─────4/23 (木)早朝5時45分
大地「ほっ、ほっ、ほっ…………!」
春になったとはいえ、まだまだこの時間帯は肌寒く感じる今日この頃。
冷え切ったコンクリートの歩道から感じる足元の冷気を掻き乱す様に足を必死に動かすジャージ姿の切れ目少年……今や世間で賑わいを見せる人気者、『咲山 大地』(15)は今朝も今朝とて、日課のランニングを兼ねてキャッチング練習をする為にバッティングセンターへと向かっている途中である。
大地「ほっ、ほっ、ほっ……!」
一糸乱れぬ息と一定のテンポ。
ペースを落とさず、けれど上げ過ぎず。
まるでコンピュータによって制御された機体のように一定に走る。
大地(……マズイな。このままだと、夏の大会が危う過ぎる)
ただし、頭の中は以前までの試合の彷彿だった。
なんとか春季大会でベスト16を掴んだ羽丘は、今年の夏の大会で第四シードを辛うじて習得する事は出来たが、一つ問題が起きた。
────投手不足。
たしかに、今のところは問題無さそうな見えなくはない。
けれど、問題の根本はもっと根深い。
このままだと、空と雪村の酷使しすぎで、そもそも決勝前までに力尽きる可能性が少なからずある。
成田 空は言わずもがな、実力は超高校級だが、まだ1年生だ。ここで使い古し過ぎて将来の原石を壊しかね無い。
これには周りがいい顔をしないし、何より大地にとっても十分痛手な話だ。
次に、雪村 新太。
此方も言わずと知れた羽丘の現エース。この前の花咲川学園戦から一皮向けた実力派投手だ。
ストレートの質が向上したことによって、元あった変化球が更に効果覿面に発揮されるようになったのは収穫だった。
ただし、新フォームは未だ未だ未完成な部分が多く、何よりも重大なスタミナ不足が見られる。
春季大会では一度だけ完封を記録しているが、その後、7回以降のピッチングは控えるようになった。原因としては、肩と肘の張りが出始めたらである。
彼もエースとして、常に投球を行ってきたが、いかんせん、新たなフォームはまだ固まっていない上に、慣れないという部分でスタミナ浪費が激しい。
こういった場合は段々とフォームを定着させて行く事が必要がある。
時間が掛かるが、これは致し方がない。
そして、ベスト8を掛けた試合を今一度振り返ってみると、やはり投手の数が少な過ぎる。
そもそも、部員が少ない。
現在、羽丘高校の部員は新1年を合わせて27人。
その内、投手志望は空と雪村を含めて4人。
空と雪村の二番看板は各々の課題は見えているし、彼等なら何とか夏には間に合わせてくれるだろう。
だが、そうなってくると、リリーフの質が最低限必要だった。
ベスト8を掛けた試合。
羽丘が3点差で迎えた7回裏に悪夢が舞い降りた。
雪村が7回を無失点で抑え降板したあと、中継ぎで起用されたのは背番号10の吉村 忠彦(2年)である。
彼の武器は、基本的にストレートしか投げないパワーボールである。
最速147km/hの直球と、同じ腕の振りから投げ下ろされるスプリットで三振を奪っていくスタイルの本格派である。
実にリリファー向きの投手だ。
ただし、彼に難点を挙げるなら、ノーコンな事である。
あの悪夢の主因は間違いなく余計な四死球だ。
7回だけで4四死球。8回には2連続四死球の後に、大地が外すようにサインを出していたにも関わらず、甘く入ったストレートを痛打され同点に追いつかれ、その日は降板した。
結果としては、被安打2 四死球6 失点3 奪三振どころか空振りも0だった。
ムラがありすぎて、非常に扱いづらい投手は何人も見てきた大地ですら、絶句せざるを得なかったほどである。
コーナーに構えていないど真ん中勝負を要求しているのに、捕手が捕れない所へ放るのだ。対処のし辛さが際立っている。
結局、この日の試合は投手を使い尽くした羽丘が一度だけ投手経験のある帯刀に投げさせる事にしたが、当然ながら、私学校合に急造投手が通用するはずもなく、サヨナラ負けを喫した。(空は、前日投げているので休養。シード権も手に入っていたので使わないと監督は決めていた様子)
更に、もう一人の投手候補。
『我妻 矢来』(1年)である。
我妻は中学シニアで硬式出身者である。
中学時代ではエースを任されていた事もあり、今のところブルペンでは纏まったコントロールとスピンの効いたストレートと、キレのあるスライダーが際立つ有望株だ。
最速124km/h。若干、心許ない球速というのが難点であり、リリーフ経験が浅いのが難点である。
大地(てか、空や雪村先輩にも言えることだけど、みんな先発経験しかねぇんだよなぁ。奥の手は完全に空をリリーフに回すだな)
最悪、空をリリーフに回すのもアリだと考える大地。
現状、二枚看板の空と雪村。
ならば、早い話、雪村と空で全試合投げ抜かせれば良い。
例えば、雪村を先発にした場合、5回までを雪村。残りの6回以降は空と役割を与えれば、1試合に掛かる2人の負担は実質1/2である。
だが、勿論欠点もある。
大地(結局、ここに戻ってくんだよ……2人の酷使……当然、1試合での怪我率は下がるだろうけど、長い目で見た時に全試合登板はあまりよろしくない。チクチク溜まる疲労ってのは後になって絶対に響いてくる)
大地(しかも、2人をそれだけ使うって事は、敵チームに2人の情報を余計に与える可能性がある。特に、空と雪村先輩は春季大会でかなりスポットを集めたからなぁ……今頃、私立強豪供の諜報班がこぞって資料集めしてんだろ? そうなってくれば、いくらあの2人でも、そう簡単に試合を作れなくなる)
そうなれば勿論、羽丘は破滅する。
大地(打撃陣は申し分無いぐらい強力なだけに、やはり鍵になるのは投手陣……特にリリーフ陣。ここを何とかしない限り、羽丘が甲子園に行く事はまずあり得ない)
分析を終えた大地はいつのまにか、目的地のバッティングセンターに着いていた事に気がつく。
どうやら、かなり長い事思考に耽っていたようだ。
大地「仕方ない、気を取り直して練習するか……」
─────
大地「(ふぅ……ダメだな。集中が途切れてる)オッサン! ちょっと休憩!!」
河鳥「おう、そうしろ。今日は特に散漫だ。雑念混じりにやったって全く意味をなさないからな」
大地「相変わらず、師匠の言葉は耳が痛いねぇ……ま、慣れたけど」
大地「────そんな事より、音楽聴いていいか?」
河鳥「あ? 別に構わねーけど、イヤホン付けねぇのか?」
大地「あぁ、いつもは付けたんだけど、昨日、✳︎ペスに爪で裂かれて死んだ」
✴︎ペス……咲川家が飼っているミケ猫の事。名前は何故か犬っぽいのでよく間違えられる。
河鳥「なんか、表現が生々しいな……ま、そういう事なら好きにしな。ただし、営業時間外の時だけな」
大地「あいよー……さてと、スマホを取り出して、『pineapple music』を起動してっと……あぁ、あったあった! Roseliaの『BLACK SHOUT』!」
♪〜♫〜♬〜……!!
大地(いつ聞いても、プロ顔負けの技術力だって感心して聞き入っちまうよなぁ〜!! 曲調もかっこいいし! ザ・王道のガールズバンド! でも、俺も最近知ったばっかりだから、誰が歌ってるのか、何を弾いてるのか全くわからないんだけどね……でも、歌ってる人の声ってどっかで聞いたことあんだよな……ま、いっか)
その後も大地は流れていくRoseliaの音楽と、時折挟まれる Afterglowなどのかなりレベルの高いガールズバンドの曲に身を委ねていたという。
ヒロインは何処から選ぶべき2
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アフグロ
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