羽丘 VS 徳修
─────4回表
ガギィィンッ!!
敵チーム2番「ぐっ!?」
成田「ショートッ!」
笠元「おっしゃ! 任せときッ!!」
実況『これも引っ掛けた!! 打球は名手の笠元の正面!! これを素早く捌いて、ツーアウト!』
解説『初回からはピッチングの質を変えてきましたね。二回以降はストレートの残像を活かした芯を外すボール……ムービングファストやスプリットを低めに集めて内野ゴロを量産していますね。 これのおかげで、球数も抑えることが出来ていますねぇ〜。初回の圧倒的な投球を印象付けておいての、このギアの変化。どうやら強気なリードだけでなく、深く考えられたクレバーな司令塔ですね、咲山くん』
実況『二回以降は球速こそ10㎞/hほど減速しましたが、器用に打たせて取る投球で、徳修高校の選手達に一塁を踏ませません! 球数も四回途中で43球!
ここまで、奪三振5 被安打0 四死球0のパーフェクトピッチングを続けます! 成田 空!』
ビュゴォォォォォォッ!!
カクッ!!
ズパァンッ!!
審判「ットライーク!! ワンストライクノーボール!」
敵チーム3番(クソ!! ポンポンストライク取りやがって、これを捉えるのは簡単じゃねぇぞ! だからといって振らないかなきゃカウントが悪くなるだけ─────だったら、打ちに行くしか……!!)
ビュゴォォォォォッ!!
カクッ!!
ガギィン!!
敵チーム3番(畜生! 簡単に打ち取られる!! なんつーボールの軌道だよ! 全く予測出来ない!)
実況『また引っ掛けたぁ!! 打球は弱々しくセカンド真っ正面! これを舘本が丁寧に捌いてスリーアウト! チェンジです!! なんとこの回、投じた球数はたったの5球ッ!! 抜群の安定感でグラウンドを盛り上げる一年生怪物ルーキー成田 空!! あの徳修高校を一人で圧倒しています!!』
成田「しゃあぁああッ!!」
哲人「ナイスピッチ」
帯刀「ナイピーな!! 安定感抜群じゃねぇか!!」
大地「今の回は特に良かったな。低めにスプリットも決まってたし、お試しで使った✳︎シンキングファストボールもキレて低めに集まってた。今のペースなら完封も出来そうだ」
✳︎シンキングファストボール……ストレートの握りをズラして回転軸をズラしてシンカー方向へと変化させるムービングファストボールの事。
界隈では高速シンカーとも捉えられる事もある。
空「だろ!? オレも今んとこ主軸にできるか微妙だとは思ったんだけど、今日は指の掛かりが良かったから使えると思ったんだよなぁ! それと、完封もいいけど、オレは今日、初めから完全試合かノーノーしか狙ってないからな」
ったく、コイツ……何処からその強気が出てくるんだか。
多少呆れつつ、調子に乗りすぎると厄介と捕手経験からわかるので多少窘めておく。
大地「まぁ、目標を高く持つ事はいいが、目先に囚われてる様じゃ、勝てる試合も勝てなくなる。あ、これは経験談な!? 特に俺たちがテメェらに負けた試合がいい例えだ。 ま、今んところはいいボールきてるし、そろそろギアも上げていってもいいけど、あんま力むなよ? 力めば力むほど、テメェのストレートは死んでいくんだからよ」
それだけ言い残し、俺はヘルメットを被り、本日三打席目の打席へと向かう。
6対0。 これが今のスコア。
初回に俺のスリーランを含む4得点の猛攻を見せた俺らは、続く二回も9番の空がライト前のヒットで出塁すると、1番の秋野先輩が完璧な送りバントで繋ぎ、続く舘本さんがセンターオーバーのツーベースで1点を取り、3番の俺がレフト前へヒットを放った後に四番の結城先輩がライト前ヒットで6点差に広げた。その後、完璧に立ち直った徳修の豊投手は持ち直し、3回裏は3人で終わらせた。
そして、この回。空はすぐに三振して、続く秋野先輩もボテボテのセカンドゴロでツーアウト。
しかし、2番の舘本先輩がツーストライクワンボールと追い込まれてから、驚異的な粘りで、四球を選択。
これで、ツーアウトランナー1塁の状況で、3番、俺こと咲山 大地。
大地(ここで欲しいのは、結城主将に繋ぐバッティング……。ただ、それだと相手もそれを分かった上でリードを組み立てて来る筈だ。初球は様子見の為のアウトコースのボールになるストレート)
ズパァン!
審判「ボールッ! ノーストライクワンボール!」
敵チーム捕手(……今のに反応を示さない? てことは待ってるボールは内角変化球? つまり、決め球のスライダー待ちか? まぁ、次のバッターに繋げる意思があるなら当然の選択だな。ここはアウトコースの直球を見せ球に、最後は外にシンカー気味に外れるフォークで終わらせよう)
大地(恐らく、決め球に膝下スライダーとインハイに直球は無い。俺がこの場面ならライト前に打たれてツーアウト一、三塁になるのが一番怠い。という事は初回同様に外中心の配球になる)
ズパァン!!
審判「ットライーク!! ワンストライクワンボール!」
大地(けど、確実にインコースは来る。多分、次がインコース。これはボールで良いと判断して、顔近くに投げられる)
ズバァン!!
審判「ボールッ! ワンストライクツーボール!!」
敵チーム捕手(良し、今のでインコースを印象付けた。これで、外のフォークとストレートを主体で攻める事ができる。 ツーアウト一、二塁なら、次のバッターは最悪歩かせられる。ここで、ワンストライクスリーボールになっても大丈夫。ここはフォーク一択─────!)
大地(徳修高校の豊 相馬。今年の春の選抜でチームをベスト8へ導いた、文字通りの主軸。球種はノビのある直球とストレートと球速の変わらない高速スライダー……それと、左打者対策として身につけたシンカー気味に落ちるフォークがある。ここで、俺がキャッチャーなら間違いなくアウトコースに落とす。なんせ、バッティングカウントという意識が打者なら少なからずあるから、アウトコースに反応したくなる。それと、さっきのインハイはアウトコースフォークの布石に近い。 そんで、このバッテリー、最悪俺と結城主将は歩かしても良いとか考えてそうだ……なら、その慢性的な考えを覆す一撃を下すことにしようか)
敵チーム捕手(来い!! お前の磨いたフォークをここに来い!!)
敵チーム投手「フシッ!!」
ビュゴォォォォオ!!
敵チーム捕手(ち! 低過ぎか……これはボール─────は? 待てよ……!? おまっ!? なんで?! なんで!? なんでそれに手を出す!? そんなボールに手を出しても引っ掛けて内野ゴロに─────)
大地「悪りぃ、フォークは読んでたわ」
カキィィィィィンッッッッ!!!
実況『掬い上げた!!打球はグングン伸びていくぅ!! 角度は十分かぁ!?』
敵チーム投手「ぁ─────」
実況『あぁと!! 徳修の豊投手がガックリと項垂れてマウンドで立ち尽くすぅ!! これは!! 入ったぁぁぁぁぁぁあ!!バックスクリーン直撃の特大の一発ぅぅう!! 8対0と点差を広げる値千金の一撃を放ったのはまたこの男!! 3番捕手の咲山 大地ぃぃいい!! 本日は3打数3安打2HR5打点の御暴れぇえええ!! 羽丘一年生コンビが選抜ベスト8チームを追い詰めていくぅう!!!』
実況『これは! 新たな時代の幕開けなのかぁあッ!!』
─────
蘭「すご……ッ」
モカ「いや〜、あの人、ほんと〜に〜、ヤバイね〜。さっきも〜打ってたよね〜」
つぐみ「うん、同じ一年生とは思えないよね」
ひまり「あの人、ちょっとカッコいいかも///」
巴「ひまりのソレはイケメンなら誰でも行ってる気がするんだけど……まぁ、たしかにあの一年生コンビがこの試合を支配してるよな。正直、あの四番とコンビは他とはレベルが違いすぎる」
モカ「蘭〜。あのコンビと〜、同じクラスで〜友達なんでしょう〜? 今度〜、紹介してよ〜」
蘭「友達かどうか判断出来ないけど、連絡先なら持ってるよ。ただ、あの二人は普段はバカばっかりやってるからあんまり皆んなに合わせたくない……(特にモカ)」
モカ「蘭〜、今〜、モカちゃんには〜合わせたくないとか考えたでしょ〜」
蘭「……相変わらず鋭いね」
モカ「当然だよ〜。だって〜、モカちゃんですから〜」
巴「なんで、そんなに得意気なんだよ……」
ガギィン!
ひまり「あ! 漸く攻撃が終わったよ!」
つぐみ「最後は6番の田中先輩が内のストレートに詰まらされてセカンドフライで終わり。結城先輩と村井先輩が出塁してただけに勿体無い気がするね」
巴「次の回がターニングポイントになりそうだな」
蘭「どうして?」
巴「この回の得点で試合を決定づけるには、次の回の守備でリズムを作る必要があるからだよ。攻撃が長いって事は、コッチの投手だってペースが掴みづらいって事だ。だから、高校野球とか見てて点が入った直後から両投手が大崩れするシーンが多いのがいい例だよ」
ひまり「へぇ〜! 流石、巴! よく知ってるね」
モカ「うんうん〜。 さすが〜、モカちゃんのお弟子さんだねぇ〜」
蘭「いや、巴はアンタの弟子じゃないでしょう?」
つぐみ「あ! 成田くんと咲山くんが出てきたよ!!」
巴「なんか、守備交代にしては長かったな? 別にグラウンド整備の時間でもないだろ?」
モカ「う〜ん。なんか〜、作戦会議〜をしてたんじゃないかなぁ〜。 ほら〜、巴が〜言ってたみたいに〜流れが〜変わるかも〜知らないから〜」
蘭「あ、見て。ブルペンにエースナンバー背負った先輩が出てきた」
つぐみ「羽丘高校のエース『雪村 新太』先輩だね。去年の夏にチームのベスト8入りに大きく貢献した超技巧派投手で昨年話題を集めた人だね」
つぐみ「やっぱり、流れが怖いから投手交代を念頭に考えてるのかな?」
蘭「……」
モカ「? 蘭〜? どうしたの〜? マウンドをチラチラ見て〜」
蘭「ううん。気のせいかもしれないけど、なんか成田と咲山の雰囲気が変わった気がしたんだけど……」
ひまり「? 何も変わってないように見えるけど……」
巴「たしかに、慎重になる場面だから多少強張ってるのかも知れないけど、特段変わった気はしないかな」
蘭(やっぱり気の所為……?)
モカ「それより〜。次の徳修の打者って、確かプロ注目のスラッガ〜だよね〜。 さっきの回は〜動く球で〜ショ〜トライナ〜で討ち取ったけど、今度はどうなのかな〜?」
巴「うん。峰田 恭二先輩だな。今年の選抜で2ホーマーの怪物スラッガー。通算42本の本塁打を記録するなどの長打力に定評のある大型打者。 その大柄な体型からは考えられないような巧みな小技も使える非常に器用な人だな」
つぐみ「そうだよね。それもあって、去年の夏は2番打者として活躍してたみたい」
蘭「へぇ。じゃあ、プロ注目選手と黄金ルーキーの最注目対決なんだ」
ひまり「あ、成田くんが投球動作に入ったよ」
巴「初球の入り方が大事だからなぁ。リードする側は案外大変だろうなぁ〜」
蘭「そう─────『ズバァァァァァァーーンゥゥゥゥゥゥッッッ』え?」
突如鳴り響いた轟音。
地が響き渡る雷剛を彷彿とさせる怪音が球場全体に響き渡たった。
シーン……と静まり返る会場を他所に、いつのまにか手元に収まっていたボールを平然と返すという作業をするバッテリーに視線が移り、ついで、電光掲示板の球速表示に誰もが目を疑った。
これは、誰もが予想していなかった出来事で、きっと誰しもが疑心暗鬼に陥っていただろう。
けれど、それが現実。
目を背けるなんて事は出来なかった。
─────《151km/h》
ワァァァァァァァアアアアッッッッッッッッ!!!
球場に激震が走る!! 人々の大きな喧騒が木霊し続け、やがて球場全体を飲み込む。
誰もが誰も、この瞬間に慌てふためき歓喜する。
それを巻き起こした本人ですら苦笑いを浮かべていた。
だが、これで試合はこの時点で決定付けられた。
たった一球。けれど、一球。
彼のストレートは総てを無に帰す『神童の鉄槌』。
これにて、決着が敢え無くついてしまった。
その後、徳修は三振の山を築き上げられ終わってみれば、11対0の完全試合での敗北を喫した。
徳修|000 000 000
羽丘|420 202 01×
備考:羽丘高校背番号11 成田 空→完全試合達成 18奪三振
同校背番号12 咲山 大地→5打数5安打3HR6打点
これが一年生黄金ルーキーの初陣だった。
他の追随を許さない『翼』が羽化し始めた証拠だった。
ヒロインは何処から選ぶべき2
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アフグロ
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それ以外は以前の集計結果から選択します