─────木実Bグラウンド マウンド 時刻20:11─────
黒服「─────さて、ここで特訓を開始致しましょう」
我妻「ちょっと待てぇぇぇいいぃいいッッ!!!!」
黒服「はい? なんでしょうか?」
我妻「『はい? なんでしょうか?』じゃ無いよ!! 何で不思議そうに首を傾げてんだ!!! コイツ、何言ってんの? って顔作るのも禁止!!!」
黒服「それで? 何が言いたいのですか? 私にも時間というモノがございます……。早急にお答えください」
我妻「だぁぁぁあ!! 勝手に特訓してやるとか言ってたくせにぃぃいい!! てか、それが意味わからん!! 特訓ってなんだよ!? あんた、俺に何するつもりだ!? 何が理由で俺なんかに─────」
黒服「……はぁ……どうやら、本気でお気付きでは無いようですね」
我妻「は?! 何を言って─────」
黒服(まさか、御自分で理解しておられないとは……。成る程、片矢様が手を焼くはずですね)
─────数日前 居酒屋
片矢「久しいな、眉木。まさか、貴様が弦巻家の護衛職についているとは思わなかったぞ」
黒服「いえいえ、それは此方の台詞ですよ。貴方程の捕手が、まさか昨年まで女子校であった学校の監督をしているとは……。ここまでくると、世の末ですな」
黒服「しかし、実際に御壮健そうで何よりです」
片矢「ったく、口調まで仰々しくなったな……。昔の貴様はもっと生意気だったはずなんだがな」
片矢「まぁ、そこそこに元気なのは確かだが、やはり監督業は、この歳食った体には厳しいものだ……。若いエネルギーに押されまくりだ」
黒服「……そこはお察しします。なにせ、此方も御嬢様の音楽活動がいよいよ以って一段と熱を帯び始めましたからね……まだ、42とはいえ、はやくフリーダムな生活を送ってみたいものですよ」
片矢「あぁ、あの若かりし頃が懐かしくて仕方がないな……」
片矢「しかも、今年の1年は去年よりも一癖も二癖も強いと来た……。本当に体がもたんよ」
黒服「今年の1年ですか……。確か、『成田 空』と『咲山 大地』でしたか? 今、世間を騒がせている黄金ルーキー達ですか……。それはもう、手はつけられ無いでしょうね。指導者として苦難するのは分かります」
片矢「いや……。奴らは案外どうにでもなる」
黒服「?」
片矢「『天地コンビ』は、確かに大きな才を持って生まれた、『天才』である事に疑いの余地はもはや無い。だが、奴らは何より、自分の長所と短所について少なからず理解し、修正する力を持つ……。だから、多少なりほっておいても勝手に成長する怪物だ」
黒服「手のかからない天才とか、マジでふざけてるんですか?」
片矢「若干、口調が戻ったな……。まぁいい。問題はアイツらじゃない……もう一人の方だ」
黒服「もう一人、ですか?」
片矢「ありゃあ、育て方によっては化けるのは確かだが、莫大な原石故に、自身の持ってる『武器』に何一つ気付いてない……。指導者として失格かもしれないが、手の施し方がわからないんだ……。アレに教える力は俺には無いよ」
黒服「……それ程の大器なら、今頃話題になっているのでは? 貴方の事ですから、それなりに試合にも登板させているのでしょう?」
片矢「あぁ。当然使ってるが、秘匿に近い形で中堅校クラスでしか登板させて無い……。当たり前だが、情報規制をかけてもいる」
片矢「ここまで頑なに情報をカットしていたら、それは浮き彫りにならないさ。この作戦を思いついた咲山は本当に末恐ろしいよ」
黒服「成る程、夏大までに仕上げはするけど、他校の強豪には知られないための切り札にするつもりなのですね」
片矢「そうだ。ただ、投手の持つ武器を理解はしても、教えることは出来ないんだ。同じ投手である『成田』は教えるのに向かないバカだし、エースの『雪村』は自分の調整で手一杯。本山はそもそも話にならない……」
黒服「お疲れ様ですね」
片矢「貴様が教えてくれれば早いんだがな……」
黒服「まぁ、御嬢様の御通学される学舎の敵高ですからね、そのお依頼は受け兼ねますよ……自分でなんとかなさってください」
─────
黒服(大見得切った事言いましたが、私も好奇心には勝てませんでしたか)
黒服「『我妻 矢来』では、『成田 空』には届かない」
我妻「っ!!」
黒服「元ある体格差、指と腕の長さ、下半身の粘り、マウンドでの気迫、ボールの圧力、変化球のキレ、精密なコントロール……その他諸々、彼に遠く及ばない。あれが『才能』ですよ……」
我妻「ぐっ!?!」
黒服「気持ちだけではどうにも出来ないその先の次元に、彼……成田 空がいる。実際、貴方は負けを認めてしまったのでは? あの圧倒的な存在に膝を屈しそうになったのでは無いですか?」
黒服「一度、貴方の試合のビデオを拝借させて頂きました」
黒服「たしかに、あのマウンド度胸は認めます。アレは一朝一夕では手に入らないモノだ。きっと、中学時代の悪癖を治そうと、努力した結果生み出した後天性のものでしょうが、それでも、素晴らしい魂です」
黒服「ですが、既に気持ちだけでは越えられない『差』というモノに気付き始めた筈です。このままでは、貴方は羽丘にいる限り、永遠に2番手投手止まりだ」
我妻「っ……!!」
黒服「……何か言いたそうですね」
黒服「不服ですか? たしかに、成田 空を越えてエースになるのは不可能ですが、その支えになれるなら、本望では無いのですか?」
我妻「─────ぇ」
黒服「……」
我妻「良い訳、ねぇ……!! 良くねぇんだよ!! それじゃあ、意味がない!! 俺は、アイツを越えて『エース』になるって、何よりアイツ自身に言ったんだッ!! あんな大見得切ってここで引き下がるなんて出来ねぇんだよ!!」
黒服「そうですか……。なら、覚悟を決めてください」
黒服「正直、貴方にあの巨大な大器を相手にするに値しないと考えてましたが、どうやらホンモノのようですね」
我妻「は!? アンタ、さっきから何言ってんだよ!!?」
黒服「此方の話です。それより、貴方自身が感じてるコンプレックスを解消する、貴方自身の『武器』を出血大サービスで教授しましょう」
─────
こころ「え? 眉木が羽丘の1年生に野球を教えてくるですって!! 何よそれ!! 面白そうじゃ無いッ!! 私達も今すぐ行くわ!!! 花音とそこで待ってなさい!!」
─────
萩沼「ん? あそこにいるのって、君達のチームメイトじゃ無いのかい?」
大地「はい……。それと、あの横の人は? (我妻、何をしようとしてる? まさか、変な事考えてるんじゃ無いだろうな!!)」
大地「萩沼さん! 俺、ちょっと行ってきます!!」
萩沼「え!? ちょっ─────!!?」
有咲(ぎゃぁぁぁぁ!! こっちきたぁぁ!!!)
香澄(ど、どどど……!! どうしようッッ!!!)
沙綾(と、兎に角!! 何処かに隠れて過ごすしか─────て、速っ!! ちょっと待って!!!)
ガツン!!
大地「いてぇえぇえええええええええええぇええ!!!!!!」
りみ「ちょっ!!? 沙綾ちゃん!?」
たえ「あ、流れ星だ!」
有咲「ダァァァァァ!!! どうすんだよ!!! これぇえええ!!」
大地「……ぁ、頭が、かち割れ─────」(カクッ)
香澄「ぎゃぁぁぁぁ!! し、死んじゃったー!!!?」
沙綾「ヒィィィィ!!! こ、殺しちゃったー!!?」
空「おーい!! 大地! すんごい叫び声が聞こえたけど、大丈─────ッ!!! 大地ぃぃぃぃ!? どうしたんだー!!?」
大地「─────ぅ」
萩沼「ふぅ……。とりあえず、呼吸はある。一旦落ち着こう……。それで、君達は他学生だよね? どうしてここに? と、聞く前に咲山を保健室に運ぶのが先決だね」
りみ「は、はい……。すみません」
空「謝罪は後だ!! 今は早く大地を連れて─────」
大地「そ、ら?」
空「!? 大地!! あぁ、どうした!? オレならここに─────」
大地「なんで、テメェがここに─────痛っ……。なんか頭が重いような気がするし、あれ? なんで!!? 俺寝転んでるんだ?」ヒョイ!!
全員『うぇええぇえぇえぇえぇえええええぇぇ!!!?!?!?』
大地「うぉあ!? な、なんだ!?」
─────
萩沼「本当に、何も無いのかい?」
大地「だから言ってんじゃないですか……。逆に、多少、頭ん中がスッキリしたぐらいで特段変化はないですよ……ったく、信用ないなー」
空「いや! 頭ぶつけてんだぞ!? 命に関わる怪我するかもしれねぇんだ!! 本当なら今すぐに病院に連れていってんぞ!?」
沙綾「ご、ごめんなさいッ!! わ、私のせいで!!」
大地「だから大丈夫だって!! 気にしなくていいから!!? そこまで頭下げられても逆に困─────」
沙綾「せめて、お詫びとしてウチが経営してるパンをお詫びとして─────」
大地「痛たたッ!!! そうだなぁ〜!! 頭いてぇなぁ!! パン食べないと治んないなぁ!!!」
全員(うわぁ〜。ここぞって言うところで目敏くなったぁ!!!)
空「家がパン屋って珍─────ん? 君、どっかで見たことが……」
沙綾「え?」
大地「空、何言ってんだ。この御嬢さんは山吹ベーカリーの天女様で居られる山吹 沙綾様だぞ!! テメェ!!! まさか忘れたとは言わせねぇぞ!!! あんな美味いパンを作るパン屋は無いんだ!!!!」
空「わかったから、落ち着けッ!! 肩を掴むな!! 首を揺らすな!! 耳元で叫ぶな!!」
大地「てか、テメェ!!! 俺にこの前山吹ベーカリーのパンを30個贈呈するっていう話はどうなったぁぁあ!!! 俺はあの時のことを忘れてねぇからなぁぁあぁああ!!!」
空「お前ッ!!? 幼稚化してたくせに、そんな細かいところは覚えてんのかよ!? つーか!! お前の幼稚化暴食モードのせいで金欠だわ!! その分の費用を返せよぉおおおぉおぉ!! ワン○ース買えないだろぉぉおおおぉおぉ!!!」
香澄「さ、沙綾!! 良かったね!! ん? 沙綾?」
沙綾「ッッ〜〜///(て、天女……!? 天女ってそんなぁ……)」
萩沼「この様子だと、本当に大丈夫っぽいね……。兎に角、明日早朝に病院に行って、CT検査してからでも充分試合に間に合うだろうから今日はもう休みなよ」
大地「いえ、後少しだけど用事があるんで、それを見届けてから休むことにします。捕手として、見届けてやらないといけないんです」
─────
片矢「我妻。明日は試合だ。自主練は程々に─────ほぅ。眉木か……。貴様、教えないんじゃなかったのか?」
我妻「か、監督ッッ!?」
黒服「はは。少し、御嬢様の御学友がこの子にお世話になったもので、その恩返しです。決して、必要以上に手は加えていませんよ……。ただ、少し面白いものが完成しかけているというだけです」
片矢「ほう? 貴様が、そう感じるとはな……。それは確かに面白そうだ」
我妻(この2人、知り合いなのか? なんか妙な組み合わせのような気がする……)
黒服「えぇ。どうですか? 受けてみませんか? 元明光の正捕手である片矢様」
我妻「えぇ!? 監督!? あの名門の明光で捕手をやってたんですか!!」
片矢「眉木……。そんな20年以上も前の事を掘り返してなんになる……だが、面白い。 おい、眉木。そのミットを貸せ!」
片矢「我妻」
我妻「っ!! は、はい!」
スッ……
片矢「投げ込んで見ろ」
─────
有咲(えぇえええぇええっ!!? なんだこの場面ぅぅぅぅ!!? なんか、とんでもない時に来ちまったぁあぁああ!!!)
大地(我妻……。テメェは投げられるのか? このプレッシャーで監督に向けてボールを投げられたなら、確かにテメェは一歩進めるが……)
成田(無理だ……。オレは流石に投げられないわ。試合なら別だけど、この空気で投げろってのは酷だ)
沙綾(この2人がそこまで言うなんて……。でも、私達まで付いてきてよかったの?)
萩沼(まぁ、いいんじゃ無いの? 彼等はそこまで気にしては無いだろうし、何より面白さそうじゃん)
香澄(うん!! キラキラドキドキだ!!)
たえ(黒服さんの車の鍵についてるのって、ウサギかな?)
りみ(おたえちゃん……。注目する所が違うよ)
─────
我妻(俺は、臆病者だ……)
我妻(成田と咲山の影になってるとか、僻んでるくせに、それでいいやって思う自分がいた……)
我妻(悔しいと思ってるはずなのに、何処か、ホッとしてる自分がいた……)
我妻(─────でも)
─────
花音「君は、強いけど、本当は挫けそうになるぐらい弱いんだよね? 分かるよ、その気持ち……」
花音「でも、笑わなきゃダメだよ。私達のバンドは世界中を笑顔にする為に活動してるの……。勿論、我妻くんも対象だよ」
花音「どんなに押し潰されそうでも、どんなに苦痛を伴っても……笑って過ごすの。迷惑を掛けてもいいの……。その分、笑顔を増やしていくの! そうしたら、みんなが笑ってられる世界でしょう?」
─────
我妻(そうだよな……。こんな場面だからこそ─────)
ワインドアップからの投法。
腕を上げて正面を見る。
その瞬間、我妻の顔が片矢の視界に映る。
片矢(フッ……。この状況で“笑える”か……)
片矢(本当に貴様は『強い』な……)
ズバァァァーーーーンンッッ!!!
─────
空「……バカじゃねぇの? アイツの心臓の作り、明らかにおかしいだろ?! この場面で投げるなんて!!?」
大地「こりゃあ、テメェもオメオメしてると置いてかれるぞ? 空……。アイツはステージを上げやがった」
大地「この数時間で何があったかは知らないけど、まず間違いなく、『我妻 矢来』は変貌した」
香澄「そ、そこまで違うの?」
大地「あぁ、あれはもう別人だ……。花咲川戦で見せた時の投球なんて比じゃない」
大地「アイツは、『我妻 矢来』は今を持って【怪物】の領域へ足を踏み入れた」
大地「これは、予感でも予測でも無い。予知できる未来だな」
大地「明日の試合は、絶対に勝てる……。少なくとも負けるビジョンが見えない」
……マジでキャラの絡みが難しすぎですね!!!
それと、若干……いえ、かなりやってしまった感がありますが、そういう事です。
次回・バンドリキャラ達との絡み合いと、桐奥戦の開戦です!!
ヒロインは何処から選ぶべき2
-
アフグロ
-
それ以外は以前の集計結果から選択します