仔熊のミーシャに愛をこめて 作:つきや
君のテディベアになりたい。
「ジン、貴方テディベアがないと眠れないんですって?」
マウザーGew98を取り上げられた次の日の朝。
名誉毀損で訴えたら勝てるレベルの噂が出回っていた。
「これ、貴方にあげるわ」
今日の仕事で待ち合わせをしていたベルモットがにこりと笑いながら、でかい熊のヌイグルミを押し付けてきた。
人の後ろでウォッカが笑いをこらえるのに失敗して、げほげほ噎せている。
「可愛いでしょう」
大切にしてね特注品なのよと言うベルモットが渡してきたテディベアは、ツキノワグマなのか黒の毛並みに白混じり。
つぶらな瞳は碧。ただのガラス玉ではない気がする。本物の宝石か、それともカメラアイか。
もみもみもみもみ。
「……それには発信器も盗聴器も爆弾も仕掛けてないわよ」
ベルモットの肩がぷるぷると震えている。
遅れて合流したキャンティは人様を指差して爆笑した。どいつもこいつも。腹いせにその日1日、仔熊のヌイグルミを抱えて過ごした。
ポルシェの運転中は膝に乗せ、金をちょろまかしている取引相手先に潜入していたバーボンはただでさえ大きな目を更に見開き、その取引相手を脅しつける時にはなぜだかいつも以上に怯えられた。
ダメ押しで脅しをかけるための狙撃要員であるキャンティには、笑いが止まらないせいで照準が定まらなくてもう少しで殺っちゃうところだったと文句をつけられ、そもそもの原因であるベルモットといえば、送り届けたホテルの前で「私が悪かったわ。ごめんなさい。だから明日はその子を連れてこないで」と真顔でお願いしてきた。
更に次の日。仕事前のライが待ち構えていた。
「ジン。これを」
持っていたライフルケースを押し付けてくる。
ギターケースの形を模しているハードタイプでしっかりしたレザー。全体にぺイズリー柄があしらわれている。
「それなら四六時中抱えていられるぞ」
じゃあなぜ、色を白にしたのか。
渡すだけ渡して満足したらしいライは、ふっと笑うと自分の黒いライフルケースを背負って出ていった。
ライなら中身はM16かと蓋を開けたら、入っているのはこれまた白のギターだった。
二重底になっているわけでもないらしい。ただのギターケースかよ。
だがしかし待てよと、仕掛けられた発信機を外しながら考える。
ギターに錬成陣を彫りこめばいいのか、と。
持って帰って銀で装飾することにした。白に銀なら遠目にはどんなデザインだか分からないだろう。
これでマウザーでもモシンナガンでもなんでもオッケーだとほくほくしていたら、ウォッカがあん時の曲を弾いてくださいよと言った。
そういや戦場で敵にバレるわと叱られながらギターを弾いたなと思い出す。懐かしいその曲は誰のために戦うのかと問う『アニソン』だ。
もう一度言おう。アニメの主題歌だ。
ハガレンの世界にアニメがなかったからこそ恥ずかしげもなく弾けたし熱唱できたんだ。
こっち来てから気に入った曲はないのかと聞いたら、アイドルグループの名前が出てきて驚いたが動画サイトでチェックして弾いてみたらダメ出しされた。
「兄貴の声だと演歌っすかね」
閣下がやった女性シンガーのカバーもいけるんじゃないですかと、ウォッカがいそいそと動画サイトを漁っている。
お前がそんなに音楽に詳しいとは知らなかったよ。
銃剣が手元にある安心感は格別である。
休日にギターを持ち歩くことが増えた。職質されても何の問題もない。
けれど、ツキノワグマテディもちゃんとベッドに鎮座している。
貰い物に罪はないのである。