仔熊のミーシャに愛をこめて   作:つきや

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『真の女帝の頭上にあってこそ真の王冠は美しく輝く』

 

 回収したマイクロチップはウォッカがラムに届け、その間に俺はホテルに戻り私服に着替えて、深夜を越えても盛り上がっているキッドファンに紛れ、ビールの缶をあちこちから渡され、ああこいつらひでえ酔っぱらいと呆れながら一緒に現場検証中の警察にヤジを飛ばしマスコミのカメラは避けつつ、会場の入り口に立つ女帝の銅像に王冠をこっそりと乗せ、騒ぎが起きる前にフェードアウトした。

 気障な怪盗紳士の真似をして、カードを添えるのは忘れない。

 ホテルにはウォッカも戻ってきており、貰ったビールを飲みながらテレビを見ていたらやっと『盗まれた王冠戻る!』と速報が入る。遅い。

 明日から早速、展示を再開していくとのこと。既にショーケースに納まった王冠の映像付きだ。こっちは早いな。話題になっている今の内に客を呼びたいのだろうが、警察で指紋の採取や真偽の確認はいいのか。

 

 翌朝、ウォッカに相変わらず寝起きが悪いっすねと呆れられながらポルシェに乗り込む。

 助手席だ。

 寝起きの2時間はハンドルを握らないことにしているし、誰も握らせようとはしない。

「海見て行こうぜ」

「こんなところの海、汚ねえんじゃないですか」

 そう言いながらも、ウォッカは海沿いの道へとハンドルを切る。

 うーん、空が薄曇りなのもあいまって、日本画が墨一色なのがよく分かる海だった。

 防波堤からクラゲを見下ろしていたら、スマホが着信を知らせる。

 ラムだった。

「なんだ」

 寄り道なんかしていませんよという声で電話に出る。

 波の音は聞こえているだろうが、ラムからのお叱りはなく用件に入った。

 回収したマイクロチップが、不完全だったらしい。暗号化して二つに分けてあるという。残りの回収を命じられた。

 情報は全て破棄しなければならない、と。

 後ひとつではなく全て。本人の記憶も情報媒体のひとつってことだな。

「分かった」

 通話を切ろうとして、名前を呼ばれた。

『ジン』

 ラムの声が……。

『貴方がもし捕えられそして殺されても、当局は一切関知しないのでそのつもりで』

 ……何かふざけている。

『死してシカバネ拾うものなし死してシカバネ拾うものなし。ジン、健闘を祈る』

 混じってる混じってる。

 スパイ大作戦と時代劇の……何だ?

『なお、このメッセージは自動的に消滅する』

 元ネタを考えていたら、チッチッとスマホが音を立てて秒を刻み始めた。

 慌てて海に向かってぶん投げる。

 

 ボンッッ!

 

 着水するかしないかのところで、爆発した。水柱が立つ。

 殺す気か!

「あ、兄貴。大丈夫ですか!」

 通話が終わるのを車に凭れて待っていたウォッカが、泡を食って走り寄ってきた。

「大丈夫なものかよ。お前のスマホも今すぐチェックしろ」

 いつ仕掛けたんだ。

 違和感がなかったってことは最初からか。

 仕事用の携帯端末はこまめに処分する。とはいっても使い捨てのPHSやガラケーより、スマホのほうが使う期間は長い。

 このスマホはひとつ前の仕事から使っているものだ。

 その間ずっと爆弾を身につけていたって、どういう肝試しだよいったい。最近ドンパチしていなくてよかった。

 ウォッカのスマホにも仕掛けがあって、戦慄する。

 頭が痛いってもんじゃない。

 いざという時に裏切り者を始末するためというならともかく、あんな悪ふざけをするためって。

 今度絶対仕返ししてやる。

 先程の爆発で上がった派手な水煙に野次馬が寄ってくる気配がしたので、とりあえず場所を移動する。

「兄貴、どうしやすか」

「展示会場に戻る」

 元同志はマイクロチップを仕込んだ王冠から離れるつもりはなかったようでロシア側の学芸員として今回の企画に参加、日本へも同行してきている。

「同志アナグマは自家用のヨットで乗り付けたって話ですぜ。逃亡の可能性は?」

「いや、会場だ。そいつはまだ“怪盗キッドが”王冠を盗み出し、そして返却したことしか知らないんだ。必ず自分の目でマイクロチップを確認しようとする」

 そして、やっと手遅れであることに気付くのだ。念のためウォッカのスマホを借り、アジトへ連絡。ヨットを押さえるように指示する。

 詳しい説明はしないがとりあえず「俺の獲物だ。逃がすんじゃねえぞ」と恫喝しておいた。

 

 

 

 

 

 コナンがエカチェリーナ2世展の幻の死の王冠を見ることができたのは、怪盗キッドが華々しく盗み出し返却したその後だ。キッドキラーと呼ばれても、小学生の身で夜のマジックショーに紛れ込むのは難しい。

 園子はひとりでお台場に繰り出したらしく、朝っぱらからテンション高く蘭のところに突撃してきた。

「サッカーに勝った時みたいに大騒ぎよ。楽しかったわー」

「もう。女の子がそんな遅くに危ないじゃない」

 蘭のお説教もどこ吹く風。

「ねーねー。キッド様の王冠を見に行きましょうよ」

「キッドのもんじゃねーだろ王冠」

 呆れて呟くコナンの目線の先はテレビの画面。

 

 朝のトップニュースとして、ライトに照らされた眩い王冠と、早朝にも関わらずずらりと並んだ行列が写っていた。

 

 

 

 

 

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