Stand in place!   作:KAMITHUNI

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春季大会編
第3話 そこに立つ意味


ビュゴォォォオオ……ッ!!

 

スッ……!

 

ズパァンッ!!

 

大地「オッケー! ナイスボール!」

 

空「……お前、まじナニモンだよ。 オレの速球だけじゃなくて、なんで初見のスライダーをジャストキャッチしてんだよ。マジで感覚狂うわ」

シュッ!

 

ビュゴォオォ……ッ!!

 

クク……ッ!!

 

ズパァンッ!

 

大地「テメェこそ、呆れながらキレッキレのカットボール放るの止めろ。途中まで全く軌道が変わらないとかいう反則級のやつな! こっちだって、テメェの球に付いていくので精一杯だよ」

 

一度立ち上がって、ミットに収まったボールを成田の胸元へ的確に返球し、腰を下ろす。

そして、いつもよりも縮こもった構えでサインを出しつつ成田のボールを待つ。

そう、お気付きの方がいるかも知らないが、実はあの後からずっと屋上で俺らはピッチングをしていた。

理由は簡単。今更教室内に戻るのが恥ずいからである(ドヤ顔)。

え? ドヤ顔する事ではない? 寧ろ恥かいてこい?

……ド正論デスネー!

 

空「それより─────さ!」

 

シュッ!

 

ヒュボォッ!!

 

ククッ!

 

パンッ!

 

大地「あ? なんだよ。変態ブレーキチェンジアップになんか違和感でもあったか? いつもはもっとブレーキかかって手元でシンカー気味に落ちやすいのになー。とか言うんじゃねぇだろうな?」

 

空「まぁ、それも思ったけど」

大地「妖怪だな」

 

空「それは松○大輔な!」

 

大地「いや、あの人は『平成の怪物』だ! 普通に冒涜してんじゃねぇ!」

 

空「オレは伊右◯門のこと言ってんだよ! 何!? お前、テレビ見ないの!?」

 

シュッ!

 

ビュゴォォォォォオオオ!!

 

カクッ!!

 

ズバァァーーン!!

 

大地「知るかよ!? CMなんざ気にしてねぇわ! 特番も見ねぇし! 俺が見るのはNH○のチ○ちゃんと野球放送ぐらいだ! そんで、何気にチェックゾーン超えてから落ち始めるバケモノスプリットやめんかい! 一瞬後ろ逸らすと思ったわ!」

 

空「じゃあ逸らせよ! 何サラッと捕球してんだよ! そんな清々しく捕れるボールじゃねぇだろうがよぉ!! てか、お前、ジジイ臭いな! どうせ、趣味は囲碁だろ!?」

 

大地「はぁ!? 巫山戯んなテメェ! これが俺の仕事だッ! どんな球が来ても止まるって覚悟があれば、こんなもん造作でもないわ! あと、趣味は読書とチェスだ! 囲碁なんてやったことねぇよ!」

 

シュッ!

 

フワリ……!

 

ククッ!

 

ズパァンッ!

 

大地「んで、結局何が言いたいんだ。 後、カーブ投げる時だけ曲げようとして膝が下がってんぞ」

 

空「あぁ、そっか……なんか、違和感あると思ったけど肘が下がってたんだな。 と、そうだな、お前、オレがこの高校入った理由を聞いてきたろ?」

 

空「あれ、なんでだ?」

 

バスンゥッ!

 

コロコロ……

修正されたカーブは俺の描いていた軌道とは違って予測よりも遅くブレーキがかかり、突然変化した。当然、今まで同様捕球できないわけではないので、身体を正面に入れてマットのフレームをずらさなままキャッチングしようとしたが、最後の最後。成田の質問に気が散った。

フレームがズレて、キャッチングできないままボールを零す。

捕手としてあるまじき行為をしてしまった懺悔と、唐突な質問で気を散らした成田への叛骨心が浮かんだ。

 

大地「……なんで、か」

 

大地「なんでだろうな……なんか、俺って、自分で思ってるより負けず嫌いなんだろうな。だからこそ、今度こそテメェに勝ちたかった。負けた後に後悔だけが残ったあの試合をもう一度できるわけではないけど、けれど、きっとテメェに勝ちたくて仕方がなかった」

 

大地「だって、そうしないと俺の野球人生ってなんだったんだろうなってなるかもしれないから……それはきっと、何よりも怖い事だから。 俺は、テメェにはこの学校にいて欲しくはなかったってのが本心だんだな。 うん、そうだわ」

 

空「……そっか」

 

黙って空を見上げる成田を見ていると、どうしても受け入れてしまう自分が嫌だった。何にでも特化したやつはあるかもしれないけど、ここまで自分を高められる存在で有り続けられる『成田 空』という男に憧れてたんだ。

 

本心から言えることだけど、俺は大の負けず嫌いだ。一度負けたら勝つまで勝負するっていうのを信条に一度掲げていたぐらいには負けたくなかった。

 

たった一人の存在以外には、そういった感情もあったけれど、目の前の男はそうではなかった。

誰よりも強くて、誰よりもエースでチームの主軸だった。

俺なんかよりも主将だった。ただ目先に囚われるだけの仮初めの主将なんかよりも、自らのプレーでチームを鼓舞し続けた『成田 空』の方が優秀だったのだ。

 

悔しくて仕方がなかった。それで、負けを認めてしまう。

しかも、こうして球を捕ってると、尚更感じてしまう。

捕手として、受けてみたい。こいつと高みへ行きたいと、願ってしまうのだ。

そう、それこそが敗因である何よりの証拠だとわかっていても捕りたくなる。

 

憂鬱になった視線は色彩を求めて、澄み渡った蒼穹へ向けられる。

あの時ほどじっとりしてる訳ではないが、空そのものは変わらないように感じられた。

 

空「─────143球」

 

大地「は?」

 

空「俺がお前らに対して投げた球数だよ。 延長10回投げきるのに、これだけかかった」

 

大地「……まぁ、延長に入ってからタイブレークは3回あったし、それなりに球数使っても仕方ねぇだろ。特にテメェらは一点取られたらその時点でアウトだったんだ、気を使ってコースに散りばめた結果なんじゃねぇのか?」

 

空「まぁな。それはいいんだ。 俺が言いたいのは()()()()()()()()()()()()()

 

大地「何言って─────」

 

空「俺がお前に対して投げた球数は、全部で49球だ。特に、延長十回、お前からアウトローで見逃し三振をやっとの思いで出来たあの対決。 お前、全部フルスイングだったのにも関わらず、全く()()()を奪えなかった。寧ろ、段々と捉え始められて、三振する一個前の球は辛うじてファールになったけど、正直生きた心地がしなかった」

 

空「オレは自分の事を『天才』なんて思った事は一度だってない」

 

大地「っ!」

 

空「そりゃあ、自分でも他人よりも覚えるのは早かったし、正直言って周りの連中には失望してた節もある。けど、それでも、オレは唯の一度だって日課のシャドウピッチングを辞めたことはない」

 

空「それは、お前だって一緒だろ? 『咲山 大地』」

 

大地「っ!? テメェ、俺の名前……」

 

空「当然覚えてるさ。 なんたって、オレが始めて恐怖を覚えた選手だったからな」

 

空「驚異的なスイングスピードと、中学生離れした肩力を持つ。まさに強肩強打の扇の要。さらに、精巧かつ強気なリードで投手を引っ張り、相手への重いプレッシャーの掛け方を中学生から習得している、唯一、俺が認めた『天才』捕手。 それが『咲山 大地』って男だ。忘れるわけが無い」

 

空「そんなやつと高校が一緒だって知った時は、正直、ときめいたわ。男相手に気持ち悪くて仕方がねぇけどな。けど、第六感つーか、まぁ野生的本能が訴えかけてきた─────こいつとなら何処迄も高みを目指せる……てな」

 

清々しい顔で微笑みかける成田。

あぁ、そうか。だから負けたのか。

俺が負けた男はこういう男だったんだな。

自らの弱さを知って、他者の強みを認めて……あぁ、成る程。こりゃあ、勝てるわけねぇよ。だって、『成田 空』は此処までのレベルに達しておきながら、尚……上へ駆け登ることを諦めていなかった。

 

俺に課せられた壁が一枚。

成田 空はその壁を簡単に飛び越える。けど、その先に続く『扉』を開くに至っていない。

彼は未だ開けていない未開の地へと向けて『扉』の前へ立つ。

押しても押しても開かれない『未開の扉』。

それを抉じ開ける為に全力で磨きをかける。

 

大地「なら、最後に聞かしてくれ……」

 

だから、俺は尋ねる。

これ程の男が描いた軌跡を知る為に……そして、『咲山 大地』が壁を乗り越える為に!

 

大地「─────『成田 空』が、そこに立つ意味はなんだ?」

 

それを聞いた成田は一瞬だけ訝しげな表情を作るも、直ぐに笑みを浮かべて……

 

空「そんなモン、決まってんだろ? 『誰よりも高い所に居る為だ』!」

 

あぁ、強いな。

それでこそ、俺のトラウマ()だ。

これが俺のスタートライン。

誰よりも低い位置に立つ『咲山 大地』の始まりの壁だ。

 

大地「……そっか。 やっぱ敵わないなぁ……けど、俺は追いつくよ。きっと、テメェと……『成田 空』の相方として必ず、テメェに並んで見せる。だから、頼むぜ! 『相棒』」

 

こうして、俺こと『咲山 大地』と、【神童】と謳われた『成田 空』の序章だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蘭「─────ゴホン……い、一応、アタシいるんだけど、あんたら恥ずかしくないの?」

 

大地・空「「誰ぇええええ!?」」

 

当然、顔を真っ赤にして、自らの黒歴史手帳に新たなページが綴られる事になるのだが、また別の話。

というより、赤メッシュ女め! いつの間に俺らの背後取ってたんだよぉおおおお!!!

 

 

 




次回・第4話 『孤高の歌姫と春季大会』

ヒロインは何処から選ぶべき2

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