Stand in place!   作:KAMITHUNI

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第6話 開かれた『扉』

─────5回表に入る前の事だ。

 

空「なぁ、大地」

 

突然、空が俺を呼び止めて真剣さを窺わせる笑みを浮かべた。

 

大地「……なんだ? 攻守交代は直ぐにしなきゃならないんだ、要件があるならさっさと話せ」

 

少しキツイ口調になっていたが、いつもと違う空の雰囲気を訝しんでいただけだ。ただ、あの笑みに呑まれないように強がっていただけだった。

 

それすら察していると思わせるような静寂な微笑みで、俺に尋ねた。

 

空「この回から全力でいいか?」

 

…………。

 

きっと、普通の捕手ならまだ早いからといって温存させたに違いない。

実際、力感の無いピッチングでも徳修相手に通用してる。たしかに、次の打者は強い。ヒットぐらいは許すかも知れない。

けど、今のペースなら十分に完封を狙える。ここで無理をして後半にツケが来るくらいなら、せめて6回まで温存させるべきだ。

 

大地「わかった……。やるからには徹底的に殺るぞ……! 奴らの攻手を全て奪う。 そこまで言うんだ。果たして見せろよ……完全試合をしてみせろ」

 

空「おう」

 

だけど、俺はあの眼に呑まれた。

そう、その判断は悪手の筈である。理性では理解していても、本能が告げたのだ。今の空なら大丈夫だと、新しい境地に至る為の試練なのだと……そして、俺は女房役としてそれを支えなければならないと、即座に理解したのだ。

 

─────

 

峰田 恭二。

徳修を選抜ベスト8へ導いたこのチームの主砲。

通算42ホーマーの長打力と、その大柄からは考えられない小技と脚力を活かした技巧能力も高い超高校級の打者。

 

本来なら、様子見の為に一球外にスライダーを外すのが定石だが、この場合関係ない。

一球で捩じ伏せる事に意味がある。

……プロ注目の強打者相手に要求する球ではない事ぐらい分かってる。

こんなモノ、リードとは呼べない。

投球練習が終わった瞬間にサインを出す。

 

空「!」

 

空が一瞬驚愕したような顔を浮かべたが、直ぐに獰猛な笑みへと移り変わった。

そして、俺はサインに頷いた空を確認すると、その場でミットを構えた。

つまり、ど真ん中直球勝負。

全力ストレートをど真ん中に要求したのだ。

これにはベンチもグラウンドの選手たちが全員驚いた。

一か八かにもならないサインに誰しもが驚き戸惑う。

冷静なのは、サインを出した俺と、サインに頷いた空……そして、何も分からない打者のみ。

 

だからこそ、俺は峰田さんに告げた。

 

大地「アイツ。先輩と真っ向勝負したいらしいので、ど真ん中直球行きますね」

 

峰田「は!?」

 

当然その言葉を聞いた峰田先輩は憤怒の相を浮かべて激情に任せてバットを握る。力んでは本来の力は出ないだろうけど、この人なら怒りを力に変えそうな気がしてならない。なんか、オーラ見えるし。これが高校野球での強打者の風格か。

 

かなりの迫力に呑まれそうになったが、直ぐに立ち直る。

やっぱり、テメェは凄えよ。

全く動じない相棒を見て冷静になった。

さぁ、後はテメェ次第だ! ここに最高のボールを投げてみせろ!

 

大地(来いッ!!)

 

空「……あぁ、わかってるよ。オレの無茶振り聞いてくれてありがとな大地。そんでごめんな? その代わり、オレたちが見た事も無い景色を見せてやるからさ─────一緒に高みに行こう!!」

 

─────ズッバァァァァァァァァーーンゥゥゥゥッッッッ!!!!

 

峰田「……え?」

 

大地(ったく、テメェは何処まで突き進むつもりだよ、空……これじゃあ、俺が追いつかなくなるだろうが)

 

─────《151km/h》

 

この瞬間、『成田 空』の前に聳え立っていた大きな『扉』は圧倒的な才能によって『抉じ開けられた』。

 

────『成田 空』が『ゾーン』に入った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────もう、そこからは空のワンマンショーだった。

 

 

ズバァァァァァァァーーンゥゥゥゥッッッ!!!

 

ズバァァァァァァァーーンゥゥゥゥッッッッ!!!

 

ドキャァァァァァアーーンゥゥゥゥゥゥゥゥゥウッッッ!!!!

 

5回から9回1/3までの13者連続三振の快投乱麻を引き起こし、他を寄せ付けない圧倒的なストレートで試合を終わらした。

最早、最後はコントロールのコの字もないクソボールだったが、あまりの球威に誰もが手を出してしまう。

それ程、斡旋とした試合はあっという間に終わり、空の死刑執行が終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

??「……あれが1年だと? 冗談はよせ。最早、高校生の域を超えた【神童】だ。はっきり言って、そこらのプロよりレベルが高い」

 

??「えぇ、そうですね。特にあのストレートは高校生じゃ攻略不可能に近い。あの峰田率いる打撃特化型のチームが手も足も出ない投手が1年で現れるなんて、正直、ウチのチーム力じゃあ攻略できませんよ? どうするんですか? 主将」

 

??「恐らくだが、三日後の試合。成田は投げて来ない」

 

??「それは、どういう事ですか?」

 

??「前半4回までは制球を意識した打たせてたらピッチングで凡打の山を築き上げていたが、中盤の5回以降はペース配分など皆無の快投だった。球数もそれなりに嵩張り、終わってみれば、9回までに113球だ。これは1年の肩には大きなダメージ。中学のイニング数は7回まで、球数も自然と少なくなっている。だからこそ、100球を超える球を投げた経験があまり無いはずだ」

 

??「つまり、次の試合は肩を休ませる為に、投げてこない」

 

??「そういう事ですか……なら、次は雪村ですか?」

 

??「あぁ、その可能性が高い。雪村は東地区でも珍しいタイプの右腕だが、今日見た限りは成田よりも容易く攻略できる。そして、雪村が投げるなら、間違いなく捕手は咲山ではなく、帯刀でくる」

 

??「バッテリー間の絆って奴ですね?」

 

??「そうだな。帯刀と雪村のバッテリーは良くも悪くも小学生時代から変わらない。御馴染みバッテリーだ。態々、1年との急造バッテリーを組ます必要はないだろう」

 

??「だったら、今日の帯刀の様にレフトでスタメンに入れるんですかね?」

 

??「いや、恐らくそれはない」

 

??「なんでですか?」

 

??「奴の中学時代のデータを見る限り、レフトでの出場どころか、キャッチャーの守備しか付いてない」

 

??「奴は生粋の捕手という事が否応にも見えてくる。そうなれば、あの打線で怖いのは結城と帯刀、それと1番打者の秋野に気を配れば十分に勝機がある」

 

??「攻撃面では機動力を活かした走撃を中心にしていく。右スクリューハンドの雪村は対左に弱いという一面もある。球速も125km/hと打ちごろ。たしかに、ドロップカーブ、スライダー、フォーク、シュート、シンカーと言った変化球は気をつけなければならないが、安易に変化球しか無いと言ってるようなものだ」

 

??「出塁しちまえば、コッチの優勢って事っすね! 流石は主将です! 主将が居れば百人力ですね!」

 

??「あぁ、だが油断はするな……奴らはウチよりも早いペースで成長をし続けている。 予測なんて意味が無いと思え。ただ、同じ状況下に置かれた学校としての暦の長さで優っている此方の方が強い事を証明するだけだ」

 

背番号2を付けた大柄の男は険しい顔を羽丘ナインに向けてから、その場を去る。彼らのユニフォームに書かれた学校名は─────花咲川学園。

 

2年前、少子高齢化によって羽丘と同じく共学化された学園。

歴としては花咲川が速く創部され、今では実力を伸ばす実力校として名を馳せ始めた高校だ。

 

彼等は基本に忠実な野球を武器に、周りの強豪校を軒並蹴散らす。

1ゲーム3失点以上は許さない2年生エース『虎金 龍虎』を筆頭に、長打力とクレバーなリードを武器にする強肩キャッチャー3年主将『澤野 弘大』を軸とした打撃陣の質の高さは既に全国クラスである。

 

理事長が野球好きという面からも、資金援助が盛んであり、設備も整い出した今こそ、彼等にとっての力試しとなる。

 

最近、力を蓄え出したダークホース羽丘高校。

試すには絶好の機会である。

夏の都予選では、ベスト16になったが、それは足が無かったからである。

走力で搔きまわす爆発力がなかったから、負けたのだ。

この冬のオフは徹底的に走り込み、今では走力+元あった高い打撃力を底上げした超攻撃型チームへと変貌した。

 

しかし、彼等は知らない。

『羽丘高校』にいる【怪物】は『成田 空』だけでは無いのだという事を知らない。

 

彼等は知らない。

捕手を誰よりもこなしてきた人物が『絆』という難点を難点とも思っていない事を知らない。

 

何より、彼等は知らない。

『成田 空』が【鷲】なら、『咲山 大地』は【大樹】である事を知らない。

 

 

 

羽丘高校と花咲川学園。

 

 

両校の試合はもう目と鼻の先である。

 

 

 

 

─────

 

 

??「へぇ〜。お姉ちゃんの学校も野球部勝ったんだね。なんか『るん☆』ってくるね! これでお互いに全校応援だから、授業に出なくて済むね!」

 

??「……日菜。学生の本分は勉強なのよ。授業に出なくていい事なんて無いのよ」

 

日菜「えぇ!? いいじゃん別に〜! それに、野球観戦なんて子供の頃以来した事ないし、『るん☆』って来るよ!」

 

紗夜「はぁ〜。貴女に何を言っても無駄な気がするわ」

 

日菜「お姉ちゃん! 次の試合は一緒に見ようよ! 絶対、そっちの方が『るん☆』てするよ!」

 

紗夜「……貴女、分かってるの? 次の試合は謂わば、敵同士よ。私達が直接争うわけではないけれど、各校の生徒が無断で会えるわけないじゃない」

 

こんな姉妹のやり取りがあった事も誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

大地「次、アウトローにストレートをお願いします」

 

雪村「わかった……ッラァ!!」

 

シュ……ッ!!

 

ズバァンッ!!

 

大地「……」

 

雪村「どうだ? 今の感じ的には良かった気がするんだが、捕ってみた感じは?」

 

大地「正直に答えて欲しいか、煽てる感じでベタ褒めして欲しいか、どっちがいいですか?」

 

雪村「かぁ〜〜ッ!! それって、つまりあんまり良くないって事かよ! 辛口だね〜! 1年ルーキー!」

 

大地「まぁ、バッテリー間に先輩後輩は関係ありませんからね。で、今のストレートなんですけど、先輩。コントロールを意識しすぎて球が来てません。もう少し、下半身を深く踏み込んでみたらどうでしょうか? 恐らく、上半身だけで投げようとしてるから球が死んでるだと思いますよ。 あ、少し待ってください! 帯刀先輩! ちょっとビデオ撮ってくれません?」

 

帯刀「おう、わかった(すげぇな咲山。一応、ウチのエースだぜ。それが入りたてのルーキーが苦言を出せるもんか? いや、そもそもファームの事なんて俺は着眼なんてしてこなかった。まさか、小学生時代から変わらない新太のフォームがアイツのストレートを余計に殺してたなんてな)」

 

帯刀(コイツに俺は勝てる気がしない。捕手としても野球人としても……こんなに長く連れ添った相棒ですら、あの馴染み様だ、俺はレフトにコンバートすべきなのかもしれない……)

 

大地「あ、それと帯刀先輩!」

 

帯刀「? なんだよ?」

 

大地「今回は、昨日の結果故に俺が捕手に抜擢されましたけど、次は実力で奪ってみせますから、覚悟しておいてください!」

 

帯刀(屈託の無い笑み。つまり、コイツは本気で俺に劣ってると思ってやがるってことか……ったく、勝てないよ、本当に)

 

帯刀「おう! 一年坊にレギュラーを掻っ攫われる程、俺はヤワじゃねぇぞ!」

 

こうして、新たなライバル関係が浮き彫りにあがり、羽丘高校の士気は高まるのだった。




雪村 新太 右投げ右打ち スクリューウォーター
球速 125km/h
コントロール B
スタミナ C
変化球:ドロップカーブ5、スライダー3、フォーク3、シュート2、シンカー4
特殊能力:スロースターター、尻上がり、キレ、四球、低め、緩急、強打者、打たれ強さB、闘志

虎金 龍虎 左投げ左打ち スクリューウォーター
球速 143km/h
コントロール C
スタミナ A
変化球:高速スライダー4、サークルチェンジ4、カットボール2
特殊能力:ノビB、キレ、対ピンチA、闘志、打たれ強さA、クロスファイヤー、内角○、低め、強打者

澤野 弘大 右投げ右打ち
弾道 4
ミート B
パワー A
走力 C
肩力 B
守備力 D
捕球 C
特殊能力:アーチスト、アベレージ、チャンスA、キャッチャーA、走塁B、盗塁B、送球A、チャンスメーカー、満塁男(本塁打)、いぶし銀、粘り打ち

ヒロインは何処から選ぶべき2

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