仔熊のミーシャに愛をこめて   作:つきや

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 バックドラフトを知っているだろうか。

 あれが、多少小細工したとはいえ、仕掛けた俺もびっくりするほど劇的なタイミングで発生した。

 

 残念ながらウォッカが戻ってくるよりも早く、パトカーのサイレンが聞こえ始めた。

 美術品で遊ぶのを止め、ヨットから抜いた燃料を撒いて火を点ける。

 床を舐めるように走る炎の様子を見ながら外に出てぱんと錬成光を散らし、通気孔やドアの隙間などを塞いだ。

 けたたましいサイレンが鳴り響き、逃げろ逃げろと急かしてくる音に背中を押されながらヨットを出る。

 あんなに五月蝿く接近を主張したら逃げるに決まっているんだから、本気で捕まえたいなら静かにひたひたと包囲しろと言いたい。

 俺がヨットを出て、桟橋を見下ろせる場所に陣取った頃には、パトカーによる包囲が終了していた。

 パトカーから下りてきたのは警察官の他には、一般人のフリをしたFBIと小学生のフリをした名探偵。

 ちなみに俺はすぐそばにある倉庫の屋上で堂々と立っている。ちょっと周りを見回すだけで発見されそうなわけだが、これは見つかっても構わないと思っての位置取りだ。

 というかぜひ見つかって、まだまだ組織が関与してくるぞと匂わすような犯罪臭を持たせたい。

 これは安全であると確信しているからこそできることだ。なにせ赤井は銃を持っていなかったし、日本の警察はそう易々と発砲しないから、見つかってからでもすぐ逃げられる。

 ただ、戻ってきたウォッカがドジかましてあそこに突っ込んでいかないかが心配だ。

 ヨットの中にまだ俺がいると判断しやしたと嘯いて、嬉々と飛び込んで暴れそうだから困る。

 なにせ以前にも、ドジ踏んだふりしておふざけ入るのは俺の影響だと言い訳されたことがあるからな。その方が面白くなるってんなら仕方がない。

 さっきの展示場裏での赤井とのバトルの決着をつけたいだろうから、マジでやりかねねえ。マイクロチップの解析にまだ時間が掛かることを期待しよう。

 

 制服姿の警察官たちがヨットに乗り込んでいくのを見守る。

 流石に一番手を一般人に任せることはないらしい。

 数人が左右に別れてぐるりと外周を確認しにいった。

 残りは外からヨットの中の様子を伺っている。物影に美術品らしきものが置いてあるのが見てとれたことだろう。

 警察官の一人がドアを開けようとノブを回した時。――流石、主人公。ドアの下から這い出す煙に気づいた。

 小さい身体で体当たりをかまして間一髪、ドアが開いた瞬間噴き出す炎から、警察官を救い出す。

 絵になるなあ。

 紫煙を燻らせながら、笑う。

 そして念のためにと取り出していたベレッタを懐にしまう。

 タイミングよく発火しなかったら、強制的に爆発させるつもりだった。

 そのためにと、ウォッカのスマホから抜いた爆弾をヨットのエンジン部に仕掛けもした。

 焔の錬金術師のようにパチンと格好つけたいところであるが、証拠が残らないことが証拠になりかねないので、普段は錬金術をあまり使わないようにしている。多少不自然でも、発火装置の残骸や銃痕はあったほうがいいのだ。

 騒然とする現場、追加で到着する消防車のサイレン。

 その場から少し離れたところに、頬の煤を拭うちびっこ名探偵コナンと、その肩に手を置いた沖矢昴の皮をかぶった赤井秀一が立っている。ありゃあ、肩に手を置いているというよりも現場に飛び込んでいくのを押さえているのか。

 ヨットから火が出た以上、もっと仕掛けがあると警戒しているんだろう。

 実際、爆弾は仕掛けてあるが、ヨットの火災は爆弾に引火せずに終わった。

 ヨットを沈めるには中途半端な仕掛けになってしまったが、せっかく作ったニセモノがすぐさま無駄になるのも面白くなかったというか、豪奢なネックレスをかけた胸像の下に豪華客船のチケット兼ブラックな競売への招待状を挟んでおいたから、燃え残ってくれないと困るというか。

 爆弾がまるまる証拠品として残ったわけだから、そこから足がついてしまえばラムに迷惑がかかるんじゃないかとか、いい仕返しになるんじゃないかとかまでは考えていない。

 ふむ。

 しかし、野次馬も増えたっていうのに、直ぐ側の倉庫の上で真っ黒なコートを風にたなびかせながら、頑張って目立とうと努力している俺に誰も気づかないってどうなんだ。

 事件現場の周囲には注意を払えよ。周囲に不審者がいないか目撃者はいないか確認しろよ。警察にはもう少し頑張って仕事をしてほしい。

 懐のベレッタをもう一度取り出してくるりと回す。

 ちゃきりと探偵のこめかみに照準を定めてみたが、反応はない。ついとその横、赤井へと銃口を流して胡散臭い細目をしかめている眼鏡に狙いを移す。

 化けの皮一枚剥がすつもりで引き金を絞ったら流石に反応された。

 探偵を小脇に抱えて、近くのパトカーの影に飛び込む。

 突然の行動に周りが目を白黒させているのもお構いなしで、射線を警戒。伏せろと警告の声を張り上げたりもしない。無差別に撃つことはないだろうと読んでのことなら、それはイヤな信頼だ。

 

 警戒鋭い視線がふたつ、こちらに向いたことを確認して撤退した。

 

 

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