仔熊のミーシャに愛をこめて 作:つきや
クロスオーバーは二度起きる
「よし、組織潰そう」
ボスが「京都へ行こう」のノリでそう決めたのは、我らが祖国で大きな人事異動があったからだ。
そして、着任先の引き継ぎ日程が1週間しかないからと、ボスは全てを丸投げして帰国していった。
さて、ここは少年漫画の世界だ。敵は主人公に追い詰められた後、自滅で死んだほうがいいだろう。
ということで、いい歳をしたアルバイターと常連面でコーヒーを飲んでいる小さい探偵しかいない時をみはからい、某ポアロに突撃。大学院生の皮を被ったFBIを呼び出すのも忘れない。
準備期間は一週間。怒濤のように巻き込んだ探偵たちが我にかえる前に終わらせることがポイントだ。
遊び心でこつこつ作っていた、山奥の谷間の秘密基地(バビルの塔をリスペクト)に誘導し、分断されたふりして俺とウォッカは孤立。
ボスとラム(実はスピーカーのみ設置)が「裏切りものめ」と罵る声と重なる銃声を通信機器に拾わせた後で破壊。
追い詰められたラスボスの終焉に相応しく、秘密基地は爆破。山津波を誘発し、谷が崩れて全てが埋まった。
上手くいった爆破オチに、鉄板てっぱんと満足。
後始末をまるっと押し付けられた日本警察に、ご苦労様と笑いつつ国外脱出。
新任地があるボスたちとは違って、俺とウォッカはKGBが解体された折に紐付きではなくなっている。
次は謎や推理や真実の裏側などはない、シンプルな戦場でどんぱちしたいもんだなと、行く先を相談していたはずなのだが。
【パターンA】
早速話を聞きつけた友人に、しばらく外国人部隊で遊んでいかないかと誘われたので、イギリスに向かった。
飛行機に乗っていたはずなのだが、気付いたら小さくなって汽車のコンパートメント。同じく小さくなったウォッカと二人、向かい合って座っていた。
自分が着ている制服を見下ろして「魔法学校かよ」と呟く。
イギリスの孤児院にいたことや、ホグワーツ魔法魔術学校の入学案内が届いたこと、自分の杖を選んだ記憶などがきちんと植わっていて気持ち悪い。
「魔法使いですかい……」
ウォッカもどこか呆れたように呟くが、なんちゃって錬金術師の俺たちにはあまりとやかく言えないのではないか。
「ここの校長さんが、賢者の石の共同研究者なんだがどう思うよ?」
「ガキをイケニエにするんですかい。ムナクソ悪い」
だよな。
「俺の知っている筋書きじゃあ、学校が最終決戦地で敵味方入り乱れてのバトルだ」
「地下にデカい魔方陣があるんですね分かりやす」
俺たちの基準では、そうなる。
賢者の石なんてもんを、作りたがるやつも欲しがるやつもクソだ。
汽車が駅に着いてぞろぞろと引率されて、額に稲妻の傷を持つ子供もいて、組分け帽子。
座るべき椅子、頭にのせられる帽子が俺は気に食わない。
引ったくって踏みつけた。
「はっ、ガキどもを導くべき教師が、たかだか4つの性分に決めつけた上で、その狭めえ型に無理矢理合わせて育てようなんてのは胸くそ悪りい」
のびのび育てろよ全く。性分なんてものは環境でいくらでも変わるし、変わらなくてもそれ相応の分別を身につけていけばいい話なのだ。
だから。
「俺は一番合ってなさそうなグリフィンドールで頼む」
言い放って、未だ呆気にとられた顔を並べた赤い色のネクタイの上級生たちの席に向かうと、ウォッカが組分けの椅子を無視して俺の隣に座った。
「自由だなお前」
「兄貴に言われたくありやせんや」
こうして、全てを敵に回した不思議学校生活が始まった。
大量殺人犯疑惑をかけられているとも知らず、ふぉっふぉっふぉっと寛容に笑って許した校長により入寮。
魔法自体は楽しいので成績優秀、戦闘能力あり。
その反骨精神が気に入った先輩がいたり、一年に一回大騒ぎする生徒よりましとこぼした教師がいたりしたとか。
【×魔法学校】
【パターンB】
組織が崩壊して、知り合い(スティーブン)に面白い仕事でも回してもらおうと渡米したら、ニューヨークが崩壊した。
それから幾年、異界に飛ばされたりもしたが、それなりに楽しくヘルサレムズ・ロットで暮らしている。
今回の仕事相手を飛行機の前で出迎えた。
まず歩み寄ってきたのは一番付き合いの長いスティーブンだが、先に着いた俺たちがなにか悪さをしたのではないかと眉間に深いシワを寄せている。
「疑心暗鬼が段々酷くなっているぞスティーブン」
「その理由は、自分の胸に手を当てて聞け」
毎度の会話である。
所属組織を裏切って潰した実績を持つ相手を信用できると思っているのかと、一番最初に再会した時に言われている。
裏切ってねえ――とは、おおっぴらには言えないからこんな付き合いだ。
その横で呑気に花を飛ばしていたクラウス坊や(その上、仲がいいなと目を細めていた)が、今回もよろしく頼むと握手を求めてきた。
秘密結社ライブラのリーダークラウス(とギルベルト)が世界のスポンサーを回る際の護衛が、今回の仕事だ。
アームストロング流のガントレットをはめたウォッカとタイマンはって押し勝てる相手に護衛がいるのかという話だが、周りに被害を出さずに一人で闘えるものでもない。
見送りらしきメンバーもいた。
どうしょうもないザップと小動物っぽいゴーグルの少年。後、さかな。
少し遠巻きに、こそこそと話している。
「あの人たちは?」
「あー。流れの凄腕錬金術師?」
「凄腕!?」
「ザップさんがまさか他の人を認めるセリフを言うなんて」
「だってよう、あン人ら、旦那たちとガチでやり合えるんだぞ」
「ああ、いつも奇襲かけては秒殺されているザップさんとは月とすっぽんなんですね」
初めましてと握手を交わしつつ、「い、異界人ですか」と聞いてくるあたり、怯えたふうでいて物怖じしない少年である。
「まさか前みたいにぱっくり割れたりしませんよね」
割れない。というか、前ってなんだ。
「普通の人間だ」
この世界の人間とは言いがたいとはいえ。
「クラウス坊ややスティーブンらの血闘だか血凍だかがまだ人間の枠内ってんならな」
「普通の人間の定義……」
ついでにその眼を持つお前も既に定義の範囲外というかライブラ所属な時点で枠外じゃねえのか、とは言わないでおいた。
マフィアだろうが警察だろうが異界人だろうがお構いなしに雇われるけど、重複契約で裏切りとか内通はしない。
その辺は信用しているスティーブンだが、実は先週ガチバトルをしたばかりなのを分かっているのかと問いたい。
共闘時は、飛んでいる敵とか浮いているビルとかに、錬金術でバンバン足場を作っていくから便利。
ちょっと目のいい少年が錬成陣をよく見てみようとしてぶっ倒れ、気付いたら変な扉のある空間にいたとか言い出したので、体の一部を持っていかれなくてよかったなその目みたいに代替え品は貰えないぞと忠告した。
とりあえず、ウォッカがどこよりも一番ウキウキとバトルを楽しんでいると思われる。
【×ヘルサレムズ・ロット】
【パターンC】
次の仕事を始める前に少し遊ぶかと各国を回っていたが、火に飛び込むウンカのように組織の残党やら裏取引していた国家権力などか襲いかかってきた。
小雨降るベルリン路地裏。
惨めったらしく這いつくばる男に銃口を向ける。その後ろには手足を撃ち抜かれて呻く、彼の仲間が数人。
「残念だったな」
銃口を向け、死神と呼ばれた物騒な笑みを浮かべた。
「にゃー」
「俺たちの口を封じるにはてめえらじゃあ「にゃーにゃーにゃー」殺しに「にゃー」失敗す「にゃー」てめえが殺される覚悟はしてきたんだろうな」
「にゃー」
「にゃーにゃー」
「ああもう五月蝿えよ!」
振り向いて怒鳴る。
後ろに立つウォッカの腕の中には拾った仔猫がいた。
元の場所に戻してこいと言うつもりは更々ないし、なんなら「猫のくせに濡れ鼠かよ」と自分の着ていたジャケットをふかふかのタオルに錬成したのは俺だ。
しかしこれでは、シニカルに決めるべきシーンが台無しである。
「バッカウォッカ、てめえアルフォンスじゃあるまいし!」
いっつも、捨て犬やら捨て猫やら捨てスパイやら拾ってきやがって!
俺が後ろを振り返っている間に、男は仲間と共に逃げていった。
「誰ですそりゃあ」
ウォッカが首を捻る。
ああ。原作知識で俺が知っているから、ウォッカも知っていると思い込んでいたが、会ったことはないのか。そういえば。
懐から煙草を出して、にゃーにゃーと元気に鳴く仔猫と目が合う。火をつけずに口にくわえたまま、路地裏から出るために歩き出した。
「鋼の錬金術師の弟だ」
丁度目の前に鎧があって、コンコンと叩く。
「こういう鎧に霊魂を定着させたリビングアーマー……」
は?鎧があって?
「……ぼく、アンデッドなんかじゃないと、たぶん。……自信はないけど……初対面の人に言われるほどじゃ」
ぐずぐずと目の前で落ち込んでいる鎧が、ご本人様だった。
なんでも、路地裏から猫の鳴き声が聞こえたから、様子を見ようとしていたらしい。
そして、猫用ミルクを分けてくれるらしい。
滞在先のホテルに行ったら、兄もいた。
「ちいせえ」
「誰がチビだ」
いやだってお前、予想よりも小さいというか幼いというか。
もし、今が原作前だというならば。
――つまり俺が、俺自身がアベンジャーになって、あいつらぶっ飛ばしても構わないってことだな。
この後、戦場で知り合っていた炎のとかその友人とか憧れの筋肉だるまとかと再会して「生きていたのか」と驚かれる。
生きていた扱いということは銃殺刑確実の脱走兵扱いということだが、その上更に、テロリスト扱いされる気満々である。
【×再びハガレン】
【まさかの】
最後の最後で失敗して、アジトの爆破に巻き込まれた。気付いたら子供の頃に巻き戻っての孤児院だった。
しかし今回はソ連ではなく日本で保護されていた。
そしてその孤児院には降谷零、それも、一緒にサバゲーしてた逆行ボウヤがいた。
救済ルート突入ですね分かりますん。
「とりあえず、一緒におまわりさん目指しましょう」
今回は正義の味方になりましょうねと、未来のお巡りさんが凄い圧力をかけてくる。
「俺らが今更まっとうに生きられると思っているのか」
「まっとうに生きられないっていうなら、公安でいいじゃないですか」
にっこりと笑う無邪気な幼児の、目が笑っていない。
「お前こそもう、日本に囚われなくてもいいだろう」
「……例えば、サバゲーの野外メシに、焼おにぎりと味噌汁とおしんこがなくてもいいということですね」
「むむっ」
「魂が日本人だと豪語していた人には、案外お似合いですよ。おまわりさん」
降谷零としては、自分と一緒に警察官を目指してしまった幼馴染みが、死んだことを誰にも知られず、本当の名前で弔ってもらうこともなく、スコッチなんて名前で屍を晒して(そして実際は違う名前で裏の世界で生きていく羽目となり)。自分さえいなければと、出会いを避けていたら、何故かジンたちが幼馴染み枠にスライドしていたり。
【×赤い仔熊】