Stand in place!   作:KAMITHUNI

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第34話 無理する【大樹】に怒りの鉄槌

5月12(土)PM11:30

 

─────CiRCLE スタジオ─────

 

蘭「はぁ……」

 

 

モカ「ねぇ〜。今日の蘭〜。おかしいよね〜……。溜息ばっかりついてるよ〜」

 

巴「あぁ。蘭らしく無いな。合わせだってミスを連発してたし、心ここに非って感じだな」

 

ひまり「う〜ん……。蘭が悩み事かー……。なんだろうね?」

 

つぐみ「……蘭ちゃん。もしかして─────」

 

 

まりな「Afterglowさん。そろそろ時間でーす」

 

─────

 

ダメだ……。完全に気が緩んでる。

合わせでも、音は外すし普段しない歌詞間違いも繰り返ししてしまった。

集中出来ない。何度も外してしまって、みんなに迷惑かけてる。

 

でも、思い浮かぶのは大地の顔ばかり……。

明日……。けど、明日まで待たないと大地に会えない。

そんな事ばっかりが集中を遮って、全く身に入らなかった。

 

結局、その日の練習は終わりにして、丁度昼時ってこともあって、つぐみの店で昼食と反省会をする事にした。

とは言っても、今日反省すべきなのはアタシだけ……。

みんなの調子は良かった。聴いてて活力の湧いてくる音を奏でてくれていた。

けど、アタシだけが和を乱してた……。ほんと、何してんだろ……。

 

あぁ、こんな事なら明日のデートを今日にすれば良かった。

練習があるからって日曜日にしてもらったのに、こんな事じゃ意味ない。

 

少し、アタシが自身の未熟さに嫌気をさしていると─────。

 

ひまり「あれ? あの人って咲山くんじゃない?」

 

っ!? 嘘っ……! 大地!?

 

ひまりから出てきた想い人の名前に辺りを見回す。

商店街に広がる喧騒の中、ひまりの言う通りアイツが……大地が大きなスポーツバッグを肩に提げて迷い無く歩いてる後ろ姿が見えた。

 

巴「蘭の喰いつき方ヤバイな……」

 

巴の若干引きつった声が聞こえたけど、今のアタシには関係なかった。

連絡を取り合ってたからわかる。今日の大地は日曜日に行くはずのデートの為に、通院日である日を1日ずらして今日は病院に行くはずなのだ。

 

なんでこんな所に─────?!

 

そう思った時には大地の後ろを追いかけていた。

 

つぐみ「ら、蘭ちゃん!!」

 

ひまり「えぇ!!? ら、蘭が急に元気になった!!? これが恋のパワー!?」

 

モカ「まぁ〜、サッキ〜を追いかけるのも面白そうだし〜。このまま、追いかけちゃおっか〜」

 

巴「いや、面白そうって……」

 

みんなの声が聞こえてきたが、返事をする訳でもなく大地の後ろをつける。

なんだかんだ、アイツは人の気配に敏感だ。確か、『マルチタスク』という『体質』で俯瞰的な思考と、自己的な思考を使い分けられるとかなんとか言っててそれが起因のようだ。

 

だから、アイツの背中を追いかけるとは言ってもそれなりに距離を離してけれど見失わない程度の距離で背中に付いていく。

やってる事はストーカー紛いだが、嘘をついた大地が悪いのだ。これぐらいなら許してほしい。(暴論)

 

そうこうしているうちに、大地が向かっていた場所に付いたようだ。

河鳥バッティングセンター……って確か……。

 

蘭「確か、ここは大地の師匠が経営してるっていうバッティングセンターだった気がする……」

 

つぐみ「河鳥って、咲山くんが治療してる間に付き添いしてくれてたオジサンの事だよね?」

 

つぐの言葉に無言で頷いたアタシは、さっきから嫌な汗がずっと背中を伝ってきていた。

大地がここに来た理由。病院には行かずに、大きなスポーツバックを肩に提げて、これまたスポーツシャツという簡素な服装で師匠がいるバッティングセンターに入っていった。

 

これで、思いつく事など一つだけだった……。

 

あたしは皆の静止する声を無視して、乱雑に扉を開けて中に入る。

そこで入ってきた情報はアタシの目を疑うもので、大凡の悪い予測が的中してしまった出来事だった。

 

河鳥「坊主っ!! いい加減にしろっ!! そんな無茶な練習したら傷口が開─────っ!!」

 

大地「─────んなことわかってんだよッッ!! いいからさっさとマシーンを動かせ老害ッッ!! こんなんじゃあ練習にもならん!!」

 

鬼気迫る顔をした大地。殺気を感じたのは初めてかもしれない。

濃密な怒気の中にある確かな焦り。ひまりが怖気を見せて体を竦ませていたのを、巴とつぐで支えて、モカはいつもの余裕な顔を真剣な顔に変えていた。

 

その中、大地の違和感にいち早く気が付いたのはアタシだけ……。

ほんとごく僅か……だけど、確かに凄く自然な構えで捕球体勢を取る彼にしては僅かに窮屈な構えを取っている。

やはり、怪我の影響で悪影響が出ているのだろう。これは急いで止めさせなければ。アタシは焦りながら河鳥さんへと訴えかけに行く。

 

蘭「河鳥さん!! 大地は何してるんですかッッ!!!? 早く止めないと─────!!?」

 

河鳥「……もう無理だ……あぁも頑固になったアイツを止められるなら、オレは、こうしてマシーンを起動していない」

 

この人は何を言って─────!!?

詰め寄ろうとした刹那、河鳥さんの目が陰鬱になっているのを見てしまった……。

この人だって、本当は止めたいんだ。だけど、止めない─────止められない。

アタシは何勝手なことを言おうとしてたんだろうか……?

大地の元に真っ先に来たのはこの人だと成田から聞いた。

それだけ大地のことを大切に思ってる人が怪我人である彼の無謀を止める事を諦めてしまうぐらいに、大地は無茶をしてきたという事だろう。

 

河鳥「君は、大地に血を分けてくれた娘だろ? そちらの御嬢さん方も駆けつけてくれたな……。ちょっと、向こうで話をしよう? どうせ、君たちが来たことはヤツは気付いてないし、ここにいれば邪魔になるし、そもそも見てられないだろう?」

 

蘭「……はい、わかりました(大地……。なんでそんな無茶……。また、アタシ達を泣かせるつもり……?)」

 

─────

 

河鳥「先ずは、大地のことを救ってくれて感謝する……。君たちがいなければアイツがどうなってたかなんて分からん。本当にありがとう」

 

ひまり「い、いえ……。結局、私達は駆け付けただけで何もできませんでしたし、咲山くんを救ったのは蘭とつぐ、Roseliaの皆さんです。わざわざ、頭を下げられても……」

 

河鳥「いや、それだけで十分だ……。アイツの事を思って駆けつけてくれただけで、アイツにとっては大変な励みになったはずだ……。それに、オレもアイツに心配してくれる奴が他にいたという事が嬉しくてな……。変なところで親心というものが湧くのも年を食ったせいだね」

 

他に心配してくれる人がいた事が嬉しい? 両親や昔の友人なんかは、アイツの事を心配してなかったのだろうか? よく思い出してみれば、大地の両親を病院内で見かけた覚えがなかった。一度は顔を見せたらしいが、直ぐに仕事に戻っていったと苦笑いを浮かべながら大地が教えてくれたっけ。

それと、家には中々帰ってこないとも……。それって放任してるって事だろうか?

 

淹れてくれたハーブティーを味わい、一旦落ち着ける。

 

モカ「なんか〜。言い方が遠回しだね〜。その言葉通りに、受け取ると〜。『咲山 大地』が『事故被害に会って』も『心配する相手がいない』っことになるよね〜……。それって、両親は……」

 

モカの言葉に河鳥さんは無言で頷いてから、立ち上がって本棚から分厚いアルバムを持ち出してきた。

そして、それをアタシ達に見えるようにして机の上に広げて、憂鬱気に大地の過去を語る……。

 

河鳥「─────オレが野球を教え始めたのは、坊主……大地が小学3年の時だった」

 

ゆっくりと振り返るように話し、指差しで当時の子供だった大地と河鳥さん、そして夫婦らしき人達が笑顔でバッティングセンター前で仲睦まじく写り込んでいた。

 

つぐみ「か、可愛い……」

 

河鳥「はは! そうだろうな! こん時の坊主は背丈も周りと比べて小さくてな、捕手をやってるから一回り大きい奴等に当たられて吹き飛ばされると、毎日泣いてたよ」

 

今では考えられない大地の小さな頃。

今の話を聞いてる限り、実は大地は泣き虫だったりするんだろうか? それはそれで、カワイイからいいんだけど……。

 

河鳥「それで、そんな坊主を見かねてオレに野球を教えてやってくれって言ってきたのは坊主の親父の大輝だった。大輝とは、アイツが高校時代からの付き合いでな、オレが監督で、アイツがエースだった。まぁ、結果こそ出はしなかったが、間違いなく教えてきた中で一番走って投げ込んでたのはアイツだったよ」

 

ひまり「へぇ……。それじゃあ、咲山くんが野球を始めた理由って親父さんがやってたからかな?」

 

河鳥「いや……。アイツがそんな些事な理由で始めたりしないさ……。昔から大物気質でね、坊主が野球を始めたがった理由はテレビ中継されていたプロ野球の試合を見てだ」

 

蘭「大袈裟に言ってた割には普通の理由ですね……」

 

もっと、インパクトのある理由かと思った。例えばスタンドインしたホームランを捕った事でその選手に憧れたとか……。……これも普通だった。

 

河鳥「はは! まぁ普通はそうさ! けど、アイツが憧れたのはプロの迫力あるプレーにじゃ無かった。投手が投じた球をピタリと止めて投手を乗せる音を鳴らせる捕手のキャッチングに魅せられたんだとよ」

 

地味……だけど、たしかに大地に向かっていつも投げている成田は、大地をベタ褒めしてる。投げやすいとか、気持ちいいとか、調子が良く感じるとか言ってた。恐らく、理想に近い形を取ろうと必死に練習した結果だろう。

そう思うと、無性に胸の中があったかくなる。

 

河鳥「オレと坊主が出会った頃に聞いたんだ。なんで野球をやろうと思ったんだ? ってな。そしたら、アイツは満面の笑みで即決しやがったよ。“『カッケェ』ボールをもっと『カッコよく』する為にやりたいんだ!”だってよ……。子供の台詞なのに、妙に負けた気分になったよ。普通、あの年頃なら、嬢ちゃんが言ったみたいに親父に憧れて始めたり、三振を奪う姿や、ホームランを打つ偉大さに憧憬を抱いて始めるもんさ」

 

実に嬉しそうに語る河鳥さんは、ペラペラとページをめくりながら話し続ける。

 

河鳥「チーム全員がバッティングセンターでバッティング練習している中で、それでも、大地は目を爛々とさせて捕球練習を嬉々としてやってたよ」

 

指をさして見せてきた写真は、顔を絆創膏だらけにしながらも笑みを浮かべてボールを捕る練習をしている大地の姿だった。

今では危機感に迫られる感じで行なってる練習と同じ物とは思えないぐらいに楽しそうな笑顔だった。

 

話を聞いてる限りは順風満帆な人生を送ってきていた大地。

けど、会話が小学4年生の後期に入ると、河鳥さんの表情が明らかに暗くなった。

 

一瞬、顔を下げて逡巡するような表情を浮かべたが、直ぐに上へ向けてアタシ達に尋ねてくる。

 

河鳥「─────この中で大地の『体質』に知ってる奴はいるのか?」

 

その言葉にピクリと反応したのは、アタシと、まさかのつぐだった。

あとの3人は何のことか分からないのか首を横に傾げた。

アタシは本人から『マルチタスク』については聞いていた。

どうしてそんな事が出来るようになったははぐらかされてしまったが、『代償』として脳の疲労が激しく『幼稚化』してしまい、迷惑をかけるかもしれないからと前々から教えてもらっていたのだ。

 

蘭「アタシは本人から『マルチタスク』については聞きました……。発症した理由は聞かされていませんけど……」

 

つぐみ「私は概要なんかは知らないですけど、以前コーヒーを持ち寄った時にリサさんと一緒に警察の方が『体質』について職質をしていたのは聞こえました」

 

警察がなんで大地の『マルチタスク』について職質する必要があるんだろう?

周りの3人は?を浮かべて此方へと視線を向ける。

うん。わかる。アタシも知らなかったら多分そんな反応すると思う。

 

巴「ま、待ってくれ……。マルチタスクって確か─────」

 

モカ「─────う〜ん〜。一つの事をこなしながら同時進行で幾多もの別の事も出来る人の事だね〜。確か、俯瞰的思考と自己的思考を持ち合わせて2人分の行動が出来るんだよね〜」

 

ひまり「え!? え!?? ど、どゆこと!?」

 

河鳥「簡単な例えで言うなら、嬢ちゃんが明日提出の宿題を真剣に取り組みながら見たいテレビを見る事が出来るというモノだな。他にも読書しながらメールの返信が返せたり、スイーツ食いながらダイエットしたりも出来る様になる能力のことだ」

 

ひまり「何その夢能力!? 恩恵が凄いよ!!」

 

でも、そんな能力もいいことばかりでは無い。

当然、メリットが大きい分としてデメリットも大きい。

 

河鳥「嬢ちゃんが言う様にメリットのデケェ能力だ。けど、その分大きいデメリットも当然付き纏うもんでな……。大地が受けたデメリットは脳への大きな負担と、周囲の人間からの差別と侮蔑だった」

 

─────

 

河鳥「大地が『マルチタスク』を認知したのは、小学4年の夏休みが終わってからのことだ、最初にあった違和感は、読書を集中していた時に友達の動きが少しだけ把握できるという細々としたものだった。この時は未だ自覚症状はなく、偶々視線の中に友人の動きが見えただけだと思ってたらしい」

 

河鳥「けど、時間が経つにつれて自分が周りとは違うことに気がつき始めていた」

 

河鳥「例えば、テストの時。他の人が真剣にテスト前に勉強している間、アイツは読みたかった本を読みながら勉強していて周囲の人から「そんなんじゃ点は取れないぞ」と言われて注意を受けたが、結果は100点。当然、周りからはカンニング疑惑が浮かんだが、再テストさせると満点を平然ととって周囲を黙らせた。」

 

河鳥「ある時は、捕球練習をしていた大地が二つ離れた場所でバッティング練習をしていたチームメイトの的確な指導をしたりして周りを驚かせた。

心配になった両親が病院に連れて行くと、浮かび上がったのが『マルチタスカー』という人種だという事だった─────」

 

そこまで話して、河鳥さんは窓を開けて鬱蒼とした空気を入れ替える。

少し湿気た空気が部屋に充満するが、今はその方が心地よく感じられた。

続きを黙って聞き続ける。

 

河鳥「そこからだった、大地の見られ方が変貌したのは……。最初は学友。普通とは違うアイツを気持ち悪がって誰も話しかけなくなった。そして、学友を通して校内に伝わる……悪い様に広がるのが噂というもの。伝聞に伝聞を重ねた悪噂は校外にまで広がり、保護者や……。さらには、アイツの母親にまで伝わって、街全体が大地を毛嫌いし始めた─────」

 

そこからはもっと地獄だった……。居場所のなくなった大地に残されたのは転校することで、大地は地元を離れて隣町の花咲川にやってきた。

 

けど、そこからは母親が大地に厳しく当たって、家事なんかを押し付けられて自分はガミガミと言いながら働きに出かけていた。

 

彼の父は大地を母から庇っていたが、最後は破局し親権は剥奪されて離れ離れにされた。母が再婚した義父とも良好な間柄を持てずに今では、一月分の生活費だけ下ろして、後は家を開ける仕事に2人とも就き、家事や炊事は任せっきりにされたらしい。

 

一応、事情を知る河鳥さんや、深い理由までは分からないけど人一倍人の機微に敏感な成田は偶にご飯を作りに行ったりするとか……。

 

そんな苦しい中でも、大好きだった野球をやる事だけが大地にとって最も苦しみから解き放たれるひと時だった。けれども、引っ越して入った野球チームでは唐突にレギュラーに抜擢された事に元の捕手からやっかまれて、その彼は大地に恨み節を残したまま、その場から去った。

 

その瞬間、大地は誰よりも『結果を求める選手』になった。

それがポジションを奪っただけでなく居場所すら奪ってしまった彼への贖罪になると信じて力をつけていった。

 

そして、今……。大地は事故によって『理想に近い』キャッチングの感覚を鈍らせて焦りに焦っているという事だった。

 

河鳥「……今のアイツの精神状態は普通じゃない。あの時の様に大地が『壊れかけている』のが日に日に分ってくる。軽くない怪我をして、あそこまで自分を痛めつけるヤツを見続けるのは、もう耐えられそうに無い。だから、君達に……。いや、大地が自ら『体質』の事を話した『君』に頼みたい……!」

 

河鳥さんは頭を深く、深く、深く……下げた。

 

河鳥「坊主は【囚われ過ぎている】。野球を『楽しむ』事を忘れて、『目的』として受け入れているあのバカを助けられるのは、オレでも大輝でも無い……。野球部の相棒である空坊でも無い。野球と何にも関係なく、ただアイツと一緒にいる君にしか出来ない。だから、頼む……。あのバカを、坊主を……大地を─────救ってくれ」

 

蘭「……」

 

アタシは……。アタシ達は返事を直ぐに返す事が出来ずに、顔を付き合わせる。

 

ひまりは泣いている。大地の過去があまりに壮絶だったから辛い思いを共有しようとして涙している。

 

巴は辛そうに俯いている。大地が辿った軌跡が単純なものじゃ無いと知って、世間の闇に対して怒っている。

 

モカは真顔で顔を上げている。大地が好きだった野球を『手段』として捉えてしまっていることに憤りを感じている。

 

つぐみは涙を目の端に溜めて泣くのを堪えている。大地の『体質』がどいうものでどう言った苦痛を味わったのかを考えると泣くに泣けないでいる。

 

アタシは……。

 

蘭「……ちょっと、殴ってきます。話はそれからだと思うんで─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────限界だった。

 

アタシの返答に全員がキョトンとしている間に、妙な生活感が醸し出ているリビングから飛び出して、バッティングセンター内に出る。

そして、練習でボロボロになって俯きながらベンチに座る大地に向けて、全力で走りながら名前を呼ぶ。

 

蘭「大地ぃぃぃッッ!!!!」

 

大地「え!? うぇっ!? な!? 美た……げぇぇぇぇぇぇぇえええぇッッッ!!!」

 

そして、大地が驚いている間に全力で右頬を殴り付ける。

疲れもあったのか、大地は簡単にすっ転んで尻餅を付く。アタシは誰も居ないセンター内で倒れた大地に馬乗りになり襟袖を掴む。

そこから、アタシは溜めていた憤りの感情を吐き出した。

 

蘭「ふざけんなっっ!! 『大地』は『大地』でしょう!!? 『野球』を逃げ道に使うなっ!! バカッッ!!! ポジションを奪ってしまった人の為にとか、誰がそんな事を『望む』んだっ!! 『咲山 大地』は一体、誰の為に野球を始めたのっ!!」

 

大地「ま、待て─────」

 

蘭「待てるわけないッッ!! アンタは自分をなんだと思ってんの!!? アンタの身体は……!! アンタの生き方は!!! “大地、一人のものじゃ無いッッ!!”」

 

大地「っ!」

 

蘭「たしかに、大地が歩んだ道のりを考えれば『一人でどうにかしなきゃ』ってなるかもしれない……。実際、アタシも同じ状況なら絶対にそうなってた……。アタシには幼馴染達がいて、そのお陰でクラスが違くても“いつも通り”で要られたけど、“これまでの”大地は違ったんだと思う……」

 

大地「…………」

 

蘭「けど!! “今”はアタシがいる!! つぐがいる!! 湊さんがいる!! 今井さんがいる!! 氷川さんがいる!! 序でに成田だっている!! “今の”『咲山 大地』には、こんなにも助けになろうとしてくれる人がいる!!!───── 自分で言ってたじゃん!! 『周りの女の子を泣かせるようじゃダメだな』って!!! 結局、無理して周りを悲しめてる!! いい加減気がつけッ!! アンタは……『咲山 大地』は一人じゃ無いっ!! 分った、なら……。無理、しないで、よ……」

 

大地「美竹……」

 

吐き出すだけ吐き出して、涙が堪えらない。

大地の襟袖を掴む力が緩んでいく。

泣き噦る顔を見られたくなくて、でも止められなくて……。結局顔を隠すために大地から手を離して顔を覆う。

 

 

フワリと優しく頭を撫でられる感触が伝わる。

見ると、大地が困った笑みを浮かべながら体を起こしてアタシを撫でていた。

さっきまでの険しい顔つきの大地は霧散して、アタシが教室で見る“いつも通り”の大地だった。

 

大地「ほんと……。ダッセェ……。初めは、ただ『カッケェ』球を更にカッコよくしたかっただけなのにな……。野球を逃げ道にしてる、か……。その通り過ぎて、ぐうの音も出ないよ。しかも、無理して身体を壊して困るのは俺だけじゃ無いことなんて、とっくに気づいてたはずだった。それでも、また美竹を泣かしちまった……。こんなんじゃあ、テメェの“いつも通り”は失格だな……」

 

蘭「─────っ」

 

大地「─────ありがとうな、美竹……。俺を殴ってくれて……。痛かったけど目が覚めたよ……。たしかにテメェの言う通りだ。自分勝手に振舞って、体に無理かけて……焦ったって意味なんて無いし、何より俺一人の体じゃ無い。こうして、心配してくれる皆の為にあるんだよな……気づけて良かったよ」

 

蘭「そっか、それなら……良かった…………アンタは無理し過ぎ。明日、アタシと出掛けるだから、万全の状態でエスコートしてもらわないと困る」

 

大地「はは……。そうだな……。これ以上はやった所で効果無いし、明日のデートに備えて帰るか。これでも、明日が待ち遠しくて仕方がなかったんだ。ま、クタクタで早めに寝れるから明日は寝坊しないで済むだろうけどな」

 

蘭「え!? い、いま、で、デートって……///」

 

大地「ん? デートだろ? え!? 実は違うのか!? 本気で荷物持ちオンリー!? それは流石に悲しいんだけど……。けど、美竹がそれを望むならやむを得な─────」

 

蘭「違うっ!! デートっ!! 明日はデートだから///!!」

 

大地「そ、そっか……。よかった、勘違いじゃなくて……。違ってたら、勘違い恥ずかし野郎になるとこだったわ。ま、なんにせよ、今日は帰るか……。オッサンに一言いってから─────って、そういえば何でテメェがいんの?」

 

蘭「え? ぁ……」

 

 

─────

 

 

河鳥「おい、坊主……。何故オレは重石を乗せられながら土下座をさせられている? 一応、オレは師匠だが?」

 

大地「師匠……。いくら師匠でも勝手に人の過去をバラすなんて権限はないですよね? それと、盗み聞きとはいい根性してますね〜。特にデートの話を聞いてた時のニマニマ顔を見つけた時は本気でぶん殴ってやろうかと思ったわ還暦野郎……」

 

蘭「っ〜〜///」

 

Afterglow一同(蘭が真っ赤に……!! 可愛いぃ!!!)

 

はぁ、このバカ師匠め……。人の過去をなんだと思ってやがんだ。

聞いてて楽しいもんじゃねぇから黙ってたのに……。クソが! しかも、それが俺の心を救ってくれる一撃を生み出した元凶だって言うんだから余計にタチが悪い。

 

大地「てか、師匠やい。弟子は腹減ったわ。いつのまにか夕食どきじゃねぇか。それと、話聞く限り美竹「蘭」……ら、蘭達も昼飯食ってねぇみてぇだし、何かさっさと作れや」

 

蘭「うん。それでいい……ふふ///」

 

Afterglow一同(デレ蘭! マジかわゆす!!)

 

河鳥「お前、何言ってんだ……。外が暗いからこそ、お前がそれぞれ送ってやって家で飯くわせろドアホ。今日はオレだってこんな数の食材は用意してないし、お前も今日は来るとは思ってないから、ロクなもんねぇぞ。それでもいいなら、お前の分ぐらいなら作ってやるよ」

 

大地「ち! 使えねぇ還暦だ……。わかったよ……。みんな送り届けて、今日は大人しく自炊しとくわ」

 

時刻はいつのまにか19:10。たしかに、あまり長居させても心配かけるだけだし、何せ食材がないのなら致し方がない。

 

河鳥「そうしろドアホ。それじゃあな嬢ちゃん等、途中でコイツに襲われそうになったら背中弄れ。今はそこが弱点だ」

 

大地「襲わねぇし、痛いから止めろ!!」

 

という1幕の後に全員を送り届けることになった。

 

─────

 

ひまり「じゃあね! 咲山くん! 蘭!!」

 

大地「おう。またな」

 

蘭「じゃあ……」

 

俺と蘭の別れの挨拶が済んだのを確認すると、上原は軽やかに走り去り自分の家へ帰宅した。

その姿を見届けてから、俺と蘭は踵を返して歩き出す。

最後に残ったのは蘭。右側にいる彼女の歩幅に合わせるようにして先へ進む。

特に会話があるわけじゃ無いけど、いないと困るような安定感は感じていた。

 

蘭を送り届けて、帰宅して飯食って寝る。

それで今日はおしまいだと思うと、少しは悲しい。

なんだかんだ言って、今日という日が無ければ“俺”は“俺”でいられなかったかもしれない。気づかせてくれた女の子に感謝しなければ……。そう思えば思うほど、簡単に終わっていいものかと苦悩してしまう。

 

でも、俺らには明日もある。

明日を楽しめれば、それでいいかと割り切ることにした。

 

クイッとアンダーシャツの裾が引っ張られる。

振り向くと、さっきまで横にいたはずの蘭が後ろにいて俺の左裾を顔を真っ赤にして摘んでいた。

 

大地「どうした? なんか忘れもんでもしたのか?」

 

彼女の目を潤ませて朱色に染まった綺麗に整った顔を見ると、少しだけ胸が昂ぶったのを隠して、彼女に尋ねる。

しかし、俺の質問に首を振って違うと暗示する。

 

何かを決心した様子でこちらをみる。

少し艶めかしく感じて内心ではもう心臓がバクバクだった。

 

そして、彼女の瑞々しい唇がゆっくりと動いて、透き通る声音が俺の耳朶を刺激した。

 

蘭「アタシ、今日は帰りたく無い……。大地の家に泊まらして……///」

 

大地「─────」

 

意味がわからない。

なんで、俺の家に? そもそも家に帰りたく無いってどういう意味だ?

男一人の家に泊まるって意味がわかってるのか? 両親に話は通さなくていいのか? 無防備にも程がある。

 

当然、断った方がいい。これは、俺の精神衛生上の問題でもあり、彼女の為でもある。簡単に男のウチに泊まろうとして喰われるなんて件はザラにある。

俺が手を出さないという保証もない。特に、蘭のような美女なら尚更……。

 

 

けど、俺は……。

 

大地「─────わかった。けど、着替えは自分でなんとかしろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────断れなかった……。

 

to be continue…….




なんか、こういう話も入れた方がいいかなって思ったけど……。
無理矢理すぎだな。うん、最長だけどメチャクチャな内容かもしれないと、深く反省します

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