Stand in place!   作:KAMITHUNI

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題名が長いんじゃ!


ライブが始まろうとしているが、何故か俺の級友の親父から『娘を宜しく』されました

5月19日(土)─────

 

 

気付けばなんとライブの当日である。

 

 

俺は少し暑くなってきた温暖な天候の中、初めてのライブハウスへ足を向かわせていた。

 

 

ちょっとだけ浮き足立つのはご愛嬌として、花咲川商店街を真っ直ぐ抜けてライブハウスのCIRCLEに向かう。

 

 

朗らかな日差しに当てられる中、数十分歩き、ようやっとライブハウスへと到着した。本日の予定ではガールズバンド主体のライブを催すらしく、そこには当然ながらRoseliaやAfterglowもいる。

 

 

これで楽しみじゃないわけがなかろう!

 

 

とまぁ、俺の私見はどうでも良いとしても、ライブ会場前では既に人集りが出来ている。

 

 

ライブハウスの横に併設されたカフェテリアも商売繁盛で、一人の店員さんが残像を出す勢いでライブハウスとカフェテリアを高速で往来していたのが時たま視界に入ったりした。

 

 

てか、あの人、絶対にまりなさんでしょ。

 

 

月島 まりなさん。年齢不詳の黒髪美人さんだ。CIRCLEの店員さんでリーダー的役割をオーナー直々に任された(押し付けられた)生粋の苦労人である。

 

 

ちなみに彼女とは、様々な縁が重なって知り合いになった。俺がRoseliaの極度なファンだと知っていて、彼女達のファングッズを何かと融通してくれる基本は良い人だ。

 

 

……ただ、年齢の話だけはまりなさんの前でしてはならない。いつのまにか意識を刈り取られてるから。ダメ、絶対。

 

 

挨拶ぐらいはしておいた方がいいか……。

 

 

大地「まりなさーん! こんちわー!」

まりな「あ! だ、大地くん! ちょうどいいところにきたねー!!」

大地「はい?」

 

 

そう思って彼女に話しかけたのが、俺の最大の過ちだったりする─────

 

 

 

─────

 

 

 

中学時代までは、生まれつきの目付きの鋭さや『マルチタスク』の影響があって人と深く関わりを持ってこなかった俺だが……

 

 

羽丘高等学校に入ってからの生活は、存外楽しく感じる。

 

 

俺はまさに今、そう感じている。

 

 

俺の冒してきた罪は拭えないかもしれないし、拭いされるとも思わない。

それでもそんな俺を支えてくれる人達がいる。

 

 

俺の体質を知っても平常通りに接してくれる野球部の人達。

昔から良く野球関連で付き合ってくれた河鳥のオッサン。

根性と軒並みならぬ努力で俺達の横に並び立つ我妻。

こんな俺を相棒として認めてくれたライバル兼相棒の空。

 

 

『いつも通り』という枠組みに入れてくれた、美竹 蘭。

 

 

そして……俺の灰色の世界を青薔薇色に染め上げていく音を奏でてくれる歌姫、湊 友希那。

 

 

俺は、彼女達のおかげで、“俺”が“俺”らしく青春ってやつを謳歌できていると思う。

 

 

それでも……

 

 

やはり俺をよく思わない人たちは少なからずいる。

 

 

その筆頭を上げるとすれば……蘭の父である美竹家の主人であろう。

彼は、華道の名家の当主なだけあり厳格で誰よりも己や周囲を厳しく律してきた人格者だと蘭から聞いている。

 

 

その上、華道では天下一品の腕前を持つ。

顔立ちも非常に整っており、蘭ママが盟主の蘭パパ同盟なる非公式ママさん会があるとかないとか……。

 

 

そういうわけで、彼を一言で語るなら、蘭父は主婦層から比較的にモテる。

 

 

……そんな峻厳なのに誰からも認められ、唯一無二の娘には避けられる美竹父から、巌々と接してきて周りから避けられ、蘭達に救われ続けている俺が認められないとは、中々皮肉めいていて、俺は苦笑を零してしまう。

 

 

誰からも避けられようやく認めてもらい始めた俺と、代々受け継がれた華道の腕で誰からも認められ娘から認めてもらえない彼。

 

 

俺と、美竹父の関わりに更なる軋轢が生み出されたのは、間違いなく─────

 

 

─────あのライブの日の出来事が、きっかけだったのだろう。

 

 

──────────

 

 

5月19日(土)。

 

 

俺は、知り合いのまりなさんに挨拶だけ行った際、スタッフルームに呼び出されて、機材の設置などの手伝いを無理やりさせられる羽目となった。

 

 

ライブを見にきただけの客である俺がどうして無条件で働かなければならないのかと思ったが……まりなさんから突きつけられたRoseliaの初回限定版最新CDを手渡され、俺は直ぐに制服に着替え始め、直ぐに仕事を始めた。

 

 

大地「よいしょっ……と」

 

 

アンプなどの重機材をライブスタジオに運び、指定の位置にセット。その後、PAさんなどと音合わせをしたのちに、再び地下スタジオから地上へと出てカフェテリアで接客をする。

 

 

こんな事を繰り返して約十回頃だった。

 

 

蘭父「君が咲山大地くんか?」

 

 

各バンドの楽屋を整理整頓し終えて扉を閉めた俺を呼び止めたのは、真剣な表情を浮かべた、眼鏡を掛けた顔の整った和装男性だった。

 

 

大地「そうですが……どちら様でしょうか?」

蘭父「あぁ……すまない。美竹 蘭の父です。先日は娘が世話になったようで、ありがとう」

 

 

強面だが整った顔立ちを少しだけ緩めた表情で蘭の父と名乗る男は感謝の句を述べてきた。

言われてみれば、雰囲気や顔付きなどに何処か蘭の面影が感じられた。

 

 

大地「いえ、俺もあの時は感情任せに声を荒げた上に、何も知らない小童が偉そうに説教までして……本当、申し訳ありませんでした」

 

 

彼の真っ直ぐな感謝に照れを隠すように、自身の失態についてしっかり謝罪をしようと頭を下げる。

頭を上げてくれと言われ、漸く頭を上げた俺に、蘭父は視線を逸らしながら険しい顔でそれっきり黙り込んだ。

 

 

思い詰めた彼の表情に、もしや俺は彼女に手を出したと誤解されて殴られるのではないだろうか……と、一瞬だけ考えた。

が、すぐにそれはあり得ないと思い直した。

 

 

なぜなら、

 

 

─────ヘタレの俺に手を出す気概など一切持ち合わせていないのだ。

 

 

その辺のことは、彼も蘭から聞いているはずだし、泊めた理由は以前電話で話した。

 

 

つまり、俺が蘭父に殴られる要因など微塵もないはずだ。

 

 

そのまま互いに何も言い出さないまま時間だけが過ぎていき、やがて静寂が辺りを支配する。

 

 

無言のままでいる彼の、強張った表情が真っ直ぐこちらに向けられた。

 

 

それから、意を決したように、蘭父は、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

蘭父「すまない。君のことはまだ認められないが、蘭のことは末永く宜しく頼む」

大地「……」

 

 

 

 

 

その言葉に、俺は何も答えることが出来なかった。

ヘタレな俺が手を出す気概があるはずないとはいえ……

 

 

付き合ってもいない級友の父自ら婚姻の許可を戴くなど、流石に予想外過ぎる。

 

 

 

 

 

娘達に労いの茶菓子などを持ってきていたらしい蘭父と楽屋前で別れてから、俺は一段落した仕事に見切りをつけてスタッフルームへ戻ってきた。

 

 

扉を開けると、疲弊しきっていたまりなさんがパイプ椅子に座って机にだらんと項垂れて、休息を摂っているのを見つけた。

 

 

大地「すみません。遅くなりましたが、楽屋の清掃を終わらせてきました」

 

 

そんな彼女へ声を掛ける。

俺の声に反応したまりなさんは、フニャッとした屈託の無い笑みを浮かべて顔を上げた。

 

 

そして目が合う。

 

 

すると彼女はハッとしたような表情を浮かべてから、今度は大人びた微笑を向けた。

 

 

まりな「ううん。ありがとね、大地くん! それとお疲れ様!ちょうど体調崩したスタッフがいて人手が足りなかったからすごく助かったよー!」

 

 

ふふっと可憐な笑みを向けて、そのまままりなさんは新しいパイプ椅子を自分の隣の席に置いた。

 

 

ぽんぽん、とその椅子を叩いた。

座っていいということだろう。俺はありがとうございます、と感謝を述べてから、それに従う。

 

 

まりな「もぅ、おねぇさんお腹空いちゃったよー! ペコペコー!」

 

 

傍に置かれたビニール袋から、まりなさんは山吹ベーカリーのタマゴサンドとチョココロネ、紙パックの苺牛乳を取り出してから、そう言った。

 

 

大地「あれ、まりなさんまだ食べてなかったんですか?」

まりな「まぁ〜ね。一人で食べるよりか、誰か一緒に食べた方が美味しいでしょ? だから誰かが来るのを待ってたんだ」

大地「誰かって……虚しいことに、PAさん除いて、ここで今働いてんの俺とまりなさんだけじゃないですか」

 

 

まりなさんの言ってることはただの盲信だ。食べる素材が同じなら味はさほど変わらない。どちらかというと気分が変わるからこそ味に彩りを感じるだけであって、決して味が変わってるわけではない。

加えて、スタッフの管理をしているリーダー役のまりなさんならスタッフの人事事情はわかっているはずだ。

 

 

まりな「ガチの反応しないで! ただのツッコミ待ちだからね!?」

 

 

顔を赤く染めながら、まりなさんが言った。

その後、少し拗ねたように唇を尖らせながらモグモグとタマゴサンドを食べ始めた。

 

 

俺も、手渡された焼きそばパンを戴く。

 

 

パンを一つ食べ終えたタイミングで、まりなさんが俺に問いかけてきた。

 

 

まりな「そういえば、大地くんが戻ってくるの遅かったのって、他の事もやってくれたとかかな?」

 

 

ストローに口をつけ、苺ミルクを飲みつつそう問いかけてくるまりなさん。

 

 

大地「いえ、途中で蘭─────Afterglowのボーカルやってる奴の父と鉢合わせて少し話を」

 

 

俺がそう言うと、「へぇー」と、興味なさげにまりなさんは相槌を打ってから……

 

 

まりな「……えっ? 蘭ちゃんのお父さんと鉢合わせたの!?」

 

 

驚きを浮かべつつ、俺に問いかけた。

なんだ、蘭のことを知ってたのか。まぁ、ライブハウスの店員と客だし、なんらかの接点はあったのかもな。一人でに理解する俺。

 

 

説明をしようかと考えた。だが……彼が自らの娘を俺と結婚させようとした、と言ってきた、と正直に話してもいいのだろうか?

……あらぬ誤解を生みそうで怖い。

 

 

まりな「も、もしかして……凄く大事な話でもしてたのかな?」

 

 

恐る恐る、といった様子で、まりなさんはそう尋ねてきた。

 

 

大地「……まぁ、大事な話……といえば、大事な話ですね」

 

 

俺は頷く。

蘭が介入してないとはいえ、蘭父は真剣に婚約させようと考えているのだから、大事な話に決まってる。

 

 

まりな「そ、それで、大地くんはなんで返事をしたのかな?」

 

 

若干引きながら、まりなさんは虚な瞳を俺に向けながら問いかけた。

……さっきからなんだ、このテンション。

 

 

大地「(蘭との)兼ね合いしだいでは……と保留にしました」

 

 

俺が答えると、まりなさんは目を瞠いて、顔を痙攣らせて勢いよく下がった。

 

 

まりな「だ、大地くんはっ! ……そ、そっちの毛だったのかな!? ……蘭ちゃんのお父さんと、つ、つつつ、突き合うの!?」

 

 

震えながらとんでもないことを言いやがったまりなさんのその声に、俺は……

 

 

大地「はい? どうしてそんなことになるんですか?! 俺はノーマルだし、向こうも同様でしょう。付き合う気なんてまずあり得ない」

 

 

まりなさんの言動が理解できずに、頭が困惑していた。

俺の答えに、ポカンと唖然した顔で「え……?」と呟いたまりなさん。

 

 

大地「どこまで話していいやらわかりませんが、蘭父から大事な頼み事をされたんですよ。それだけです」

 

 

と、俺が答えると、まりなさんはまだ混乱しているようだが、それでも安堵感の篭った息を吐き出していた。

 

 

まりな「な、なるほど……つまり、大地くんは別に蘭ちゃんのお父さんと“突き合う”というわけじゃないんだね。……ふぅ、よかったよ〜」

 

 

そう言われてから、俺もなるほど、と気がついた。

女性は、男性同士でそういうことをする妄想を持つ人も少なくないとは聞く。

それで俺が蘭父の告白を受けて、まりなさんは俺の貞操感が狂ってることを恐れた、ということか。

 

 

まりなさんが言ってる“付き合う”は若干イントネーションが違った気がしたが、気のせいだろう。

 

 

まりなさんの勘違いは理解できたが……男同士の、それも歳の離れた友人の親父から告白される、と考えるのは流石に無理がある。

 

 

大地「当たり前でしょうが。どんなに蘭父がいい男でも、俺にそっちの気は微塵もないですよ」

 

 

俺の言葉を聞いたまりなさんは、安心した表情を浮かべる─────ことはなく。

 

 

まりな「こ、今回は違ったみたいだけど、もし大地くんが同性じゃなくて異性から告白されたら……どうするのかな?」

 

 

恥じらっているのか、頬を赤らめて、まりなさんはそう尋ねてきた。

 

 

大地「そんなことありえないでしょ。こんな野球バカを好きになる奴なんて……その冗句、ホント笑えますね」

まりな「も、もう……! 真剣に考えてよ!」

 

 

まりなさんは、何かにしがみ付くような目で俺を見つめながら、そう告げた。

 

 

真剣に考えろ、と言われてもなぁ……。そんな彼女いない歴=年齢の俺にとっては、ただの悲しい妄想でしかないというのに。

しかし、まりなさんの突き刺すような視線は止まない。

俺はもう一度だけ真面目に考えてみる。

 

 

大地「……告白されてみるまでは、やっぱりわかりませんね」

 

 

そして、俺は一言で締めた。

あまりにも現実味からかけ離れた質問だった故に、俺はまりなさんが満足いくであろう解答を持ち合わせてはいなかったのだ。

 

 

まりな「……大地くんの、バカ」

 

 

まりなさんは唇を尖らせて、不貞腐れるように視線を逸らした。

 

 

大地「なんでまりなさんがキレてるんですか?」

まりな「ホント、大地くんなんて知らないっ!」

 

 

まりなさんは不満を隠そうともせずに、大声で言った。

 

 

大地「……つまり。なんで俺が怒られてるんですか?」

 

 

俺が首を傾げて問いかけると、

 

 

まりな「……自分で考えてよ、鈍感」

 

 

何故だか怒りに顔を赤く染め上げたまりなさんは、そう答えたのだった。

 

 

俺にはその言葉の真意を掴むことはできなかったが、目頭に涙を溜めて残りのチョココロネを頬張るまりなさんを見ていると、どうにも尋ねることが出来なかった。

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