Stand in place!   作:KAMITHUNI

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不滅の【大樹】編
第31話 『咲山大地』の中に潜む、『咲山大地』


─────5月5日 AM19:15 千葉総北大学病院 治療室前─────

 

河鳥「…………」

 

空「大地……。なんで、こんな事に……っ」

 

我妻「咲山っ……。オマエ、こんな所で中途半端な形で離脱するなんて、許さないぞ……」

 

悲痛に染まる治療室前。

電灯も寂しく灯り、廊下を虚しく照らしていた。

何も無い病院の廊下が今はとても悲哀に満ちていて、治療を待ち続けているモノ達の焦燥を煽る形になる。

 

大地が運び込まれて早5時間が経過していた。

時折、状態を説明してくれる医師からの情報だけが、彼等が大地の容態を知る唯一の手段であった。

 

それによると、大地の容態は3時間以上あまり芳しくは無かったが、ここ2時間は安定した数値を出して、状態を取り戻しつつあるらしいが、未だ危ないところから抜け出せない。

1番酷い箇所は、摩擦による火傷と擦れたことによる裂帛の広い擦り傷を受けた背中である。

 

もう少しで背骨が剥き出しになる所であったが、外科医の腕が良く今では止血も終わっており、傷口も閉じている。

しかし、あまりにも出血した量が多過ぎる。

失血した血液が彼の状態を危ぶんでいるのだ。一体どれだけの勢いで背中を擦り付ければ、これ程の傷が生まれると言うのだろうかと、報告してくれる女医も憔悴しきった顔で言っていた。

 

病院に残っている血液を送り込んではいるが、あまり効果は無い。

そもそも、A型の血液は消費が激しく確保しておくのも難しいのだ。更には、運の悪い事に、今日は傷害事件によって失血した成人男性にも輸血を行なっているため、在庫が少なくなっている。

 

野球部の中でA型は4人だけであり、当然、血を分け与えたが、それでも足りない。

もはや、これ以上は手の施しようがなく、後は大地の回復力に期待するしか術は無かった。

 

友希那「はぁ! はぁ!……大地っ!」

 

空「……湊、先輩」

 

リサ「はぁ、はぁ!! 友希那だけじゃないよ!! Roseliaはみんないるっ!!」

 

紗夜「はぁ、はぁ……。えぇ、ちゃんといます」

 

あこ「うん! 当然だよ!!」

 

燐子「それ、で……。咲山くんの、容態は……?」

 

我妻「……それが─────」

 

河鳥「出血多量による血液不足……。それが今のアイツの容態だ」

 

紗夜「貴方は……?」

 

初対面の男性の存在にRoseliaの面々は警戒心を見せる。まさか、この人が事故を生み出した張本人では無いかという疑いも向けているが、空の介入によって勘違いだと分かる。

 

空「この人は、大地の野球の師匠である河鳥さんです……。河鳥バッティングセンターのオーナーでもあり、大地の両親が着くまで付き添いで来てくれたんです。残念ながら、ウチの監督は選手のメンタルケアをしないといけなくて手が離せないので……」

 

河鳥「そういうことだ……。初めましてだな。さっき空坊にも御相伴に預かったが、河鳥 純平だ。こんな状況で何だが、宜しく頼む」

 

疲れ切った顔を見るに、本当に大地の事を心配に思っている事がわかる。

それを信用の証として、Roseliaの面々も自己紹介と宜しくしてくれという旨を伝えていた。

 

河鳥「そうか……。あんた達が大地が良く聴いてた『Roselia』か……。アイツも今日のライブが楽しみで仕方がなかったみたいで残念だが、ライブ自体は滞りなく終わったのか?」

 

リサ「はい。みんな大盛り上がりで成功したと思います……。ただ、大地がいなかったので、イマイチ盛り上がりに欠けました……」

 

空「そうだったのか……。宇田川も白金さん、氷川先輩……湊先輩は言うまでもありませんね」

 

紗夜「えぇ。恐らく、今日ほど湊さんが放心していた日は無いでしょう……。それほどに、彼の存在は私たちの中で大きなものだったのです」

 

あこ「ねぇ? 河鳥さんが血液不足って言ってたけど、咲山さんの血液型はなんなの? よければ、あこの血をとってもいいよ」

 

燐子「は、い……。よければ、私のも……」

 

リサや紗夜も同様だったが、友希那だけは、ずっと集中治療室へと視線を向けたままだった。

ライブの時もそうだった。大地の事故の話を空からリサへ連絡があった時の友希那の取り乱し方はとても見たことはなかった。

この状態でライブなど出来るはずもないと判断した、紗夜が中止にする旨を伝えたが、それを拒否したのも友希那だった。

 

彼女達の最終目標は、FWFで自分達の音楽を認めさせる事だ。

こんなところで立ち止まっているわけには行かなかった。それに、彼が……『咲山 大地』がライブを途中中断させたと聞いたら、きっと怒る。

立ち止まることを何よりも嫌う彼だからこそ、自責しながらも激昂して下手をすれば自分達を見限るかもしれない。

 

それはなによりも避けたい。

ならば、歌えと強迫観念に動かされたRoseliaはライブを強行した。

無事なんとか、乗り切ることは出来たが、今日の出来栄えは大変不服なものである。

けれども、やり切れたのだ。それをいち早く大地に伝えたかった。

 

それでも、彼は未だ眠ったまま目を覚まさない。

目の前が暗くなっていく。

 

優しい笑顔を浮かべて、自分の容姿を褒めてくれた彼が倒れたままで起きてこない。

 

無邪気に戯れて、いつも自分を振り回してくる甘えん坊な彼は未だ未だ起き上がらない。

 

試合中の真剣な眼差しを浮かべて、他の追随を物ともしない彼は何時迄も寝たまま。

 

それが友希那の暗い、昏い、黯い心を、より泥沼へ突き落とす。

初めて『特別な感情』を抱かせてくれた男の子が自分の手から段々と離れて行く。

無意識の内に目の前が歪む。

 

友希莫(な、んで……。私は、泣い、ているの……?)

 

そんな事、分かってる。けど、認めて仕舞えば『彼』が遠くに行ってしまうようで、どうしても理解したく無かった。

 

だが、ここでRoseliaにとっての……いや、友希那にとっての朗報が耳に飛び込む。

 

我妻「それは有り難いですけど、咲山の血液型はAですよ? 皆さんの中にA型はいらっしゃいますか?」

 

リサ「A型!! なら……!!」

 

友希那「っ!!」

 

そして、Roseliaの視線は一斉に友希那とリサへと向かう。

ここには2人のA型幼馴染コンビがいるのだ。これで、大地を救えると意気揚々となるのだった。

 

─────

 

蘭「はぁ! はぁ! はぁ! 大地っ!! 大地っ!!」

 

巴「蘭!! 落ち着けっ!! お前の気持ちはわかるけど、ここは病院だぞ!! もう少し落ち着け!」

 

モカ「サキィ〜なら〜ダイジョーブだよぉ〜……。だから〜、少しは、落ち着きなって〜」

 

ひまり「そうだよね! こんな時こそ冷静にならなきゃ! ね? つぐ!」

 

つぐみ「咲山くんが……事故? どうして? こんなことに……」

 

巴「や、ヤバイ……。つぐと蘭の精神状態が危ういぞ!」

 

Roseliaとは少し遅れて、Afterglowが病院に到着し、すぐ様に治療室へ向かって行く。

その途中で聞こえてきた焦燥の声。

 

空「クソッ!! これでも足りねぇのかよっっ!!」

 

友希那「ぅぐ……。私の、血な、ら……まだ、あるわ!! 足りないのな、ら……」

 

リサ「私の、も……まだ、行けます……! だから……!」

 

看護師「バカな事仰らないで下さい! 貴女方の血液は限界ギリギリまで輸血に使ったんですよ!? それ以上は危険です!! 今も既にクラクラして立つのもやっとじゃ無いですか!! 兎に角、大人しくしておいてください」

 

河鳥「そうだぞ。ここは、看護婦さんの言う事を聞いておけ、無理をしたところでアイツが喜ぶはずがない。それこそ、今度は君たちがアイツを苦しませる事になる……」

 

友希那「そんな、事……。結果、大地が助からなければ一緒じゃ無い……! ここまで来て、引き下がれる訳が─────」

 

蘭「その役目……。アタシにも任せてくれませんか?」

 

友希那「み、美竹さん……?」

 

蘭「大地の血が足りないんですよね? なら、アタシの血を分けてやってください。大地の血液型とアタシの血液型は一緒です」

 

つぐみ「なら、私も一緒だね。私のも使ってください! お願いします!」

 

空「なんで、大地の血液型知って─────」

 

そこで空は何時もの風景の一場面を思い出す。

 

─────

 

大地『血液型で性格診断? は! バカらしい……そんなんで、性格が分かるんだったら、千差万別な個性なんて生まれてこねぇよ……。あ、俺、A型な』

 

蘭『結局答えるんだ……。それより、アタシもA型なんだけど……』

 

空『マジかー……。なんか、オレだけはぶられてるみたいじゃん!!? 悲しすぎる!!』

 

 

─────

 

空(コイツ、あんな時の事覚えてたのかよ……。何気無い会話でしか無いのに、どんだけ大地の事を意識してたんだか……。だが、今は茶化す場面じゃねぇ!! 正直助かった!!)

 

看護師「そうですか!! なら、此方へどうぞ!! 直ぐに準備いたします!!」

 

蘭・つぐみ『はい!!』

 

こうして、大地に輸血する血液は充足し、そこから更に1時間後に治療室から安定した呼吸の大地が介護室に運ばれて皆一息つき、特に血液を輸血した4人は安堵の為気が緩み、大地の寝顔を見ながらその場で寝込んでしまった。

 

その情景を見た仲間達は、微笑みを浮かべて暫く、病院のソファーで横になり、長い夜を過ごしたのだった。

 

─────

 

大地「ここは……?」

 

俺はいつのまにか暗闇に閉じ込められていた。

ここがどういう場所で、どういった景色があるのか分からない虚無の世界。

身体は固定されたかのように動かないし、何処か一部分の記憶には靄がかかってここに来た事を思い出せない。

 

平衡感覚も狂っているのか、自分が横になっているのか、立っているのかすら分からない。けれど、一つ言える事があるのは、この場所は“俺”にとって居心地のいいところではなく─────『─────“ボク”にとっては安らげる場所だね。』

 

大地「っ!? て、テメェ……。そうか……。そういう事かよ……」

 

大地?『うん。そういう事だよもう一人の“ボク”』

 

大地「そんな言い方されると、昔の遊○王を思い出すから止めろ……。てか、完全に意識してんだろ?」

 

大地?『はは。まぁね……。実際、彼のように完全な別人格が宿ってるわけじゃ無いけど、“ボク”は“俺”なんだから、大差ないでしょう?』

 

そうかもしれない……。とは言えなかった。

たしかに、“俺”は“ボク”と同一の人物であり、“別人格”って訳でも無いが“同人格”という訳でも無い。

コイツの言ってることは《正しい》が《間違っている》。そんなアベコベな存在が“俺”や“ボク”という概念体だ。

主人格は“俺”で、第2人格は“ボク”である。

コイツとは小学生頃からの付き合いだだたりするのだが、その辺は割愛して、“ボク”が後天性に生まれたという事だけ伝えておこうと思う。

 

大地?『一体、誰に伝えてるのさ?』

 

大地「んなもん、読んでくださってる皆様に決まってるだろ?!」

 

大地?『そのメタ発言は意味があるのかい?』

 

大地「いいんだよ別に……。それより、今回は“何を肩代わりしてくれて”、“何を[すれば良い]んだ?”」

 

その返答を聞いた“ボク”は笑って“俺”を見る。

もう気づいていると思うが、“俺”と“ボク”は所謂、『多重人格者』と呼ばれる存在である。

 

普段の状態が“俺”で、みんなが『幼稚化』と呼んでいる奴が“ボク”に近いけど、アレは“ボク”と“俺”の心象を具現化させたモノ……。つまり、『第三人格』である。今は、もっと奥底で眠っているが暴走すると、マジで手に負えなくなるジャジャ馬なので“俺”と“ボク”で御し切るのに時間が掛かった。

 

では、“ボク”はどの場面で出てくるのか……。

手っ取り早く行くと、“ボク”が出てくるのは“俺”が精神的に苦痛を負う時である。

 

簡単な例を挙げるなら、例えば“俺”が学校で虐められてたりする、その時の“俺”は誰にも相談できずに心に亀裂が入り、精神状態がボロボロになったとする。そういう場合に出てくるのが“ボク”だ。

 

実は“ボク”の精神構造はイジメでは屈しない。それどころか、仕返ししたり、捩伏せたりと言った口調には似合わない豪胆さを持つ。

 

まぁ、やり過ぎたりした事もあるので、その辺は加減を覚えたらしいけど今でも小学生時代の旧友たちには、“俺”と“ボク”は嫌われてるらしいと従姉妹から聞いた事があったなぁ……。

 

話が脱線したが、これが“ボク”が出てくる条件。“俺”の代わりに“ボク”が苦痛を薙ぎ払う時に出てくる。

 

だが、これはタダというわけでは無いのだ。

自分の一部なんだから、言うこと聞けよと思った回数は幾度とあったが、“ボク”にとっても“俺”は一部でしかないのだ。そう簡単に割り切れるものでは無い。

 

だから、“俺”は“ボク”に苦痛を肩代わりしてもらう代わりに、“ボク”の頼みを聞くことにしていた。

 

大地?『そうだね……。今回肩代わりしたものは“事故によって受けた身体の痛みと、ライブを見に行けなかった事に対する悲しみ”だね? 記憶見る?』

 

大地「テメェ、“俺”が小心者って事知っててよく言えたな……。まぁ、見るけども……」

 

大地?『結局見るんじゃん(笑)。ま、そんなに気張らなくても事故の時の痛みなんて感じるように見えてそんなに感じなかったよ? 別にトラックそのものに引かれたわけでも無いしね』

 

そして流れる事故当時の記憶。

 

─────

 

うむ、たしかにひかれてない。

寧ろ、俺の体が、ヤワでは無いか? なんで走って滑っただけであんなに血がドバドバなんだよ……。

 

大地?『あ! あれね! 【無我の境地】入って途轍もない速度で転んだんだ……。寧ろ、背中の裂傷と火傷だけでよく済んだよ。ホント……』

 

大地「そんなにヤバイのかよ、あの領域は……」

 

大地?『そりゃあ、身体能力だけなら、『ゾーン』を超えた出力を出すんだ。軽く人知を超越した膂力で走って滑ったんだ、そりゃあ、ああもなるさ。さて……』

 

プツンと目前に広がっていた過去の映像が消え去ると、“ボク”は真剣な眼差しで、“俺”を射抜く。

そして、散々な間を置いてから、頼みを告げた。

 

大地?『今年、甲子園で優勝する事は当然だけど、その前に“俺”は大怪我から復活しなくちゃいけない……。後は、わかるね?』

 

ニヤリと口元を歪めた顔。ったく、相変わらず人使いの荒い自分だ。

それでも、多くの時間を共有しているうちに愛着というものは確実に芽生えるのも事実。

偶に、暴走して出てこようとするが、それ以外に無駄な干渉はしてこない“見えない”相棒の無茶振りに応えなければならない。

そうしないと、“俺”が“俺”で居られないから……。

“ボク”が消える前に、最短であの場所の頂点に立つ。

そんで、“ボク”に一度でも楽しい思い出を持って欲しい。いつかは消えゆく“ボク”を喜ばせるために、“俺”は“ボク”の無茶振りを聞き続ける。

 

大地「あぁ、任せておけ……。復活戦は6月中だ。その最初の試合でホームランを打ってやんよ……。完全なる復活劇を世間に広げてやるよ」

 

こうして、今日も“契約”を終えて、この場所の記憶を消して現界へと戻るのだ。

 

最後に見た“ボク”の微笑みは、何処まで言ってもやはり─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────悲しいままだった……。

 

to be continue……

 




めちゃくちゃな設定でごめんなさい!!
でも、こういう為のフラグを立ててきた!!
下手くそでしたけどね!

ヒロインは何処から選ぶべき2

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