Stand in place!   作:KAMITHUNI

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第30話 『合宿』と『試合』と『ライブ』と『覚醒』と…… 後編6

大地「─────すまんッッ!!! ほんとのホンッットォォオオに!! すまねぇええええぇえぇえぇええええええッッッ!!!!!!」

 

蘭「いいよ、気にしてないから……ちょっと嬉しかったし///(ボソッ……)」

 

心揺さぶる夕焼けが焦がした情景の中、真っ赤に目を晴らした野球着姿の少年が、顔を朱色に染めた赤メッシュの美少女に対して土下座をしていた。

 

なぜこうなったかは、前回の話を見ていただければ理由がよく分かると思うが、彼、咲山大地は情け無い姿を同級生に曝け出すだけでなく、その女の子にしがみ付き、頭を胸に埋めて涙を枯らすまで嗚咽したという現実に途轍も無い罪悪感と、羞恥心が襲い掛かって、殆ど条件反射で正座を作り頭を下げているのだ。

 

年頃の青少年にとって、同級生の……しかも、とびきり美少女の女の子の胸に顔を埋めていたという事実は、かつて無いほどの劣情を感じてしまう。

泣き止んだ時に感じた、彼女の温もりを感じて、冷静なって分かった女の子特有の甘い匂いが鼻腔を擽ぐる感覚、そして、確かな……自分達、男には無い胸の膨らみの柔らかさ。

 

当たり前だが、この状況を理解した瞬間に飛び退き、心臓をバクバクと荒ぶらせていたのは言うまでも無いが、なんとか鋼の理性で押さえつけたりしていた。

……離れた時に、蘭が若干悲しそうな声と顔を見せていたような気がしたが、気のせいだろう……。気のせいったら気の所為である!!

 

大地「美竹……。テメェ、女神か? 慈愛を持った女神様なのか!? それと、最後なんて言ったんだ? 聞き取れなかったわ」

 

蘭「なに言ってんの? マジで引きそう……。それと、最後のは聞き取れなくていいから///」

 

大地「なんで照れてんだよ……。ったく、優しかったり照れたり忙しいお人好しだな……」

 

そのお人好しに救われたのは俺だけどな……。という言葉を心にしまって、優しく微笑む大地は完全に立ち直ったと判断して良さそうであった。

正座を解き、僅かに痺れる足をほぐしながら立ち上がり、蘭へと向き直る。

そして、満々の微笑みで……

 

大地「─────美竹のお陰で少しは楽になった……。ありがとな!!」

 

蘭「っ///!! べ、別に……/// あ、アンタの為じゃないから……///」

 

大地「はいはい。そういうことにしておいてやるよ─────それでも、救われたのは事実だからさ、ホント、ありがとな」

 

蘭「え!?/// ちょっ─────///」

 

つい、右手を頭に乗せて撫でてしまう大地。

さらりとした髪の毛をぐしゃぐしゃにしないように注意を配りながら、優しく撫でる。

 

蘭「んっ///」

 

大地(あぁ、なんか癖になるな……。コイツってこんな可愛かったか? 普段からは考えられないよな……。もっと撫でて上げたい)

 

最初は抵抗していたものの、いつのまにか目を細めて気持ちよさそうにして、借りてきた猫の如く大人しくされるがままになる蘭。

耳を真っ赤にしながら、そのドツボにはまりかけている彼女はあまりの心地良さに僅かな吐息しか零せなくなっていた。

完全に手篭めである。

 

ガサガサ……

 

ひまり(わぁあ/// 蘭が!! 蘭がデレてるぅ!!)

 

モカ(いやぁ〜。あの〜蘭がねぇ〜。これは〜面白いね〜)

 

巴(……蘭が何しに来てたのか気になったけど、あんな桃色空気の中入っていけるわけないな)

 

つぐみ(……ちょっと、羨ましいかも///)

 

空(あの野郎……湊先輩だけに飽き足らず、美竹まで篭絡したな!? あの唐変木は本気でヤバイ!!)

 

金田(クソ野郎め!! 試合終わって、直ぐに出ていったかと思ったら、これが理由か!!! オレら非リアを愚弄してるわけだな!!!? よかろう!! 全面戦争だ!!! 今すぐ血祭りじゃぁぁぁぁ!!!!)

 

宗谷(……オレ、美竹さん狙ってたのにな……もう失恋かよ)

 

空「そうだったのぉ!!!? オマッ!!? なんつーカミングアウトしてるんだ!!?」

 

金田「そうだそうだ!!! 咲山はいい思いをしすぎだ!!! もっと恩恵を分け与えろぉおぉおぉおおおぉ!!!!」

 

空「オマエは黙ってろ!!!」

 

金田「美女独占禁止法を作れぇええぇええぇぇえええぇぇッッ!!!」

 

巴「この部、壊滅的だな……」

 

モカ「違うよ〜。野球部には〜常識人が〜いないんだよぉ〜」

 

大地「テメェら、何してんの……?」

 

全員『あ』

 

蘭「……ッッ///」プルプル……

 

かなり黒いオーラを背に纏いながら満面の笑みを浮かべる大地と、目の端に雫を貯めて顔を真っ赤にする蘭が茂みに隠れて盗み見をしていたAfterglowメンバーと空達を睨みつける。

 

この後のことは、大地が人数分の重石を持ってきたことから推して知るべし。

 

 

 

空「てか! この重石はどっから持ってきたんだ!!!」

 

大地「あ? そんなもん、テメェ等が知る必要はねぇよ……。本当なら、百叩きセットの方が良かったんだが、女子もいるし今回は見送ることにするか……。クフフ……」

 

全員(怖っ!! 咲山怖ッ!!!!)

 

─────

 

大地が裏で根回しした結果の合宿休暇日。

 

大地「なんか、スゲェ人一杯いるんだけど……。友希那先輩達、こんなに人がいる中でライブするんだな……。もう、凄いとしか出てこねぇや」

 

感慨に耽る大地は、見渡せば人という密集地帯を歩く。

時間は13:23でライブまでまだ少し時間が残っている頃合いに、暇を持て余していた。

 

大地(……ヤベェ、楽しみすぎて早く来てしまったけど、やる事ねぇよな。仕方ないから、あそこら辺のベンチにでも座るか? あ! くそ……。先にカップルに座られたか……。仕方ねぇ、ボチボチ歩いて屋台とかの焼きそばとか食って時間でも潰そう)

 

千葉ガールバンドフェスティバルなどと言った文字羅列が記述された旗が立て並べられた場所……最も人が密集する場所へ移動する大地。

 

大地「むぐっ!! スマン!! ちょっと、通してくれ─────わぁっと!!」

 

ギュウギュウと押しつぶされていく大地。

野球をやっていてホームランを大量に打てる彼だが、決してそれほどガタイが良いわけでは無い。

身長177cm体重62kgのごく一般的な男性と何一つ変わらない体躯だ。

たしかに、脚は長く、顔も整っているので若干モデルに見えなくも無いが、それ以外は然程普通の男子高校生の風貌だ。

そんな彼が密集地帯に呑まれれば、決まって流され押しつぶされる。

 

だが、そうしていればいつかは野球好きの人が大地を発見する訳で……。

 

野次馬「あれ? アイツ、咲山じゃね?」

 

野次馬「サキヤマ? 誰? それぇ〜?」

 

野次馬「知らねぇの? 『咲山 大地』。今、高校野球で【大樹】とか呼ばれてる怪物ルーキーの事だよ」

 

野次馬「なんでも、春季大会に1年ながら捕手として全試合出場して、打率は8割を超え、5月時点で既に通算本塁打数を20本ぐらい打ってる今、最も注目を浴びてる選手の1人だって、この前のt○n.でやってたぜ」

 

野次馬「おいおい!! マジかよ!! 昨日まで大暴れしてた咲山がこんな場所に来てるのかよ!! ちょっと見せてくれ!!」

 

野次馬「キャァァ!!! 咲山くぅ〜ん!! こっち向いてぇ〜!!」

 

野次馬「うぉぉおお!! 【大樹】だ!! ホンモノの『咲山』だぁぁ!!」

 

大地(うぇ!? いつのまにかエライことになってるぅぅううぅう!!? )

 

事態が急変!!

大地はこの押し寄せる人波に動揺を隠せない。

何故だ!? なぜ、俺のような一般人にこんなに押し寄せてくる!? と感じている彼は気付いていなかった。

 

そう、『成田 空』は最早有名人であるのは大地も知っている通りだ。完全試合複製マンなのだから、カメラの取材も多くくるし、実際にテレビに何度も取り上げられていた。

しかし、一方の大地は細々とした取材陣にしか受け答えしないというスタンスを取り続けていた。

理由は単純に目立ちたく無いだけだが、彼は自身のルックスや成績について疎かった。だからこそ、どれだけ自分にスポットを当てられているのか分からなかったのだ。

 

『咲山 大地』は『成田 空』と双璧で目立つ存在。

そんな人物をフリーライター、況してや新聞社やテレビ局が見逃すだろうか?

答えは否である。彼の了承など無くとも、記事やテレビでの取り上げは幾らでも出てくる。

 

そんなことをすれば、当然、このように彼を取り巻く状況は一変する事となる。

彼がもう少し、自身について気配りのできる人間なら、こう言った事態も避けられたかもしれないが、今はそんな事を論じている暇はなさそうだった。

 

大地「クソがぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

絶叫を響き渡らせながら、全力で逃亡を図る大地。

『マルチタスク』を全力で使用して、脳の活性化を促して、逃亡ルートを模索しながら、同時進行で対処方法を探る。

そうしている間にも迫って来る人混みを掻き分けて突っ走る。

 

野球部内でもソコソコ速い部類の大地に人混みで縺れそうになる不安定足場で動き続ける野次馬達が追いつけるわけがなく、徐々に開きを見せていく。

 

だがここで大地の視界の先に映ったのは、運悪く(?)横断歩道横切った黒猫が、これまた運悪く(??)その猫を追いかけた子供が歩道から駆け出す。

さらなる不幸(???)としては、車道を走ってくるトラックの運転手が居眠り運転をしてしまっていた。

 

大地(なっ!? なんでこんなに悪循環が続いてんだよ!!? ここは漫画じゃねぇんだぞッ!!? クソッタレがぁぁああぁアァ!!!)

 

大地は唐突に進路変更し、少年と猫のいる横断へ向けて駆け出す。

その際、懐に入れて置いた硬式ボールを取り出す事も忘れない。

 

運転手「ぐぅ……すぅ……」

 

ブォオォオオォォオオオ!!!

 

 

黒猫「にゃっ!!!?」

 

子供「わぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

男性1「危ないッッッ─────!!!」

 

女性1「キャァァァァァァ!!!!」

 

男性2「くそっ!! 間に合わない─────!!」

 

女性2「イヤァァァァァ!! 優ぅぅ!!!」

 

 

大地「巫山戯んなッッ!!! 今日っていう『楽しむ日』に途轍も無いモンを見せようとしてくんじゃねぇええぇえぇ!!!」

 

大地(狙いは定まった!!! 喰らえぇえぇえええ!! 【無我の境地】!! 強制解放ッッッ!!!!)

 

大地「ラァァァァァッッッ!!!!!」

 

全速力で駆け込んだ力を全部伝えるようにボールをリリースし、強烈なバックスピンの掛かった硬式ボールは大型トラックへ向けて直線的に向かっていく。

その距離約50m。

 

大地「ダァァァァァアッッッ!!!」

 

そして、大地は投じた後にすぐ様駆け抜けていく。

横断歩道で縮こまる少年と猫の元へ全力で駆ける!!

【無我の境地】状態の強制クラウチングスタートは爆発的な運動エネルギーを生み出し、50mの距離を一気に縮める。

 

ドゴォォォオオオォオォォオォオオォオオンンンンゥゥッッッ!!!!

 

まるで雷剛が駆け抜けたかのような爆音が辺りに響き渡る。

耳をつんざく音を醸し出したのは、トラックの先端部分に接触した野球の硬式ボール。

 

運転手「なぁっ!? ウワァァァァァッッッ!!? な、なんだぁ!!? これは!?!?」

 

キッキィイィィィッ!!!

 

突然の出来事に運転手は急ハンドルと急ブレーキを掛ける。

その為、トラックは横滑りに変化していき、少年達との接触に一瞬だけ間が出来た。

そして、彼はその一瞬で─────

 

大地「ウラァァァァアアアァァアアァッッッ!!!」

 

少年「うわぁぁぁ!!?」

 

黒猫「ニャァァァァ!?!」

 

─────少年達を抱え込んで、逆側の歩道へと滑り込んだ。

 

ズザザザッッッッ!!!!!

 

大地「ぁがぁぁぁぁ!!」

 

背中に伝わる痛みと熱に声を荒げてしまう。

摩擦でお気に入りのパーカーは破けていき、ジーパンもボロボロへと変わっていく。

最後、木にぶつかるまで勢いが収まることなく引き摺った影響で背中に一生消えないかもしれない怪我を負ってしまったかも知れない。

野球人生に影響は与えないとも限らない。

けれど、確実に言える事があるなら……。

 

大地「……ぁ、ぐぅっ……よ、かった、無事……で…………」

 

 

少年「お、おにぃさ、ん……」

 

猫「にゃぁぁ……」

 

所々で聞こえる絶叫や泣き叫ぶ声はもはや聴こえない。

これでは、友希那達のライブを観に行くことは叶わなそうだと、少し悲しい気持ちになったが、大地は最後に見た少年顔を見て、安堵した。

 

そこで、彼は一切の情報を遮断して目を閉じた。

 

 

 

最後に、周囲の人へ悲しみと、虚しさと、─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────微笑みを残して……。

 




ライブせずに終わってしまった……( ̄^ ̄)
なんか、凄い申し訳ない気分です。
しかも、胸糞悪い感じですね。
自分でもこう言ったお話を書こうって設定を練るんですけど、何故か悪い方向へ脱線してしまいますね。
ほんと、申し訳ない。

次回・不滅の【大樹】

というタイトルなんですけど、これもpart5まで続くつもりです。
よろしくお願いします!!

─────決して、他のタイトルが浮かばないということでは無いよ!!
ほんとだよ……。

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