仔熊のミーシャに愛をこめて 作:つきや
黒の組織でコードネームを手に入れたばかりのバーボンはアジトの廊下を歩いていた。
ベルモットから、とある幹部とは早めに顔合わせしておくようにと忠告を受けたからだ。
「顔を見せておかないと、潜入中に敵とまとめて殺されるわよ。コードネームを頂戴したばかりなのに死にたくなんてないでしょう?」
それでも機嫌が悪いと撃たれるから気をつけてね、と言う。
目的の幹部がいる部屋の前に立ったバーボンの耳に、ドアの向こうの話し声が届く。
「兄貴、たまには相手してくだせえよ」
「しつこい」
「ちょいと暴れたくなったりしやせんか」
「ならない」
「肉弾戦しましょうって」
「他当たれ」
「歯応えあるヤツがいないんでさあ」
「バーボンとやってろ」
「誰ですかいそれ」
え?
聞こえた声にびっくりして、バーボンは慌ててドアを開けた。
「よう、ボウヤ」
ざっと顔から血の気が引いたのが自分でも分かった。
「しょ、少尉!?」
ソファーにだらりと座って、タバコを指に挟んだままの手を上げて挨拶したのは、真っ黒なスーツ姿で銀髪の幹部。
その横に立つ大柄な男も、黒。スーツの他にネクタイやサングラスまで黒で揃えて、髪の色も黒だ。
赤のひとかけらも見当たらないのに、バーボンの記憶の中では強烈に赤と結び付くコンビ。
にやりとチェシャ猫が笑った。
改めての自己紹介もなしにバーボンは、ウォッカに首根っこを掴まれて地下駐車場へと連れていかれた。
停めてある車が廃車になっても構わないし、壁は厚いコンクリだから簡単に壊れない。安心して全力でかかってこいと言われてもいったいどこに安心できる要素があるのかと文句を返すより早く、豪腕が襲ってきた。
ぎりぎりで避けたバーボンの後ろにあったワゴン車のドアがぐしゃりと潰れる。
必死で避ける。跳ぶ。逃げる。
しかし何台かの車が身代わりに潰されたところでバーボンは、自分でも意外なほどあっさりとウォッカに捕まってしまった。
フットワークが軽い重量級なんて反則だと思うけれど、それでも以前は身軽さを武器にしてもっと翻弄できていた。
捕まってからの超接近戦もほとんど手が出なかった。あの時、ゼロ距離での戦い方を教わっていたのに。
こんなものではなかったと歯を食いしばるバーボンに、優しい言葉を掛ける理由がウォッカにはない。
「探り屋かなにか知らねえが、随分と鈍っちまったもんだな」
バーボンをアスファルトの床に組み伏せながら、面白くねえと口元を歪める。
「おいおい。もう少し粘らねえと、また俺にお鉢が回ってくるだろうが」
駐車場の入り口に凭れて煙草を吸っていたジンの声も呆れている。
彼の黒いスーツ姿を見上げて、バーボンはやっと我に返った。
これは遊びのサバゲーではない。
赤のフラッシュバックが強烈すぎて流されてしまったけれども、バーボンの腕を離して立ち上がった男は黒の組織の幹部『ウォッカ』だ。今、こちらに向かって歩いてくる男も『ジン』のコードネームを持つ、ボスの懐刀とまで噂されている組織の重要人物。そして彼らは『バーボン』の正体を知っている。
「僕はここで死ぬんですか」
「なんだ。相変わらずの死にたがりか」
ジンが嫌そうに眉を潜めた。
「まあ、疑われるような真似して証拠が上がったり密告されたりボスが命令した時は、ご希望通りきっちり殺してやるけどよ」
バーボンの前にしゃがみこんだジンは、目の前にある情けない顔に向かってぷかりとタバコの煙を吐き出し、続けた。
「どこに潜り込んでそんなに温くなっちまったのかは知らねえが、今のままじゃあ、俺たちがどうこうするより先に死ぬだろお前」
安室透がセーフハウスとして契約しているアパートに帰り、パソコンを立ち上げた。
以前のアドレスと変わらないままで、都市伝説のはずのサバゲーチームが参加者を募集している。
それも嫌みったらしく『緊急告知! 短期集中特別強化訓練開催決定!』とうたっているのはいかがなものか。
いっそのことコードネームを“バーボン”にして申し込もうかとも思ったが、そうしたところで結局どうせまともには呼んでもらえないだろう。“ボウヤ”と入力。
ほんの少しだけ躊躇した後、参加申し込みボタンを押した。
++あとがきというよりも蛇足++
『ボウヤは俺たちが育てた』by赤い仔熊たち
そんなつもりはなかったのにバーボンが強化されました。ネタを温めている段階から、このまま純黒の悪夢いったらバーボンが疑われるシーンが凄い茶番になるなとは思っていたんですけれど、書き終わってみると赤い仔熊たちにボウヤがめさ鍛えられていて、観覧車上のバトルも様相が変わるっていうか、そもそもキュラソー逃亡できるのかっていうね!
ちなみにこのサバゲールート、計算高いバーボンがチームメイトであるという立場を有効活用しないわけがないはず。
雑談混じりに、誰かが「ニホンに○○っていうテロリストが来てたぜ」とか「あそこはトップより、その腹心のほうがクセモノなんだ」とか「ちょっとサイコな狙撃手を空港で見たけど、お前の国のセキュリティは相変わらずユルすぎじゃないかボウヤ!」と情報を流してくれるメリットだけじゃなくてですね。
「今日は友達連れてきました」って、スコッチをゲームに連れてきそうな気がします。
ジンはバーボンの素性を知ってる。きっとスコッチだってバレている。どうしたらいいか。
ジンが「趣味に仕事は持ち込まない」なら、スコッチを趣味の側に持ち込めばいい。敵には容赦ないジンだけど、サバゲーのチームメイトには甘いから、敵に回った時もついつい馴れ合って殺さないしとかそんな感じで。
悪びれないバーボンと、遊びに行くよと連れ出されたはずなのに赤い髪のジンの前に立たされて困惑しているスコッチ。
ウォッカはボウヤの大胆さに呆れながらも感心している。
そして肝心のジンといえば、凄いしかめっ面をして。
「コードネームはララァだ。異論は認めねえ」
参加は認めるということだ。ほっとバーボンは詰めていた息を吐くけど、なぜかスコッチ反論。
「どうして俺がヒロイン枠さ?! ヒイロとかウィングとかでいいでしょそこは」
ガンダム仲間が増えました、とかね。
スコッチが公安のスパイだとバレた後はきっと、死人になったのち、サバゲーのインストラクターをしていることでしょう。
そんなifの世界もいいけれど、デザートイーグル=スコッチ説っていうのも面白くていいんじゃないかと思ったりもしましたけどね!
黒の組織に入るために密売人になり、実に効率よく幹部のジンとウォッカに接触しているってことですよ。
そう思いながら番外編を読み直すと、バーボンの空回りぶりが可哀想になってくるかも?