仔熊のミーシャに愛をこめて 作:つきや
夜に強い少尉と朝に強い軍曹の組み合わせは最悪だ。
夜は寝入りっぱなを狙って何度も叩き起こされ、朝は朝で日の出を見る勢い。
中日にはとうとう夜間戦闘やろうぜと一睡もせずゲームをするはめになった。
眠い。疲れた。眠らせてくれ。
新兵訓練よりひどいと文句を言いながら、ルーキーに闇夜の怖さを教え込んでいく。
早々にリタイアして寝てしまおうとする者もいたが、そうは問屋が下ろさない。ペナルティーだと嘯いて、軍曹の耐久訓練に付き合わされる。喜んで参加しているメンバーが、筋肉は限界まで酷使しなければ強くならない。しかし、筋肉に限界はない! と力説する。疲弊した思考回路が信じそうになるから止めてほしい。
寝不足からだんだんハイになっていくテンションで騒いで騒いで朝を迎えて限界が来て、汚れを落とす余裕もなく眠ろうとしたところで、軍曹のモーニングコール。
「寝てない! 起こしにくるな!」
流石に皆でボイコットした。そして、泥のように眠った。
起きたのはほぼほぼ正午と言っても差し障りのないような時間だった。少尉は暇だったからとやたら豪華なランチを作っていた。
少尉は寝起き悪いのに、徹夜は平気なんですかと聞いた強者がいる。
一週間くらいの徹夜なら平気だと、答えたのは軍曹だ。
「今回の休暇を取るために直前まで仕事を詰め込まれてよ。移動時間しか休めなかったが、ビルひとつぶっ飛ばしただけで済んだぜ。初日にも寝てたから、せいぜいトリガーハッピーになるくらいだろうさ」
爆弾魔になった時ほどひどくはねえよ。
「あー、あったあった。10日働きづめだったって愚痴ってた時に、フィールドをトラップまみれにしてたな」
「仕事の時も面倒くさくなるとまとめて吹っ飛ばしたがるよな少尉殿って」
懐かしそうに思い出話が始まったが、内容は物騒だ。
寝不足を理由にぽんぽんと爆弾を仕掛けられては、たまったものではない。
「寝てください」
レイはつい反射的にきつい声をあげた。
食事を食べ終わり、今回の片付け当番から外れたレイは食後のコーヒーを飲みながら、最近日本国内で起きた火災事件を検索する。
ぼや騒ぎしか出てこない。
では海外か。
しかしやはり特にそれらしき事件はヒットせず、テロやガス爆発といったニュースもない。
日本に情報が届いていないだけか。
紛争地帯などでは民間人が犠牲にでもならない限り大きく取り沙汰されることもないだろう。
それとも揉み消しできるほどに、少尉の属している組織が大きいのか。例えば、国そのものが後ろ楯だとか。
可能性としてはありうる。
実際、そういう立場の者がここには何人かいるようだ。少尉もそうでないとは言い切れない。
だからなんでそんな人たちが、わざわざ日本に集まってサバゲーで遊んでいるのか。知らない間に懐にいくつもの爆弾を仕込まれた気分になる。
危険危険と信号が点滅している。
それでもレイは拾える限りの情報を拾い集めようと会話には積極的に参加したし、メンバーも邪険にはしなかった。
というか、面白おかしく聞いてはいけない情報まで話さないでほしい。
拳銃の密売ルートがどうのこうのという以前に、今ここを包囲して全員逮捕してしまえば。そんな考えが浮かび、しかしレイはすぐにその思考を自分で否定した。
生温いと笑いながら返り討ちにしている様子しか思い浮かばない。
薄氷を踏む気分のレイを余所に、キャンプはご機嫌に日程を消化していく。
軍曹が鍛練にいいぞとスコップを持ち出し、砂浜に障害物の多いフィールドを作り上げていた。
せっかくだからと、BB弾ではなく水鉄砲を使ってゲームをした。
ゴーストバスターズのようなタンクを背負い、バズーカサイズの水鉄砲で海水を撃ち合う。
子供のおもちゃのような色形をしたプラスチック製の銃なのに、当たると思いの他痛い。
海に腰まで浸かって放水してくる者もいた。しかし集中的に反撃を受けて、あっという間に海に沈められた。
夏ということもあり海ということもあって、ビーチフラッグスをしたり、ゴムボートで八艘飛びをしたり、着衣遠泳が始まったりもした。
そして、最終日。
レイは軍曹と一騎討ちをすべく対峙していた。
周りをぐるりとチームメイトが取り囲む。
「最後の余興だ。ギャラリーを楽しませろ。褒美をやるぜ」
少尉がレイに向かってにやりと笑う。
軍曹には「お前は楽しみすぎてアームストロング流まで使うなよ」と言っていた。聞いたことがない流派だが、なんの武術だろうか。
考えごとができたのはそこまでだ。
後はただ、軍曹の拳からひたすら逃げるばかりだった。
捕まったら力で敵わないことは分かっているから、レイが武器にするのは身軽さとスピード。
少尉に撃ち落とされながら身につけたガン=カタ擬きのアクロバティクな動き。
二人の戦いを見物しながら、ギャラリーは好き勝手なことを言っている。
「ボウヤの動きはボクシングか?」
「にしては足癖が悪いからどうかな」
レイがバク転で避けた地面に、振り抜いた軍曹の左腕が突き刺さる。土煙が激しく舞う中、レイは軍曹の頭上を越えて背後を取ると鋭い横蹴りを放ったが、軍曹は即座に向き直った。クロスした腕にがっしりとガードされる。蹴り足の勢いを利用して、レイは大きく後ろに飛び退いて追撃をかわした。
「猿だな」
「いやいや、きっとニンジャの末裔なんだ」
「じゃあ、ボクシングじゃなくてニンジュツか」
「軍曹のようなタイプに対するなら、あのスタイルは有効だろうよ」
「まあ、他のやつらは筋肉で勝ちたいだけだから、今更方向転換はしないだろうが、あのボウヤは筋肉をつけるよりその身軽さを伸ばしたほうがいいだろう」
「でも、あれだと軽すぎて全然ダメージになってないな」
避けたはずの拳で頬が切れる。
「やっぱり俺は筋肉だな」
本当に好き勝手言ってくれる。