Stand in place!   作:KAMITHUNI

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鼻血が止まらなくなる時、ありませんか?


空、スカウトを頑張ってみます! PART2

球技大会を終えた放課後─────

 

 

瀧山「ちっ……!」

 

 

ホームルームを終えた1年B組で、苛立ちを隠そうともせずに表情に出す瀧山は、カバンを担いで舌打ちを交えてズカズカと教室を出る。

 

 

巴「アイツ、いつにも増して機嫌損ねてないか?」

モカ「だね〜。なんか、微妙に疲れてる感じもするね〜」

 

 

巴とモカは機嫌を損ねた瀧山を見て、心配そうに会話をする。ちなみに、つぐみは球技大会の事後処理で生徒会に顔を見せているためこの場にはいない。そしてこのクラス内で彼に自発的にコンタクトを取ろうとするものは、彼女達、Afterglowを除いていないだろう。

 

 

一匹狼の瀧山に関わりを持とうとするのには、ちゃんとした理由がある。

 

 

モカ「なんか〜、あーやって他人と距離を取りたがるのって昔の蘭みたいだよね〜」

巴「まぁな。蘭はあそこまで強面じゃないけど愛想の無さはあいつ以上だな」

モカ「ほっとけないよね〜」

巴「だよなぁ」

 

 

今は言うほどだが、昔の蘭は他人との関わりを比較的持つことはなく、幼馴染とクラスがハブれただけで授業にも全く顔を出さなくなるほどのコミュ力重傷者だった。今では、Afterglowというグループで幼馴染との絆をさらに深め、さらには同クラスとなった天地コンビのおかげでだいぶ丸くなったと言えよう。……今度のライブ次第では、グループの存続自体が危ぶまれるが。

 

 

とりあえず、そんな昔の蘭と今の瀧山を比肩に感じ、彼女達は彼をほっとけなくなってしまったのだ。当の本人には、だいぶウザがられて無視されることが多いが、いつかはちゃんとコミュニケーションを取れるようにはしておきたい。とは巴の談。

 

 

巴「ところで……」

ひまり「ぽけぇ〜……」

モカ「ひーちゃん、完全に魂抜けてるね〜」

 

 

完璧な上の空のひまり。ツンツンと頬を突くモカはダメだこりゃ。と首を横に振り、巴も肩を揺さぶって名前を読んだりしたが反応がどうにも薄い。

 

 

何があったのか、それを知るものは当の本人以外おらず、理由がわからないせいで、この幼馴染二人でもひまりを元に戻すのに数十分を有してしまうのだった。

 

 

─────

 

 

下駄箱─────

 

 

空「よっ、瀧山!」

瀧山「……なんでオメェがここにいる」

 

 

B組の下駄箱前で待ち伏せていた空が無言で帰ろうとした瀧山を呼び止める。それに対して瀧山は眉間にシワを寄せて空を睨みつける。

 

 

瀧山「ちっ……」

空「舌打ちすんなよ。冷てぇじゃん」

瀧山「関わんなって言ってんだろうがッ!! 俺と口を聞くなッ!!」

 

 

ザワザワ……と喧騒する廊下。

 

 

羽丘女子生徒A「え、なになに? 喧嘩?」

羽丘女子生徒B「うわ……瀧山じゃん。完全に空気悪くするヤンキーの……」

 

 

そんな周りの反応を見た空は、溜息を一つ入れてからガリガリと後頭部を掻く。

やはり温厚な彼でも、このような陰口は他人のものだと分かっていても堪えるらしい。

 

 

空「聞かせてくれよ」

瀧山「……何を?」

空「野球を辞めた理由だよ」

瀧山「……は?」

 

 

空の質問に今度こそ仏頂面が崩れる。先程、あんなにも剣呑に突き返したにもかかわらず性懲りもなくまた野球の話をもってくる空に、ほとほと呆れ果てたのだ。

 

 

冗談は程々にしてくれ……と瀧山は思う。が、空は瞳は至って真剣であるのは見間違うことはない。

 

 

瀧山「……誰が野球をやってたなんていったよ。そんな覚えはない」

空「ダウト。あんな動きとバッティングができる奴が素人なわけがないし、その判別ができないほどオレの目は落ちぶれちゃいないつもりだ」

 

 

いつもはハッチャけて落ち着きのないようにみえる空だが、案外、人を見る目は持っていたりする。それこそ相棒の大地よりもずっと見識眼は長けていると言っても過言ではないだろう。

 

 

でなければ、大地の『幼稚化』やその他の対応に追われながらも自身の時間を設けることなどできようはずがない。

 

 

嘘をあっけなく見抜かれた瀧山は、今度こそ諦めた様子で深く息を吐く。

 

 

瀧山「……だとしても、オメェには関係な─────」

空「あるね」

瀧山「っんだと?」

空「オレは純粋に気になったんだよ、オマエはなんでそうやって自分を偽り続けているのかってな」

 

 

そう言った空は、真っ直ぐに滝山の鋭い瞳を見つめる。なんでもお見通しだと言われているようで瀧山はゾッと背中に冷たいものが走った。

その事には気がつかなかった空は続ける。

 

 

空「単純にオマエからは、大地のような“質”の良いプレーヤーが放つオーラが滾ってる」

瀧山「……」

 

 

その言葉で瀧山は黙り込み、暫しの静寂が訪れる。

だが、瀧山自身がその沈黙を破った。

 

 

瀧山「……怪我したんだよ。中3の夏大前にな」

空「怪我だって? 何処を?」

 

 

陰りを含んだ苦笑で告げた真実に、空は驚きを禁じ得ない。なにせ、今日はあれほどの動きを見せていたのだ、怪我の様子など窺い知れるものではなかった。

 

 

瀧山「今でこそ日常生活に支障がでてねぇーし、ソフトボールの外野からホームまで届くぐらいにはマシになったけど、右肩をな、投げ過ぎてやっちまったよ」

 

 

古傷を庇うように左手で抑える瀧山の眼は、嘘ではなく真を語っている。そう直感した空は、そうか……と小さく呟いた。

 

 

空「とりあえず、中庭に行こうぜ」

瀧山「は?」

 

 

空の突然の提案に瀧山は訝しんだ返事をする。

 

 

空「こんな人が多くいるところでこんな話をするべきじゃないだろ」

 

 

そうして提案していると、だんだんと聞き覚えのある声が複数近寄ってくるのがわかった。

 

 

大地「だから練習はしませんって、とりあえずスコアブックだけでも監督か主将に返すだけですよ!」

 

 

友希那「嘘ね」

リサ「嘘だね〜」

燐子「……嘘です」

紗夜「嘘ですね」

蘭「嘘」

つぐみ「嘘だよね」

 

 

大地「俺の信用度のなさよ!」

 

 

相変わらずの茶番を繰り広げているのは、大地と、いつも通りの麗しき女性陣である。

呆れながらもちょうど良いと、空は大地を呼び止める。

 

 

空「おいモテ男!! オレ、今から外周練して帰るからその旨を監督と哲さんに言っといてくれ!」

大地「誰がモテ男じゃゴラァ!! それと貸し一つじゃボケェ!!」

 

 

そんなやり取りを終えた空は、瀧山に振り返って中庭の方へ指差す。

 

 

空「じゃあ行こうか」

 

 

そう言って場所を変えた─────

 

 

 

空「肩か……それは、確かに野球をやる上で重大な欠点だな」

 

 

うんうんと頷く空。しかし納得顔ではない。

 

 

空「けど、さっきの送球を見てた感じ、遠投が必要な外野は無理でもファーストぐらいならなんとかなるんじゃないのか?」

瀧山「それはできない」

空「?」

 

 

空の提案に首を横に振る瀧山。一体何がダメなのか。彼はその事について自ら語った。

 

 

瀧山「球技大会で見せたクロウホップだけで今日はもうまともに肩も上げられん。ようは耐久力が極端に減っちまってんだ。こんな弱肩は高校野球で使いもんにならん。それに……」

空「それに……?」

瀧山「いや、なんでもない。今のは忘れろ」

 

 

瀧山は何かを言いかけて止めた。と思えば、次には左手で空の背中をパシンっと叩き檄を飛ばした。

 

 

瀧山「オメェは頑張れよ。今やってる大切なことが、いつのまにかできなくなる、なんて今じゃ珍しいことじゃないんだからな」

空「そりゃあそうだろうけどさ……!」

瀧山「【神童】成田 空。知ってたぞ、オマエのこと。なんだったら秋坂中4番ピッチャーで軟式全国制覇した軟式野球界きっての天才だってこともな」

 

 

それだけ言い残して、中庭から立ち去ろうとした。

 

 

空「オマエの名前は?」

 

 

しかし、空は最後に聞きたかったことである、名前を尋ねた。

それに対して、瀧山は嫌な顔一つせず応える。

 

 

瀧山「小次郎だ。瀧山 小次郎」

 

 

快く答えた瀧山 小次郎は今度こそその場を立ち去り下駄箱の方へ姿を消した。

その去り行った背が大きくも小さく見えた空は、ぽつりと溢した。

 

 

空「……小次郎。覚えたぞ」

 

 

ギュッと左手を握りしめた、空は理解したのだ。

 

 

『大切なことが、いつのまにか出来なくなる』

 

 

その言葉の重さが、どうにも怪我以外で出来たもののように感じてしまうのだ。実際、そうなのだろう。

 

 

同種の“非凡”ではなく、同種の“努力人”として悟った。

 

 

空(オマエが抱えてるものは、一体何なんだ?)

 

 

その答えを持つものは、今はここにいない─────

 

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