Stand in place!   作:KAMITHUNI

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わ、涌井さんが楽天に金銭トレード!?
生涯、ロッテかと思った……。
とにかく、新天地でも頑張ってください!!


投手の闘争本能

審判「た、タイムッ!」

 

 

大地「矢来っ!」

結城「我妻っ!」

笠元「おい! 大丈夫かいな!?」

 

 

 

実況『ピッチャーの我妻、虎金のピッチャー返しに反応できずに頭部にボールが直撃してしまった。先ほどから横になったまま動きません!』

 

 

 

片矢「雪村! 本山! 至急肩を作れっ! 榊は成田に準備させてこいっ!」

 

 

雪村「了解ですっ!」

本山「はいっ!」

榊「わかりました!」

 

 

 

大地「おい! 矢来ッ! 意識はあるか!? あるなら、指先でもいいからちょっとだけで動かして、無事かを教えろ!」

矢来「お、大袈裟だっ、て……。普通に意識あるよ」

村井「頭にモロだったんだ、大袈裟なものか!」

矢来「でも案外ピンピンしてますし、なんともないっすよ。ほんと」

結城「急に起き上がろうとするな。ゆっくりと身体だけ起こして、違和感があったらすぐ言え」

矢来「いえ、一瞬何が起きたかわかりませんでしたけど、今はなんともないですよ。ほら」

 

 

審判「我妻君、医務室に行こうか」

矢来「いや、だから……!」

大地「いいから行くぞっ! ほら! 早く俺の背中に乗れっ!」

矢来「いいって、本当に! なんもねぇから……」

大地「乗れッ!!」

矢来「……っ」

大地「頭ぶつけてんだ、死にてぇのか!? いやなら黙って言うこと聞け!」

矢来「……わかった」

 

 

 

実況『我妻投手、大丈夫でしょうか……? 頭部に打球が直撃した模様ですが……』

綿部『ぶつかった場所が場所ですからね……万が一が起きなければいいのですが』

 

 

 

片矢「こっちこい、医務室はコッチだ」

大地「わかりました」

矢来「……」

 

 

「……監督」

片矢「? なんだ?」

矢来「この回……いや、この試合だけは絶対に変えないで下さい。俺はまだ何もやり遂げていません。まだやれます」

片矢「─────。それは、医者と俺の判断だ。自己満足だけで命をどぶに捨てさせるわけにはいかない」

 

 

「だから、今は大人しくしていろ」

 

 

 

アナウンス『お客様にお願い致します。只今、羽丘高等学校ピッチャー我妻君の怪我の治療をしておりますので暫くお待ちください』

 

 

香山「虎金先輩……大丈夫ですか?」

虎金「ん?……あぁ」

 

 

「正直……今すぐ泣きてぇよ」

 

 

「てか、殆ど挫けてる」

 

 

香山「……それは……でも」

虎金「わかってるよ。あれは不慮の事故。偶々が重なって、あぁなった。けど、ちゃんと詫び入れなきゃいけないし、俺があいつを怪我させてしまった事実は変わらない」

 

 

「だからさ、もし……もし、あいつの身に何かあったら、俺は野球から身を引くよ。当然、この夏が終わってからな」

 

 

香山「そんな!? 虎金先輩……!?」

虎金「たとえそれが、誰も望んでいなくても、それが俺が出来る最低限のケジメだ。そのことについて、誰にも文句は言わせない」

 

 

「だからこの試合だけは、全力で勝つ! 誰のためでもない、俺ら自身の為に、この先も全力で勝ち上がるために!」

 

 

 

 

 

 

アナウンス『お客様にお願い致します。只今、羽丘高等学校ピッチャー我妻君の怪我の治療をしておりますので暫くお待ちください。』

 

 

騒然とする場内に響く、ウグイス嬢の淡白な声。

 

 

花音「矢来くん、大丈夫だよね……?」

千聖「……花音」

 

 

そのウグイス嬢とは対照的に、花音は顔を蒼白にして、喉を震わせる。

千聖はそんな親友を安心させようと、宥めるように優しく手を握る。

当然、持ち前の演技力で平静ぶっている千聖も動揺している。否、千聖だけではない。敵味方関係なく、スタンドにいる観衆すべてが運ばれていく夜来を見て、心配そうな声を上げ、眉を落とす。

 

 

黒服「……矢来」

 

 

黒服、眉木も自らの弟子が負傷した事実に動揺を禁じ得ないらしい。思わずと言った風に、口からポツリと矢来の名が溢れていた。

 

 

誰もが誰も、彼の身を案じ、無事を祈る。

 

 

観客「おいおい、我妻大丈夫かよ……」

観客「というか、我妻降りたら流れ悪いよな。だれかこのあと引き継げるピッチャーいんの?」

観客「いるのはいるだろう。今だって、雪村がブルペンで肩作ってるし、何よりレフトに【神童】成田が出場してるし」

観客「けど、ここまで来たら見たかったよなぁ、我妻の二戦連続パーフェクトと20奪三振超え」

観客「いやぁ……パーフェクトはなくなっちまったけど、奪三振ショーは見たいな。ほんと、変えて欲しくないなぁ」

 

 

“大丈夫、大丈夫……だよね? 矢来くんは強いもんね。こんなことで私を置いて行かないよね?”

 

 

そう言い聞かせる。

 

 

“矢来くんは私のヒーローだもん。必ず無事で、またマウンドで笑ってくれるはず……絶対……きっと……大丈夫”

 

 

花音「……ふぇぇ」

 

 

 

 

 

 

 

医師「一応、小さめの検査をしてみましたところ、特に異常は見られません。ですが、MRIなどで診察したわけではありませんので、完璧に安全とは到底言えません」

矢来「俺は行けます! 行かせてくださいッ! 今、あそこから降りるわけには行かないんですッ!」

片矢「いけるいけないの判断は監督である俺が決める。命の危険がある。今のお前に、尚のことその裁量を与えるわけにはいかん」

矢来「みんな大袈裟すぎるんですよッ! 俺の体は、俺が一番よく知ってるっ! その上で行けるって言ってるんだから、行かせてくださいッ!」

片矢「若さ故の過ちで取り返しのつかないことになる場合だってあるんだっ!!」

矢来「っ!」

片矢「……落ち着け。お前が『何』に焦ってるのかはわからんが、一旦冷静になれ。お前は目の前の『何か』に固執し過ぎている」

 

 

「この際、その『何か』には触れないでおく。が、目前に囚われ過ぎて、取り返しのつかない事態になったらどうする? それで悲しむのは誰だ? それすらも判断できない、前しか見えていないお前が行ってどうする?」

矢来「……それじゃあ、ダメなんだ」

片矢「は?」

矢来「目の前の一勝に、必死に食らいついていくのはダメなんですか?」

片矢「それは曲がった捉え方だ。それとこれとはまた別問題だろ」

矢来「我儘だってわかってる。早急に交代するべきだってわかってる。けど、それでも─────」

片矢「……」

 

 

矢来「─────俺は投げたい」

 

 

(今、俺があそこから降りたら、虎金さんを超えられた事にならない。成田から背番号を奪うことができない。そんな確信がある)

 

 

(だから……)

 

 

「今、俺があそこから降りるわけには行かない。自分のミスでランナー出して、じゃあ頼むって他の人に頼るなんてことはしたくない。自分の失態は、自分で拭ってみせます」

大地「矢来……」

 

 

あぁ……どうして被る。

あの時と全く同じだ。いつだって投手って生き物は我儘で、独尊人が激しくて、それでいて強い。投手はみんなそうなのか? なぁ? 雄介。

 

 

ギリギリ限界の状態。それでもお前らは尽く言うんだ。

“投げさせろ”ってな。

ほんと、メンドクサイ。捕手からすれば、なんて聞き分けの悪いことやら。手綱なんか付けても意味ねぇもんな、お前らは。手綱なんか簡単に引きちぎって、独走する。それがお前ら投手。

そして、それをなんとかして押さえ付ける役目を持つのが捕手……の筈なんだけどなぁ。

 

 

大地「監督……俺からもお願いします」

片矢「咲山、お前まで……」

大地「無茶苦茶だって分かってます。けど、このまま駄々捏ねられて、病院行きまで拒否してきたらどうしようもありません。幸いにも、点差は三点。これなら間違いが起きても、まだ取り返しがつきます」

 

 

「それに、この回でダメならダメで諦めるでしょう。その方が手っ取り早いです」

矢来「……大地」

大地「だから、お願いします。あとワンナウトだけでも、コイツに投げさせてやってください」

 

 

「責任をとる、なんて軽々しく言えません。無謀無茶は百も承知です。それでも、コイツに、この試合は投げさせてやりたいんです」

 

片矢「……」

 

 

大地「お願い、します……!」

 

 

片矢「意思は、硬い……か」

 

 

「ほんと、頑固で阿保なバッテリーがいるせいで監督である俺の胃がもたん」

 

 

「この回は無失点で凌いでこい」

 

 

「ただし、少しでもおかしいと思ったら即交代だからな」

 

 

矢来「あ、ありがとうございますっ!」

 

 

片矢「走って戻れ。あの場所に立つ以上、それ相応の覚悟と理念を貫き通せ」

 

 

大地・矢来「「はいっ!!」」

 

 

 

“今、俺がマウンドから降りるわけにはいかない”

 

 

まったく……。どれだけの時が流れたとしても、変わらないな。

俺は走っていく、我妻の背中を目で追いながら思った。

 

 

投手としての闘争本能、か……。

 

 

自分の体を労わろうとせず、ただ一心に投げたい欲に身を任せる狂人。その言葉に気圧されるなんて、俺は監督失格かもしれない。

 

 

なぁ? 眉木。お前の弟子は、本当にお前とそっくりだよ。

 

 

 

宗谷「矢来、ほらドリンク」

 

 

そう言って、宗谷は矢来に水の入ったカップを手渡し、背中を優しく叩く。

 

 

矢来「おう、サンクス」

宗谷「次のバッターは坂山さんな。脚速いから、塁出せば面倒いぞ。気をつけてな」

矢来「あぁ、ありがとな」

宗谷「いつも通り、な?」

矢来「そうだな、いつも通り。それでいくよ」

宗谷「よしっ! いってこい!」

矢来「うん! いってくる!」

 

 

 

実況『我妻投手、今ベンチから出てきましたっ! ブルペンではリリーフ陣が肩を作っていますが、ここは続投のようですっ! 元気に駆けてマウンドに戻ります!!』

綿部『走っている姿を見る限り、ふらつきもありませんし、どうやら重度ではないとの判断でしょう』

 

 

観客『我妻ぁあーー!!』

観客『無事だったかぁあ!!』

観客『心配したぞぉ!!』

観客『よっしゃここからまた、奪三振記録を築いて行こうぜっ!!』

 

 

実況『お聴きくださいっ! この両校スタンドの歓喜を!! 戻ってきた我妻投手に拍手と歓声が送られます!』

 

 

 

千聖「よかったわね、花音♩ 彼、元気そうよ」

花音「……そ、そうかなぁ」

 

 

本当に大丈夫……? 矢来くん、見栄っ張りだから、無理して出てきてない?

 

 

千聖「花音は少し心配しすぎよ? ほら、またあんなに速いストレート投げてるじゃない」

花音「そ、そう、だよ……ね」

 

 

 

 

ズッバァァァアァァァアァァァアァァァアァァァァァーーーンンンッ!!

 

 

ズッバァァァアァァァアァァァアァァァアァァァァァーーーンンンッ!!

 

 

ズッバァァァアァァァアァァァアァァァアァァァァァーーーンンンッ!!

 

 

大地「うし、大丈夫そうだな。これなら問題ない」

矢来「だから最初から言ってるだろ? 大丈夫だって」

大地「ツーアウトランナー一塁で、一番の坂山さん。初球はカーブで入るぞ。まだ坂山さんに対してはカーブを使ってないし、頭にはない筈。ストライクゾーンに入れろよ」

矢来「了解。そういうことは大地に任せるよ」

大地「甘く入ったら、ボッコボコだかんな。さっきのは厳しいコースだったから態勢崩してまだマシな打球だったけど、今度はそうはいかねぇかもしんないからな。身を持って知ったろ?」

矢来「不謹慎ネタやめい」

大地「とにかくだ、厳しく来い。ゾーンに来いとは言ったが、最悪外していい。腕だけはしっかり振れ」

矢来「あぁ!」

 

 

 

アナウンス『球場へ御来園なさった皆様、大変長らくお待たせしました。1番、坂山くん』

 

 

審判「プレイっ!!」

 

 

実況『打席には一番の坂山! 今日は我妻の前に二打席連続っ!! 本日三度目の対戦は、ツーアウトランナー一塁の場面っ! 今日初めてのランナーを活かすことが出来るのか!? さぁ初球っ!!』

 

 

 

坂山(頭打った後のマウンド……。酷かもしれねぇけど、その浮き足立ってるところを狙わせて貰うぜ!)

 

 

(狙うのは初球─────!?)

 

 

ビュッ!!

 

 

(浮っ……!?)

 

 

カクンッ!

 

 

スッパァァアァァアーーーンンッ!!

 

 

《 112Km/h 》

 

 

審判「ットライーク!!」

 

 

実況『初球はカーブから入ってきました! 素晴らしいコースに決まります! 打球の影響はなしの模様ですッ! カウントワンストライクノーボールッ!』

 

 

大地(一回、牽制。普通の速度でいいぞ)

我妻(おけ)

 

 

虎金(一回もこっち見な─────)

 

 

ササッ!

 

 

虎金(?! 牽制うまっ!)

 

 

シュッ!

 

 

ザザッ!!

 

 

パシンッ!!

 

 

塁審「セーフッ!」

 

 

 

実況『おっと! ここで牽制を一つ入れてきたっ! 虎金は危うくアウトになりかけるが、頭から戻って間一髪セーフっ!』

綿部『初球のカーブといい、今の牽制といい、我妻くんは久々のランナーにも関わらず、ランナーとの駆け引きが上手ですね』

 

 

 

虎金(コイツ……わざと視線を向けなかったな。その上、速度はまだ抑えてる。一体、幾つ引き出しを持ってる?)

矢来(割と刺しにいったけど、流石にいい反応してる。けど、これでリードが小さくなった。打者に集中できる)

 

 

大地(それでいい。矢来は元々、速球派じゃない。ここにきて急成長したとは言え、中学時代は軟投派。ランナーを出す機会が結構あったみたいだからな。ランナーとの駆け引きが上手いのは当然だ)

 

 

 

(次、外低めのストレートで一気に追い込む)

 

 

ズッバァァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアアァァァアァァァアァァァアァァァーーーンンンッッッ!!!!

 

 

 

大地(……いいコースだが?!)

 

 

審判「ボールっ! ワンストライクワンボール!!」

 

 

我妻(審判、厳しいな……)

大地(ボール半個分外だったか。けど、ボールの勢い自体は問題ない)

 

 

実況『二球目、アウトロー直球!!これは僅かに外れて、カウントワンストライクワンボールッ!!』

 

 

 

坂山(いい球だ。手が出なかったぞ……どうやら打球の影響は、ないみたいだな)

 

 

大地(次は外にスライダー。これはカウントを整えるためのボールだ。内に入ってくるとスコられる可能性があるからな、集中しろよ)

 

 

 

投げれる。

 

 

今の俺なら、あのミットに完璧なボールを投げ込める。

 

 

失投なんかしてたまるか─────!

 

 

“……あれ?”

 

 

身体が、グラついて─────?

 

 

ボールに力がいかない……?

 

 

ヤバイ、スライダーが抜ける……。

それだけはダメ。せめて叩きつけないと!

 

 

 

ズバァンッッ!!

 

 

審判「ボールッ! カウントワンストライクツーボールッ!!」

 

 

 

実況『これは変化球が引っかかってワンバウンド!! 明らかな低めボール球でカウントワンストライクツーボールッ!』

 

 

大地(ここで追い込んで、カウント有利に進めたかったが……今のは、抜けそうになったのを強引に叩きつけた?)

 

 

矢来「悪い!」

 

 

大地(少し投げ方が崩れてた? まさか、さっきの影響が……?)

 

 

(とにかく、間合いを取るためにもう一回牽制入れとけ)

 

 

シュッ!

 

 

パシンッ!

 

 

塁審「セーフ!」

 

 

 

実況『再び牽制! しかし、今度は戻る余裕がある!! セーフです!』

綿部『刺しにいった牽制というよりも、咲山くんが我妻くんの様子を伺う為の牽制ですね。先程のスライダー、少し投げ方がおかしかったので、それを確かめたかったのでしょう』

 

 

矢来「よし、いつも通りだ」

大地(……あの様子なら大丈夫そうだな)

 

 

(一、二球目共に良い球きてたし。考えていたプランからはそれたけど、まだ立て直せるライン。許容範囲だ)

 

 

(次はお前の大好きなコースだ。しっかり投げ込めよ)

 

 

矢来(インコース高め、ストレート)

大地(さっきみたいに力抜けるなよ。指先まで神経尖らせろ。ここに投げ込め)

 

 

 

実況『ワンストライクツーボールと、打者有利のカウント。ピッチャー我妻、咲山のサインに頷きセットポジション。クイックからの四球目!』

 

 

 

ビュゴォォオォォオォォオ……ッッ!!

 

 

坂山(インコーナー!)

 

 

(やべぇ!? 手が出ない!)

 

 

 

ズッバァァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアアァァァアァァァアァァァアァァァアァァァーーーンンンッッッ!!!!

 

 

審判「ットライーク!!」

 

 

《 150Km/h 》

 

 

 

実況『左打者の坂山の懐を豪快に貫く豪速球でツーストライク!! 追い込んだ!! 今のが会心の150キロ!!』

 

 

大地(良いボール。上出来だぞ)

矢来(ツーツー。追い込んだ、こっち優位。いける!)

 

 

(ここでケリをつける!!)




もはや死亡フラグ……。

……死なないよ!?

ヒロインは何処から選ぶべき2

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