Stand in place!   作:KAMITHUNI

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番外編です!
この話を読まなくても、本編には全く影響はありません!


番外編
番外編1話 咲山大地のバイト! 前編


─────4/24(金) 羽丘高校 屋上 AM13:05─────

 

大地「─────みんなに、大切な話がある……」

 

そう口火を切ったのは、本作主人公の咲山大地である。

身長176㎝ 体重65kgの男子高校生の標準的な身体つきで、目元が鋭いので周りから怖がられるケースも少なくはないが、よく見ると整っているルックスと、野球での活躍ぶりから学園内の美女等から一目置かれる存在でもあり、羽丘高校に在校する男の妬みの元凶でもある男子高校生だ。

 

欠点としては、尊敬に値しないと判断した場合には目上の方だとしても邪険に扱ったり……。

 

野球に対してストイックすぎるあまりに自身の身体を労らずに暴走したり……。

 

マルチタスクの使用多寡により、別人の様に『幼く』なる『幼稚化』になって、周りに甘えたり(主に友紀那)……etcetc.

 

兎に角、無意識に人を心配&迷惑をかける厄介者な所である。

 

そんな彼が、屋上で満喫する昼食時に『大切な話がある』と真剣な様相を見せてきた。

当然反応としては────。

 

全員『はい? なんて言った? 最近耳が遠くて聞こえませーん!』

 

─────と、なるに決まっていた。

 

ミスター厄介者が『大切な話』をしたい……とっても嫌な予感しかしないのだ。だから当然、この場にいるAfterglowに空を含めた全員は必殺の『最近耳が遠くて聞こえませーん!』を発動させて、この場を乗り切る方針を瞬時に組み立てて実行した。

 

結果……

 

大地「────全員、耳鼻科行けや。耳は大事だろ。特にAfterglow面々は音楽活動に従事するなら尚更な!」

 

─────ガチの心配をされた。

 

─────

 

空「─────え? バイトを探してる? whoが?」

 

大地「日本語不自由止めろ。誰って俺に決まってんだろ?」

 

蘭「……咲山、大丈夫? 熱あるの? 病院行った方がいいんじゃないの?」

 

大地「は? 俺は正常だ。病院に行く意味が分からんのだが……」

 

蘭「だって、野球と御飯以外に興味を示さないロクデナシの咲山がバイトを探してるなんて……病気以外に考えられない」

 

大地「なんで俺がバイト探してるって言っただけで、そこまで言われなくちゃならないんだ……! テメェらは、一体普段から俺の事をどう見てんだ!?」

 

空「勉強できるバカ」

 

蘭「空前絶後の鈍感男子」

 

つぐみ「優しい野球オタク」

 

巴「身体能力オバケ」

 

ひまり「鋭眼番長系イケメン!」

 

モカ「同胞〜(パン大食い仲間)」

 

大地「よし分かった! 全員表でろや!! O・HA・NA・SI☆ してやるからよ!」

 

全員『わぁ! 逃げろー!』

 

その後は推して知るべし─────。

 

─────

 

話が逸れたが、要するに大地は金が何かと要りようとなったようで、急遽バイトする必要性が出てきたらしい。

ただ、大地の第一優先は野球で勝ち続ける事。それ以外は二の次なので、練習日と練習試合が被っていない日にしかバイトを入れられないのだ。

 

そうなってくると日雇いのバイトなどに絞られるのだが……。

 

大地「─────なんせ、日雇いのバイトで高校生を雇ってくれるような所がなくてな? ちょっと困り果ててる訳だわ」

 

困り顔を浮かべて、自作した弁当の唐揚げを一口かじる。

冷めてはいるが、火の通し方が良かったのか、肉汁が閉じこもって口で弾けて旨味が充満した。自画自賛したい唐揚げに舌鼓をうちつつ周りに視線を配る。

 

モカ「そっかぁ〜。それでぇ〜、サッキーは何が必要で、大体どのくらいの額が必要なのかなぁ〜? このモカちゃんに行ってみなさーい〜」

 

大地「なんで偉そうなんだよ……額は1万ぐらい足りないかな? まぁ、ちょっとしたプレゼントを贈りたくて、な……」

 

明らかな羞恥に染めた顔に裏があるのではと全員が感潜ったが、それにしては散漫とした空気感に戸惑いを覚えたのは誰でもなく蘭だった。

まるで、大地が恋する青年のような瞳を浮かべているように見えなくもない顔の紅潮具合を浮かべていることに動揺を隠せない。

 

蘭(え?! ちょ、ちょっと待って……!? な、なんで顔を赤くさせてるの!? ま、まさか、好きな子が出来て、その子に告白しながら甘い空気でプレゼントと、か?)

 

ありえない……と一蹴できるわけではなかった。思い当たる節は幾らでもあるのだ。

 

第1、普段から仲良くしている異性は何も蘭だけではない。こうして、取り囲んで食べているAfterglowの面々は勿論の事、異常な程に仲が良い友紀那もいる。

 

他にも、大地を取り囲み隊ならぬ非公式ファンクラブ(蘭は入会しようか悩んだ末に止めた)が存在しており、大凡大地が恋にうつつを抜かしていてもおかしくは無い。なにせ、世間を騒がせる『天地コンビ』の片割れとはいえ、年頃の男子学生なのだ。浮ついた話の一つや二つあっても良いはずだ。

 

最悪の結果に顔を背けたい意識を持ち直して、なんとかお弁当のおかずを口に運び、落ち着きを取り戻そうとする。

 

しかし、次の会話に完全に理性を失うことになる。

 

モカ「ふぅ〜ん。じゃあ〜、サッキーは誰にプレゼントを渡したいの〜? まさか、女の人だったりするのかなぁ〜?」

 

蘭「っ!? ご、ゴホッ……!!」

 

つぐみ「ら、蘭ちゃん!? 大丈夫!? はい! これ、お茶だよ」

 

茶化すようなモカの発言に一瞬、期間は詰まらせそうになった蘭だが、なんとか持ちこたえた。

咽た蘭を心配したつぐみは直ぐにお茶を差し出して

つぐみはやはり天使だ。とは、言わないが、蘭は心の内に秘めておいた。

 

蘭「ず、ズズゥ〜……う、うん……ごめん、ありがとう」

 

つぐみ「よ、よかったぁ……いきなり咽ちゃったからビックリしたよ! 今度は気をつけてね」

 

蘭「う、うん……ほんとにありがと」

 

天使の笑みを向けられて、たじろぐものの、落ち着いてきたのも事実。

冷静に考えれば、大地が女に目を奪われる光景など思い浮かばない。

結局、彼は野球にストイックすぎるが故に、周りの好意など気にはしていないのだ。つまるところ、恋愛に興味がない。

安堵を浮かべる。

 

しかし、蘭のそんな心情などいざ知らず、大地から放たれる爆弾発言に待ったは、かけられない。

それは蘭をノックアウトするには十分すぎるボディーブローであった。

 

大地「────まぁ……確かに女子だな」

 

空「マジか……」

 

モカ「へ〜! サッキーも中々のプレイボーイだったんだねぇ〜」

 

ひまり「きゃぁぁ!!! 誰々!? そのお相手は誰なの!?」

 

大地「えらく熱狂的だな……! だが、青葉の言ったプレイボーイは全力で否定させてもらおう!」

 

巴「咲山も中々隅に置けないな!」

 

大地「? そうか? 別に、気にしてる相手にプレゼント贈ることぐらい普通じゃないのか?」

 

一同『キャァァ\(//∇//)\』

 

蘭「ブフゥゥゥゥゥゥーーーーッッ!!!!!」

 

つぐみ「ら、蘭ちゃん!?!?」

 

空「こ、これが色めき立つ今頃女子達の悲鳴か……! な、何て圧力ッ!? この戦闘力は─────!?」

 

大地「自分で言うのも何だが、なんなんだこの状況は─────?」

 

阿鼻叫喚な魔境と化した昼上がりの屋上で、蘭は初めて臨死体験を経験したとさ。

 

大地「─────結局、バイトの話はどうなったんだよ!?」

 

当然、バイトの話は一切纏まらずに昼休みは終わった。

 

 

─────時は流れて、4/26(日) 午前8:30に移る。

 

カランカラン……。

 

大地「……お、おじゃましまーす」

 

控えめな挨拶を添えて、ヒョッコリと開店前の珈琲店の少し軽い扉を開けて、顔を覗かせて中の様子を伺う少年。一見不審者に感じる彼の正体は常に目つきの悪い咲山大地だ。

 

本人がコンプレックスだと自覚するに至るほどの眼力で、周りからは何人殺めてきたのか? と入学してから3回程尋ねられたという、あらぬ疑いをかけられた経歴を持つ、何かと学園内で盛り上がる人物である。

 

そんな彼が最初に感じたのは濃く染み付いたコーヒーの香りと、綺麗に装飾された店内の落着した雰囲気だった。

 

店内に入り、あまりカフェや珈琲店に立ち寄ることのない大地にとっては目新しいものばかりで辺りを見渡してしまい、視線が散漫としていた。

 

大地「……はっ!」

 

落ち着きのない所作だが、本日の予定を思い出して直ぐに気持ちを入れ替える。

 

今日は別にお客として来ているわけではない。

中をじっくり観察するのはまた今度にして、弛緩していた気を引き締め直した。

 

つぐみ「あ! 咲山君! もう来てくれたんだ。今日はよろしくお願いします」

 

黒のエプロンを身につけて、いつもとは違う微笑ましさを持つ天使(つぐみ)がパタパタと笑顔を浮かべながら近づいてくる。

 

大地「結っ────構! 早く起きちまってなぁ!! はは!! 遅れるよりかはマシかと思って、予定より若干早い時間に来たんだ! 此方こそ宜しく頼む!」

 

つぐみ「? そうなんだ」

 

アッブネェ!!

内心ヒヤヒヤな大地。先程、とんでもないことを口走りそうになって、理性で必死に抑え込んだようだが、つぐみの背後から見える眼光の主人は彼の不審な行動に気がついている。

それを察している大地も、背中に寒気を感じる事を禁じ得なかった。

 

大地(にしても、似合っているな……一瞬、理性がぶっ飛んで『結婚しよう』とか口走るところだった。ふぅ、危ねぇ危ねぇ……」

 

つぐみ「へ?///」

 

大地「ん?」

 

顔を真っ赤にしたつぐみの反応をおかしくなった大地。どうやら、自分の失言に気がついていないようで、首をかしげている。

が、直ぐに思い当たったらしく、血の気がサーと引いていく。

更に、先程までつぐみの後ろにいたはずのつぐみ父の気配がいつのまにか背後から発せられ─────

 

ガシッ!

 

─────物凄い力で肩を掴まれた。

そして、油の入れていたい機械の如くノロマに首を動かしてみると……。

 

大地「ひっ!?」

 

つぐみパパ「おい小僧……ちょっと表出ろや」

 

……鬼神がいた。

 

この時、咲山大地は人生で初めての『死』を身近に感じた。

 

─────

 

そもそも、大地が羽沢珈琲店に開店前に来たのには明確な理由がある。

そう、お気付きかもしれないが、バイトである。

Afterglow面々に相談したが、昼休みは結局カオスに終わってしまったので、いつのまにか流れてしまった。

 

しかし、つぐみは大地のバイトの話を覚えており、それを父と母に相談したところ、丁度日曜日に空きが出来てウェイトレスを探していた。

それを大地に伝えたところ、バイト先を急募していた大地は二つ返事で了承し、つぐみに泣きつきながら感謝し、日曜日にバイトが埋まった。

 

が、つぐみ父は空いたシフトに入ってくる相手が男だとは聞いていなかったらしく、当日になって男子だと判明。

当然、一人娘に引っ付く悪い虫ではないかと、警戒心を全開にして出迎えた。

 

さらに、間の悪い事に大地が口を滑らして、愛娘に向けて『結婚しよう』発言。

その時点で、彼の導火線は点火した。

 

つぐみパパ「……さぁて、覚悟はできてんだろうなぁ〜!」ボキパキッ!

 

大地「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません……!!」

 

つぐみパパ「謝って許されるはずなんてないよな〜!! わかってんだろっ!!? あ!?」

 

つぐみ「お、お父さん! 落ち着いて! 咲山君だって本気で言ったわけじゃ───」

 

つぐみパパ「本気じゃないぃ!? ふざけるなぁ!! ウチの愛娘とは遊びだったとでもいうのかぁ!? この小童め!! やはり成敗してやる!!」

 

大地「ギャァァァァァァァ!!」

 

つぐみパパのスコーピオンデスロック!

 

大地には効果はばつぐんだ!!

 

つぐみ母「あらあら。貴方ったら、朝から張り切りすぎですよ……今日は赤飯かしらね? つぐみ」

 

つぐみ「お、お母さんまで茶化さないで///! なんとかお父さんをなだめてよ!」

 

つぐみ母「ふふ。そんなこと言って、満更でもない癖にぃ〜! きゃっ!! 若いっていいわねぇ〜」

 

つぐみ「もう! お母さんっ///!!」

 

つぐみパパ「娘を誑かした不届き者めぇ!! 抹殺してくれるぅ!!!」

 

大地「ギブギブギブゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

本日の羽沢珈琲店はいつもとは違う空気で開店を迎える事になりそうだった。

 

 

─────PM8:50

 

大地「ふぅ……死ぬかと思った……」

 

なんとか宥めることに成功した俺は、そのまま流れのままに更衣室で制服を着替えさせられることになり、絶賛お着替え中である。

軽く痛んだ足腰だが、時間が経つにつれて痺れもひいてはきているので、問題はない。

 

問題があるとすれば……。

 

大地(宥めたとはいえ、完璧に誤解されたままだよな……)

 

『結婚しよう』事件……あれは思ってもその場に流されて言ってはいけないワードである。

下手をすれば血を見ることになるし、その後、羽沢父には警戒の眼差しを向けられるし、羽沢母には暖かい目で見られるしでてんてこ舞いになる。

まだ働いてもいないのに、既に精神的疲労はMAXだ。

 

さらには、付き合ってもいないのに『遊び』だの『いつ入籍』だの、多大な誤解を生んだままで頭を抱え込んでしまうな。

野球で難敵相手にリードを組み立てることよりシンドイものだ。

 

あの羽沢さんの両親だっていうから、優しい方々なんだろうけど、まさかここまで一癖二癖ある人たちだとは思わなかった……。

 

大地「……まぁ、ボヤいてても仕方がない。切り替えていこう!」

 

そうだ。俺は働かせてもらう身! なら、ボヤいたり嘆いたりしても仕方のない事。切り替えて働く事に意識を持って行こう!

 

思考をリセットして、目の前にある制服を着用する為に上を脱ぎシャツを羽織ろうとした時─────。

 

コンコンコン……。

 

つぐみ『咲山君、着替え終わったかな?』

 

大地「いや、今からシャツを羽織るところだ。何かあった?」

 

つぐみ『ううん。サイズは合ってると思うけど、間違ってたら新しいの持ってくるからその為の確認をしたかっただけ。あ! あと、お店のメニューも一応、頭に入れておいてもらったと思うけど、後で確認するからよろしくね』

 

大地「了解した。んじゃ、もうちょい待っててくれ。すぐ着替え終わるから」

 

快活な声な事だ。さっきのやり取りを全く気にしていない様である。

これなら、彼女が店に支障をきたす事はないだろう。

美竹に一度だけ聞いた話だと、羽沢さんは頑張り屋さんが過ぎるらしい。一度、『つぐる』という造語が出来上がるほどの過労を繰り返して倒れた事があったらしい。

 

その時、みんなに心配をかけてしまったので、今ではマシになったものの、やはり根本は変えられないようで、すこし頑張りの加減を知らないらしい。

 

そうなってくると、彼女に苦労を押し付けるのは極力避けた方がいいだろう。なんとしても、自分の力を全力で使って、今日という日を乗り切る必要がある。

 

それぐらいの気概がなければ、御給金が貰えるとは思わない方がいいだろう……。

本当は貰えるかもしれないが、それは俺の信条に反する。

仕事をするなら、完璧にこなしてこそ。

誰かに頼るのは構わないが、迷惑をかけない。

それこそ、俺のポリシー。

 

大地「さぁ、いこうか」

 

着替えを済ませて、白く綺麗に仕立てられたワイシャツの上に、黒生地のエプロンを見に纏って、いざ戦場に出陣する!

 

─────PM10:30

 

大地「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか?」

 

女性客1「……え? あ、ふ、2人で、す///」

 

大地「2名様でございますね。今すぐ御案内致しますので、此方にどうぞ」

 

─────

 

女性客2「すいませーん! 注文お願いしまーす!」

 

大地「はい。お伺いさせていただきます」

 

女性客2「えっと、私はブランドのアイスコーヒーと、このチーズケーキを一つで……」

 

男性客「僕は、カフェラテとショートケーキをお願いします」

 

大地「アイスコーヒーにミルクはお付けしましょうか? 女性客「あ、お願いします」はい。承知いたしました。ご注文の程は以上でよろしかったでしょうか?」

 

女性客2「はい」

 

大地「承知しました。では、ご確認させていただきます。ブランドのアイスコーヒーがお一つ、チーズケーキをお一つ、カフェラテをお一つ、ショートケーキをお一つで宜しかったでしょうか?」

 

男性客「はい。合っています」

 

大地「ありがとうございます。それでは、少々お待ちください」

 

─────

 

大地「お待たせいたしました。御注文いただきましたダージリン・ティーとガトーショコラで御座います。ご注文は以上でお間違い無いでしょうか?」

 

初老の女性「────えぇ、間違い無いわ。ありがとう」

 

大地「いえ。それでは、御ゆっくりとお過ごしくださいませ」

 

─────

 

子供「わぁぁぁん!!」

 

女性客3「しぃー! ユカ、静かにしなさい」

 

子供「ヤダヤダァァァ!!」

 

大地「羽沢さん。一瞬だけホール任せてもいい?」

 

つぐみ「え? う、うん。大丈夫だよ」

 

子供「ウワァァ!!」

 

女性客3「困ったわねー。どうしたものかしら……」

 

─────

 

大地「お母様、そちらのカフェラテを少し貸していただいてもよろしいでしょうか? 特別にラテアートを描かせていただきますね」

 

女性客3「え?!」

 

大地「お嬢ちゃん、このラテを見てご覧」シュパパパッ!!

 

子供「ひぐっ……ズズ〜……み、っしぇる?」

 

大地「そうそう。(……この熊、ミッシェルって言うのか。丁度今日見かけてきただけで、知らなかった)んで、これを─────ササッと!!」シュパパパパパッッ!!

 

子供「わぁ!!」

 

ジャジャーンッ!!

 

大地「完成っ!! 『ユカちゃんとミッシェルの手繋ぎラテアート☆』!!」

 

子供「凄い凄いッ!! お兄ちゃんすご〜い!!」

 

大地「それと、これがラテアートじゃなくて、写真で撮ったヤツな。だから、崩しちゃっても大丈夫だぞ」

 

子供「やったー!!」

 

女性客3「態々、娘の為にありがとうございます!」

 

大地「いえいえ、結構ですよ。僕が勝手に首を突っ込んだだけですので───それでは、ごゆっくりお寛ぎになってください」

 

─────

 

つぐみ父「ググッ……!!」

 

つぐみ父は唇を噛み締めながら、鬼の形相を浮かべて視線を完璧に仕事をこなす大地へと向ける。

経歴ではバイト経験無しということだったが、明らかに手慣れている。

たしかに、細かいミスはある。あるが、本当に些細なもので、それこそミスしていないも同然だ。

接客時の気遣いが多少欠けているように感じるが、それも静かな珈琲店では際立たない。

 

帰るお客様に対する挨拶もきちんとこなし、空いた席の食器やカップを片付けて、テーブルを拭く。その行動の一つ一つが洗練されているかの様に繊細に、そしてスピーディーに執り行われている。

 

それだけではない。先ほどの少女に向けて描いたラテアート。

あれは、修練して、漸く描ける技術で、初心者ではまず間違い無く失敗する代物だった。

だが、あろうことか少年は平然とやってのけた。それも、物の数秒でだ。

 

技術を盗むにしたって、吸収力が異常すぎる。

真似て出来るレベルをとっくに超えてしまったラテアートを見たときには、空いた口が塞がらなかったものだと、つぐみ父は珍しく敗北を認めてしまった。

 

そしてそれは、つぐみにも感じていたことであった。

 

客が引いてきた時間帯につぐみは思い切って完璧な仕事をこなす大地に尋ねてみることにした。

 

つぐみ「……さ、咲山君」

 

大地「ん? なんだ、羽沢さん。2番テーブルの片付けならやっといたから、気にしなくてもいいぞ」

 

つぐみ「ううん。そうじゃなくてね。その……さっき披露してたラテアートって練習してたの?」

 

大地「……まぁな、趣味がてらやってたらなんか上手くなっちゃったんだ。上手くいってたろ?」

 

つぐみ「そうなんだ。凄く上手だからびっくりしちゃった! もしかしたら、お父さんよりも上手かも!」

 

つぐみ父「ガーンッ!!」

 

愛娘が何処の馬とも知れない男を自分と比較して褒める……非常に複雑な心境に陥ったつぐみパパ……四つん這いになって更なる敗北感に襲われる。

それをつぐみママが優しく宥める姿が大地の視線の端に写っていた。

 

……言えない。

 

大地が言った言葉……あれは嘘である。

本当は、『マルチタスク』を使用して、つぐみ父がラテアートを作っている工程を仕事をこなしながら俯瞰し、その工程を最適化していき、余分な工程をカットするを脳内で繰り返し行う。

 

それを経験値に変えて行き、最後には完璧にこなせる形に持っていく。

 

『マルチタスク』を持っているが故の神業だということ。

その為、『マルチタスカー』だと悟らせぬようにして嘘をついたのだ。

 

バレるわけにはいかん!

『マルチタスク』がバレれば、軽蔑されるかもしれないという恐怖心が何処かにあるが故の嘘だった。

 

カランカラン……。

 

そう思い耽っていると、店の扉が開く音がした。

大地とつぐみは話を切り上げて、お客を出迎える事にした。

 

大地「いらっしゃいませ。何名様……で、しょうか……」

 

リサ「あ、2名なんだけど、いける……かな……」

 

友紀那「どうしたのリ、サ……」

 

 

大地・リサ・友紀那『……えぇぇええ!!?!?』

 

羽沢珈琲店でのバイトは未だ未だ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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