Stand in place!   作:KAMITHUNI

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なんとか頑張ってます!


空、スカウトを頑張ってみます! PART1

次の日、球技大会の決勝がそれぞれ執り行われる最終日となった。

 

 

午前の部では、サッカー、バレーの2種目の決勝が行われ、午後の部からはソフトボール、バスケが同じく始められる予定となっている。

 

 

決勝に出れなかったクラスも、敗者戦という枠で申請があれば自由にゲームを始められるようになっている。

 

 

こころ「いくわよー!! えいっ!!」

 

 

バシンッ!!

 

 

ズガァァアーーーンンン!!!!

 

 

美咲「えぇ……? 流石にドン引きなんだけど」

 

 

無邪気な笑顔でバレー部もお手上げな殺人スパイクを放つ弦巻こころを、トスをあげた奥沢美咲は顔を引きつらせてガチで引いていた。

 

 

ちなみに本人に自覚はないが、こころが最高到達点に達したところへ的確にトスを上げて見せた美咲もバレー部から完全にバケモノ扱いされている。

 

 

解せない。と本人は後に語るが、あれはとある漫画の変●速攻となんら変わらないので、やることなすことがぶっ飛んでいたりする。

 

 

一方サッカーでは─────

 

 

日菜「るん♫ と、日菜ちゃんのお通りだよ〜!」

薫「ふふっ……儚いね」

帯刀「オラオラオラァ!!!! 氷川パス寄越せや、ゴラァ!!」

雪村「悠馬! 恐喝に奔るな!」

リサ「は、はは……うちのクラス、キャラが濃すぎるよ」

 

 

日菜が男子相手にも容赦なく八人抜きという無双なる快挙を見せ、薫は華麗なステップを踏みながらゴール前へススっと踊り出る。加えて、帯刀の怒鳴り声で周りを萎縮させるという狂気の羽丘2-A組。もはや常識人はリサと雪村しかいない模様。

 

 

ちなみに決勝は日菜のハットトリックを含む5得点完封で、羽丘2-A組が優勝を飾った。

 

 

昼食時間を挟み、午後の部。

 

 

バスケの決勝では、大地の怪我により羽丘1-Aは棄権。よって敗戦処理の結果、櫂たちのクラスが復帰する。

 

 

その櫂だが、同時に周りが驚愕する丸刈りで参加していた。本人なりのケジメらしいが、仲間から揶揄われて若干喜色が見られるに、満更ではないようだった。

 

 

当然ながら櫂チームが相手を圧倒し、ダブルスコアの快勝であった。

 

 

そして、ソフトボール決勝は─────

 

 

はぐみ「じゃあいっくよぉ〜!!」

結城「ふぅ……」

 

 

香澄「あの二人、凄いね!!」

たえ「うん。すごく燃えてる感じ!」

沙綾「は、はは……二人ともガチすぎて、オーラが凄いもんね」

 

 

圧巻のオーラを放つ野球部主将の結城と、現役でソフトボールを嗜むはぐみの直接対決。二人のレベルが高すぎて、両チームのメンバーが置いてけぼりであり、観客ですら固唾を飲む。

 

 

笠元「なんや。あんさんも大阪出身か!」

りみ「そうなんです。やから、ちょっと不便なところもあって」

 

 

……激戦の中、大阪人同士がちょっといい雰囲気だったりするのはご愛嬌。

 

 

空「みんな活気があっていいな」

 

 

そんな中、一人ぶらぶらとグラウンドを回る空は、明るく笑みを浮かべて言った。

 

 

活力が漲るグラウンドでは、精力的に各球技に参加する人が多い。

それでも、空はあえてその輪に加わらず眺めることに徹していた。

 

 

初めは暇になるだろう、と相棒も連れてこようと目論んでいたが、どうも大地の周りには女性陣が集まりやすい。今回も連れて行ける雰囲気ではなかった。

 

 

空(湊先輩のチョークスリーパーに、美竹の右ブロー、今井先輩のコミュコミュ波、羽沢の慈愛の微笑み、氷川姉先輩の冷え切った視線、白金先輩の超献身的支え……うん、オレ、アレに巻き込まれるのだけは御免被るわ)

 

 

未だ苦心を続けているであろう親友に合掌。空は、当然そんな地獄のような環境から逃げ出したようであった。

 

 

カキィーンンン!!

 

 

有咲「ちょまっ!? 当たった!?」

 

 

巴「ライト!」

ひまり「わわわっ!!」

モカ「ひーちゃん、がんばれ〜」

 

 

空(ここは、羽丘1-Bと花咲川1-Bか。羽丘には宗谷がいたかな、確か……あ、キャッチャーやってる。それとアフターグロウ面子がほとんど揃ってやがるな)

 

 

(あと、ちょままさんもいるな。たまたま当たってちょままは草)

 

 

紛れ当たりのライトフライに動揺する有咲を見て、空は笑いを堪える。プラス、ボールの落下地点で忙しなく百面相するひまりのドジっぷりにも、空は内心和む思いだった。

 

 

空(点差は、1-0羽丘か。ランナー三塁にいるし、こりゃあエラーで2失点か、タッチアップで1失点だな)

 

 

空がそう思った瞬間だった。

 

 

??「ほら、どけ」

ひまり「うぇ!?」

 

 

パシィン!!

 

 

空(─────!?)

 

 

ファーストからライトまでいつのまにか走ってきた大柄の男子生徒は、ひまりの少し後ろから捕球態勢に入る。

 

 

いくらソフトボールで外野との距離が比較的近かったとしても、打球が飛んでからの反応では到底間に合わない。

つまり─────

 

 

空(アイツ、ボールが当たった瞬間にもう動いてたのかよ)

 

 

なんという判断能力の速さだ、と素直に感嘆する空。

 

 

しかも、獲るだけではない。流れるような捕球からタッチアップしたランナーを即座にチェックし、✳︎クロウホップで宗谷のミット目掛けて強く送球した。

 

 

✳︎クロウホップ……外野からホームに送球するあのフォームのこと。イチローさんのレーザービームを放つ時の送球フォームが理想的だと、個人的には思う。

 

 

矢のような返球が宗谷のミットにドンピシャに突き刺さる。

 

 

ズッアァァアーーーンンン!!

 

 

宗谷「マジか……!?」

 

 

審判先生「あ、アウトォォ!!」

 

 

宗谷は動揺し、クラスメイトからは賛辞が飛び交う。

その中、空は好奇の瞳で大柄な男を見る。

 

 

空(野球を多少なりにでも齧ってれば捕球の態勢からも分かる)

 

 

(アイツ、相当出来るやつだ)

 

 

クラスメイトA「瀧山君って、なんか身体大きいし顔が常にブチギレてるから怖いよね」

クラスメイトB「咲山君とは違って、ガチのヤンキーみたい」

クラスメイトC「制服も、いつでも着崩してるもんね。何考えてんのかわかんない」

 

 

苗字は瀧山というらしい。空は顔と名前を一致させる。

 

 

空「……ふーん。なるほどね」

 

 

周りの評価を全く気にしない空だが、こと瀧山に関しては好奇心が湧いてきた。

 

 

(相当気難しいやつなんだな)

 

 

そう現段階での評価を下す空は、さらなる興味が湧き上がる。

 

 

空(アイツに興味が湧いてきた。次もアイツのプレーを見るのはありだな)

 

 

そうして、空は瀧山を追跡しようとする。

 

が、

 

 

??「いた!! 成田君!」

空「ん? 松生さん、どうしたの?」

 

 

慌てて駆け寄ってきた眼鏡っ子クラスメイトの松井さんに呼び止められた空は、普通に尋ねる。

 

 

松生「実は、ソフトボールのゲーム中に怪我人がでちゃってさ、代理の人を探してるんだけど、他の人が見つからなくて……」

空「なるほど……」

 

 

代理でゲームを見て欲しいと頼まれれば、野球人として断れまい。

 

 

空「オッケー。ちょうど体を動かしたかったし、その子の代わりに出るよ。守備位置は?」

 

 

快く受け入れた。

その直後、眼鏡っ子の松井さんはパァッと笑顔を咲かせた。

 

 

松生「ありがとー! 守備はレフトで、打順は3番でお願い!」

空「了解。任しておいて」

 

 

こうして、空もソフトボールに緊急参戦する羽目となった。

 

 

 

 

カッキィィィィィィィーーーンンン!!!!

 

 

空(これも完璧! 行ったな!)

 

 

空が捉えた打球は、高々と上空へ舞い、やがて簡易式のネットを超えて、ホームランゾーンへ落下する。

 

 

これが【神童】成田 空の実力。そう言わんばかりの打撃であった。

 

 

女子生徒A「きゃー! 成田くぅ〜ん!」

女子生徒B「かっこいい〜!!」

女子生徒C「こっち向いてぇ〜!」

 

 

女子からは黄色い声援が送られ、

 

 

男子生徒A「アイツ……四打席連発とか……」

男子生徒B「打撃センスもパネェ」

男子生徒C「次元が違う」

 

 

男子からは畏敬の念が向けられた。

 

 

空(✳︎ウィンドミル投法じゃないただの下手投げに合わせられない野球部の方がヤバいとは思うけど、この声援は悪くはないな!)

 

 

空も空で、満更ではなかった。

 

 

その後、空の一撃で勢い付いた1年A組は、得点に得点を重ねて二桁得点で見事快勝を収めた。

 

 

 

松生「成田君ナイスバッチ!!」

女子クラスメイトA「流石は野球界を賑わせる浮雲児!!」

空「褒めすぎだぞ。こんなの、打てて当たり前だろ?」

 

 

打って当然。その言葉を出せる人間が、世の中にいったいどれだけいるのだろうか。

空は、ナチュラルに凄いことを言ってのける。

 

 

高山(応援係)「くそカッケェ……」

 

 

それも結果が伴っているから尚更だろう。

 

 

空「えっと、次の試合は……と」

 

 

ご機嫌そうな表情でそう言いながら、対戦表の貼り出された掲示板の元へ向かった空は、次の試合が何時ごろ始まるのかを確認する。

 

 

空(ウチは次が最後になりそうで、時間は2時半から。相手は花咲川2-B……たしか、氷川さんや白金さんがいたところだったっけ)

 

 

タイムスケジュールを見終えた空は、あることを思い出す。

 

 

空(あ、そういや今日はドリンク持ってくんの忘れてたんだっけか……)

 

 

思い出したのならば話は早い。時間には余裕があるので、空は、自販機で御茶を買いに行くことにした。

 

 

そちらに向かうと何処か見覚えのある大柄な人影が見えた。

 

 

空(アイツは……)

 

 

目を凝らすと、やはり先程のスーパープレイを披露したばかりのあのファーストだった。

向こうも空の存在に気がつくと、眉間にシワを寄せて顰めっ面で機嫌悪く睨んだ。

 

 

瀧山「ちっ」

 

 

ピアスをつけ、体操着をだらし無く着用し、明らかに怒り顔に染まった切れ味の鋭い男子生徒がいた。

 

 

空「オマエ、今からゲームじゃねぇの? サボりか?」

 

 

そう言ってから、空は先程の女子生徒たちの評判を思い出す。

 

 

空(そーいえば、コイツって気難しいやつなんだっけ?)

 

 

勝手に納得する。

 

 

瀧山「オメェがナニモンかはしらねぇーけど、先公にチクったら承知しねぇーぞ。バレたらめんどくさいんだからな」

 

 

胸ぐらを掴んで凄む瀧山だが、空の顔色は一切変わらない。

 

 

空「バレてめんどくせぇ話なら、出りゃいいだけの話だろうが。なんで途中でやめんだよ、あんなうまかったのによ」

 

 

それどころか、寧ろ動じず、物怖じしないで言い返してみせる空に、瀧山は気怠げに舌打ちで返す。

 

 

瀧山「……あんなクソつまんねぇモンに出るのが嫌になっただけだ」

 

 

それだけ言ってそっぽを向く瀧山。

 

 

空「どこに行くんだよ」

瀧山「試合だよ。オメーと関わってる方がめんどくせぇって感じたから、憂さ晴らししに行くわ」

 

 

そして踵を返した瀧山に対して、空は目を眇めて大きな背中を見送り眺めた。

 

 

空「……素直じゃないやつ」

 

 

「まるでどっかの頑固キャッチャーみたいだな」

 

 

空は、彼の後ろ姿を、誰かと重ねるように見つめながらポツリと小さく呟いた。

 

 

 

──────────

 

 

お茶だけ買ってグラウンドに戻ってきた空は、羽丘1-Bと花咲川1-Cが試合をやっている場面を見る。

 

 

いつのまにやら参加していた狂気のハッピースマイルこころと、規格外の常識人美咲(ミッシェルモード)がバッテリーを組んでいた。

 

 

空(3-0で花咲川。時間的に最終回で、ツーアウト満塁。バッターはアイツか……それよりなんでミッシェル?)

 

 

空の視線の先には、ヤンキーかぶれの瀧山が風格漂うバッティングフォームで打席に立つ。

 

 

凄まじい緊張感に包まれるグラウンドに、静寂が奔る。

 

 

空(遊びとはいえ、羽丘は3点ビハインド。これがラストチャンスだとすれば尚更プレッシャーは大きくなる……というより、キャッチャーがミッシェルの意味は?)

こころ(凄い! この人、凄くワクワクするわ!!)

 

 

重苦しい空気の中、ワクワク感に胸躍る空とこころ。

空は特に、滝山の美しいフォームにある予感を覚える。

 

 

空「さぁ、見せてみろよ瀧山。オマエの“質”はどんなだ? ……てか、ミッシェルの中暑くねぇの?」

 

 

こころがウィンドミル投法で、会心のライズボールを解き放った。

野球経験者は愚かソフトボール部でもバットに当てることが出来るか否かの難しいボール。

 

 

だが─────

 

 

その瞬間だけ、空と瀧山の時間だけが緩やかになった。

 

 

摺り足からの自然で綺麗なトップへの移動。そして右脚を軸に美しい駒回りで乱れのない弧を描く真っ直ぐで理想的なスイング。ボールと接触した際のインパクトのタイミング。

 

 

振り切った打球は、自由気ままに飛び回る鳥のように遥か遠方まで飛んでいく。

打球の角度、速度、飛距離から十分だろうと万人に思わせる完璧な当たり。

 

 

ネットを超えてホームランゾーンへ落ちた時、空の予感は確信に変わった。

 

 

コイツは大地と同じ類の【本物】だ、と。

 

 

同時に、空は労った。

 

 

ミッシェルは、お疲れ様……と。

 

 

 

 

審判先生「4対3で羽丘1Bの勝ち」

 

 

全員「「ありがとうございました!」」

 

 

ひまり「瀧山君! ナイスバッティング!!」

瀧山「ふん……」

 

 

小さな拍手が降り注ぎ、皆和気藹々と盛り上がる中、瀧山は仏頂面を浮かべながら一人でに何処かへ歩き去っていく。

 

 

ひまり「あ、あれ……? 私、何か怒らせるようなことしたかな?」

巴「いや、アイツが常にブチギレてるだけだろ。ひまりは気にしなくてもいいよ」

 

 

空(……スゲェイライラ顔してんな。なんでそこまで女子に強く当たれるのか)

 

 

ひまりが若干のショックを見せるも、巴が慰めているので持ち直したようだ。

それよりも、空は、とにかく瀧山と話がしたくて仕方がなかった。

 

 

空「おい、労ってくれたクラスメイト相手にその態度はねぇーんじゃねぇの?」

 

 

空の呼びかけに、明らかに不機嫌そうに振り返った瀧山は、凄みながら語気を荒げる。

 

 

瀧山「なんだよオメェ……! 誰だかしらねぇーが、んなこと言われる筋合いはねぇ!」

 

 

クルッと踵を返して再び歩みを進める。

しかし、空はその程度で怯むようなタマではなかった。瀧山の怒肩を容赦なく掴む。

 

 

空「ちょっと待てよ。オマエ、相当野球できるだろ」

瀧山「……さぁな。好きに想像すりゃあいいじゃねぇーか! 生憎とオレはオメェと話すことなんてないんだよ……手、邪魔だ離せや」

空「自分で名乗んのも気恥ずかしいが、オマエには名乗り出てやるよ」

 

 

手を離して、わずかに距離を取った空は、気恥ずかしげに自身の渾名を告げる。

 

 

空「世間巷では【神童】って呼ばれてる成田 空だ。オマエぐらいのプレーヤーならオレの事知ってんだろ?」

瀧山「─────っ!」

 

 

空が名乗りを上げた瞬間、瀧山の目が一瞬だけ瞠いた。しかし、それはほんのわずかな時間だけだった。直ぐにいつもの仏頂面に戻る。

 

 

瀧山「しらねぇーよ、オメェの渾名なんざ。自惚れすぎのイタイヤツかよ」

空「イタイ!? って、おい! 待てって言ってるだろ!」

瀧山「ウッセェな。ほっとけよ!」

 

 

引き剥がそうとするが引き下がらない空に、瀧山は苛立ちが最高潮に達したようだ。青筋を立てて、空を押し離す。

 

 

瀧山「いい加減にウゼェんだよ。馴れ馴れしくすんなよ、ブン殴んぞ!!」

 

 

明らかな脅迫めいた発言に、あたりがざわつく。

流石にここらが引き際か、と空は、大人しく引き下がることにした。

 

 

空「オレもめんどくさくなってきたから最後にこれだけ聞くぞ……オマエ、なんで野球やってねぇーんだよ」

瀧山「……マジでなんなんだよ、オメェ。俺が野球経験者だって勘違いしてんなら、勘違い甚だしい。さっきのサヨナラ弾だって偶々であって実力じゃない。本当ウゼェから失せろや」

 

 

眼光鋭く睨みつけ踵を返した瀧山は、今度は何も言わずに去っていく。

 

 

空「じゃあ、今回は大人しく引き下がるよ。けどさ、オマエ、嘘吐くの苦手だろ? 目が右方左方に彷徨ってたぞ」

瀧山「……ちっ」

 

 

舌打ちして今度こそ振り返ることなく去っていく瀧山の背を見送る。

最後、締まらない感じにした空は、若干満足そうに頷きながら言った。

 

 

空「ま、ちょっとは心開いてくれたらいいんだけどな……そう思わないか、上原」

 

 

少し苦笑いを浮かべて背後に隠れているつもりのひまりの方がビクリッと跳ねた。

 

 

ひまり「い、いつから気がついてたの……?」

空「んー、瀧山に野球経験者かって尋ねたあたりから視線は感じてたかなー」

ひまり「ほとんど最初からじゃん!!」

 

 

隠密活動しているつもりだったひまりにとっては、コソコソ隠れているのを瞬間的に見抜かれていたことに羞恥心を覚え、顔を赤らめる。

 

 

この娘、色々空回りしてて面白いわー、と穏やかな気持ちになる空。

 

 

だというのに、空も頬を赤く染めてそっぽを向いて黙ってジャージをひまりに渡す。

 

 

ひまり「え?」

 

 

キョトンと呆けるひまりが、首を傾げて自身の状況を見る。すると、汗で肌と体操着が張り付いて自身の下着が透けて見えていることに気がつく。

さらに頬を紅潮させて、バッとジャージを取って急ぎ羽織る。

 

 

ひまり「……見た?」

空「……見てないって言ったら信じてくれるのか?」

ひまり「つまり見たんだ……」

 

 

見てないなどとは決して言えない。見てしまったものを見てないと言ってバレた後が怖いからだ。ならば、今ここで鉄拳制裁を受けた方が幾分かマシだろうとの判断だった。

 

 

身体つきは非常に大人顔負けのプロポーションであるので、体操着に滴る汗が吸着し、より艶美な肢体が扇情的に映るわけで、空は空で気恥ずかしさはあるし、目を覚ますという意味でも男が罰を受けるのは当然である。

 

 

激昂され頬に鋭い衝撃が到達する─────

 

 

と思っていたのだが……

 

 

ひまり「……っ///」

空(え? な、なにその反応……!)

 

 

予想外にも頬を赤らめた少女は、モジモジと身を捩って羞恥に悶えるだけだった。

甘ったるい空気が場を支配し、静謐な空気が流れる。

居た堪れない。、とは空の思考。

 

 

空「そ、それよりかさ、瀧山だっけ。アイツってどんなヤツなんだ?」

 

 

流石にムードが変な方向へ行くことは看過できないと思った空は、なんとか話題を絞り出した。

 

 

なんともありきたりな話の転換だが、事実、彼のことを尋ねたい気持ちもあったのでちょうどよかったとも言えるだろう。

 

 

ひまり「うぇ……? え、えーっと……見た目通りの不良君かな? ほら、ウチって校則が厳しいでしょ。だからあんな風にチャラチャラして服装を乱して暴力的な人って……ちょっと浮いてるかな」

 

 

空の質問の意図を理解したひまりは、若干まだ赤みが残っているが、どうにか普通に返答する。

 

 

空「なるほど。見た目通りのヤンキーかぶれか」

ひまり「うん。こっちから話しかけても基本は無視するし、それであの人相だから怖くて誰も話しかけなくなっちゃったみたい……」

空「怖い? どこが……アイツタメだろ。大地といれば怖いの定義が狂ってるのもあるけど、アイツ自身、偏差値の高いここに来てる時点でそれなりに真面目なんだろうし、ビビりすぎもよくねぇだろうに」

 

 

集団心理とは恐ろしいものだ。

空は人一倍その恐ろしさを理解している。空自身も【神童】や怪物と周りから言われ続けた挙句、周囲からだんだんと腫れ物扱いされるといった中学時代を送っていた。

 

 

故に彼の不遇さは分かった。

 

 

ひまり「成田君?」

空「……ヤンキーかぶれで暴力的で皆から恐れられてる奴なのかもしれない。けど、アイツは多分すごいプレイヤーなんだ」

 

 

心配そうに覗き込むひまりに気付いていないのか、空は瀧山の歩いて行った方へ歯を食いしばってそう口にしていく。

 

 

空「アイツ自身、なんで野球から逃げるのか、なんで周りからの評価を自ら貶めようとするのかわかんねぇーけど……」

 

 

すぅ……と息を吸って、はぁぁ……と肺から空気を出す。

 

 

空「……オレはアイツと単純に高校野球がしたい。プレーがしたい」

 

 

そう言って拳を強く握る。まるで自らの決意を表すように強く強く強く……握り締めた。

 

 

空「こんな気持ちになったのは大地の時ぐらいだ。だから、ゼッテェ、オレはオマエを殴り付けられてでも付き纏ってやる」

 

 

野性味溢れる笑みを浮かべた空は、新たな決意を胸にした。ひまりは、後に「怖かったけど……それ以上にカッコ良かった……///」と語り、それを聞いたAfterglow面々は、「こいつ、完全に惚けてやがる」と言ったそうな……

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