Stand in place!   作:KAMITHUNI

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完全に蘭回


第33話 買い物に付き合ってよ

─────5月25日(土) 柳沼高校 野球部専用グラウンド─────

 

柳沼高校監督「おい、誰だ……。咲山が怪我明けで本来の力が発揮出来ないと言ったやつは……」

 

カキィィィィィィィィィッッンンンゥゥゥッッッ!!!!!

 

バシュン……ッ!

 

ライトスタンドへ消えていったボールの行方を追う事なく、大地は無情にもダイヤモンドを回る。しっかりとした足取りと、迷い無いスイングに本当に彼が一度、命の危険まであった怪我を負った人物だったのかを疑わせてくる。

 

当然、マウンド上にいる相手投手も、間近で大地の打席を見ていた捕手ですら絶句せざるを得ない。

 

柳沼高校投手「は? なんだよ……オマエ……怪我の影響なんて何処にあんだよ……?」

 

柳沼高校捕手(インロー膝下のスライダーだぞ? なんで、簡単に弾き返せる。怪我明けの選手がインコースのボールを怖がらず振り抜くなんて……常識外だ)

 

野次馬「アイツ、ヤベェ……。アレで怪我明けとか考えられねぇ」

 

野次馬「咲山 大地……。確か、事故で背中に大きな怪我したんだろ? なんであんなフォロースルーの大きいフルスイングしてんだ? 傷口が開くんじゃ無いのか!?」

 

口々に憶測が飛び交う中、渦中の大地は担当医の腕の良さと、血を分け与えてくれた友希那と蘭達に感謝の念を送る。

 

大地(背中の傷が傷まない訳じゃ無い……。でも、動ける。身体が麻痺して動かないならまだしも、ただの擦り傷程度で休んでいられるか……! 血を分けてくれた皆の為にも、俺は勝ち続ける……。それだけが、唯一、俺に出来る恩返しだから)

 

─────

 

空「…………」

 

柳沼高校4番打者(クソッ!! これが成田のボール……!! 今まで見てきたストレートとは─────)

 

ズバァァァァァァァァァァーーーーーーンンンンゥゥゥッッッ!!!!

 

柳沼高校4番打者(─────訳が違うッ!!)

 

野次馬「おぉ!! 成田の原点回帰ッ!!! アウトローへの『神鎚』ストレートッッ!!! アレは手が出ないッッ!!!」

 

野次馬「ヤベェ!! 成田が止まらねぇ!! 初回から7回の先頭打者を含めて、19者連続三振ッッッ!!! 完全試合ペースどころか、ボールがキャッチャーミットにしか行かない!! 中堅校程度じゃあ、アイツの球を当てられる奴がいないぃぃぃぃ!!!」

 

野次馬「もはや、あの2人だけで野球やってんじゃねぇのか!?」

 

野次馬「強すぎるぞ!! 『天地コンビ』っ!! 」

 

空(大地の復帰戦……。この試合は負けるわけにはいかないのは当然として、完璧に抑え切ってこそ、最高の祝宴になるんだ!! 常にオレのボールを捕ってくれるアイツへの感謝を届けてみせるんだ!! あの、ミットに最高のボールを─────!!)

 

柳沼高校5番打者(ちょっと待てっ!!?ボールが消え ─────!!?)

 

ズバァァァァァァァァァアァアアァーーーーンンンンッッッ!!!!!

 

シュルルル……ッ!!

 

俺のミットに突き刺さったインコースの直球から伝わる空の感謝の気持ち。

ほんと、どっちが感謝したいと思ってんだ。俺が居ない間、テメェが打線を牽引してたのも知ってんだぜ? 最近じゃあ、レフトの守備も練習して、少しでもチームの為になろうとしてくれてんだろ? 頭が上がらねぇな……。

 

でも、今、テメェが欲しい言葉は俺からの感謝の気持ちじゃなくて、最高の賛辞なんだろ? 受けてりゃわかる。ボールから伝わる気持ちが訴えかけてくる。

 

─────おかえり!!

 

あぁ、俺は帰ってきた……。

戦列を離れていたのは、たったの2週間……。けれど、俺にとっては長くて、苦しくて、楽しくて、人生で最も長かった2週間だった……。

 

だから、この言葉を伝えてから、この2週間を振り返っていこうと思う。

 

大地「ナイスボール……ッ!!」

 

─────

5月9日(水) PM8:30 1年A組

 

ゴールデンウィークが明けてから、2日後。

それが俺が退院して、初めて学校へ登校した日だった。

天気は生憎の雨で、未だに完治しきってない身体にはかなりの負担をかけているようで、時々ズキズキと背中が痛む。

その度に顔を顰めそうになるのを必死に堪えて、空に連れ添われる形で入室した。

 

大地「うぃーす」

 

悲しい事にこんな感じで挨拶するのが、このクラスでの俺の在り方。

別に目立ちたい訳でも無いし、友達だって美竹や空だけで十分だし……!!

……ボッチじゃないからね!!(察しろ!)

 

空「適当な挨拶だなぁ……。一応、このクラスで顔出すの久し振りだろ? もうちょい気の利いた挨拶できたろ?」

 

大地「いいんだよ、別に。誰も俺の事なんてなんとも思って─────」

 

クラスメイト1「あ!! 咲山くんだ!!!」

 

クラスメイト2「え?! 嘘っ!!? キャァァァ!!! 咲山くぅ〜ん!!」

 

クラスメイト3「サッキー!! 身体はもう大丈夫なの!?」

 

クラスメイト4「大地!! お前は、漢気溢れる最強番長だぁぁぁ!!!」

 

クラスメイト5「だいっち……! オラは、オメェのガッツに涙したぜ……!! これが、ここ2日のノートだ……!! 存分に使ってくれ!!」

 

大地「み、みんな……! (ジーンッ!!)」

 

前言撤回っ!!!

俺は人気者だっ!! みんな!! 大好きだぁぁぁぁぁぁあ(感涙)!!!

 

─────

 

空「アイツ、一気に人気者になっちまった所為で寂しくなっちまったなぁ。なぁ? 美竹?」ニヤニヤ……。

 

蘭「……別にいいじゃん……アイツが、人気者になろうがアタシには関係ないし……」ぷいっ……。

 

空「ははっ!! そんな不機嫌な顔で言ったって、なんの説得力もねぇよ(笑笑)」

 

蘭「うっさい……! アイツがどうなろうが、アタシに関係ないっ!」

 

嘘。ホントはかなり動揺してる。

アイツが周りの女子にチヤホヤされてるところを見るだけで、胸のモヤモヤと、ギュッと苦しい気持ちになる。

 

あの笑顔を独り占めにしたい……。誰にもあげたく無い……。

嫉妬深くて欲深いのは、アタシ自身よく分かってる。

それでも抑えられない。こんな気持ちになったのは初めてだから、上手く伝えられないけど、アタシはきっと大地に恋をしてるんだと思う。

 

普段の大地は口が悪いし、態度も生意気。正論ばっかりで、物事を捉えてくる関係があまり良好では無いお父さんみたいだ。正直、今でも苦手だけど……。それでも、最後は同じようにバカやってくれて、心の底から笑ってくれるあったかい奴なのだ。

 

誰かが困ってると必ず助けようとする優しくて強い人。

 

野球を真剣に取り組んで、どんなに格下相手であろうと、どんなに格上相手だろうと全力で切り拓く背中の大きな人。

 

アタシは、そういった大地の姿にいつの間にか惹かれていた。

 

そして、あの時の……ボロボロになって泣き噦る大地の姿を見て、想いが弱くなる訳じゃ無い。さらにもっと深い情を持つようになってしまった。

こんなに強い人でも、弱いところがあるんだと心の底から支えてあげたいと思えた。

 

大地には悪いけど、アタシはあの時の貴方を見れたからもっと好きになれた。

でも、そんな彼も今では少年の命を助けた英雄として、祀り上げられている。

正直、今日一で挨拶してくれる大地を楽しみにしていたアタシは機嫌が悪かった。

 

恐らく、成田はその辺のことに人一倍敏感で、態々、アタシに気を使ってくれたみたいだ。

素っ気無い態度をしてしまって悪いと思うが、茶化すコイツも大概だ。

 

空「ふぅ〜ん……。ま、オレには関係ないけどな。兎に角、大地と付き合うなら早めにな! 気付いてるだろうけど、湊先輩や、羽沢さん……後は、今井先輩に氷川先輩かな? 他にもいるかもしれねぇけど、あの人達も間違い無くオマエと一緒だぜ? モタモタしてると直ぐに持ってかれるぞ」

 

そんな事、わかってる……。

アイツが……大地がモテる事なんて好きになってからずっと知っている。

湊さんに至っては、両想いなんじゃないかってぐらいに大地との距離は近い。

人目を憚らず、イチャイチャ……。あ、思い出してたら腹が立ってきた。成田殴ろ。

 

ゲシッ!!

 

空「痛っ!! 何すんだ!! 痛たたっ!! や、ヤメ─────!!」

 

ゲシゲシゲシッッ!!!

 

連続で成田の横腹を殴る。

溜まった鬱憤を晴らすようにして強めに殴る。

 

空「ギャァァァァアァァッ!!!」

 

あ、なんかクセになるかも……。

成田から出される苦悶の声を聞いていると、胸の中が少しスカッとする。

このまま、続けて─────。

 

大地「……テメェら、何してんだよ?」

 

蘭「ッ!? だ、大地……!? なんでここに……?!」

 

後ろから声をかけられて、動揺してしまったアタシはビクッと肩を震わせて殴るのをやめた。

成田が動く屍と化したが、そんなことはどうでもいい。

さっきまで大地の事を考えていたから今、大地の顔を見ると─────ッッ〜〜///

 

大地「なんでって、俺の席はそこだろうが……。来ちゃ悪いのかよ?」

 

そう言って笑いながらアタシの隣の席に着席する彼は、さっきまでの人気者だったモノではなくて何時もの『咲山 大地』だった。

 

蘭「別に……。悪いわけじゃ無いけど、さっきまで向こうで女の子とイチャイチャしてたじゃん。なのに、急にコッチに来たから驚いただけ」

 

少し素っ気なく返答してしまう。本当は話せて嬉しいくせに、こういう素直になれないアタシは少し嫌いだ。

アタシの言葉に大地は息を吐き出した。若干汚いと思いつつも、慌ててる顔は可愛かったので良しとした。

 

大地「イチャイチャはしてねぇよ……! 誤解を招くようなことを仰るんじゃありませんっ!! それと、別に向こうで騒いでるのは謂わば、“窮地を救った英雄”を称賛してるので合って、“俺”自身に対して向けられてるモノじゃないだろ? んなら、後は勝手に盛り上がるさ」

 

椅子にもたれかかると背中に痛みが走るようで、少し顔を顰めて、直ぐに背筋を正す。その姿が少し窮屈そうに見えた。

でも、直ぐに気持ちし直したのか、真剣な眼差しと困り顔でこちらを向く。

 

大地「主役って言ったって、結局は助けた代償として身近にいた女の子泣かしてちゃダメダメだしな……」

 

蘭「っ……。そ、そっか……。そうだよ、ね……。うん、心配……した。本当にダメかと思った……。大地が居なくなるかと思っちゃった。苦しくて泣きそうになっちゃったじゃん……バカ」

 

あ、ダメだ……。大地が悲しそうな顔でこっちを見ながらそんなこと言うから、アタシまで、あの時のことを思い出してしまう。

大地が事故に巻き込まれて病院に搬送されたって聞いた時は、凄く怖かった。いつも隣で話しかけてくれる大切な男の子が居なくなると思った……。

 

幼馴染とはアタシだけ別々のクラスになっても平気だったのは、大地と成田が居たから……。特に、大地は隣席ということもあって、アタシによくしてくれた。苦手な勉強だって教えてくれた。

 

1人だったアタシに居場所をくれた大地が、アタシから離れていくのが怖かったのだ。

その日のライブは殆ど記憶に無い。いつもなら何時迄も続けばいいのにと思うはずなのに、その時のライブは刻一刻も早く終わらせたかった。終わらせて病院に駆け込みたかった。

 

お陰で、ライブは失敗に近い形で終わったけど、大地の命は繋がれた。

アタシはそれだけで満足だった。ライブはまたすれば良い。けど、大地の命は一つしかない。たった一人の大切な男の子を助けられたのなら、ライブでの罵詈雑言なんて安いものだ。

 

蘭「っ……!!」

 

涙を堪えていると、ソッと大地の大きくて暖かい手が頭の上に添えられていた。やっぱり、大地の手は気持ちいい。何処かホッとする。

 

大地「ごめんな……。俺のせいで迷惑かけたよな? いっぱい、心配もかけた。でも、“俺等”は後悔はしてないぞ? だって、あの時、“俺”があの子を見つけていなければ……。あの時、“ボク”が躊躇なく飛び出していなかったらあの子や猫は間違いなく轢かれてた……」

 

そして、後悔や悔いの無いと強調するが如しの満面の笑みを浮かべて優しい声音で……。

 

大地「だから、助けられて良かったよ……。でも、こんな感情を持てるのは生きててこそな訳でさ、生きてなかったら今頃こうして感慨に耽ることすら出来なかった。けど、俺は美竹達に助けられた。伝えるのが遅くなったけど……。本当に俺を救ってくれてありがとうな……!」

 

あぁ、その笑顔は反則でしょ……。

ほんと、大地は女誑しだ……。

なんで今、そんな事言うかな? なんで今、そんな事言えるのかな?

鼓動が鳴り止まない。止め、止め、止め……っ! 切に願っても止まない胸の高鳴りが昂り続ける。

 

蘭「ね、ねぇ?」

 

だから、アタシは少し狡いとは思いながら彼の優しさに付け込んだ。付け込んで行った。だって、こうまでしないと一向に距離なんて縮まらないような気がしたから。

 

大胆にならないと目の前の朴念仁は一生、アタシの気持ちに気づかない。

だったら、コッチから攻めるしか無いのだ。

 

出来る限り姿勢を正して、声が上ずらないように気を配る。

緊張で喉がカラカラだ。けど、言わなきゃ。ここで踏み出さなきゃいつまで経っても踏み出せない。

覚悟を決めたアタシは今度こそ告げた。

 

蘭「─────か、感謝してるなら……。今度、あたしの……か、買い物に付き合って、よ……///」

 

大地「え?」

 

アァァァァアァァァァァァァァァァァァッッ///

言った!! 言ってやった!!

でも、物凄く恥ずかしいっっ///!!! 男の子をデートに誘うなんてした事なかったから、誘い方なんて分からないし、兎に角勢いで言ってしまった///

で、でも……。もっと、良い言い方があったかな!? 言ってしまったから取り返しなんて付かなけど……ワァァァァァァァッッ〜〜///!!!

こんなんじゃ断られる!!

 

大地「いいぜ」

 

蘭「だ、だよね……。行けるよね─────え? 行ける? いいぜ? オッケー!?」

 

大地「お、おぅ……。自分で提案しておいて断られると思ってたのかよ……。つーか、そんな事で御礼になるなら、いつでも付き合うぞ? なんなら、テメェの買い物の料金だって代替え─────あ、やっぱなし!! この前の手術代が響いて厳しいから、せめて奢るのはトラックの運転手が働いてた会社から賠償してもらってからにさせてくれっ!! 買い物は付き合うからさ! な!?」

 

教室でなんて事を暴露してるんだろ……。

でも、良かった……。断られると思ってたから、受け入れてもらえてホッとした。

その後日程などを詰めて、先生が入ってきたところで一区切りつけて、続きは夜に連絡するという話になった。

ちょうど、夜に電話する理由ができて嬉しい。

 

後に、放ったらかしにされていた成田はアタシと大地に呪詛を呟いていたが、今の私には効果などあるはずもなく、既に脳内ではデートのシミュレーションが始まっていたのだった。




やっちまった……。

あい、次は蘭とのデート回です!!
その次はユキニャ先輩回です!!

ヒロインは何処から選ぶべき2

  • アフグロ
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