Stand in place!   作:KAMITHUNI

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タイトルにこだわりがなくなってきた笑笑


無理して身体を動かせばそりゃそうなる

高山「おい! 咲山!! しっかりしろ!!」

田中「誰か担架持ってこい!!」

空「大地ィィイ─────!!」

 

 

ゲーム終了後。真っ先に力尽きた大地がその場で崩れ落ちて気を失うという緊急事態が起きた。

 

 

このあまりの衝撃に会場中が騒然とする。実行委員の紗夜は直ぐ様対応に追われ、慌ただしく動き出す。

 

 

そんな喧騒の中、一人、緋色髪をストレートに伸ばした少女がポツリと呟いた。

 

 

??「……アンタはいつになっても変わんないのね、大地」

 

 

この荒れた会場で、少女の小さな呆れを含んだ言葉を聞き届けるものなど、誰一人としていなかった。

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

大地(裏)「やぁ。随分とお早い再開だね、“俺”」

 

 

昏い微睡の中、“僕”が薄ら笑いを浮かべて語りかけてきた。

浮遊感を覚える身体と、頭の不快感から察するに、どうやら俺はまた気絶してしまったようだ。

 

 

大地「ほんとダッセェよな」

 

 

苦笑いしながら皮肉めいて言った。

 

 

大地(裏)「ま、いいんじゃない? それが“俺”のやりたかったことなんだし、ダサくても救われた人はいるよ。きっとね」

 

 

“僕”は目を眇めてそう言ってくれるが、“俺”はとてもそうは思えなかった。

今回はただの自己満足であって誰かの救済のためだったわけじゃない。

 

 

“俺”は結局のところ過去の罪から逃れることはできないから。それでも贖罪はし続けたいと思っているから。手を差し伸べた気でいる自分勝手すぎるエゴイストなんだ。

 

 

大地「ただのエゴイストに救われる奴なんていない。“俺”は誰かのためにあろうとしてヒーローを気取っただけの半端者なんだよ」

 

 

そんな醜悪に染まった自分の心が、なによりも嫌だし、だとしてもこう言った生き方でしか己を表現できないのもまた事実。

 

 

大地(裏)「とにかく、早く復帰しないと期日が迫ってくるぞー。こんなところで道草食ってないで、さっさと目覚めな」

 

 

そんな俺の様子を見かねた“僕”が溜息を交えながらそう言った。

直後、暗がりを照らす、青白く発光する樹葉が“俺”の全身を覆い出す。

 

 

大地(裏)「次会う時までに、今度こそ“俺”の成すべき“答え”を出せているといいな」

 

 

最後にそう括って、“僕”は朗らかに微笑んだ。

その時の“俺”には、その言葉の意味がわかるはずもなく、ただ流されるままに視界が樹葉に埋め尽くされたのだった。

 

 

 

──────────

 

 

“僕”と対面した夢を見た。また“俺”のままか。

 

 

フワリと頭を穏やかな温度が優しく撫でている。細い指とふかふか極上な枕が心地よい。

 

 

ここ最近、何かと巻き込まれて休めてなかったし、思った以上に疲労が嵩張っていたようだ。

 

 

─────ゆっくりと瞼を開ける。

 

 

ボヤける視界にわずかながらに映ったのは、見知らぬ天井─────おそらく保健室のものだと推測する─────と黒髪美女の麗しい下顔が─────ん?

 

 

俺はまだ夢の中にいるのかもしれない。夢だと言ったら夢なのだ!

 

 

どうにか現実逃避を行うも、はっきりとし始めた思考と視界がそれを即座に否定する。

 

 

俺の頭を穏やかに撫でている、綺麗な長い黒髪の女の子が上から覗き込んできた。普段のオドオドではなく凛然とした風貌で。

 

 

……綺麗だ。不覚にも目を奪われてしまった。

 

 

元々、とても綺麗だったけれど、今では美麗な相貌がより誇張されている。

 

 

燐子「よかったです。起きたんです、ね……? だいぶ魘されていたようですけど、大丈夫、ですか……?」

大地「……少し夢を見たんです。とても嫌な方面のやつの」

燐子「そう……です、か……」

大地「はい……」

 

 

沈黙。

 

 

気不味い。マリアナ海溝並に深い静寂が辺りを包む。

 

 

静けさがある中、俺の髪を細くてスッと伸びた指で梳き続けてくれていたのは花咲川高等学校の生徒会書記にして、Roseliaのキーボードを担当する白金 燐子先輩だ。

 

 

見麗しい風貌にスタイル抜群の艶美な肢体の美少女である……そのせいで櫂との決闘があったようなものなのだが、彼女に悪意などあるはずもないので、特段気にしていない。というか、自分で介入して行った時点で、絶対悪は俺である。

 

 

それよりも細い指が髪を弄り続けていて、擽ったい。

 

 

大地「あ、敢えて聞きますけど、櫂とはあの後どうなりましたか?」

燐子「櫂くんは、しっかり謝罪をしてくれました……その上で、告白をちゃんと断りました……」

大地「……そうですか。言いにくいことを尋ねてしまってごめんなさい」

 

 

そうか。あの人、ちゃんと前向いて謝れたんだな。と、少しだけ胸が空く思いだった。

 

 

謝罪を述べながら身体を起こそうと─────小さな右手が俺の額を優しく押さえた。

 

 

え、なんで?普通に疑念が湧く。

 

 

燐子「まだ、寝ててください……」

大地「エキシビションもあるし、そろそろグラウンドに行きたいんですけど」

燐子「駄目です」

大地「……なんか、少し怒ってませんか?」

燐子「……怒っていません」

 

 

珍しい……というほど長い付き合いではないが、彼女のこう言った少し拗ねたような表情は見たことがない。

 

 

少し痛むが予想の範疇。左手を伸ばしサラサラとした黒髪を撫でる。

 

 

大地「すみません。心配でしたよね。本当なら、今回のような個人の恋話に絡んだ挙句、変な賭けまで勝手にして」

燐子「……いえ、本当に気にしていません……。咲山くんが大きな怪我を負っているにも関わらず、無茶なプレーばかりをしていたことなんて……気にしてない……です」

大地「……」

 

 

自分のせいで怪我を悪化させてしまったらと、ハラハラだったらしい。元々は俺が無様に事故っただけなので、言い返せない。

少し潤んだ瞳を見て、俺は酷く罪悪感を抱く。

 

 

女の子を泣かせてはならない。そう思い、今度こそ上半身を起こし、弱ったお嬢様をなだめる。

 

 

大地「俺が無茶したせいで、余計な心配ばかりを掛けてしまって本当にごめんなさい」

燐子「……今後、こんな無茶はやめてください。正直、心臓がいくつあっても足りません……」

大地「理解はできますけどね。でも、了承はしかねます」

燐子「……どうして、ですか?」

大地「“俺”が“俺”だからです」

燐子「……」

 

 

冷たい瞳で痛々しいものを見るように見下してきた。変な扉を開く前に不屈の精神力で堪える。

 

 

大地「し、白金さん、その目は色々とヤバイ、ヤバイですから」

燐子「……ほんと、不思議な人です─────」

 

 

慌てる俺に対し、クスクスと微笑する白金先輩。

……この人、こんな顔も出来るんだ。と、単純に見惚れた。

それと同時に、白金先輩は両手を伸ばしてきた。

 

 

燐子「……抱擁で慰めてください」

大地「やりませんよ!?」

 

 

いきなりなんてことを言い出すんだ! この人は!?

まさかのハグを要求される俺氏。まったくもって意味がわからん。

付き合ってもいない男女が抱擁など、問題にも程がある。そう何度も断る。

 

 

それでも白金先輩は引き下がることがなかった。

 

 

燐子「……お願い、します」

大地「うぐっ!?」

 

 

そう、涙目に加えて弱々しい声音で頼まれれば、どんな男だって容認してしまうのではなかろうか。

 

 

大地「……しょうがないですね」

 

 

色々と諦めて抱きしめようとした時、扉が開く音。「燐子。大地の様子はどう?」と、聞き知った澄み渡った女性の声。俺の人生は終わったらしい。

 

 

友希那「……これはどういうことかしら?」

燐子「……友希那さん、すこしだけ……間が悪いです」

金田「オマエ、なんで起きて早々修羅場ってんだよ……」

 

 

バチバチっと火花を散らし合う友希那先輩と白金さん。そして、後からついてきたのか、金田が入室してきて早々に呆れ眼に加え、溜息混じりに尋ねてきた。

 

 

いや、知らん。ほんと、今の現状について俺が誰かに教えてほしいぐらいなんですが……。

 

 

その後、友希那先輩が、「これは譲歩よ。今回は目を瞑ってあげる代わりに、今度は私と出掛けさせなさい。大地に拒否権はないわ」と、白金さんに言ったのだが……。

 

 

それって、なんの譲歩なんすか? てか譲歩になってるんですか、それ……。というよりもなんで二人の戦いに俺が巻き込まれてるんだ。むしろ、俺が毟り取られてるんですが!?

 

 

ただ友希那先輩にしては不安そうに俺を見ていた。こんな顔は反則だと思うんですよ。断りようがないじゃないか。

 

 

大地「─────分かりました。ちゃんと行きますから」

友希那「っ! さ、最初からそう言いなさい」

 

 

ツンデレか。

 

 

心の中でツッコむ。

どこかの赤メッシュがクシャミをしたように感じたが、きっと気のせいだろう。

 

 

燐子「わ、私も……今度で構いませんので……で、出掛けませんか?」

大地「……いいですよ。もう好きにしてください」

燐子「っ! はい……!」

 

 

涙目はほんとセコい。そんでその晴れた笑顔もズルイ。

 

 

その日、結局はエキシビションに顔を出せなかった俺は、しばらくの間、ご機嫌な二人を相手にする羽目となっていたのだった。

 

 

─────

 

 

エキシビションマッチ─────

 

 

4回表─────

 

 

ズッッッバァァアァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアーーーンンンゥゥゥゥッッ!!

 

 

審判「スゥィングアウッッ!!」

 

 

結城「ぐっ……!?」

 

 

虎金「ふん……」

澤野「ナイスボールッ!!」

 

 

アウトハイへの渾身の直球が、本日3番に起用された結城を完膚なきまでに討ち取る。

 

 

これでこの試合、十二者連続三振という圧倒的なピッチングを披露する虎金。

 

 

 

4回裏─────

 

 

澤野「まだ一年。やはり、まだ甘いな」

 

 

カッキィィィィーーーンンン!!!

 

 

我妻「え……?」

 

 

ボサッ!!

 

 

この日、羽丘の先発は、1年生の我妻矢来。初回から3回までは被安打0の完璧なピッチングだったが、花咲川の3番伊達にシュートを巧くレフト前に運ばれると、直後の4番澤野にシュートを狙い撃たれレフトフェンスオーバーの特大ホームランで手痛い先制弾を浴びてしまう。

 

 

その後も、我妻は5番6番と連打を浴びて、この日は4回途中でお役御免となった。

 

 

我妻(……この内容だと、仕方ないか)

虎金(……気にいらねぇ)

 

 

(ピッチャーがマウンドを降りてホッとしてんじゃねぇよ)

 

 

我妻をライトと守備を入れ替え、速球派右腕の吉村と、1年生捕手の宗谷がバッテリーでツーアウト一、二塁というピンチの場面。

 

 

しかし、この日の吉村は制球力が冴え渡る好調ぶりを見せる。

 

 

最後は7番ライト有原を渾身のインコース直球で詰まらせてセカンドゴロでピンチを凌ぐ。

 

 

このまま勢いに乗りたい羽丘ナイン。

 

 

ズッッッバァアァアァアァァァアァァアァァァアァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアーーーンンンゥゥゥゥッッ!!!

 

 

空「うっ!?」

 

 

だが、それをさせない花咲川の絶対的エース虎金龍虎。

 

 

投手としてではなく、本日はレフトで4番起用された成田空を直球だけでねじ伏せると、続く5番村井にもストレート真っ向勝負で圧倒の三球三振を奪う。6番宗谷は辛うじてバットに当てるが、力の無い凡フライで三者凡退。反撃の糸口が掴めない。

 

 

5回以降は両チーム攻め倦ねる展開となり、凄まじいスピード試合であった。

 

 

所々でフォアボールと安打を許す吉村だが、要所を占めるピッチングで花咲川に得点を許さない。

 

 

そんな吉村をリードする一年生捕手の宗谷は、独特な柔らかいキャッチングでピッチャーの気分を盛り上げてゲームメイクをする。初陣時に較べての格段に進歩した様子は、首脳陣にまた使ってみたいと思わせるのには十分だった。

 

 

一方の虎金は、言わずもがな無双状態であった。

 

 

5回表、9番我妻との対決時。

 

 

虎金「ピッチャーがマウンドを降りてホッとしてるって、終わってんな」

 

 

ズッッッバァアァアァアァァァアァァアァァァアァァアアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアーーーンンンゥゥゥゥッッ!!

 

 

我妻(当たらない─────!)

 

 

虎金「そんな奴はなぁ……お前みたいな奴は投手を名乗る資格はない!」

 

 

ズッッッバァアァアァアァァァアァァアァァァアァァアアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアーーーンンンゥゥゥゥッッ!!!!

 

 

審判「ットライーク!!!!」

 

 

我妻「……っ」

 

 

 

怒りに満ちた一球。完全に我妻矢来の心をへし折る会心の一投が炸裂した。

ここからさらにギアを上げた虎金は、七回まで一人で投げて被安打0、四死球0のパーフェクトピッチングでマウンドを降り、一年生投手の曽根山と変わった。

 

 

終盤、代わりたてで制球力の定まらない曽根山を攻め立て、ワンナウトランナー二、三塁というチャンスで4番成田空が起死回生の左中間への2点タイムリーを放ち、同点に追いつく。

 

 

しかし、最終回。ここまで被安打5、四死球2、奪三振6の好投を見せていた吉村が突然の乱調。二つの四球によってワンナウト一、二塁とピンチを作る。続く2番木ノ下には巧く勢いを殺されたバントを決められると、3番好打者の伊達に甘く入ったスプリットを狙い撃ちされ逆転2点タイムリーで突き放される。最後、トドメとなる4番澤野のライト深々に突き刺さるソロホームランで5-2と点差を突き放される。

 

 

荒れ気味だった曽根山は、その裏の回でしっかり修正を重ね、5番6番7番をきっちりと三者凡退に打ち取りゲームセット。

 

 

花咲川にとって春大と一年壮行試合の雪辱を果たす結果となり、羽丘にとっては大きな課題が残る敗戦となった。

 

 

 

 

大地「……一巡目はストレートを主体にシュートとスライダーを主体に打ち取れていたが、二巡目直後からシュートを上手く狙われ2失点降板」

宗谷「我妻のストレートは良かった。スライダーのキレも悪くない。ただ、シュートがな……」

 

 

おねだり二人から漸く解放された俺は、宗谷が持ってきたスコアブックと睨めっこを続けながら反省会を開いた。

 

 

それにしても少しシュートが狙われ過ぎている。

 

 

宗谷も我妻の球を受けていて、シュートの有効性に疑念を抱いているようだ。

 

 

宗谷「ジャイロボールを覚える前までのシュートは、ちゃんと手元で強く変化してたイメージだったんだけど、どうにも今はイマイチきてない気がするんだよ」

大地「実際、打者に見極められた上で打たれてるよな、これ」

宗谷「そうなんだよなぁ……」

 

 

深いため息を吐く宗谷。無理もない。高校初のフル出場だったのだ。疲労が蓄積されていない筈がない。

 

 

それなのに、こうして俺のところにきてわざわざ配球面について語り合いしにきたりして研究熱心なやつだ。

 

 

俺もうかうかしていてはレギュラーを奪われかねない。再度、気持ちを入れ替える。

 

 

友希那「目をギラギラさせるのはいいけれど、貴方はまず怪我を治すことが第一よ」

リサ「そそ。それまで大人しくしててね〜」

蘭「怪我してんのに全力でバスケするとか、ほんとバカ。なんで無茶すんの、アホ」

燐子「……大人しく、しててください」

 

 

いつのまにか四人娘に背後をとられていた俺氏。しかも全員が天使のような微笑みを浮かべているのに、完全に目が笑っていないという圧力を受け、俺は両手を虚空に伸ばし、降参の意思を表明する。

 

 

……どうやら俺が練習を再開する日は当分先になりそうだった。

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