Stand in place!   作:KAMITHUNI

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何度も言ってやる!!
やっちまったぜぇ!!!


第16話 拭えない『過去』 後編

─────花咲川学園 野球グラウンド─────

 

3回裏 ツーアウトランナー無し ツーストライクノーボール

 

パァアンッッ!!

 

花咲川1年9番打者「ぐっ……!? (アウトコース低め一杯……っ!? 手が出ない!)」

 

9番 投手 我妻矢来(1年)「しゃぁぁあぁあッ!!」

 

8番 捕手 宗谷神 (1年)「ナイスボールッ!! 我妻ぁあ!!」

 

1番 三塁手 青谷勇介(1年)「今の回は特に良かったよー!!」

 

3番 中堅手 芳山潤(1年)「我妻ぁ! コラァ!! ナイスだゴラァ!!」

 

2番 一塁手 金田信一(1年)「よし! 矢来がいいピッチングしてるから、そろそろオレらで点を取ってやろう!!」

 

1年全員『おぉ!!』

 

 

 

帯刀「おぉ……! 下位打線とはいえ、我妻が三者連続三振を奪った!」

 

結城「あぁ、コーナーにつくコントロールにテンポよく投げるキレのある球……打者からすればこれ程打ちづらい投手は厄介だろう」

 

雪村「あのHスライダーをフロントドアから入れられたら、嫌でも仰け反ってしまいそうだし、投手視点から見たら、あのコントロールは非常に魅惑的だね」

 

雪村「現時点では負けてるつもりはないけど、1年もしたら立場が変わってるかも……当然、成田にも我妻にも、エースナンバーをやるつもりは無いけどね」

 

成田「へ! 流石っすね! そうでなくちゃ超えがいが無い!!」

 

笠元「そんな事よりや、大地はどこ行ったんや? 哲がトイレに連れ添ってそれっきりやろ? アイツ、大丈夫かいな?」

 

秋野「うん。特に今日は『酷い』みたいだったからね」

 

─────

 

花咲川学園 野球グラウンド バックネット裏コンテナ

 

花咲川女子マネージャー「……(い、居辛い……)」

 

紗夜「……今の回、羽丘の投手は特段良かったですね。インコースを主体に変化球を投じて、攻めた後、最後にアウトコース一杯に投げ込んだストレート。あれには手が出ませんね」

 

大地「バカ言わないでください。今のは打者の意識不足ですよ。我妻の球種は早いスライダーに、視線を浮かせて緩急をつけるスローカーブ、そして、右打者の胸元に抉らせるシュートボール」

 

大地「打者はこれらの変化球に全くついていけなかった。ボール球で遊んでもいい場面だ。俺も良く遊び球を使わずに三球勝負を仕掛けるタイプですが、ここは一球外に変化球を外して、後半戦の為にリードの幅を増やす場面です」

 

大地「特に、次の回からお互いに2巡目。我妻の変化球の多彩さや、相手の投手が放る速球のパワー。どちらの方が一段と“慣れ”が怖いですか?」

 

紗夜「はいそれは“ストレート”のパワーでは? ストレートは投手の基盤となるボールです。それに慣れられるというのは、その軸となるボールを失うのと同義……そうではないのですか?」

 

大地「……いえ、素晴らしく考えられた理論で、予想外に吃驚しました。余程、頭の回転が良いのですね」

 

紗夜「いえ、そこまでではありません」

 

大地「ご謙遜を……実際、先輩が考えられているように、“ストレート”に慣れられるのは、その投手の武器の一つを奪うのと同じ事です」

 

大地「すいません。少しだけスコアブック見せて貰ってもいいですか?」

 

花咲川マネージャー「え!? で、でも……」

 

大地「あぁ、大丈夫ですよ。借りてる間のスコアブックは書いておくので」

 

紗夜「? 何を……?」

 

大地「凄いですね……書いてると思ってたけど、ここまで事細かく配球表を出してるとは……ここのマネージャーさんは余程優秀なようだ。貴女は誇っていいと思います! これは捕手にとって大変ありがたいです」

 

花咲川マネージャー「あ、ありがとう……///」

 

大地「? 御礼を言ったのは俺なんですけど……」

 

紗夜(成る程、こうして湊さんを堕としたのですね……。たしかに、あの微笑みは反則級ですね)

 

紗夜「それで、この配球表がどうかしたのですか?」

 

大地「37球と52球……」

 

大地「37球が我妻……52球が花咲川の投手です。3回時点で見れば、若干我妻に軍配が上がってますが、ここから花咲川の投手は投げやすくなってきますよ……ほら」

 

紗夜「え?」

 

視線をグラウンドへとズラして、花咲川の投手を見ると……。

 

─────

 

??「オラっ!!」

 

シュッ!!

 

カクッ!!

 

金田「ウガッ!? (スライダー!? しまっ─────!?)」

 

ガゴォンッ!!

 

花咲川1年セカンド「オーライ!!」

 

パシッ!!

 

塁審「アウトッ!!」

 

ビュゴォォッ!!

 

ククッ!!

 

ガギィンッ!!

 

芳山「ブガァァッ!!? (ここで……!? チェンジアップだと!!?)」

 

花咲川1年サード「よしっ!」

 

パシッ!!

 

シュッ!!

 

バシッ!!

 

塁審「アウッ!!」

 

??「よっしゃ! ツーアウトな!!」

 

─────

 

紗夜「そんな……たった2球でツーアウトなんて……」

 

大地「あれは、リードが良かったですね。真ん中から外へ少しだけズラすスライダーに、テンポを変えるチェンジアップ。精度は今一つですが、前半のストレート攻めが脳裏にあるから、あれ程泳いだバッティングになります。 そして─────」

 

─────

 

ビュゴォォォォォオ!!!

 

ズバァァーーンッ!!

 

羽丘高校4番「なっ!?(オレには一切変化球なし!? 全球真っ直ぐ勝負!? コイツ!!? )」

 

??「亜ラァァァァァァァァア!!!」

 

─────

 

大地「─────ああやって、次の打者に変化球を植え付けて、元あるストレートのパワーを更に上乗せできる。だからこそ、ストレートに“慣れ”てもそれ程意味は無いんですよ……パワーピッチャーにはね」

 

大地「俺があの投手を打ち崩すなら、誤魔化しを入れてきた変化球。2球しか見てないので、なんとも正確な事は言えませんが、然程良いボールとは思えません」

 

紗夜「確かに、4回までに投げた変化球の割合は1割を切ってますね……余程、直球に自信があるのでしょうね」

 

大地「ええ。そんな相手の壇上で態々戦うなんて愚の骨頂です。それほどコントロールも良くない真っ直ぐは、真ん中気味に来た球だけ狙い撃てばいいんですよ。空じゃないんだから、ど真ん中ぐらいなら、打てますし」

 

大地「だからこそ、リードする側として一番嫌なのは、変化球を慣れられるのを嫌うんです。特に、“カーブ”系の球は一層“慣れ”に弱い……!」

 

カキィィィィィン!!!

 

ボサ……ッ!

 

我妻「なっ!?」

 

??「亜ラァァァァァァァァァッッッ!!!」

 

紗夜「……アウトコースのカーブをライト方向へツーランホームラン」

 

大地「本来、スローカーブは遅くて打球が伸びにくいというメリットがありますが、あの様にして逆らわずに力みなく振り抜けば、風にも乗りやすい。あの球は尚更“慣れる”とただの棒球と変わりません」

 

大地「我妻が4回までに投げたストレートの割合は4割。変化球は6割。一番、何方の球にも“慣れやすい”配球ですね。ウチの捕手は経験が浅いので、一人の打者を打ち取る事に一生懸命になってしまったようです」

 

大地「これで、流れが一気に花咲川に変わります。それもこれも、あの4番で投手の彼のプレーがいい方向へ繋がっていきました」

 

大地「だから、さっきの回で変化球をボール球にして打ち取れば良かったんです。彼等はストレートを主眼に捉えてない。見据えてるのは逆方向への変化球打ち。あの回、変化球を続けていれば、この回にストレートを投げてくるかもしれないという疑心が浮かんで対応が遅れやすくなる」

 

大地「安易な三球勝負は自分達の首を絞めることになる。あれは、謂わば諸刃の剣だ」

 

大地「こうなれば、流れは中々、止まらない」

 

紗夜(一体、どれだけ先を見据えているんですか? これが『成田 空』という大器をリードする羽丘の扇の要で不動の【大樹】『咲山 大地』)

 

紗夜(しかし、先程の荒れようは……?)

 

紗夜(湊さんや今井さんから『何処か放っていけない』聞いていましたが……こういう事でしたか)

 

─────数十分前

 

大地「は?」

 

大地「……あの、話聞いてましたか? 俺、先を急いでるんです。だから離してください」

 

紗夜「そういう訳には行きません。今の貴方は何処から気が滅入っている」

 

紗夜「そんな状態で用事をしたところで上手くいくはずがありませんよ。それと、私に野球を教えてくれませんか?」

 

大地「は? テメェは何言ってんだ?」

 

つい普段の口調に戻る大地。

普段は目上の人と判断すると、勝手に敬語や畏る態度をとるが、このようにして何かスイッチが激情に入っているときは常に慣れ親しんだ言葉遣いになる。

 

大地「野球を教えてほしい? なんで、俺がテメェに教示しないと行けない? 一応、テメェとは敵対関係の学校だぞ? そんな相手にミスミス手の内曝け出す馬鹿がどこにいるんだ……!」

 

大地「それと、俺に用事なんてない! ホントはテメェを撒くためだけに吐いた偽証だ……。テメェの偽善的思考は今の俺にとっちゃあ、ただの毒なんだよ……。善人ぶるな! それと、これ以上……“ボク”なんかに構わないで下さい!」

 

大地「ち! クソがッ!! 出てくるなッ!! “俺”は“俺”だッ!! 『咲山 大地』は俺だけなんだ……! クソクソクソッ!! なんでだよ……なんで、“ボク”は……?!」

 

明らかに普通の様子ではない大地。

体が震え、全身から良くないと分かる汗をかきはじめる。

呼吸も荒げ、顔色は蒼白だ。

今にも気を失いそうなほど動転し、先程の強く人に当たる大地とは全くの別人の様になった。

 

紗夜「……私は、貴方が何に苦しんで、何に悩んでいるのかは分かりませんが、これだけは言えます─────今の貴方は只『縋って』るだけの傀儡と変わりません」

 

紗夜「貴方のそれは、悩んで治るものなのですか? 誰かにあたって収まるモノなのですか? いえ、そんな筈はありません。落ち着いて整理する時間。貴方に必要なのはきっとそれです」

 

大地「ぁ……」

 

紗夜の微笑みは、まるで心にあった蟠りを簡単に溶かしてくれて、大地にとって紗夜の言葉は何よりの薬となった。

 

空に敗戦した夏。それ以降、目指した選手像を失い、過去に馳せる期間が増えて情緒が不安定になっていた。

 

苦しんだ期間が長かっただけに、己の未練が先走り、自ら疑心暗鬼に陥って、勝手に他人を作り出し、過去のトラウマが顕現していたのだ。

所詮逃げだと知っていても止めることなど出来ない。

麻薬のようにハマって仕舞えば、取り返しのつかないところまで行ってしまう。

 

だから、今からが……抜け出すための光明が差したこの瞬間から、『咲山大地』の新たな道が生まれるのだ。

それは長い長い旅路。

延々と続く遠路は、所々に壁が聳え立つ。

それは苦痛を伴わないと、乗り越えられない絶望にも等しい『高い壁』。

けれど、歩みを始める。その先にあるものが自分の答えだという事を信じて突き進む。

 

大地(……そういえば、こんな風に壁が聳え立つイメージが浮かぶのも、随分久しい気がする。期間的には2週間もたってない気がするけどな)

 

春季大会以降、見えていなかった光景を懐かしむように、大地は感慨に耽る。

 

しかし、過去を消し去れる訳がない。

冷たいナニカが心を冷やす。

なら、どうするのか……。

 

大地(─────簡単だ。いつもと変わらない。いつもいつも、空っていう『天才』を相手について行ってるんだ。やる事は、変わらない。諍う……! それが、俺だから……『咲山 大地』の何よりの証明だから!!)

 

だから、もう振り返らないと決意した。

 

大地「─────え」

 

紗夜「え?」

 

大地「名前、教えてください。 野球の事を教えて欲しいんでしょう? 俺は『咲山 大地』です」

 

紗夜「(雰囲気が変わった……)はい、私の名前は『氷川 紗夜』です。よろしくお願いします。咲山さん」

 

手を取り合い、互いに自己紹介を終えた2人は落ち着けると思える場所……バックネット裏のコンテナで観戦する事にしたのだった。

 

大地「ところで、先輩は何で休日の花咲川に来てたんですか?」

 

紗夜「いえ、実は宿題を学校に置いてきてしまっていたので、それを取りに来ただけですよ。えぇ、それだけです///」

 

大地「そ、そうっすか……」

 

大地は目の端に映った紗夜のカバンの中にあるとあるファミレスのフライドポテトの割引券を流し見たとか見てないとか……。




次回・大地の覚醒と我妻の力投

ヒロインは何処から選ぶべき2

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