Stand in place!   作:KAMITHUNI

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第35話 同い年の女の子を連れ込む。そんで親父さんに八つ当たりする

大地「─────なんもねぇ家だけど、まぁ寛いどいてくれ……」

 

蘭「……うん」

 

ヤベェ……。マジで連れてきてしまった……!

何いってんだよ俺ぇぇえええええ!!!

普通、女の子を家に連れ込むかぁぁぁ!!? テメェはモテ男でも遊び人でもねぇだろうがっ!!! 蘭は蘭で、なんで急に家に帰りたくないなんて言って俺ん家に泊まるんだよ……! せめて、上原さんとか、羽沢さん辺りに泊めてもらえばいいだろうに……!!

 

とりあえず、考えてわかるものではないし腹も減っているので、冷蔵庫に残った食材を適当に繕って晩飯の支度を始める事にした。

 

蘭も手伝うといってくれたが、客人なので大人しくソファーで座ってテレビを見てもらっている。

 

─────ところで、泊まりだけど着替えとかどうすんだろうか……?

 

──────────

 

ここが大地の家……。普通の一軒家だと思ったけど、それにしては家具や生活感のないリビングだった。

あるのは、ソファーと丁度4人が囲んで食べられる形の食卓と、ソファーの前に置かれたテレビだけ。あとの生活用品は箱ティッシュぐらいで新聞や雑誌は無い。

 

大地には悪いけど、たしかに面白味のカケラもない家だ。

とりあえず、テレビをつけて音楽番組を探す。途中途中で知り合いが出たりもしていたが、男子の……。しかも、好きな相手の家にいると思うと、妙なソワソワと、あの時、自分で言った言葉が今頃に恥ずかしくなって、居た堪れない空気の中、テレビを消してしまう。ついていると、妙に知り合いが此方を見ている気分になったからだ。

 

蘭(ヤバイ……今になって、緊張してきたかも……)

 

だって、アタシ的には最近はお父さんと関係が良く無くて、問題の大小はあるけど、同じような境遇で……。アイツはきっと一人寂しい気持ちで、日々過ごしてるんだって思うと胸が引き裂けそうになった。だから、大地から離れたくなかった。離れれば、大地がどっかにいってしまいそうで怖かったから……。

 

蘭「ねぇ? 大地……。アンタの部屋、見せてくんない?」

 

この気持ちを晴らすために、料理を作ってくれている大地に声をかける。

少しでも安心したい気持ちと、少しの好奇心でアイツの部屋に行きたいと感じたのだ。

 

大地「え? お、俺の部屋……? あ〜……いいけど、汚ねぇぞ? この前の試合の資料を片付けてねぇんだわ……。散らかってるし、やっぱやめとけ」

 

蘭「いいよ別に……。アタシ、そういうのは気にしないし」

 

大地「いや……。や、やっぱり、精神衛生上よろしくねぇよ……。うん、やめとけヤマタケ! なんだ? テレビが面白くなかったのか? なら、本読むか? 漫画ならあるし、なんなら─────」

 

蘭「……そのネタ、面白くない」

 

大地「……うん、俺も無理あると思ったわ! だから、一々ツッコまないで!! お陰で俺のSAN値は0よ!! これ以上、俺を辱めないでくれぇ!!」

 

怪しい。完全に目を泳がせてる大地の慌てようを見ていると、何かを隠しているようにしか思えない。

……コイツがここまで動揺してるところを見た事がない。新鮮に感じて可愛いかもと感じたが、今はそんな事より、大地が隠したがってるモノが気になって仕方がない。

 

こうなったら─────!

 

蘭「……わかった。“見ない”」

 

大地「……なぁ? “見ない”って、俺の部屋の事だよな? そうだよな? なんで目をそらすんだよ? おい、テメェまさか!!? そういうつもりだったのかよ!? ちょっと、騙されるところでしたけどぉおおぉぉ!!」

 

蘭「ちっ」

 

大地「舌打ちっ!? 蘭ちゃん怖い!! てか、今頃、そんな口車で騙される奴いんのかよ? 小学生じゃあるまいし。騙される奴なんて馬─────」

 

蘭「この前、ひまりにも同じ様な事やって普通に騙せた」

 

大地「上原ぁぁぁぁぁぁあ!!! ゴメンッッッッッッ!!!!」

 

今の内だ!!

 

アタシは動揺で頭を抱える大地を尻目に、大地の部屋があると思わしき二階へ駆けていった。

後ろから、「は!? テメェ!! 騙しやがったなぁァァァ!!!!!」とか聞こえたけど、アタシハシラナイ。イイネ?

 

蘭(あった……。ここが、大地の部屋─────)

 

簡素な何処にでもあるような扉に、これまたシンプルなネームプレートが掛かっているから間違いない。

アタシは若干の緊張感を持って、その扉を開けた。

 

蘭「うわぁ……。これは……」

 

先ず目に入ったのは、乱雑に撒き散らされたデータ用紙の数々。緻密に取られた配球表と、それぞれの打者のデータと投手の持ち球が書かれたメモ用紙、さらには1試合毎のスコアブックが散らばって部屋のあちこちに放り出されている。

既に足の踏み場は無く、ベッドの上にまで広がった其れ等は、まさに汚部屋と言って差し支え無いものだった。

 

アイツ、今日まで何処で寝てたの? まさか、寝てないとか言わないよね?

しかし、この情報量を纏めあげるのに掛かる時間は、ちょっとやそこらで出来るものではない。当然、それだけの時間が必要になってくるわけで……。

 

しかも、確か“この前の試合”って言ってたけど、どう見ても1試合分の資料ではない。

あのバカ……。まさかここ迄無茶してたなんて……。自分が怪我人だという意識は無いのか!!

 

そうして、アタシが憤りを感じていると……。

 

蘭「ん? 何これ……」

 

足元に落ちていた一つの写真。写っているのは、ドロドロになったユニフォーム姿で笑顔を浮かべる小さな頃の大地と、同じユニフォームを着て少し気弱そうだけど大地と同じように笑っている少し背丈が高い赤髪の少年が肩を組みあってグラウンドで撮影されたものだった。

 

この写真は河鳥さんの所には無かったものだ。当然、この子の写った写真も無かった。日付は6年前の7月……。大地が『体質』を発症する少し前のものだった。

 

大地「─────ら、蘭っ!! て、テメェ! 勝手に俺の部屋開けんなっ!! 開けたら絶対─────って……。なんだ、懐かしい写真見つけたんだな……」

 

蘭「え?」

 

明らかに飛び上がってきた大地とは別人のような落ち着き方でアタシの手元にある写真を見る。目を細めて眺める彼の横顔は過去を慈しむ様に哀愁を漂わせていた。そして、アタシの顔を見て哀しそうな微笑みを浮かべてから、踵を返して下へ降りていく。

 

大地「……飯、出来たし食おう……。話はそれからな」

 

アタシはその言葉に無言で頷くことしか出来なかった。

 

──────────

 

食器洗いを無理矢理やらせてもらい、一旦、小休憩を挟む形で大地の淹れてくれたアールグレイを一口口に含んだ。とても、いい香りで心が安らぐ。

お風呂はもう少し後がいいと伝えたら、大地はわかったとだけいって湯張りだけしていた。

 

そして、二人。備え付けで置かれた茶菓子をソファーに座りながらアールグレイと一緒に楽しむ。その間に流れる時間は無言でも、アタシにとっては緩やかで暖かいものだった。

 

しかし、突然大地が尋ねてきた。

 

大地「さて、と……。蘭……。御両親には俺の所に泊まるって言ってあるのか?」

 

蘭「……ううん。してない」

 

大地「そっか……。まぁ、そんなところだろうとは思ったよ……。御両親とは良くないのか?」

 

核心をついた大地の言葉。

優しく聞かれた質問に一瞬、曇る。

流石は捕手といったところか、アタシの心の機微を読み取ったのか、大地は「そうか」とだけいって何かを悟った形で一口カップに口をつけて一息つく。

 

大地「……まぁ、ちょっと言いづらいのは分かるよ。自分の親に男友達の家に泊まってます。なんて簡単に言えるもんじゃねぇ……。関係が良く行ってない親には、特にな」

 

その言葉を残して、大地は立ち上がって和室につながる襖を開けて、中に入る。殆ど、物置と化してる其処から取り出してきたのは傷だらけだけどちゃんと手入れされたレトロなハーモニカだった。

 

蘭「……大地、ハーモニカ吹けるんだ」

 

大地「まぁな、義父じゃない親父に小さい頃に何度か教えてもらった事があってな……。これはそん時に親父から貰ったんだよ。今でも、偶に気分を落ち着けるために吹くんだ」

 

微笑みながら、優しくハーモニカを吹きかける。

柔らかでありながらしっかりとした伸びのある音が彩りのなかった部屋をカラフルに変えていく。ここまで表現力豊かな音は中々聴けない。

大地が吹いているのはロードオブメジャーさんが弾いていた『心絵』。ある野球アニメの主題歌だった有名曲だ。

 

蘭(凄い……。こんなに音が語りかけてくるなんて……。これが大地の音……。こんなにも、暖かくて泣きたくなるんだ)

 

あまりの完成度と音の多彩さに聞き入ってしまう。けど、アタシだって演奏家の端くれだ……。こんな音を聞かされて仕舞えばセッションしたくなるものなのだ。

 

アタシは自分の荷物が置かれた場所からギターを取り出して音を合わせる。

2番のサビに入ったところでギターをゆっくりと弾き始めた、うろ覚えながらもボーカルも入れる。

 

一瞬だけ、驚いたような顔を浮かべていたが直ぐに目を細めてハーモニカを鳴らし続ける大地。

何処と無く楽しそうに吹き始めたのか、音が明るく染まる。

─────音が変わる。そう感じ取れる。

 

いつもやっているような激しい音楽じゃないけど、こんな風に落ち着いた楽曲を弾くのも悪くない。それとも、大地と一緒に奏でてるからだろうか? みんなとする音楽は好き。だから、それを許さないとか子供のお遊びとか言ってくるお父さんが、アタシは苦手だった。

 

けれど、彼が語りかけてくる音……。それを聞いた瞬間に、やっぱりアタシは音楽が好きなんだと再認識した。辞めたくない。諦めたくない。

 

 

華道だってちゃんとこなして、バンドも成り立たせる。

 

決意を胸に仕舞って、大地とのセッションを楽しむのだった。

 

─────

 

大地「ちょっとは落ち着いたか?」

 

蘭「うん。まぁ、ちょっとだけ……」

 

何か憑き物が落ちた様な顔を見て、俺は安堵する。

さっきまで何処か囚われがちだった彼女の顔付きはもう無い。

これなら、大丈夫だ。

 

大地「なら、今日はもう風呂入って寝ろ……。これ以上は、明日のデートに響くからな。残念ながら居間しか寝る場所がねぇから、そこに布団を敷いてる。悪りぃけどそこで寝てくれ。あと、着替えは……どうしようもねぇから、俺のシャツかパーカー貸すよ。し、下着はどうしようもないから、な、なななんとか、し、してくれ……」

 

蘭「どもりすぎ……/// アタシまで恥ずかしいじゃん……」

 

大地「う、うっせぇ……/// 兎に角、休め」

 

蘭「で、でも……連絡」

 

大地「割り切れたっていっても、まだ完璧じゃねぇんだろ? 無理する必要はない。ゆっくりのペースでいいから、最後はちゃんと向き合えばいいんだ。今日は俺から連絡しておいてやるさ……。まぁ、テメェのオヤジさんあたりには一発ブン殴られる覚悟はもっておかねぇとな」

 

大地「だから、休め……。俺が言えた事じゃねぇけど、大分無理してんだろ? バンドとかでも疲れてるだろうからな……」

 

蘭「……わかった。あと、コレ」

手渡されたのは自宅の連絡先と、蘭が見つけた昔の写真。

あぁ、そういえばコレについても話をしておいた方がいいかもしれない。

どの道、俺の大まかな過去はオッサンが話しちまったんだ……。今更、一つや二つの過去が知られたって関係ない。

 

けれど、それは今じゃない。せめてデートが終わってからだ。

 

大地「おう。それと、この写真のことはデートが終わったらキチッと教えてやる。だから、今は気にせず頭の隅にでも追いやっておけ……。気になるのはわからんでもないから、な」

 

蘭「ほんと? なら、わかった……。 お風呂、借りるね?」

 

大地「おうよ……。ごゆっくり」

 

聞き分けいい蘭も珍しい。

素っ気無い返答だが、その言葉の中には優しさがあった。

とりあえず、蘭が風呂に入る為の着替えとバスタオルを用意しておき、彼女が風呂に入っている間に美竹家へと電話をかける事にした。

 

─────

 

 

蘭父「はい。美竹ですが……」

 

大地「夜分遅くに申し訳ありません。私、蘭さんの級友の咲山と申します。少し、蘭さんについてお話しさせていただきたい事がありまして、少々お時間頂いてもよろしいでしょうか?」

 

蘭父「なるほど……。君が蘭を誑かした張本人か……。こんな真夜中まで蘭を連れ回すのはやめてくれないか? ウチの娘に何かあったらどう責任を取るつもりだ……」

 

完全に怒ってらっしゃる……。ごもっともです……。

 

大地「仰る通りです……。ただ蘭は帰りたくないようで、今はウチに来て御飯を食べてから風呂に入ってます」

 

蘭父「ほう……。堂々と娘を連れ込んでます宣言をしてくるとは、いい度胸だ……。少し、性根を入れなおす必要があるかね」

 

電話口から増してくる威圧感。けど、ここで引くわけにはいかない。こっちだってテメェには腹が立ってんだ……。ただの八つ当たりに近いのは分かってる。こんな事、蘭の親父さんに言ったところで何かが変わるなんて有り得ないってわかってるんだ……!

 

蘭父「蘭を出しなさい。今からそちらに迎えに行くと伝えて、連れて帰って─────」

 

大地「─────連れて帰って……。どうするんですか? また、蘭に実家の家業を押し付けるんですか? アイツの好きなものまで抑制させて……。自分の理念を勝手に植え込ませる気ですか……」

 

蘭父「……それは此方の話だ、君には関係な─────」

 

大地「─────関係なくはねぇんだよっ!!! 俺はアイツの“いつも通り”でいる為にテメェと話をしてんだっ!!! その“いつも通り”としてアイツが……蘭が悩み続ける顔は見たくねぇんだよッッ!!!」

 

受話器を潰す勢いで強く握りしめた。

ただの蘭がウチに泊まる事を報告するだけだったコレは、いつのまにか俺の八つ当たりと化している。

勝手に自分に重ねて、なんてはた迷惑な奴なんだ。

自分でもそう思っている。けど、もう止まれないんだ……。

アイツが俺を救い上げてくれたように、俺だってアイツを─────!!

 

大地「ほんとは、テメェだって蘭のバンド活動を応援してやりたいんだろっ!!? けど、アイツが其れを“逃げ道”にして華道から目を逸らそうとしてるように見えて否定せざるを得なかったんだろっ!!? けど、もう気付いてるはずだ……。蘭は逃げてなんていないって、寧ろ二つともに真剣に向き合おうとしてるって……!」

 

蘭父「……」

 

大地「アイツが家に帰りたくない理由だって、テメェから色々言われるのに嫌気がさしてきたからってわかってんだろ!? 帰ってきたら毎日勘当される……。そんな日々が続けば、誰だって限界がくるッ!! いい加減、素直になれッ!! 蘭が不幸な顔をされるのはテメェだって嫌なんだろうがッ!! 良い歳したオッサンがいつまでも女々しく意固地になったんじゃねぇッッ!!」

 

……ほんと、自分に託けて何言ってんだ俺─────。

でも、スッキリした。自己満足でブチ切れだからだろう。気分は爽快だった。

 

大地「……突然、声を荒げて申し訳ありません。けど、俺の言いたい事はそういうことです。ちゃんとアイツと向き合ってやってください。ちゃんと話をしてください。じゃないと、どっちも辛いだけの悲哀になってしまいますから……。それと、今日は泊まらせます。もう遅いので……。それでは─────」

 

そして、俺が受話器を下ろそうとしたところに─────。

 

蘭父「……君の言葉─────少しは考慮させてもらおう」

 

最後に聞こえた言葉は何処か憑き物が取れた声音だった。

 

─────

 

蘭「〜〜〜ッッ///」

 

もう!! 何言ってんのっ!!!

バカッ!! アホッ!! マヌケッ!! 大地ッ!!!

お父さんに電話してる所を目撃したアタシは、何故か物陰に隠れて盗み聞きしたしまった。

 

アタシの為に怒ってくれた大地の言葉一つ一つが、アタシの鼓動を早くしていく。顔が暑すぎてオーバーヒートしそうだ。

暫くは体を丸めて動けそうにないし、大地の顔もマトモに見れなさそうだ。

 

 




……毎日投稿してたけど、漸く途切れた。
ところで、最近、蘭ちゃん回が長く続いてる気がするんだが?!

次回・漸くデート回

ヒロインは何処から選ぶべき2

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