠い。
泥も塹壕も対価を欲しがる錬成陣も遠い。
というか、日本が平和ボケだ。
KGB内では、生ぬるい組織の任務は休暇扱いされていたくらいだ。
冷戦が終わってソ連が崩壊して、対外情報庁あたりに組み込まれるかと思ったが、ちょっと非公式すぎて独立したのか切り捨てられたのか。
ボスとラムはまだ国と継がっているようだが、俺たちはただの犯罪者になった。
そろそろ休暇は終わりにして、どこかの戦場にでも潜り込んでみようかと考えていた頃、まだまだ機能しているスパイホイホイに引っかかったFBI。
もうすでに遠い記憶とはいえ、誰が赤い彗星の声を忘れるものか。
もうしばらく日本にいることにした。