Stand in place!   作:KAMITHUNI

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寝みぃ……


認めて前進する

室池(陳が三打席連続三振? 見たことないぞモンスターめ)

 

 

近藤(というか、今の球なんだよ? 急激に縦に落ちたろ?)

 

 

宇都美「陳……先ほどの球はなんですか?」

 

 

陳「……正確にはわかりませんが、落ち方からフォーク系統で間違い無いと思います」

 

 

吉良(兄)「あれフォークか? フォークにしては速すぎだろ?」

 

 

吉良(弟)「だから陳はフォーク系統って言ってるだろう? 正確にはフォークじゃ無いよ。そうでしょ? 陳」

 

 

陳「あぁ、あれはフォークの落ち方だったが、それにしては速すぎる。

 

 

スプリットにしては落差が激しい。

 

 

高速チェンジアップのような回転でも無い。

 

 

球種の正体には皆目検討もつかんが、対左に弱いという弱点はもはや弱点ではなく、強みに変わった」

 

 

「我妻矢来。認めるしか無いようだ。貴様は俺たちが出会った中でも指折りの投手だとな」

 

 

不知火「で? 諦めんの?」

 

 

「八、九回表があるとはいえ、あの投手から打てるイメージの湧かない中での上位打線が三者連続三振。

 

 

状況は著しく無い」

 

 

 

陳「ふっ、愚問だな」

 

 

「諦める? 馬鹿を言え。試合を楽しむのはこれからだろ?」

 

 

「俺たちは常にチャレンジャー……。

 

大昔の栄光など、とうに捨てた身」

 

 

「たしかに相手は強大だ。けど、それが諦める道理にはならない。

 

 

 

そうだろ? 室池」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

室池「あぁ、初めから何もなかったチームだ」

 

 

「険しく危うい茨道を歩む決意をして、挫折して……それでもまた立ち上がって進んできた道程。

 

 

 

 

そう簡単に諦められるかよ」

 

 

 

室池「栄光と挫折を知った今、俺はオマエ等と甲子園に行くッ!」

 

 

「そのためにこんな都予選の三回戦なんかで止まってられねぇぞッ!! 行くぞォォォオォオオッ!!」

 

 

滝沼一丸『シャァアァァアァァアッッ!!』

 

 

 

 

 

七回裏 ワンナウト ランナー無し ノーストライクノーボール

 

 

大地「中々折れない不撓不屈の精神力……その胆力や、大変御見逸れしました。

 

 

過去の栄光によって、期待値の上がった貴方達が味わった苦心の味は、決して俺たちには計り知れないものだったでしょう。

 

 

だからこそ貴方達は強かった。

挫折を知ったからこそ、何者にも譲らぬ闘魂が備わっていた。

 

 

正直な話、戦ってみるまで見くびってました。

けど、貴方達は下馬評を物ともせずに立ち向かい、こうして善戦している。

此方もいつ負けてもおかしくはなかった。

 

 

そして俺たちの予想を上回る展開をも引き起こしてみせた─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────けれど、この舞台はここらで終焉にしましょうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッッッキィィィイィィイィイィィィィイーーーンンンッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大地「脆いというのは、前言撤回します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めちゃくちゃ手強かったです。滝沼高等学校さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボサッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

陳「……」

 

 

 

不知火「……バケモンめ。インローの難しいスライダーを軽々スタンドインとか巫山戯んなよ」

 

 

 

「あんなの、どこに投げさせれば抑えれんだよッ!」

 

 

 

 

 

ワァァァァァァァァアァアァアァアッッ!!

 

 

 

観客「咲山大地! 本日2本目の本塁打で二戦連続のマルチ本塁打達成ッ!!」

 

 

観客「止まらない止められないッ!! 世代最強捕手の一発は、善戦していた滝沼へのトドメの一撃ッ!!」

 

 

観客「心をへし折るには十分過ぎる追加点ッ! ここまで好投の【精密機械】、最後の最後で力尽きたかっ!?」

 

 

観客「滝沼ベンチ、堪らず伝令を使ったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不知火「陳……」

 

 

 

 

室池「……今の一発は仕方ねぇ! 切り替えんぞッ!!」

 

 

吉良(兄)(とはいってもよぉ……)

 

 

安西(正直、この終盤で2点差は厳しいぞ)

 

 

吉良(弟)(勝ち越せるビジョンが浮かばない)

 

 

陳「く、くく……」

 

 

室池「っ! 陳?」

 

 

陳「くく、くくく……ッ! ふぅ……すまん、つい楽しくて笑いが溢れてしまった」

 

 

不知火「楽しい、か?」

 

 

陳「あぁ、最高だ……!」

 

 

「ここまで頭脳戦でやられたのは、アイツが初めてだからな。こう言う野球するために俺は日本に渡ってきたんだ」

 

 

室池「頭脳戦ってw 二発とも完璧な一発じゃんw」

 

 

世良(背番号18 1年 遊撃手 伝令)「ゴリゴリのパワープレーでしたよねw」

 

 

陳「ふぅ……だが、あの二本は完璧に配球が予まれた結果だ。それを受け止めよう。

 

 

そして、開き直ろう」

 

 

 

不知火「……もう大丈夫そうだな」

 

 

 

陳「あぁ、もう大丈夫だ。これでまた俺は戦える」

 

 

不知火「ならいい。次の5番も咲山の後を打つだけあって、かなりの打力の持ち主であることに間違いない。本塁打を打たれた後の初球は気をつけて入ろう」

 

 

(……なんだかんだ、相手投手と咲山に呑まれてたのは俺だったわけだ。

陳はとっくに割り切ってた)

 

 

(くそったれ……! 女房役として恥ずかしい限りだ)

 

 

安西「それで監督はなんて?」

 

 

世良「自分達のプレーを精一杯楽しんで倒してこいって言ってました。それと伝えることはそれだけです。とも言ってました」

 

 

陳「流石は監督だ。いいことを言う」

 

 

室池「同感だな」

 

 

吉良(弟)「この回はこれ以上の失点は無しね」

 

 

陳「当然だな。任せろ、点もランナーも出さん」

 

 

不知火「フラグ回収しそうで怖いわ」

 

 

陳「いやそれなら大丈夫だ。俺はよく室池からフラグブレイカーだなと言われている。だから安心しろ」

 

 

不知火「違う意味で安心できねー」

 

 

室池「俺はそう言う意味で言ったわけじゃねぇんだよ!」

 

 

陳「ん? なら、どう言う意味で─────」

 

 

世良「あのぉ……話長すぎませんか?」

 

 

吉良(兄)「世良ちゃん、気なんて使わなくていいぞ! こう言う時は思いっきり耳元で『モテ期死ねッ』て、心の赴くままに叫んでやれば黙りコケるからやってみ?」

 

 

世良「え、えぇ……?」

 

 

吉良(弟)「自分の妬みを後輩に言わせようとして困らせるんじゃないよ。世良ちゃんは戻っていいよ。監督には了解って伝えといてくれると助かるよ」

 

 

 

 

 

大地(今の一発でケリをつけたつもりだったんだが、諦めムードどころか、余計に相手を奮い立たせちまっただけの逆効果だったか?)

 

 

(……俺以外を完全に封じ込めているだけに、ピッチングのテンポは変わらずハイテンポで四隅に散らしてくる好投手であることに違いない)

 

 

(相性的な問題で、俺は打ててるけど他の人には厳しいだろうな。これ以上の得点は無いものとしてリードを組み立てたほうが賢明か)

 

 

由美(感覚派の多いウチの打線にとって理論的で幅広いクレバーな投手は天敵同然)

 

 

(大地は捕手の配球を予むのに長けてるけれど、他の人はそうじゃない)

 

 

 

スッパァァァーーーンンッッ!!

 

 

帯刀「ぐっ……(ここでインスラ。当たる軌道から、最後ゾーンに入って行きやがった)」

 

 

(でも追い込まれただけ! まだ三振したわけじゃないッ! 打ってやるぞオラァッ!)

 

 

ビュゴォォォォ……!

 

 

帯刀(っ! さっきと同じインスラっ!? けどさっきより外寄り! 十分に振り切れる!)

 

 

不知火「それは残像だ。存分に味わえよ」

 

 

陳「これでツーアウトだ」

 

 

ズッバァァァアーーンンッッ!!

 

 

ブォォオンッ!!

 

 

帯刀「しまっ……(インコースのボール球にストレートッ! さっきのスライダーを活かされた!)」

 

 

審判「スゥィングアウッ!」

 

 

 

片矢(大した投手だ。あの展開から完全に立ち直ったか)

 

 

(哲をライトフライに打ち取った後の咲山ソロホームランで得た筈のこちらにあったアドバンテージを意に返さず、帯刀を三球三振)

 

 

(さらにインコース攻めの意識は次の打者に植え付けられ─────)

 

 

 

村井(来たっ! 初球インコースッ!)

 

 

陳「これで終いだ」

 

 

ククッ!

 

 

ガギィンッ!!

 

 

村井「ウガッ!? (手元で小さく沈んだ?! ここでツーシームッ)」

 

 

片矢(─────簡単に打ち取られる)

 

 

 

不知火「ショートッ! 相手さん、ガタイの割に速いぞ」

 

 

村井「ウガァッ! (せめてセーフにッ!)」

 

吉良(兄)「おーけー! (たしかにそこそこ速いけど、俺の守備には敵わねーよッ)」

 

 

(足を使って速い球足に対応し、捕ってから素早く丁寧に送球動作へ入る。

そして、送球自体はワンバウンドになってもいいぐらいの気持ちで低く速いボールを心がけて投げるッ)

 

 

(これが常に出来れば、ランナーがそう簡単にセーフになるなんてことはない! アウトをより稼ぎやすくなる!

 

 

俺たちはずっとそれが出来るように訓練してきた。

 

 

だから陳。俺たちはオマエが打たれた後、背後に気を取られないようにしてやる!

 

 

俺たちがオマエを本物のエースにしてやるよっ!

 

 

けど俺たちはまだオマエを本物のエースにしてやれてない。

 

 

だから一緒に夢の舞台に行こうぜ! 甲子園に行って、俺たちの真の価値を指し示して、そんでオマエを世間から認めさせてやるっ! それまでは俺たちが守り切ってみせるッ! それが、俺たちに与えられた役割ってもんだろうがっ!

 

 

ここでアウトに出来ずに、いつアウトにするっていうんだッ!

 

 

大層な夢物語を嘘っぱちにしないためにも、俺はここで守り切ってみせるッ!)

 

 

シュッ……!!

バシッ!

 

 

安西「ナイスローッ!!」

 

 

村井「うぐっ……」

 

 

塁審「ヒィズアウトォオオッ!!」

 

 

陳「ラァアァァアッッ!!」

 

 

 

観客「【精密機械】が吼えたッ!!」

 

 

観客「咲山に打たれた後はきっちり二人で打ち取って、八回の攻撃に繋げたッ! 絶望的な展開を予測していただけに、この投球は羽丘のイケイケムードを潰すのに十分な効力を発揮したぞ!」

 

 

観客「これはもしかすればもしかするんじゃねぇかぁ!?」

 

 

観客「やっちまえぇ! 羽丘を喰っちまえぇ!!」

 

 

観客「そうだそうだっ! ここまで来たら勝っちまえよ!」

 

 

 

ひまり「な、なに? この球場に広がってる異様な空気……なんか嫌な感じがする」

 

蘭「……観客がジャイアントキリングを期待し始めたからだね」

 

リサ「……時々心無い野次も飛んできたりするアレだよね? 高校生相手に容赦なさ過ぎだよね」

 

友希那「けど上でスポーツをやっていく以上、必ずと言っていいほど体験する筈よ。この程度の苦難を乗り越えない限り、頂点なんて目指せないわよ」

 

あこ「わ、我にかかれば造作も無いぃぃ……」

 

巴「……あこ、無理しなくていいんだぞ?」

 

つぐみ「けどこの状態で我妻君は自分の投球を貫けるかな? ただでさえ大記録目前で相当なプレッシャーがかかってるはずなのに……」

 

 

黒服「大丈夫ですよ。なんの問題もありません」

 

 

友希那「断言するのね」

 

 

黒服「当然です。野次や完全試合程度の記録で彼が竦んで自分の投球を見失うことなどまずあり得ません。それは言い切れます」

 

 

 

 

「というかこんなことで崩れるようなヤワな投手じゃないでしょう? 矢来は……」

 

 

リサ「く、黒服さんは矢来に対して全幅の信頼を置いているみたいですけど、何か根拠みたいなものがあるんですか?

もしあるなら教えて欲しいんですけど……」

 

 

黒服「ありませんよ? 根拠なんて」

 

 

全員『無いのっ!?』

 

 

黒服「そこまで驚かれても困るのですが、逆にそんな可笑しな事ですかね?」

 

麻弥「可笑しいというか、そこまで断言するなら普通は何かしらの根拠があって当然だと思ったんですけど……」

 

 

黒服「たしかに根拠はありません。けど確信はあります」

 

 

「矢来なら全てを力に変えて更なる高みへと向かってくれるだろうという確信が─────」

 

 

 

 

 

 

 

近藤「安西さんッ! 行けますよッ! 球種絞っていきましょう!!」

 

 

吉良(兄)「さぁ! 滝沼のアニキの名にふさわしい打撃をそろそろ披露する場面だぞッ! アンちゃん! 打ってくれよぉ!」

 

 

勝俣「安西っ! 自分のスイングを見失わずにしっかり振り抜けッ!」

 

 

安西(陳と俺たちで繋いだ希望……無駄にするわけにはいかない!)

 

 

 

観客「さぁ! 打線は4番からっ! 試合はここからだぞっ!!」

 

 

観客「所詮は一年投手だッ!! 打ちかませぇえぇええぇっ!」

 

 

笠元「矢来ッ! 観衆の野次なんて無視しときや! あんなん間に受け取っとたら埒があかんぞッ!(とはいったものの、俺が呑まれて身体が膠着しそうや)」

 

 

舘本「……一つずつ行こう(観客、煩い……)」

 

 

田中(これが完全なアウェー感。とんでもない圧力だな)

 

 

大地(ここまであからさまだと、逆に感心するな)

 

 

(普段なら投手に声をかけにいく場面だが、今日の我妻に限ってなら大丈夫そうだ。今も顔つきは全く変わってない)

 

 

(安定した呼気に、視線も真っ直ぐ。投球練習を見ている限り身体の硬直もない)

 

 

(極限の集中状態……【ゾーン】をこの終盤に来てまで維持できてるのは偏に矢来の【感情】のお陰だろう)

 

 

安西(おしっ! 打つ! 浮き足立っている今のうちに叩いてやる!)

 

 

大地(初球、アウトコース高めからストライクからボールになるスライダー)

 

 

我妻(おけ)

 

 

ビュゴォォォォオォオオ……ッ!!

 

 

カクッ!

 

 

ブォォオオンンッッ!!

 

 

ズッバァァァァァァアーーーンンンッ!!

 

 

安西「な、んだと……?」

 

 

(お前、この雰囲気で浮き足立つどころか、スライダーのキレが増して……!?)

 

 

 

大地(何を想い、何を考え、何を描き、何を全うするのか……)

 

 

(それらは誰かに教えを請うて導き出されるものではない。

 

 

教示だけで得られる答えなら、人生にそもそも必要無い。

 

 

自分の意志で紡いで、歩んで、止まって……

 

 

そして躓いて、転んでを経験して漸く解答権を与えられてこそ、真価を得られる)

 

 

ブォォオンンッッ!!

 

カクッ!

 

ズッバァァァァァァアーーーンンンッッ!!

 

 

 

安西(二球続けて、ストライクコースから外れていくスライダー……ッ!

それを全く動じずに投げ込んできやがる……

なんなんだ、コイツ!?)

 

 

大地(価値無き答えを良しとせず、けれどそれ故に他者から受けた苦行は数知れず……

不明瞭な視界で目先にある泥沼に気付かぬまま、無様にも落ちたこともあった─────)

 

 

安西(……オマエ、アウェーなんだろ? 周りからの野次を一身に集めてんだろ?

だったら少しは動揺しろよ!)

 

 

(こっちは恥を忍んで弱みにつけ入ろうとしてまで勝ちに来てるんだ!

それでもオマエが動揺しねぇと意味をなさねぇ!)

 

 

大地(─────それでも矢来は自ら険しい道程を選び、突き進んできた)

 

 

(認めてくれる存在は少数……

けれど少なくとも矢来を許容してくれる人がいる。

その事実がアイツを突き動かす)

 

 

(きっと誰よりも大切にしたい、かけがえのない人と出会えたんだろう?)

 

 

(そして始めて矢来は一つの答えを得た。

それはすごく単純で、すごく難解な答案……)

 

 

ビュゴォォォォオォオオ……ッッ!!

 

 

安西(っ! アウトコース低め! スライダーか!)

 

 

(ふざけんなっ! 三つ同じところに手を出すわけねぇだろうが! 舐めんなよ!)

 

 

大地(答えは、矢来が『我妻矢来』自身を認めること)

 

 

ズッバァァァァァァアァァアァァアーーーンンンッッ!!

 

 

安西「っ!? (ここで遊び球抜きのアウトコースストレートッ!?)」

 

 

審判「ットライーク! バッタアウトォオオッッ!!」

 

 

我妻「ッラァアァァアーー!!」

 

 

大地(自分を認めて前進する……。

言葉にするのは簡単だけど、実行するのは容易じゃない。

 

 

それでもコイツは諍い、乗り越え、進化した。

 

 

そういうプレイヤーは強く、どこまでも高く飛翔できる)

 

 

(いい投手になったな……)

 

 

(オマエたちとなら、どこまでも上を目指せそうだ)




なぜか疲労困憊

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