クリスマス気分は一切ない!
あ、前書き書いているときにクリスマスが終わった。
別に言わなくても良い!
???「……起きなさい。起きて、大地」
微睡む意識の中、凛と透き通った声音と緩やかな揺さぶりが覚醒を誘う。目蓋裏に射し込む薄らとした明かりが、既に窓のカーテンを開けており、忌々しさすら覚える朝日が照らしているのだと分かった。
??「……俺は起きねぇからよ、オマエらが起こしに来る限り、その先で俺は寝続ける。だからよ、起こしにくんじゃねぇぞ─────」
???「ネタに走ってもダメよ。せっかく作った朝食が冷めてしまうわ」
太陽光を受け入れたくない意思の現れか、蓑虫のように布団に包まって、目覚めることに抵抗を示している。それを今現在、実践中であるのは、この家の主である青年─────咲山大地だ。そして、そんな大地に困ったような微笑を浮かべて、それでも長閑に起床を促しているのは、三年前に大地と入籍した最愛にして最高の歌姫─────友希那である。
友希那は大地が眠りについているベッドの傍に腰を掛けると、丸まっている大地の黒髪を優しくふんわりと撫でた。細く嫋やかな指先が、大地の髪を穏やかに梳く。そして、慈愛が満ちたように目を細めると、そっと大地の口元へ唇を堕とした。
友希那「ん……」
大地「……むっ」
小さくも甘艶な水音がチュッと鳴り、大地と友希那が同時に反応する。大地が反応を示してくれたのが嬉しいのか、友希那は益々と目を優しいものに変えると、今度ははむっとついばむように、大地の唇を貪る。再び、ビクッと反応する大地。
友希那「はむっ、ん……んん……」
大地「んむっ……ぷぁっ!」
ちゅぱっと唇を離した二人。
そして湿り気を帯びた唇を撫で回すように艶美に舌舐めずりした友希那は、熱い吐息を大地に吹きかけながら言った。
友希那「起きないのなら……私が貴方を朝食にして頂くわ」
大地「……起きるよ」
友希那「今一瞬だけ間があったわよ」
大地「気のせいだ」
非常に素敵なお誘いに戸惑いを覚えたが、御近所には大地の同僚のほか、友希那以外のRoseliaメンバーも、そして愛の結晶である娘もいるのだ。朝から盛りのついた行為で恋のABC、最高難度のCをしていては、色々な意味で大変な目にあう。特に、ご近所様のあらまぁ的な酒の肴にされては堪ったものではない。故に、ささっと布団を退けて身体を起こす大地。
大地「おはよ。ユキ」
友希那「……えぇ。おはよう、大地」
ぴょこぴょこ跳ねた大地の寝癖を、友希那が甲斐甲斐しく手櫛で治そうと手を伸ばし、髪を梳いていく。朝から甘ったるい空気が充満し、心なしか、二人の周囲はピンク色のもやが立ち込めているように思える。燦々と射し込んでいたはずの陽光ですら、ブラックコーヒーでも飲みたくなったのか、二人に遠慮するように淡くなったような気がする。
プレーシーズン中、最前線で戦っていた頃からは考えられない、のぼぉ〜とした寝惚顔を晒す大地は、自身を愛でてくれる眼前の良妻に目を細めた。ついで、視線をゆっくりと周囲に向ける。
部屋の中は、八割方が野球関連のトレーニング器具や資料で埋れており、その合間に小型テレビを備え付けたデスクと、ゲームチェアーがあった。窓は東側に面した壁に長方形に張ってあり、青色のカーテンがかかっている。
大地(……未だに“慣れない”って感じるのは、プロに入ってからの経験が濃すぎたせいだよな。オフシーズンに入ってからこの調子だと、慣れる日なんて来ないかもなぁ)
大地は内心でため息を溢す。そして、確かめるように右手親指に付いた手術痕部位をぐっぱぐっぱとする。その手に残った痕は己の未熟さを現す証。
プロシーズン一年目、シーズン最終日。クライマックスシリーズの最終枠を争う大事な試合でスタメンマスクを任された大地は、その試合で相手のファールチップを右手親指の付け根に直撃させてしまい、その後、プレー続行が不可能になりプレーオフまで病室や寮での暮らしが頻繁になった。チームは最終戦を落とし、4位に転落。クライマックスシリーズを逃した。
その時の傷は、気を配れば防げたものであり、自身の慢心が招いた不始末だった。故に、大地にとっての忌々しくも己を律するために必要不可欠な残痕だった。
友希那「? 大地、どうかしたの? 何か違和感でもあった?」
友希那が大地の様子に気がついて、鼻先が触れ合いそうなほどに顔を寄せつけながら心配そうな目で覗き込む。鼻腔を擽る甘く透き通った香りと、どこまでも清廉で油断すれば全てを呑み込まれてしまいかねない楊梅色の瞳に、大地は見惚れながら首を振る。
大地「いや、なんでもないよ。一年目の怪我に違和感なんてない。ユキ達のお陰で、体調も、心の調律も頗る調子がいい。病院側からも特に問題なしって言われてるしな。どっちかといえば、平和すぎるのが違和感かな」
友希那「……? 今の生活に違和感があるの?」
大地「まぁな。プロの世界に入って4年目だけど、濃厚な時間を過ごしてきたからな。バットも、ボールも、ミットも全部が俺だった。だから、こう何もない日々って言うのが、なんか実感が湧かなくてな」
苦笑いしながら、大地は右手をスッと友希那の頭に伸ばして、優しく撫でる。バットを毎日振り続けてマメだらけになった硬質な掌からは、穏やかな温もりが流れ込み、その奥にある愛の熱を感じさせてくれる。
友希那「ん……。私は、こうして温もりを分け与えてくれる大地も堪能できるから、好きよ。大好き」
友希那はそう言って、大地の左頬、右頬、額、そして唇とキスを見舞っていった。行動の一つ一つに込める愛の膨大さが彼等の在り方を示し出している。
あの日、プロとして一流の証である首位打者、本塁打王、打点王、ゴールデングラブ賞、ベストナイン、MVPに選出された偉業を達成し、同時に友希那達が、メジャー進出を成してから初めての全国ツアーライブ。その始まりの場所、武道館で大地が急遽サプライズ登場して、友希那が公開プロポーズされた日から、友希那の愛情表現はダイアモンドの精巧過程もビックリするほどの磨き上げっぷりだった。その左手薬指にはまった青薔薇の装飾がなされたサファイアの指輪が外されたところは見たことがなく、大地の左手薬指にはまったお揃いの指輪を眺めて、ほぅと幸せな溜息を溢しまくっている。
大地「そういうユキはどうだ? もうじき、新曲のレコーディングが始まるって聞いたけど、プロとしての生活には慣れたか?」
友希那「そうね。まだ知らない、慣れないことは多いわ。本当に、今までやってきたライブとは全く違う世界だもの……。けれど、それを含めて楽しいわ」
大地「そっか」
友希那「えぇ。それに、大地のいるところなら何処でも幸せよ。Roseliaメンバーもいて、大地の同僚の人たちも凄く優しい。優しすぎて、ちょっとお父さんを思い出しちゃうぐらいには幸せよ。大地との生活は、幸せがいっぱいね」
大地「そ、そかー……。な、なんか、朝から暑いなー」
友希那「ふふ。冬なのに、おかしな旦那様ね」
愛情の165キロストレートをハートに喰らった大地は照れて視線を彷徨わせる。そんな大地の本心を見抜ける友希那は華やぐ微笑みを浮かべて、ネコのように擦り寄った。大地の手が条件反射で友希那のサラリとした銀髪を優しく撫でる。
朝から糖度が濃い空気が二人の世界に蔓延する。友希那が愛らしい目蓋をスッと降ろし、薄桃色の唇を、顎をクイっと上げて、大地の眼前にさし出す。明らかな誘惑に、大地の心はあっさりと射止められた。そのまま顔を近づけて……
??「ママ〜! パパはまだ起きないのぉ?!」
バンッ! と激しく、壊しかねない勢いで部屋の扉を開けてプンプン怒りながら入ってきたのは、長い黒髪が特徴的な三歳くらいの女の子。大地と友希那の娘である優奈だ。楊梅色の切れ長の瞳と、真っ直ぐに伸びた長髪の黒髪を携え、幼女ながらに美少女だと思わせるに十分な相貌を持っている。
その優奈は、部屋に突入した際のお約束ごとに「あぁ!!」と抗議の声を上げた。
優奈「またママとパパがユウナに隠れて“いちゃいちゃ”してた〜!! 隠れてもうやらないって、ママとお約束したのにぃ〜! どうして守れないの!?」
友希那「ぅ……けど、それは大地が……」
優奈「人のせいにしたら、メッだよ!」
友希那「……ぇ、えぇ……ごめんなさい」
自分の娘にこっぴどく叱られた友希那は、母親としての立場無く悄然と俯く。
新居を建てて、約半年。最近、感受性が豊かに育ち始めた優奈は随分と自我を見せるようになってきた。大地が絡むと、何も見えなくなるダメダメな母親を、今のように嗜める光景は度々見られる。
実は、優奈には周囲の同じ年頃の子供達に溶け込めやすくするために、半年前ほどから保育園に通わせているのだが、そこで、どうやら親心が芽生えたらしい。
年齢的には年少組だろうが、優奈は普通の幼児というには、なんとも濃密すぎる日々を送っている。両親共に奇有な職業についているというのが大きいのだろう。片や、プロ野球界きっての最高峰選手。片や、メジャーデビューを果たし、絶賛人気急上昇中のハイレベルバンドのボーカル兼リーダー。そんな二人のもとで育てば、他の子供達はさぞかし幼稚に見えただろう。
その上、同居し、同時に敬愛するお姉さんを真似て、他の児童達の世話を焼いて……いつのまにか、崇め奉られていたらしい。
ただ、児童達と勝負事で遊んでいるときに「勝ち続けること! その過程に全国制覇だよ!」や、泣きじゃくる子に「頂点に狂い咲けば、泣くことなんてないよ!」と励ましたり、怖がっている子達には目付きを細めて凛と笑ったりと、わりかし児童離れした言動の節々が見られて保育士から連絡が来たりするのだが……その連絡を受けた、現役プロ夫妻は顔を真っ赤にして茹っていたことだけは言うまでもないだろう。
大地「ごめんな、優奈。ほら、もう起きるよ」
音楽に関しては、絶対的な貫禄を持つ友希那が、優奈に叱られてガチで凹んでいるのを尻目に、布団から出る。優奈は大地の行動に、満足そうな顔で頷き、さっと両手を広げた。
大地「……なんだ? その手は?」
優奈「パパー、抱っこー!」
スワッ! グリンッ! と、目の据わった友希那が一気にこちらへ振り返る。怖い。思わず叫びを上げてしまっても仕方がないレベルの恐怖が全身に迸った。
さっきまで友希那を叱っていたくせに、今や一端の園児を取り繕って、甘え役を演じる優奈。友希那のハイライトの消えた瞳が、明らかに「この子……出来る!」と大人としてどうなのかというレベルでライバル心を剥き出しにしていた。
それに対して、優奈は大人(?)の余裕を見せつけるが如く、可憐に微笑って言った。
優奈「リサお姉ちゃんが、『友希那ママがパパからどいたら、すかさず抱きついちゃえ☆』って言ってた!」
友希那「……ちょっとリサとケリをしてくるわ。大地、優奈のことはお願いね?」
大地「お、おう……」
友希那はキッと目を鋭利に変えて、直後、オトナモードに変貌した。そして、実娘にオンナがいずれ立ち入る戦場の心得を教えたライバル兼バンド仲間兼幼馴染に一言言ってやるために、清洌に、されど疾く部屋を出ていった。
そして、後に残った大地は、抱っこアピールを続ける愛娘に慄く。この娘は、全てにおいて確実に幼児の域を超えている。これから先、音楽技術の高いRoseliaメンバーや、一癖も二癖もある同僚の教授を受けた実娘が、一体どんな成長を成し遂げるのか……。
優奈「パパ!! 早く抱っこ〜!」
大地「……おうよ」
キャッキャっと微笑いながら、年相応の愛らしい要求をする優奈を、大地は強張った表情で優奈を抱え込み、部屋外から聞こえる喧騒を耳に入れながら部屋を出るのだった。
優奈を肩車してリビングにやってきた大地が先ず目にしたのは、友希那が同居人一号であるRoseliaのお母さんこと、リサにブーブーと文句を垂れている光景だった。それに対して、栗色でポニーテールの髪と、ギャルっぽい風貌を晒すリサは、いつものコミュ力お化けとしての実力を遺憾無く発揮して、受け流している─────ようにみえて、少し狼狽しているようだった。
キリッとした佇まいの友希那が相手だと、さすがのオカンポジションを確実なものにしているリサでも部が悪いらしい。もう二十年来の付き合いだというのに、未だに、芯の篭った瞳で見つめられるのは落ち着かない気分になるらしい。恐るべし、スーパー歌姫。
紗夜「あら、やっと起きてきたんですね、大地さん」
燐子「やっぱり……友希那さんに、起こしてもらうのは……無理かも、しれませんね」
あこ「うん! あこもそう思うー!!」
朝食の手伝いをしていた紗夜と燐子が苦笑いでそんなこと言って、ソファーで漫画を読んでいたあこも振り返って同意する。
由美「そんなこと言って、三人とも自分が大地を起こしに行くってなったら既成事実最高ッとかいいながら飛びつくんじゃないの? 冗談だけど」
紗夜「……やりませんよ?」
由美「なぜ一拍開けた。そして目を見て言え」
燐子「やりますよ?」
由美「せめて否定しろ」
あこ「既成事実って言葉、よくなーい?」
由美「よくないからね!」
台所から朝食用のサラダを配膳してきて早々にテンポ良くツッコミを入れたのは、赤髪の美女……鳴沢由美だ。由美は元羽丘高等学校野球部のマネージャーで、今は実力派バンドRoseliaを陰ながらに支える有能ウーマンであるため、朝早くから大地達の衣食住を支えている。
そこに、普段から家庭的なリサと、生真面目な紗夜と、手助けする燐子がいるので然程大変と思ったことはないのだとか……
雄介「ふぁぁ……おはよー。みんな、早いなぁ……。けど、華があっていいな。うんうん! この暮らしが始まって、もう半年になるけど、ホームに女性陣がいるってだけで心躍るよなぁ!! よくぞこの家を買ったな、大地!! 流石は日本の主砲だ!!」
大地「ニコニコ顔は変わらずだな、雄介。そして、友希那達をみてニマニマするな。ブン殴るぞ、ドアホ」
恒星「今日も元気なハーモニーを奏でているねぇ。やぁ、元気にしているみたいで何よりだ」
大地「そうっすか。それはいいんですけど、朝っぱらから上半身裸で出てくるの、いい加減やめてください。そのうち、その格好で外に追い出しますよ」
俺は猛烈に昂っている! 野郎は由美の兄である鳴沢雄介で、精巧に鍛え上げられた筋肉質な上半身を半裸で披露する長身男性は萩沼恒星だ。ここに面倒臭そうな表情で愛娘を愛でる大地を含めた三人は、今現在、幕張シャルマリーンズに所属する現役プロ野球選手達である。
雄介は、今季、大卒一年目。ドラフトは1位指名。左腕から繰り出される最速152キロのストレートを軸に変化球を交える超本格派ルーキーとして期待され、その前評判通りに躍動。ルーキーイヤーでいきなり十二勝をマークし、防御率も二点台と安定感を示した。
そして、萩沼恒星は、高卒七年目。当時のドラフト記録である最多10球団指名を受けた怪物右腕。長身195センチから放たれる剛速球の最速は162キロ。脅威的な縦スラ、横スラ、フォークといった鋭利すぎる変化球を投げる大型右腕として、一年目からプロのバッターを翻弄してきた。四球癖はあるが、それでもあまりある奪三振率が魅力的な選手だ。勝利数は十五、防御率は三点台と及第点だ。
これに加えて、大地と同期入団した当時のドラフト二位に選ばれた我妻矢来を含めた三人が、現在の幕張三本柱と呼ばれる最強のローテーション陣だ。
雄介「部屋にもまだ余裕があるし、矢来君もここに住めば良かったのにね」
恒星「ほんとだよ。もったいない」
大地「アンタらにそれを決める権利はない! てか、勝手に住み着きやがって……! ちょっとは居候らしく、身の回りの手伝いとかしてくんないですかね?!」
雄介・恒星『するわけねぇじゃん!』
大地「アンタら、ほんとド畜生だな!」
この家を建てた際に、Roseliaの練習場として役立ててほしい。と言って、建築会社の方に無理言って、防音完備の地下部屋を作って貰ったのだが、なぜかこうして、周りの人達が住み着き始める事態に発展していた。なぜに? と、大地も友希那も思っていたが、優奈が楽しそうに過ごしているのをみて、何も言えなくなってしまったのは記憶に新しい。
もはや、今更追い返す気にもなれないので、家賃だけは頂いている状況ではある。
優奈「パパー、ユウナ知ってるよー。こういう人たちのことを、クズっていうんでしょ?」
大地「おいまて、優奈……それは正しいが、そんな汚い言葉どこで覚えてきたんだ!?」
恒星「驚くところはそこじゃないと思うのだけど、というか肯定しないでくれよ!」
雄介「……優奈ちゃん、エグい。泣きそう」
恒星と雄介が幼女に貶されて傷心し、大地が優奈へ心配そうな態度で問い質せば、優奈は幼女ではあるまじき微笑を浮かべ、「オンナには、言えない“秘密”があったほうがいいでしょう? って、リサお姉ちゃんに教えてもらったの!」と返答する。それに対し、遠耳で聞こえていたリサが「ごめん☆ミ」と、愛らしく舌を出して目を眇めて適当に謝罪した。
リサ「ごめんね! でも、そんな口悪い言葉は教えてないから!! ホントだよ!」
大地「それはわかってますよ。多分、バカ師匠の影響でしょうよ……優奈、ここ最近はずっと河鳥バッティングセンターに通い詰めでしたからね!」
紗夜「確かに、河鳥さんは少々口下手な割に、暴言などは多いですからね。教育上、よろしくはないのは確かです」
優奈「でも、オジちゃん……ちゃんと、パパのスイングの事、教えてくれるいい人だよ!」
大地「……ま、野球に関してだけは認めてるからな。あの人に教われば、野球では間違いないんだが……」
リサ「でも、ここ最近じゃあ友希那の歌も気に入ったみたいじゃん? 寝る前は必ず友希那と一緒にボイトレしてるしね」
優奈はここ最近、両親である大地と友希那の影響か、よく二人の真似をするようになった。親の背を見て育つという言葉があるように、優奈もその例をもれない。大地がテレビに映って、ホームランを打つと、次の日は決まってバッティングセンターで小さいながら直向きに特訓し、友希那達が新曲を発表すると必ず、拙いながらもギターを弾きながら歌を懸命に歌っていた。
そんな微笑ましい光景を、愛娘溺愛親馬鹿二人が邪魔などできるはずなどなく、毎度毎度、気恥ずかしながら嬉しそうに見ている。もちろん、片手にビデオカメラは忘れない。
由美「はいはい。お話はお終い! 朝ごはん、食べようね!」
面々が会話を弾ませている間に、大きなダイニングテーブルに和の朝食が並んだ。
ちなみに、言わずともわかってはいると思うが、大地と友希那の稼ぎは一般サラリーマン平均のそれとは一線を画しているので、建設した咲山邸はそれなりに大規模だ。なので、居候が急遽として七人増えたとしても、人口密度がギリギリというわけでもなく、むしろまだまだ余裕がある程である。
もっとも、夫婦間の時間がもっと欲しいという事で、家の増築and防音化が現在進行形で進められており、シーズンインまでには、どこぞの大豪邸と遜色ない……わけではないが、それなりに立派な住宅が完成するだろう。
なお、費用に関しては家賃制で支払ってもらった分から差し引くことはせず、大地と友希那の個人資産のみで建てられている。故に、住み込んでいるRoseliaメンバーや雄介達は、食事代のみの月謝払いだけで済まされており、この夫婦には頭が上がらない状態なのだ。
仮に、少し値段が上がったとしても、二人に文句を言うことはないし、むしろもう少し値上げしてもいいんだよ。と諭吉さんを三枚ほど追加するかもしれない。
それほどに、一人暮らしを余儀なくされ始めてきた彼等にとって、今現在の暮らしは超がつくほどの優良な案件なのだ。
雄介「うん。流石は由美だ。今日のご飯も最高だな! 朝食は味噌汁に限る! わかってるねぇ!」
恒星「大地、僕は嬉しいよ。ルーキーだった君が立派な男になって、今や妻子持ち。しかも僕たちの生活圏を維持してくれるほどまでに成長したんだな……僕から教えることは、もうないね」
大地「そもそも、恒星さんに教えてもらったことは何一つないんですけどね。てか、早よ服着ろ!」
雄介が由美の手料理を大仰に褒めて、恒星がいまだに半裸のままで恩着せがましい口調を送れば、大地は鬱陶しげに返答し、服を着ることを強要する。それに対し、恒星はやれやれと被りを加えて、大地のイライラメーターの底上げを、無意識で催促してきた。
恒星「何を言ってるんだい。君がプロに入団したばかりの頃から、君にはプロ魂を魂入してあげただろ? それはつまり、君のタイトルホルダーとしての道を築いたのは僕であることおかげであると言うわけだ。どうだい? そう考えると、僕にありがたみを感じるだろう?」
大地「俺の野球人生については、大まかに話したことがあると思うんですけも……その中でも、恒星さんはダントツにめんどくさいピッチャー認識なんですが、気のせいですかね?」
入団当初から恒星とバッテリーを組む大地は、意思の疎通を高め合うために己の身の上話を恒星にしている。いくら上手く隠し通しても、いずれそこからバッテリー間では綻びが生じる。だからこそ、誤魔化しあうことのないように、互いの野球人生について語り合ったのだ。
つまり、恒星は大地の一通りの事情を知っているはずで、にもかかわらずそこに自分のおかげだ発言は、あまり納得いかない。
だからこそ、普通に反論するつもりだった大地だったが、瞬間、雄介と恒星が目を合わせて、盛大に悪魔の笑いを浮かべてそれぞれ言った。
恒星「“自分の目標は勝ち続けることです。その先に全国制覇があるなら、もちろん取ります!”」
大地「!?」
雄介「“それでも、俺はオマエから野球を奪ったんだぞ? それを続けてる俺をなんとも思わないことは─────”」
大地「!?!?」
恒星「“湊 友希那さん……ボクは、最強の選手になることだけに身を費やしてきました。けれど、貴女と過ごしていく時間が増していく度に、それ以上に貴女の横に並んで、貴女と共にこの先の長い人生を歩いていきたいと思えるようになりました……ボクと─────”」
大地「わかりました!! 流石は恒星さんと雄介さんだ!! 俺が見てきた中で、トップクラスのピッチャー二人から教わったことは全部身に染みてわかってますとも!! えぇ、感謝してますよ!! ありがとうございます! だからやめてちょっ!!」
悲鳴を上げて顔を真っ赤に身悶える大地。そんな恥芯に駆られる後輩へ、先輩プレイヤーズは容赦なく畳み掛ける。
雄介「おいおい、どうしたんだよ大地。そんなに身悶えちゃって……。いいじゃん別に! カッコいいじゃん! こう、男らしいって言うの? 中々現実では、キリッとした感じで言えないぜ?」
恒星「あこちゃんが君に惹かれるわけだよ。まぁ、君のハートを射止めた相手は違ったみたいだけど……それでも、多くの観客がいる武道館での電撃プロポーズは、痺れたねぇ! 本当にあんなことする人がいるなんてね! まるで恋愛シミュレーションゲームを生配信してるのかと勘違いしちゃったよ! ほんと……」
箸を真っ二つに折ってしまいかねないほどに力を込めた右手を諌めようと努力し、それでも肩の震えが止まらない大地を尻目に、恒星と雄介は合わせでもしていたかと思わせるほどに完璧なタイミングで盛大にハモリながら言った。
恒星・雄介『毎度毎度! 先輩たちへの肴提供、あざまー!!』
大地「うるせぇ!! いい加減にしてくれェェエェェ─────!!」
完璧なシンクロ率でガバリっと頭を下げる恒星と雄介に、赤顔した大地は憤怒の声を上げる。
大地本人から聞いた話だけでなく、内密にRoseliaや、その他のバンドなど……大地との関わりが強い方々から聴衆していた話が予想以上に面白く、よく先輩選手たちと酒を交わす雄介と恒星は、揶揄しながら面白半分でその事を話し、酒の肴に変えていくのだ。
カッ!! と眼を見開き元凶であろうコミュ力お化けを睨む大地。リサがお箸を丁寧に置き、スッと虚空へ眼を逸らした。ダラダラと垂れる冷や汗が隠し切れていないでいる。
あこ「さ、流石は三本エースの二人ですね。最近だと見慣れてきましたけど、やっぱり翻弄され続けるダイ兄ィの違和感半端ないですね!」
友希那「えぇ、そうね。けど……弄られる大地も、良い……!」
紗夜「友希那さん。最近、大地さんのことになら、なんでも良いと仰っていませんか? それと、今井さん。今は食事の席ですよ? ちゃんと礼儀正しく、正面を向いて食べなさい」
リサ「はーい!」
燐子「早く食べないと……冷めちゃいます」
由美「ズズッ……。優奈ちゃん、ご飯おいしい?」
優奈「うん! おいしい!!」
大地らプロ野球勢のやり取りを、あこは失笑し、友希那は頬を赤らめ、紗夜は黙々と食事を取り、リサは何事もなかったかのように正面を向き、燐子は正論を言う。そして、由美は優奈の面倒をしっかりと見てやる。これが、ここ最近の咲山家の日常である。
咲山大地(23)
所属・幕張シャルマリーンズ
ポジション・捕手
今季成績
試合数・143
打率・.387(702ー272)
本塁打・68(歴代1位)
打点・152(歴代2位)
失策・0
盗塁阻止率・.500
鳴沢雄介(24)
所属・幕張シャルマリーンズ
ポジション・投手(先発)
今季成績
登板数・21
勝数・12(負数・5)
奪三振数・121
防御率・2.58(177.2回 自責51)
萩沼恒星(25)
所属・幕張シャルマリーンズ
ポジション・投手(先発)
今季成績
登板数・26
勝数・15(負数・4)
奪三振数・254
防御率・3.58(181.0回 自責72)
我妻矢来(23)
所属・幕張シャルマリーンズ
ポジション・投手(先発・中継ぎ)
今季成績
登板数・32
勝数・11(負数・2)
ホールド数・13
奪三振数・196
防御率・2.14(172.2回 自責41)
結城哲人(24)
所属・東京ツバメーズ
ポジション・一塁手
今季成績
打率・.338(601ー203)
本塁打・21
打点・72
失策・4
成田空(23)
所属・中部ドラヘッズ(今季限りでメジャー移籍。名門の扉を叩く)
ポジション・投手(先発)
今季成績
登板数・25
勝数・23(負数・0)
奪三振数・332
防御率・1.40(187.0回 自責・29)
予想図です笑
ヒロインは何処から選ぶべき2
-
アフグロ
-
それ以外は以前の集計結果から選択します