仔熊のミーシャに愛をこめて   作:つきや

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赤い仔熊の趣味

 

 

 

「まだ、僕のことを疑っているんですか?」

 

 ジンに呼び出されたバーボンは、指定された倉庫へとためらいなく入ってきた。

 ギィと押し開けた扉から差し込む明かりを背に、中で待っているはずのジンとウォッカに対して柔らかい口調を崩さず挑発的な目をして笑う。

 

 小さな窓しかない倉庫内は闇に沈んでいた。しかし剥き出しのパイプが目立つ天井や、壁際に寄せられたコンテナがあるのは見て取れる。いかにも使われていないがらんどうの空間を、バーボンは興味深げに見渡した。

 ここは組織ではなくジンがプライベートで所有している倉庫だ。

 バーボンも今まで存在を知らなかったが、あの戦闘ヘリはここに隠されていたのだと後からの噂で聞いた。

 ちなみにプライベートな以上もちろん地下を改造したりなんだり色々秘密基地化してあるのだが、流石のバーボンにもそこまでは分からない。

 コンセプトはアローの隠れ家だと聞いたウォッカにもそれがつまりどういうものかは分からなかったが、ただ、ジンが楽しそうに秘密基地を作っているからまあいいかと放置したので、全くもってやりたい放題の末にどちらかというとアローの隠れ家というよりはダークナイトのバットケイブと化した空間が彼らの足の下に広がっているとだけは告げておこう。

 閑話休題。

「バーボン。てめえが公安の犬だろうがなんだろうが、今は関係ない」

 明かりの届かない倉庫の奥から声がした。ジンの煙草が赤く点る。

 ジンとしては何か期待されている気がしたので、もったいつけて返事をしてみただけである。

 バーボンが公安であることなど最初から知っているのだから、仕事でなければどうでもいい。

 ただ、敵対すべきアムロとシャアの両方ともが主人公側というのはどうよとは思っていたし、どちらか一方はこっちに寝返って、組織壊滅時に華々しくバトルしてくれたら楽しいんだけどなと期待していたりもするが。ああ、幕引きが楽しみだ。

「俺はシッポを出さねえネズミには興味がねえ」

 ジンの後ろに控えていたウォッカが歩み出てくる。

 帽子を落としながら、ニヤリと笑った。

「ふんっ!」

 筋肉が一気に膨張して、ワイシャツのボタンが弾け飛ぶ。

「用事があるのはウォッカ--いや、軍曹だ」

「ええー」

 バーボンの顔がすごく嫌そうに崩れた。

 

 組織に潜入する前、降谷零はサバゲーのチームに潜入したことがある。今よりずっと学生に間違えられやすかった頃だ。だから仮初のバックボーンは『夏休みを利用して以前から興味のあったサバイバルゲームを体験したくて初心者向けの入門コースを受けてみた高校生』となった。

 潜入するのは密輸拳銃の売買ルートを探っていて浮かび上がった、正体不明の団体。

 現役の民間軍事会社のコントラクターが指導してくれるとか、レンジャーの登竜門になっているとか、実弾を使っているとか、そして、その本物の銃を販売しているとか。色々な噂は出回っているのにサバゲー界の都市伝説扱いで、実態を探ろうとすればするほど輪郭が曖昧になる。

 リーダーを始めとしたメンバーについても凄腕であることは話題に上がるのに、動画どころか写真のひとつも探し出すことができない。

 

 なのに、初心者コース開催のお知らせというアドレスから簡単に参加申し込みができた。

 普通に駅前に集合して、普通に移動用のバスに乗り込む。名前も、ネットで申し込んだ時の“レイ”というコードネームしか確認されない。

 バスに乗り込んだのは18人。外国人の参加が多く、英語が飛び交う。顔見知り同士が挨拶を交わし、自分の連れを紹介している。バスが動き出すと隣の席の男が声を掛けてきた。やはりコードネームを名乗るのみだ。

 最初は英語で話しかけられたが、英語は苦手なんですよと学生振る。そんな髪の色で日本人なんだと驚かれるのはいつものことだが、このバスの中には青だ緑だオレンジだと賑やかな色彩ばかりが溢れていて、地味な色に染めたんだねと珍しい驚かれ方をされた。そういう男の髪は全く似合っていないピンク色だ。

「へえ! サバゲーやるの今日が初めてなんだ」

 レイと男は日本語に切り替えて会話を続けた。初心者が初体験で当り前だと思うのに、妙に感心される。

「でもここのチームって普通のサバゲーと違って本格的な軍の訓練っぽいのがウリだからキツいよ」

 細い身体をじろじろと見ながら忠告される。

 失礼だな。レイはむっとした表情を作る。高校生という設定だ。感情を分かりやすく表現してみせたほうが、らしい。

 しかしそう言われるのもごもっともで、確かにバスの中を見渡せば、皆、筋肉がっつりプロテインである。

 図体のデカい連中がせせこましく座席に座っている中で、レイのスレンダーな体型は目立つ。

「がんばりますよ」

 やはり分かりやすくがっくりと肩を落として、気弱そうに返事をしておいた。

 先輩風に吹かれたのか根っから口が軽いのか。“デザートイーグル”と名乗った男はバスが目的地に着くまでの間、色々な話をしてくれた。

 チームリーダーは“少尉”、サブリーダーは“軍曹”と呼ばれていることとか。

彼らが持っている私有地がいくつかあり、今回はその内のひとつで一週間キャンプをする予定だとか、海外に行って交流戦をすることもあるんだとか。

 リーダーたちが髪を赤色で染めているから他のメンバーはだいたい違う髪の色をしているが、交流戦の時は分かりやすく全員服まで真っ赤になっている。面白がって対戦相手が真っ青にしてきた時は「視界がうるさい」と少尉殿がキレただとか。

 レイの知りたいことではないものも含めて色々と教えてくれるが、彼も参加はこれが3回目で新参者扱いだから早くメンバーに認められて交流戦に出たいという。

 皆さん、自分の銃を持ってきているんですよねと水を向けてみたが、持っていなければ貸してくれるはずだからまずは色々試してみるといいよ。買いたくなったらまた相談してくれよと手応えとは言い難い反応だった。

 

 

 

 

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