酷すぎて涙が出てくるぜ!!
─────江戸川楽器店─────
大地「へぇ……。ここが蘭達がよく通ってる楽器店か。楽器店自体初めて来たけど、こりゃあ圧巻だわ」
蘭「うん。ここって品揃えがいいから、いつもお世話になってる。ギターとかダメになった時のメンテナンスもやってくれるから助かってる」
大地「そこまでしてくれるのか……。アフターケアも万全の店は強いからなぁ」
充実した豊富な品揃えが売りの楽器店である江戸川楽器店。その謳い文句に恥じぬ数ブランドからよく分からない会社にいたるまでの数々の音楽用品がそこら中綺麗に並べられている。
丁寧に配置された機材のそれぞれが、顧客のコンプライアンスに応えられるように、どれも試し弾きなるモノが可能になっていて、非常に計算高く商売をしているように感じた。
もうお気付きの方もいるだろうけど、御察しの通り、夕方になってしまったが、今現在は蘭と買い物デートである。
蘭は一度だけ帰宅して、両親に無理言って出てきたそうだが……。何だかんだ、許可をもらえるあたり親父さんの頑固さも多少はマシになったのかもしれない。
その原因が俺の言葉なのか、将又自身が前以て決めていた事なのかは判らない。けど、蘭が笑顔でいられれば何でもいい。きっと親父さんだって蘭には幸せになって欲しいのだ。愛娘の頑張る姿を見れば何か変わるきっかけになるだろうな。(閑話休題)
とりあえず、一度着替えに戻った蘭(ダブルライダースのカッコいい感じの服装)と再度待ち合わせしたショッピングモールで遅めの昼食を摂り、そこから服やアクセサリーを見て回り、良い頃合いになったところで本来の目的であった楽器店へ向かった。
え? なんでその辺のシーンを描かないかって? そこを聞くのは野暮ってもんだぜ! 察せる奴は黙っておけ。ヤツ(作者)のSAN値は既にマイナスに突入してるからな。(メタ発言)
兎も角、今は楽器店で色々物色しながら談笑しているって事でヨロピク☆
……この言い方、誰得なんだ?(自虐)
大地「えぇーと……これが、エレキギターってやつで、あれがアコースティックギターか? うむ。形が違うのは分かるけど、後は何が違うんだ?」
蘭「音の共鳴の仕方が物理的に違う。エレキはピックアップって呼ばれるマイクで音を拾って、アンプで増幅させることが出来るんだ。逆にアンプがないと音が鳴らないからそこは注意しなきゃいけない」
大地「ふぅ〜ん。じゃあ、アコースティックは?」
蘭「アコースティックは中腹の穴で弦の音を振幅させて音を鳴らす事が出来るギターで、これは素材とか形によって音の大きさと高さが変わったりするね。バンドではエレキが多用される事が多いかな? というより、アコースティックって練習で使ったりしてる人が多いと思う」
大地「なるほどなぁ……。確かにエレキだと音量設定とか出来るけど、アコースティックだとそれが出来ないもんなぁ。あとは、音の関係上ってところか?」
蘭「そう。そもそもアコースティックはボディが大きいから日本人には扱い辛いし、音を鳴らすのもそこそこ強く弦を弾かないとダメだから疲れるしね。日本人向きのギターじゃないんだよね。他にも─────」
やっぱり、蘭は音楽が大好きなんだろう。
だって、こんなにも楽しそうな蘭を見るのは初めてだから。ここまで純真な笑みを浮かべてる姿を学校でも見た事はない。
なにより、輝いて見える。何かに真剣になって、夢中に打ち込む姿は大変好ましく思うし、本当に『強い』と感じられる。
大地「蘭は強いな……」
蘭「え? き、急にどうしたの?」
大地「いや……。単に思っただけだ。蘭は……蘭達は俺とは違って、輝いてるなって」
蘭「へ?」
俺にとっての野球は既に『縋るモノ』だから……。好きって感情だけでやれる期間はとっくに過ぎた位置にあるから……それが、羨ましく感じた。
蘭達だって、辛い期間があったり、これからも巻き起こるだろう。けど、前を向いて突き進むことが出来る。未来を見てる限り歩みは止まらない。今だって、親父さんとはよくいってなくても、続けられるように足掻いてる。
こうして、音楽に誠実に向かい合ってる。
向き合って先に行く。俺とは違って、前へと進んでいく。
過去に縋り、結果だけに固執してる俺なんかには、到底及ばない位置にコイツ等はいる。
いや……。きっと、俺も心の中では楽しんでいる筈なんだ。現に、野球をやってる時……空の球を受けている時に感じた高揚感はそういう事なんだ。
ただ、認めて仕舞えば今迄の俺の在り方が消えてしまうのが怖かっただけなんだ。
向き合って、傷付くのが怖かっただけなんだ。野球を逃げ道にしてる俺が踏み込んでいい領域じゃないって勝手に思い込んでただけだった。
大地「好きなモノを好きなだけでやっていける期間は限定されていて、それでも前だけ向いて突き進むテメェ等を見てると、俺のチッポケさが際立って仕方がねぇんだわ」
蘭「……」
こんな事、デート中……特に、楽しく語っていた蘭に悪い。早く打ち切って、精神を落ち着けよう。こんな感情でさっきまでの楽しい時間を台無しになんてしたくはない。
ったく、俺ってやつは直ぐにナイーブになる。せめて、帰ってから考えればいいだろうが。ほんと、バカだわ俺。
大地「はは。悪りぃ。んな事言ってたって何もねぇよな? よし! この話はコレで終わり! んで? 蘭は何を買うんだ? せめて荷物持ちぐらいしか役にたたねぇからな! さぁ、好きなもん買ってこい!」
上手く笑えてるだろうか? いや、きっと笑えてる。なんせデート中だ。笑えてなきゃただのヘタレだろ?
無理してるわけじゃない。自然と溢れた笑みなんだ……。
だから、ぽっかり空いた穴が更に広がるなんて事は─────ありえない。
蘭「はぁ……。アンタってホント馬鹿だよね? そこまで言ったなら、別にいいじゃん。なんで無かったことにしようとするのかアタシには分からない」
大地「……あ?」
蘭「来て」
大地「え?! ち、ちょっ!!?」
突然、困ったやつを見る目で見られたかと思ったら直ぐにパーカーの裾を引っ張って、外へと連れ出されていく。
未だ明るかった筈の空は既に暗闇になっており、星々が其々想い想いに光り輝いていた。
─────
大地「お、おい。蘭。何処に行くんだよ? そもそも、買い物はどうすんだよ?」
蘭「そんな事、いつでも出来るし。今はアンタにやってほしい事があるからソッチ優先」
大地「そんな滅茶苦茶な……!? って、ここは……」
約10分程歩いて辿り着いた場所は、近場の公園。僅かな電灯が公園内を照らすだけで、他に光源になるモノが無く見通しの悪い場所だった。
ここに連れてきて、俺に何をさせるつもりなんだ?
その疑問は蘭の妙に大きめの鞄から取り出した物から察する。
大地「グラブか? んなもん、なんでテメェが……」
蘭「昨日、河鳥さんから渡されてた。『小僧が何か言いたそうな時はキャッチボールしてやれば幾ら強情なアイツでも簡単に白状する』って言ってた。ついでに、キャッチャーミットも渡されたからちゃんとキャッチボールできるよ」
大地「あんのぉ、腐れ師匠が。 何言ってんだか……。 俺がそんなに簡単な野郎だと思ってんのか」
口ではそんなこと言っておきながら、俺はシッカリと蘭から手渡されたミットを着ける。それを満足気に頷いて、同じように投手用のグラブを蘭は付けた。
ボールは硬式ではなく当然、軟式球。
久々に握った軟式球は今にも握りつぶしてしまいそうなほど軟かった。指先にかかる感触が弱くて、硬式球よりスピンをかけづらい。
それをゆっくりと蘭が取れるように胸元へと的確に送球する。
パシッ
蘭「結局、するんじゃん」
大地「うっせ……。はよ返球してこい」
ニマニマしてる蘭の顔が妙に腹が立つ。けど、意外と心が和やかなままだった。
パァンッ!
大地「へぇ。女子にしちゃ速いな。フォームも安定してるし、昔は誰かと一緒にキャッチボールでもしてたのか?」シュッ……!
パシッ
蘭「ううん。成田が投げてたのを見様見真似でやってるだけ。それでも、難しいから投げやすいように改良したら、いい感じで投げられた」シュッ!
パァァンッ!
大地「ふぅん。成る程な。だから、そんなにノビノビと投げられてるわけか」
立ちながら……しかも、10メートルぐらいしか離れてない位置でも伝わってくる感情。決して嫌々やっているのでは無く、彼女がそれを望んで投げてきているのが分かる。
蘭「……そう? でも、アタシは150キロなんて速い球なんて放れないから結局見せかけだけだよ」
大地「そんでもだよ。こんなに気持ちの良い球を捕れるなんて、捕手冥利に尽きるってもんだ」
蘭「なら、分かってるんだよね? アタシが言いたい事……」
大地「……」
蘭「やっぱり、アンタはバカだよ。ここまで来て黙り込むのは反則でしょ?」
ボールが語りかけてくる。こんな事が出来るのは漫画だけの話だと思ってた。
……いや、実は何度か同じ様な経験をした事があった。
─────
空(お前の『期待』を超えてやるッ!!)
《155km/h》
─────
我妻(笑顔であのミットへ向けて魂全部乗っけて投げ抜くッッ!! )
ギュルゥォォォォォォオォオォッッ!!!
─────
雪村(俺がこのチームのエースなんだッ!! 甲子園で勝つって夢を諦めてたまるかッ!!)
ズバァアァァーーンンッッ!!!
─────
球が唸りを上げて俺のミットに収まる瞬間に伝わってくる『感情』に憧れてた。常に常識を外してくるアイツ等のボールに呑まれていたんだ。
だから、無理してでも付いていかないと直ぐに置いて行かれるという不安がずっと心の中にはあった。
蘭「はっ!」
ヒュンッ!!
パァァァンンッ!!
大地「っ……」
体重移動を済ませた重心から全神経を指先に集約したボールが振り抜かれた右腕から解き放たれて、直進力を高める。
縫い目など気にも止めていない球はナチュラルにシュートして、俺のミットへと完璧に収まる。
男子からすれば大した速球ではないし、ただナチュラルにシュートした打ちごろのストレートだったけれど、なにより意思の乗った重い……とても重鈍な球だった。
あぁ、そっか。不安? ただ自分の過去に引き摺られてただけだ。体が思うように動かなくて、結果的に自信を無くして、それで周りを心配させるぐらいに無理して……。全部、過去の自分が辿ってきた道だった。
正しさなんてない、傲慢な俺が歩んできた間違った道程。
間違って、履き違えて、傲慢にも突き進んだ。
何が『好きなもんを好きなだけでやれる期間はとっくに過ぎてる』だ……。
ただ無謀に練習するだけの俺が、んなこと言っても説得力なんて皆無だろうが。
感覚のズレた捕球技術。背中の傷を意識しすぎて身体が縮こまった汚い捕球体勢。相手の気概すら受け切れない弱っちい心構え。
雑でグチャグチャ……でも、『カッケェ』球を気持ちよく捕れた時の感覚は、やはり最高だった。
大地「『好きなものを好きと言えないバカはそれ以下だ』……か。全くもって、その通りだよ─────ナイス、ボールッ」
どれだけ傷付き、どれだけ踏みつけられても諍い続ける理由なんて好きだって気持ちだけで十分だと、本当にそれだけで前へ進めるものだと、彼女のボールが、そう語りかけてくる。
好きで在り続けられるのがどれ程の苦痛で、一体どれだけの犠牲を生み出すのかは分からない。それでも、分からないからこそ果て無き平野を人々は彷徨うのだ。
結果は自ずと付いてくる。諍いの果てに付き纏う闇を振り切った先に捥ぎ取ることが出来る。
俺は漸く至れたと思っていた。打撃の極致にも、守備の練度も最高基準に満たしたと勘違いしていた。躍起になって失った感覚を取り戻そうと無謀に挑戦した。
それ自体が間違いだったのだ。失ったのなら、新しい武器を手に入れればいい。新しい極致に至ればいい。一度手放したモノを取り戻すよりもよっぽど効率的で楽しいことだ。
大地「あんがとよ、蘭……。また、助けられた」
蘭「ん。気にしなくていい……。それに、過去の事はまだしたくないんでしょう? 無理して言わなくていいよ」
大地「!! ほんと、頭が上がらねぇーな」
蘭には何度助けられたんだろうか? これじゃあ、どっちの為の御礼なのかわかんねーな。既に取り返しのつかないぐらいの恩義を持たせてしまった。
どうやって返せばいいのだろうか?
大地「あぁ……クソッタレ。今は無性に俺が俺に腹立つ!! 結局、蘭には何も返せてねぇどころか、また恩義を増やした気がする!!」
蘭「まぁ、いいんじゃない。一生、アタシに服従しておけば」
大地「っ!! 蘭さん!? なんでそんな黒い笑顔なんですか?! ジョークですよね? 洒落になってねぇー!!」
蘭「コホン─────それは置いておいて。真面目な話。アタシに少しでも悪いって気持ちがあるなら、次の土曜日に『SPACE』で演るアタシ達のライブ観に来てよ。チケットは渡すから……そこで、アタシ達が何処まで本気なのか、お父さんにも、アンタにも魅せて上げるから」
大地「っ……。あぁ、当然だ。そのライブ、観に行ってやる。中途半端な演奏したら真っ正面から笑い飛ばしてやるから覚悟しろよ!」
その後、暫くの間、蘭の投じる球を受け続け、時間も時間なので蘭を家まで送り届けてから俺は帰路に着いた。
─────
土曜日の予定は決まった。なら、それまでの間にやるべきことが沢山ある。
俺は右手に収まったスマホの連絡用アプリであるRainの通知を見て再度覚悟を固める。
これも、俺の怪我が因果してんだろうなぁ……。夏の大会までになんとかしなくてはならない事案が増えていた事にこの時の俺は頭を悩ませる羽目になった。
我妻『成田の野郎がフォームを崩してる。今日の2軍戦で4回5失点の大荒れになってたぞ。相当堪えてるみたいだから、明日あったら話を聞いてやってくれ』
少し、外気で冷えたリビングにあるソファーにドッシリと腰を掛けながら何も無い天井を見上げて溜息を一つ吐き出した。
どうして、これを上げようと思ったのか自分でも謎で仕方がない。
けど、話を進めたいから仕方ないと勝手に割り切りました(@ ̄ρ ̄@)
ほんと、申し訳ないです!
ヒロインは何処から選ぶべき2
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アフグロ
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それ以外は以前の集計結果から選択します