どうかよろしくお願いします!
我妻『完全試合は無理でも完封ぐらいしてやる!』
─────あんな大見得切って、結果は五回7失点という無様を晒して、辛酸を舐めた高校初登板。
澤野『まだ一年。やはり、まだ甘いな』
カッッキィィィイィィインンッッ!!
ボサッ……!
─────黒服師匠に与えてもらった武器で抑えられていたのをいい気になって、
虎金『オマエに投手を名乗る資格はないッ』
ズッバァァァァァアァァアーーーンンンッッ!!
─────天狗になってた俺の鼻をポッキリと折った敵エースの一球に魅入られた打席。
空『置いていかれてたまるかっ!』
ズッッッバァァァァァァァァァアァァアァァアーーーンンンッッ!!
─────追い越したはずの背中が、また遠く先に行ってしまった己の未熟さに嘆いた夏大会前の練習試合。
大地『贖罪のためじゃない。俺が野球を続けるのは、野球が好きだからだッ! 野球をするのに大層な大義名分や理由なんざ要らねぇよ!』
『それを
─────未練も、後悔も払拭した少年は、自分の為に前を向いて、より一層強くなり、俺の心を騒つかせる。
アイツらの成長具合とか、自分の醜さに触れると、より焦燥感が増して自分に対しての憎悪を覚える。
けど認めてくれた人がいる。
花音『矢来くんは、矢来くんだよ……。私が惹かれたのは他の誰でもない、我妻矢来っていう男の子にだよ』
あの人の優しい声音が、俺を包んでくれたから今の俺がいる。俺が俺で居られるんだ。
だから負けるわけにはいかない。
証明するんだ。あの人に、俺を投手じゃないと謗った怪物に俺が投手だって認めさせるんだ。
虎金『マウンドを降りてホッとするなよ、三下』
『咲山や成田の代替え品だと誰よりも蔑んでるのは、オマエ自身だ』
『花音や咲山から一定の評価を得ているようだが、所詮は『天地コンビ』におんぶに抱っこの二流以下。さっきも言ったが、二流以下で納得した奴に投手を名乗る資格はない』
─────二度と、あんなこと言わせてたまるか。
俺という投手を認めさせてやる。俺の球で慄かせてやる。
だから先に行って待っててやりますよ。
虎金さん。俺はアンタを倒して、成田からエース番号も奪う。
誰にも負けない。誰にも譲らない。
このマウンドに立つ以上、二度と俺は負けるわけにはいかない。
だって、約束したから。
俺が、彼女の『ヒーロー』になるんだって約束したから。
破るわけにはいかない。
『ヒーロー』は二度も負けない。敗北を知った『ヒーロー』に敵はいない。
そう、俺がここに立つ理由なんてたったそれだけのことだ。
大それた理由なんざ要らない。
だから退け。
俺の行く先を妨げるな。
我妻「それでも彼我の実力も弁えず、その打席に立つというなら容赦しない」
「この勝負も全力でねじ伏せるのみ。行くぞ、【精密機械】。打席の準備は充分か?」
陳「図に乗るなよ、ルーキー。オマエが俺達の邪魔をするというのなら、斬り捨てるのみ」
「俺の
─────想いの強さと証明。
友希那「ここね」
リサ「え? こ、ここ?」
薫「あぁ、ここだね。この場面で試合は殆ど決まる」
麻弥「なんでですか? 終盤とはいえ八、九回の攻撃を残して、たったの一点差で試合が決まるなんて、そんなことが─────」
日菜「それがねー。あるんだよね。今日の感じだと特に」
つぐみ「そ、それって、どういうことですか?」
日菜「ん? ふつーに考えたらそうでしょう? だってわがっちは、るるん♩状態だよ? ギュッイィィンッ! なバッターじゃないと打てないし、相手でギュッイィィン! なバッターは1番〜3番だけ……つまり、この三人さえズババンッ! て、しちゃえばうちの勝ちなんだよッ! わかった?」
ひまり「わ、わかった?」
巴「いや、わからない」
蘭「……よくはわからないけど、要するに我妻は絶好調だから打てるバッターが滝沼には今打席に立ったメガネだけで、後はさほど問題じゃないってことじゃない?」
モカ「それで〜、あってると思うよ〜。実際〜、二打席連続三振してるとはいえ〜、メガネくんは必ず一度はバットに当ててるしねぇ〜」
友希那「それに当てに行くスイングじゃなく、必ず振り切ってね。
二打席目は外と内の組み合わせで翻弄して、膝下スライダーで空振り三振で打ち取れたけれど、その前のストレートにはバックネットにファール。タイミングは合ってたわ」
巴「なにより我妻が抱える重大な欠陥は左バッターの彼には格好の餌でしかない。部が悪いのはバッテリーだな」
リサ「重大な欠陥?」
薫「対左打者に対しての決め球の不足。そうだろう?」
巴「はい。そうです」
ひまり「決め球? それならスライダーじゃないの?」
蘭「たしかに我妻の決め球はスライダーではあることに違いないけど、それが通じやすいのは右バッターだけ」
つぐみ「どういうこと?」
友希那「すごく単純な話よ。スライダーは右バッターの外に逃げるけれど、左バッターにはうちに切れ込んでくるの」
「うちに切れ込んでくるということは、ボールが近づいてくるということ。つまりバットに当てやすくなる」
「当然、中の球は振り抜けば飛びやすい。そして今日は大きなコントロールミスはないけれど、スライダーが抜ければ飛びやすいだけの棒球よ。正直、膝元へと常にコントロールできる球でもないわ」
薫「つまり、追い込み方にもよるが、基本、追い込まれた場合において左バッターは2:8の割合で外ストレートと内スライダーを頭に入れておけばいいということだよ。わかったかな? 子猫ちゃんたち」
麻弥「大体は飲み込めたんですけど、それならカーブはどうですか? たしかに左バッターに向かっていくボールですが、緩急には使えますよね?」
モカ「カーブもいい感じの武器ですけど〜、決め球には向いてないとモカちゃんは思いまーす」
リサ「なんで? ストレートが速いなら尚更効果覿面じゃない? あれで決め球にならないはず─────」
黒服「─────なりませんよ」
全員『っ!?!?』
友希那「っ……貴方は?」
黒服「おっと観戦中にすみません。本来は声をかけるつもりはなかったのですが、どうやら面白いお話をなされていたようなのでついお声をかけてしまいました。大変申し訳ありませんでした」
薫「なんだ、黒服さんかい。そうかそろそろこころたちが全校応援でくるからね。下見といったところかな?」
黒服「えぇ、薫様。本日もお嬢様を害なす紫外線が酷いですので、出来る限り影のある場所を探していたのですが、やはり観客席に影はなさそうですね。特に応援席は。仕方ないので、日傘差し確定ですね」
日菜「それよりー! なんでフワッとボールは決め球にならないのー? まさか教えないままシュパって帰るつもりないよね?」
リサ「そうだよねー。口出ししたんだったら答えてもらう義務は当然あるよね」
黒服「別段、隠すつもりもありませんよ。答え自体シンプル極まりないですから」
「まずカーブという球種そのものが決め球という投手も近年鋭利な変化球が増した中でも少なからずいらっしゃいます」
「スライダーとは異なり、抜いて投げるカーブは一度浮き上がって沈む軌道で進んでいきます」
「これは後にストレートと併用することで大きな武器になり得る球道です。しかし、同時にそれは重大な欠点でもあります」
ひまり「? 利点が欠点? どういう意味ですか?」
黒服「まぁ色々あるのですが、大きな要因としては浮き上がって沈む軌道というのはミットに到達するまでが非常に遅い球、ということですね」
「一聞緩急に活用できると考えられますが、浮き上がってくる性質上見分けはチェンジアップなどと比べると容易に可能です」
「落ち幅を理解できればただの棒球と変わらないだけに決め球に持ってくるにはカーブはリスクが高すぎます」
「とはいいましたが、カーブはカウント球としては非常に優秀です。特に、ストレートとスライダー、もしくは他の球が頭にあるときに投げられれば手が出ませんし、もちろん時と場合によっては空振りを奪うこともできます」
「ようは使い所。それは
友希那「……そうね」
蘭「大地ならちゃんと我妻をリードできるはず」
黒服(それにしてもおかしい。咲山様なら逸早く矢来の弱点に気がつき、チェンジアップかフォークあたりを修得させたはず。ジャイロボールの影響でシュートが使い物にならないと知った今なら尚更だ)
カーンッ!!
審判「ファールッ!」
ズッバァァァアァアーーーンンンッッ!
審判「ボールッ! ワンストライクツーボールッ!」
陳(ここまでは一、二打席と変わらない配球。やはりストレートとスライダーが主体となってるがために一辺倒な配球になりがちだな)
(たしかに内と外の使い分けに、威力の高いストレートと膝下に決まるスライダーは厄介だ)
(だがたった2球で抑え続けられるほど現代の高校野球は甘くない)
黒服「……すみません。お聞きしたいことがあるのですが、少しよろしいですか?」
薫「? 構わないよ」
黒服「ありがとうございます。それではお聞きしますが、矢来はあのバッターとの対戦で、一度でもアウトコースで打ち取りましたか?」
薫「いや、今日は二打席とも内で打ち取っていたよ。儚い」
友希那「一打席目は全球インコースに直球で最後は低め一杯のストレート、二打席目は外と内を交えながら追い込み膝下に高速スライダーで空振り三振ね」
リサ「そういえば、九番左バッターの人にもインコースでの勝負が多かった印象があるかなー」
薫「あぁ、そうだったね。それでそれがどうしたのかな?」
黒服「……いえ、やはり気のせいだったみたいです」
友希那「そう、ならいいわ」
黒服(……明らかに左バッターのインコースを打者に植え付けている配球。ここまで内にこだわる理由は本来無い)
(だが、もしも未だ見せていない隠し球を矢来が持っていたとしたら……そしてそれが実戦形式であまり試行錯誤出来てない諸刃の剣だとしたら……)
(もし本当にそうだとするなら─────)
黒服「─────馬鹿げていますね。あのキャッチャー……」
全員『え?』
黒服(僅か一点の僅差。しかも終盤で明らかに影響力の高い打者相手に考える思考回路じゃ無い。失敗した時のリスクが大き過ぎる)
(咲山大地。貴方はどこまで先を見据えようとしているんだ? 私には理解不能だ)
大地(……矢来、わかってるな? 最後に
我妻(……あぁ、わかってるよ。さっき室池さんを抑え込んだ一球と同じところだろ? 任せろよ)
大地(そうだ。あのコースなら打たれてもファールにしかならないし、最悪ボールでも構わない)
(ここでインコースを使うことで、よりストレートに意識をおいてもらうのが目的だからな)
陳(内・外・内……ストレート・スライダー・ストレート。インコース直球を続けてくるだろう? 最後に膝下スライダーかアウトコースのバックドアのカーブのどちらかで〆るなら尚更な)
(長打はいらない。とはいえないが、コンパクトに捌いても府中球場ならスタンドに入る。なによりインコース直球に押し負けないために腰主体のバッティングを心がける)
ビュゴォォォォォオオ……ッッ!!
大地(よし! ナイスコースッ!)
カッキィィィイィィイィイィイーーーンンンッッ!!
我妻(くっ!? やられたか?!)
大地(ある程度予測してたが、まさか本当に弾き返すとはな!)
大きなあたりがライト方向を襲う。
完璧に捉えた感触に、陳はホームランを確信した。
角度と初速は文句無し。あとは方向。
ラインに入ってさえいれば、試合は振り出しに戻せる。
しかし陳のあたりは惜しくもラインを切ってスタンドインする。
滝沼の応援席からは大きな溜息が、羽丘の応援席からは安堵の息が溢れた。
陳はあたりがあたりだけに苦虫を噛み殺したような表情を見せるが、一瞬にして冷静な面持ちになる。
切り替えの早さ。
それはスポーツ選手にとって大きなアドバンテージの一つ。
感情的になって引きずったまま打席に入り、凡打を築いてしまう打者は数多いる。けれども陳は緩んだ心を結び直すかのように再び集中状態に入った。
大地が思うに自らの意思で集中できるなら、それほど厄介な選手は他にいない。
一喜一憂したまま打席に立ってくれた方が、捕手としてはやりやすい。
大地(呼気に乱れもない。視線も真っ直ぐ。こりゃあ完全に切り替えたな。厄介な)
(けど、大ファールを打たれたとはいえ今のコースはファールにしかならんコースだ。問題なかったろ?)
我妻(めちゃくちゃヒヤヒヤしたけどな……)
大地(とはいえ、サイン出したのは俺だけど実行するのはテメェだ。俺のサインだって投手が実行してこそだ)
(ほんと肝が座っているというか、馬鹿正直というか……)
(とりあえず、これでアレを使って〆る道筋は立った)
我妻(とうとう解禁だな)
(長かったな……)
大地(丁度、花咲川の選手はアップに向かったからな。ここしかない)
(初お披露目だ─────さぁ、新世界の扉を開こうか)
陳(今ので決められなかったのは痛いが、最後の球には凡その検討がつく)
(最後、ストレートはない)
(内ならスライダー、外ならカーブ。どちらも反応は出来る)
(室池が主将としての背中を見せようとし、近藤が消えかけていた闘志を再度滾らせてくれた─────)
(─────なら俺はそれらに答えなければならない)
(エースとしてのピッチングだけでなく、3番としての責務を果たさなければならない)
(吉良兄弟には守備で慌ててた時に助けられた。
勝俣には精神的に救われてきた。
安西には打棒で励まされてきた。
立野にはプレーで盛り立ててもらった。
不知火にはバッテリーとして常に寄り添ってもらった
日本の父である宇都美監督には感謝してもしきれないほどの恩義と好機を与えてもらった)
(そして、俺はその数々の恩義を返さなければならない─────)
(─────あの舞台に立たせてやりたい)
(だから打つ。何が何でも打って、試合を振り出しに戻して引導を渡してみせる)
(来い……我妻矢来。俺は全身全霊をもって貴様を打ち砕く)
大地(すげぇオーラ……。こりゃあ甘く入ったら即終了モンだな。これで矢来が堅くならなきゃいいけど……心配なさそうだな。タイムもいらない。あとは前に進むのみ)
我妻(前迄の俺ならビビって置きに行ったか、もしくは臆して本塁打だった)
(けど今なら大丈夫だ)
(花音さんに認めてもらって、ようやくだったけど、ちゃんと前を向けてる)
(ビビる必要なんて無い。今の俺なら投げ込めるッ!
強い意志を持って立ち向かえッ!)
大地(実戦経験のない球だが、デモンストレーションで敗北してからずっとブルペンで練習していた新ウィニングボール─────)
我妻(これで相手の活路を奪うッ!)
ビュゴォォォォォオオ……ッ!!
陳(っ!? アウトローにストレートだと?!)
(だが慌てるな。反応できる。カットぐらいならなんとか─────)
カクンッ!!
陳(な、に……っ? 何が起こって……)
(このスピードで、この回転で、この球威で縦に鋭く落ちたッ?!)
(ぐっ……! 当たれ……当たれっ!)
「当たれぇっ!」
ズッバァァァァアーーーンンンッッ!!
ワァアァアァアァァァァッッ!!
我妻「シャァアァアッッ!!」
陳(我妻にフォーク系の球は無かったはず……)
「ここまで隠されていたのか……」
友希那「なに? 今のボールは……」
「打者の手元で縦に鋭く沈んだ……?」
蘭「フォークにしては速すぎるし、スプリットにしては落差がある……あんな軌道、見たことない」
黒服「……おそらく、ツーシームでしょう」
薫「つ、ツーシームかい? あの変化量で?」
日菜「ねぇねぇ、リサちー。つーしーむって何?」
リサ「え、えっとねー。ツーシームはね、普通のストレートと握る縫い目も違うからストレートよりノビずに手元でシュート気味に落ちて凡打を狙う球のことだよ」
日菜「へぇー。でも今投げたボールはギュルルルゥンッ☆ って感じでズゴォォォーンンッ! な球だったじゃん? スパッ! て感じの球じゃないよね?」
黒服「えぇ、本来ならば少し沈む程度で、極たまに空振りが取れる程度であそこまでの落差はございません」
「ですが、例外もございます」
つぐみ「れ、例外ですか?」
黒服「はい。例えば、現役でいうなら横浜DNAのストッパー、山咲投手が決め球としているのがツーシームですが、彼のツーシームは大きな落差を得ながら球速は殆どストレートと変わりません」
「軌道も途中まで直球と変わらず、日や調子によって、カット気味に落ちたりシュート気味に落ちたり、稀に直角に落ちたりするそうです」
「本人でさえ読めない軌道に、打者が戸惑わないわけがありません。
そして、矢来が投じた一球……
あれはジャイロ回転を与えることで、球威を維持したまま、縦変化のみではあるものの、とんでもない落差を生み出した矢来だけのオリジナルのツーシームであり、山咲投手とは似ても似つかぬオリジナル変化球……!」
「対左打者に弱い矢来が行き着いた、矢来だけの決め球! よもやこれほどとは……!」
巴「す、すごいな……」
ひまり「我妻君、そんなボールを隠し持ってたんだ」
黒服(そして、それをこの場面で投じさせた咲山大地の傲慢とも取れる強気なリード)
(普通、負ければ終わりの夏の大会で実戦経験のない球を使わせると判断するものか?)
(【大樹】・咲山大地……。はっきり言って、私は貴方が恐くなりました。
どうしたらそれほどに投手の限界以上の球を引き出すことができるのですか?
正直、成田様よりもバケモノですよ。貴方……)
今回出てきたフィクションの名称
横浜DNA→ 本家は本格派の左エースと日本の主砲が軸となり、勝ち星を挙げている今季 セ・リーグ 2位(現在時点)チーム。1位チームの背中は見えてい……る?
山咲投手→ 本家は今季 セ・リーグ セーブ王(現在時点)投手 30S 2位とは11S差。圧倒的っ!
お判りいただけましたか?
ヒロインは何処から選ぶべき2
-
アフグロ
-
それ以外は以前の集計結果から選択します