仔熊のミーシャに愛をこめて   作:つきや

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 試合は一応時間切れで引き分けになった。

 

 泥だらけ擦り傷だらけになったレイは帰りのバスのタイヤに凭れるようにして座り込み、肩で息をする。その前に少尉が立った。

「褒美だ」

 軍曹に首根っこを掴まれたデザートイーグルが、ぽいとレイの前に放り投げられる。

「え」

「ボウヤが探しにきたのは銃の密売ルートだろ。こいつが密売人だ」

 持って帰っていいぞと気楽に言う。

「ひでーよ少尉殿。俺をポリスに売るなんて」

「変な商売っけ出して販売ルート捩じ込もうとしたじゃねえか前回。いっぺん警察に逮捕されてこい」

「ちょっと俺の愛銃使って欲しかっただけなのに。軍曹に殺されかけて懲りましたってば」

 でもデザートイーグルは最高ですとあまり懲りていないことを言う。

 座り込んだままの男の頭を、軍曹がべしんと叩いた。

「だからって他のチームでも同じことして噂になるから、餌につられてネズミが寄ってきちまうんだ」

「オフに仕事持ち込むんじゃねえ鬱陶しい」

 少尉もピンク色の頭をげしりと蹴る。

「変なの引きこんじゃったのは悪いと思って、ちゃんと監視してたじゃないですか」

 他のメンバーはバスに荷物を積み込んでいたが、それでも話は聞いていたらしく「あれで監視かよ」と遠くからでもわざわざツッコミが入った。

 コントのようなやり取りを目の前で繰り広げられて唖然としているレイを置き去りに、ふうとため息よりも大きくタバコの煙を吐き出した少尉が言う。

「うちのチームには武器にこだわる奴しかいない。入手ルートなんて各自が持っている。偏屈なガン・スミスにつなぎをつけてもらうならともかく、ばったもんなんて誰も買わねえ。なのに噂が出たってことはどう考えてもてめえのせいだろうが。四の五の言うな」

「いやいや、ちょっと待ってくださいマジで。俺、少尉殿の商売敵になるなんて冗談じゃないって肝が冷えて、最近アジアの販路からは撤収したんですよ」

 立ち上がってデザートイーグルは少尉に食い下がる。

「なあ、ボウヤだってそんな古い情報はいらないよな」

 レイの腕を取って立ち上がらせ、巻き込んだ。

「え、いえ。頂けるならどんな情報でも構いません。アジアでなくてもいいです。他国の密輸ルートを潰せたら、その国に貸しを作れます」

 レイの言葉にガーンと衝撃を受けた顔をデザートイーグルは向ける。

「この裏切り者」

 いったい何を裏切ったというのか。

「あ? じゃあボウヤは無駄骨か?」

 少尉が言った。

「俺が引いた後の販路にちゃっかり入り込んだマフィア崩れの密輸組織が派手にやってるらしいっていうのは聞いてますけどね」

「ああ、そいつらか」声を上げたのは軍曹だ。「パチモンくせえのを手広くばら撒いてるつー奴らだよな」

 それなら待ってろと言って、バスの中に入っていった。

 その背中を見送った少尉も暫く考え込んだ後で、ああと寄せていた眉根を広げる。

「そういや、最近うるさいハエが飛び回っているから潰してこいって言われたな」

「うわやっぱり」

 撤収間に合ってよかったと、デザートイーグルは胸を撫で下ろす。

 軍曹が戻り、少尉に黒いUSBメモリを渡した。

「休暇取るってんのに仕事持ってくるんじゃねえって少尉殿が話聞かねえから、俺がデータを預かるハメになりやして」

「ふん」

 興味なさげに軍曹の揶揄を鼻で笑った少尉は、レイに向かってUSBメモリを無造作に放り投げた。

 落とさずに受け取ったレイ――降谷零の拳が震えた。

「どうして……」

 疑問が口からこぼれ落ちる。

 いつからレイの正体を知っているのか。どうやって目的まで把握したのか。なぜこのデータをくれるのか。そもそもどうしてキャンプの参加申し込みができたのか。

 色々な疑問がぐるぐると頭の中で回るが、最終的な疑問はひとつ。

「どうして、僕は生きているんですか」

 キャンプの間、ずっと思っていたこと。ゲーム中の事故に見せかけて、いつでも殺せた。いや、それどころか証拠も死体も残さずに処分できたはず。

「なんだ死にたかったのか」

 めんどくせえと雄弁に語る表情で少尉が言ったので、軍曹が戦闘態勢に入ってしまい、第二ラウンドに突入した。

 ボロボロになった帰りのバスの中、やはり隣の席に座ったデザートイーグルが、ボウヤは勘が鋭くて度胸があって、でもちゃんと臆病で、踏み込んじゃいけないラインは越えなかっただろ。だから皆ちゃんと殺さずに可愛がってくれたんだと、なんの保証にもならない慰め方をしていた。

 

 

 

 降谷零の持ち帰った情報は銃の密輸ルートから売買の相手のデータと微に入り細に入り調査されており、詳しすぎたせいで逆にその信憑性が疑われた。

 やっとの思いで強制捜査の準備が整い、密輸品の引き渡しが行われる貸倉庫を包囲。踏み込もうとしたその時、いくつもの銃声が響いた。

 激しい銃撃戦が行われている様子が伺え、捜査員の安全を考慮して突入命令が発せられることはなくその場で待機。もちろん倉庫の中から出てくる者あらば確保する予定だったが、誰も姿を現さない内に静寂が訪れた。

 倉庫の中に踏み込んでみるとひどい有り様で、密輸組織の構成員もその取引相手も生きてはいなかった。しかし死体の他にも密輸品の現物や取引帳簿などが手つかずで現場に残されており、降谷の情報の正しさは証明された。

 

 

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