Stand in place!   作:KAMITHUNI

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なんかネタバレしすぎてマズイ気が……。
早く本章進めなければぁ!(使命感)


月下の章

肌に張り付くような湿気を含んだ夜風に黒い前髪を靡かせて、制服姿の少年は綺麗に輝く満月に目を細めて眺めていた。

 

 

月下の市民公園。やはり夏場だけに熱気は夜とはいえど残滓している。夜も深みを帯びてきて、そろそろ21時を過ぎようとしていた。

 

 

それでも少年は帰ろうとしない。

左手に持ったミットを気にかけながら、ジッと誰かが来るのを待っていた。

 

 

??「悪い、遅くなった」

 

 

大地「おう、別に鎌わねぇよ。けどマジで遅かったな。なんかあったのか?」

 

 

??「いやぁ、オマエに会いに行くって由美に言ったら滅茶苦茶になってたと言うか、色々止めてたら遅くなったんだよ」

 

 

大地「へぇ、やっぱり由美は昔からお前にはべったりだなぁ。その歳なっても心配してくれる妹がいることに感謝しとけよ」

 

 

??「いや、そうじゃなくて……、まぁいいや。お前に言っても何も変わらんだろうからな」

(私も付いていくって、聞かないんだもんなぁ。なんか兄として妹の恋路を見てると嬉しさ半分悲しさ半分ってところだな。特にその相手が幼馴染だって言うんだから、なんか複雑だわ)

 

 

大地「? まぁいいや。それにしても昔ほどの圧迫感がなくなったな、雄介。勉強の方はどうなんだ?」

 

 

雄介「そりゃあ五年以上野球から離れれば細くもなるさ。ま、高さは増したけどな。野球を辞めてから勉強漬けだったんだ。そりゃあ良くないとダメだって話ってところだよ。久方振りだな、大地」

 

 

大地「あぁ、久し振り。雄介」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月明かりと電灯が照らす公園内にパァンッ! と渇いた捕球音が響き渡る。

灯りが作る二つの人影はそれぞれ十数メートル離れた位置に立ち、座っていた。

 

 

ボールを回転良く放つ左腕が撓ってキレの良い球をミットに向かって勢いよく突き進む。

 

 

スッパァァアーーーンンッ!

 

 

心地良い快音に包まれた閑静な園内。

糸を引くような綺麗なスピンが効いたストレート。それが大地の構えたミットの位置に寸分違わずに突き刺さった。

 

 

大地「ナイスボール」

 

 

雄介「おうよ。大地もナイスキャッチな! 相変わらず気持ちいい音鳴らしてくれるから一安心するよ」

 

 

「流石は世代最強捕手様。近所の壁とは次元が違うぜ」

 

 

大地「茶化すなよ、元天才投手様。130手前ってところか? 本当に辞めてから五年も経つのかよ。本当だとしたら相当だぜ」

 

 

「こんなキレのいい球を投げる高校投手も中々いねぇよ」

 

 

的確に胸元へ返球した球を捕球した雄介は暗がりでも顔を喜悦に染めていることが大地にもわかった。

 

 

何も嬉しいのは雄介だけではない。勿論、数年ぶりの元相方の球を直で受けられる大地とて、喜びに満ちた笑みを浮かべている。

 

 

雄介「ラァッ……!」

 

 

ビュゴォォォォ……ッッ!

 

 

ズッバァァァァアーーーンンッ!!

 

 

大地「ナイスボールッ。今のはさっきより球威上げたな。絶対、130キロ出てたろ」

 

 

雄介「お前のキャッチングに乗せられたんだよ。壁相手じゃあこんな球投げられた試しがないぞ」

 

 

大地「……怪我の方は大丈夫なのか?」

 

 

訝しげに配慮するのは、雄介の右太腿。

五年前ほどに、故意では無いとはいえ自身の手で怪我をさせてしまい、野球という彼の居場所を奪ってしまった。

その過去を振り返って、沈鬱な瞳を浮かべる。

 

 

色々な過去を断ち切り、プレイヤーとしても人間としても一皮向けた大地だが、今なお完璧に立ち直れていない出来事がある。

 

 

それが雄介の怪我の件。完全に吹っ切れない自身の忌まわしい過去。

自分が奪ってしまったモノで、自分は楽しもうと躍起になっている。それが酷く足枷になっていたのは事実だ。

 

 

だから─────。

 

 

雄介「……なんだ、そんなことか」

 

 

大地「そんなことって、そんなわけ─────」

 

 

雄介「そんなことだろう。久々に連絡寄越してキャッチボールしようとか言ってきたからなんだと思ったら、そんなことかよ」

 

 

ケラケラと笑う青年に、大地は少したじろぐ。

受け取ったボールを利き手に持って顔の正面に持ってきて、優しく語りかけるようにして、青年は口を開いた。

 

 

「脚自体は殆ど治ってるし、むしろ医者からは少しは動けって言われる始末だぞ?」

 

 

「たしかに野球を辞めたのは、そりゃあ当時は苦しかったしお前には八つ当たりじみたことを言ったりもしたさ」

 

 

「けどさ、こうして野球から離れてみると案外他にも目がいくようになって、徐々に他のことに没頭するのが楽しくなっていって自分でも驚くほどに元気になった」

 

 

「だから気にすんなよ。俺は大丈夫だからさ」

 

 

暖かく告げる青年の言葉。確かな罪悪感を募らせていた少年には、酷く残酷な物に思えて仕方がない。

 

 

大地「それでも、俺はオマエから野球を奪ったんだぞ? それを続けてる俺をなんとも思わないことは─────」

 

 

雄介「─────ないさ」

 

 

呆気からんと言ってのけた雄介に、大地は目を白黒にさせて驚愕する。

しかし雄介は濁りのない純粋な眼孔で、大地を射抜くや言葉を続けた。

 

 

雄介「思わないなんて言わないさ。当然、羨ましいとも思う。けどな、その俺のくだらない嫉妬心と、お前が野球を楽しみたいっていう感情は全くの別物だ」

 

 

「大地が野球を楽しんでいる姿を見て、嫉妬する俺はどれだけ醜かろうと俺なんだ。けど嫉みを受けてようが受けてまいが、大地が野球を楽しく続けるのか続けないのか、それを判断するのは大地次第だ」

 

 

「それとこれは全くの別基準。俺の言葉一つで意思をねじ曲げるようなら、俺はお前を妬む者として頬に拳を思いっきり突き立ててやる。だけど─────」

 

 

腕を大きく振りかぶり、ダイナミックなフォームから滑らかに腕を撓らせる。

豪快に放たれた速球は途中で加速したかのように手元で伸び始めて、最後─────。

 

 

ズッバァァァァアーーーンンン

 

 

雄介「─────オマエが俺の妬みとは関係なしで、ただ野球を純粋に楽しみたいだけでプレイするなら、確かに恨みはするかもしれないけど絶対に応援してやる」

 

 

大地「……っ」

 

 

雄介「だから気にすんなよ。お前は俺が認めた唯一の最高の捕手なんだ。こんな程度でリタイアされちゃあ、俺の株が大暴落しちゃうだろ?」

 

 

「それに、大地。お前、なんか勘違いしてないか?」

 

 

首を傾げながら、青年は大地にとって驚愕の真実を明かす。

 

 

雄介「俺は何も諦めてねぇぞ。野球も、ピッチャーも」

 

 

大地「は?」

 

 

雄介「あぁ、だからさっきも言ったろ? 脚はほぼ完治してるし、あとは無理しない程度の下半身強化としっかりとした土台作りさえしてしまえば、問題なく野球をやれる程度には復帰してんだよ」

 

 

大地「え? けどさっき羨ましいとか、妬むとか……」

 

 

雄介「そりゃあ羨ましいし、妬むさ。たった五年でも俺からすれば大きなハンデだ。その五年でどれだけの練習ができてどれほどの試合ができたのか……! くっ、マジで怪我の期間が腹ただしいぜ!」

 

 

ポカンと口を開けて、状況を掴み損ねる大地。

それに御構い無しに、雄介は口端を吊り上げる。

 

 

雄介「今年、高校2年。たぶん今頃野球部に入っても復帰期間を考えてもレギュラーは愚か、ベンチ入りも厳しいだろうな」

 

 

「だから、俺は大学から這い上がってやるよ。這い上がって掴んだ栄光を背負ったまま、オマエが先に行っているであろう舞台まですぐ追いついてやる」

 

 

胸元に三度返された球をまた振りかぶり、大きく強く投げた。

それは、速く鋭く低く─────。

 

 

ズッバァァァァアーーーンンンッッ!!

 

 

雄介「だから気にせずに楽しんで続けろよ。安心しろ、すぐに追いつくどころか追い抜いてやるからよ」

 

 

─────強い意志の乗った宣戦布告の狼煙を上げる球だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由美(ぅ、うぇぇええ!? お、お兄ちゃん!? 怪我治ってたのぉ!?)

 

 

こっそりとついてきた由美。家族の自分にも教えてもらえなかった兄の重大な秘密を聞いてしまったの図。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎金「え? 家族総出で応援に来るって? 他にも松原家も総動員で押しかける? そんな御大層なッ!」

 

 

虎金母「なにが御大層なもんかね! 息子の晴れ舞台! 見なきゃ親の名折れってもんだね」

 

 

花音母「うふふー。それに、昔から花音によくしてくれて助かってもらちゃった私たちにも、龍虎君の勇姿を応援しないわけにはいかないからねー」 

 

 

「それと、花音の彼氏さんのことも気になるしね」

 

 

花音「お、お母さん!///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花咲川商店街組合長「明日は我が地元にある二つの高校が野球で凌ぎを削るらしい! こりゃあ商店街総出で応援に行かなきゃなっ!! すぐに連絡回すぞぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友希那「え? 明日はお父さんも見に来るの?」

 

 

友希那父「まぁね。友希那が気になるおと─────ゴホン、久方振りに野球の試合が観たくなってね、地元校同士の戦いだし、気になるからね」

 

 

友希那「そう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蘭父「……明日も、彼は試合に出るのか?」

 

 

蘭「? まぁレギュラーだし、大地なら当然出てくるんじゃない?」

 

 

蘭父「そうか……(ふむ、少し観に行くのも悪くはない、か)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つぐみ母「あら! 明日は大地君が試合に出るの? なら私も観に行こうかしら、丁度組合長から応援団の編成を頼まれたところだしね!」

 

 

つぐみ「その話唐突過ぎない!?」

 

 

つぐみ父「……まぁ、様子見ぐらいなら(マイエンジェルに取り入った害虫め、今度こそオマエの弱みを─────)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙綾「え? 商店街の人たちが総出で応援に来るの? ということは、ここも明日は臨時休業にするってこと?」

 

 

沙綾母「そういうことになるわね」

 

 

純「え? 野球観戦するの!? やったー!!」

 

 

沙綾「純と紗南は明日も学校でしょ? ちゃんと授業を受けなさい」

 

 

紗南「えぇ! そんなぁ……」

 

 

沙綾父「……(ヤツが出てくるかもしれないのか……。延棒の準備をしておこう)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサ母「ウチがまさかベスト16まで残ってるなんて、ほんの2年前まで女子校だったウチがねぇ……。大地君も試合出るんでしょ?」

 

 

リサ「うん、そうみたいだよぉ☆ この前の試合でも二本も本塁打打ってたし、明日も観れるかな?」

 

 

リサ母「ふふ。久し振りに大地君の顔を見たいし、私も明日は観戦に行こうかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜「明日は両校共、全校応援ね」

 

 

日菜「うん! るるるん♩ ってするね! おねーちゃん!」

 

 

紗夜「ふふ、そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢来「……明日は─────」

 

 

 

月夜に手を伸ばした少年。

様々な思いが交差する月華の頃合い。

明日、ベスト8が決まる大一番。

昂りを抑えきれない少年は、ギュッと拳を強く握りしめて決意を胸に漲らせる。

 

 

矢来「─────必ず勝つ」

 

 

 

強い闘志を剥き出しに、戦士は待ちきれない夜明けを逸る気持ちを強引に押し付けて夢見に入った。




次回、試合開始!

ヒロインは何処から選ぶべき2

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