アナウンス『九番、ライト 虎金くん』
実況『本日二度目の打席に立つのは、エース虎金。一打席目は我妻のアウトコースへのツーシームで空振り三振に仕留められています。打線が沈黙する中、起死回生の一打を放つことが出来るか?!』
矢来(只々やられたあの頃とは違うんだってこと、もう一度証明してやる)
虎金(俺はお前を認めようとは思わなかった。ヒーローとしても、投手としてもな。それは見る影もないって勝手に判断したからだ)
(でも我妻、今のお前はまさしく投手として輝いている。否応無しに眼中に入ってくる)
矢来(ここまでの成績では完勝だが、あの日、ボコボコにやられた借りはまだ返せてない)
(この夏、貴方達を完膚なきまでに倒して、あの日から抱き続けた鬱憤を全て晴らす!)
(ケリをつけてやる)
実況『初球、我妻がワインドアップから足を上げる!』
ビュゴォォォォ……ッ!!
カコーーンンッ!!
審判「ファールッ!!」
《 148Km/h 》
大地(アウトハイの直球をファールチップ……タイミングはドンピシャか。やっぱり打者としても侮れないな)
実況『アウトハイに直球、148キロはバックネットに突き刺さってファールボール!! グラウンド整備を挟んでからの六回でも高い集中力を保ち続ける我妻! 素晴らしい根気です』
綿部『気を散らさぬ我妻君も流石ですが、コースに決まったその威力ある速球についていく虎金君も凄いですよ』
虎金(前の二人を見てたからわかってたけど、少しぐらいは気を散らしといてくれよ。その気力、どうなってんだよ)
シュパッ!!
スッパァァアーーーンンンッ!!
審判『ボールッ!』
実況『二球目は外低めにカーブ! ただし、コースはわずかに外! これでカウントはワンストライクツーボール!』
大地(……ここだな。ワンツーかツーワンではリードの組み立てに大きな違いが出てくる。リズムよく来ているからこそ、慎重に攻めろよ)
矢来(インコースツーシーム、けどボールコースはなし、甘いところも厳禁だろ?)
大地(よくわかってるな。油断大敵だぞ)
虎金(ここ、確実にストライクが欲しい場面。ワンツーになった場合、ワンスリーにしたくないだけに、選択肢が狭まる。カウントが悪くなる前に攻めてくるはず)
(羽丘バッテリーなら、間違いなくコースを強気に攻められるインコーナーにストレート……!!)
実況『三球目!』
ビュゴォォォォ……ッ!!
虎金(ほらな!インコースだッ!)
カクンッ!!
ズッバァァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアーーーンンンッッ!!
大地(よし、ナイスコース!)
矢来(追い込んだぞ!)
虎金(ここでツーシーム……かよ!)
実況『インコースへと緻密に制球されたツーシームを空振りッ!! バッテリー、これで追い込んだ!』
大地(ストレートにタイミングドンピシャ、そんでカーブには振るそぶりすらなく、ツーシームには空振り……ストレート一本狙いか)
(ツーワンと、追い込んだ時……打者は自然と変化球への意識が高くなるものだけど……)
矢来(この人なら、ストレート一本狙いのままだろ)
大地(だな。外角低め、ボール球に落とせ)
実況『四球目! ここで決めにくるか!?』
虎金(……これ以上、負けられねぇんだよ)
(お前らに負けられない理由があるように、俺にはこんなところで負けられない絶対的理由がある)
(我妻、お前だけじゃねぇんだよ。負けた苦しみを抱く本当の辛さを知ってる奴はな……)
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ズッバァァァアァァアァァアァァアァァアァァアアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァァアァアァァアーーーンンンッッッッ!!!!
審判『スウィングアウッッ!! ゲームセットッ!!』
実況『ラストバッターの虎金も、背番号18の一年生投手、山本 大輔の豪速球を前に無念の空振り三振ッッ!!』
『これが王者の貫禄ッ!! 3対0! 一年生投手同士の投げ合い制した早瀬田実業、危なげなくベスト8進出!!』
『山本、被安打1、四球1、奪三振17の完璧な投球内容で花咲川を相手に完封勝利ッッ!!』
─────
虎金(去年の、早瀬田実業戦……俺が最後の打席に立って無様に散った)
あの場面で先輩達に繋ぐことが出来なかったんだ。
あの日ほど、己の無力さを嘆いた日はなかった……。
あの日、山本に突きつけられた現実があったからこそ、今の俺がいる
山本も、成田も、萩沼も、お前も……俺の前をただ突っ切っていく。最大の壁として立ち塞がっていく
夢、今ここで限界を超える事だ
ここで打たなければ、俺はまた無力なあの頃と何も変わらない。超えるしかない。
去年、超えることのできなかった俺が、やるべき使命だ。
だからこそ、結果を出して示せ。
今こそ、過去の悔恨を打ち晴らすときだ。
矢来(これでチェックメイトだ─────!)
ビュゴォォォォオォォ……ッッ!!
ここで打たなくて……!!
カクンッ!!
ここでチームを救わなくて……!!
大地(な!? 反応された!?)
矢来(嘘だろ!?)
大地(けど、それはボール球ッ! 引っ掛けてショートゴロが関の山─────!?)
“何がヒーローだッッ!!”
カッキィィィイィィイィーーーンンンッッ!!
実況『外の変化球を片手で拾ったッ!!』
“……え?”
アウトコースから落ちるツーシーム。
ほぼ完璧と言って差し支えのないそのボール。
我妻矢来は投げた感触と、相手の振りを確認して三振を確信した。
しかし、野球……否、スポーツという勝負事において絶対はない。それは怪我、風、テンポ……そういった些細な不祥事一つで綻ぶものだし、選手一人一人がしっかりと懸念しておくべき事案と言えよう。
それは当人たちがもつ意思とは否応なくだ。
だが、投手は非常に繊細だ。
気を付けなければならないと、心底に刻み込まれてはいてもコントロール、球威、変化球といったピッチングにどうしても意識が向けなければならない。
投げて行くうちに、段々と排斥されてきた不足の事態への対処を疎かにしてしまう。
特に、我妻矢来はここまで快投乱麻の投球で、初回の途中から相手にボールを前に飛ばさせていなかった。
前に飛んだだけでも、相当な揺らぎが生まれるというのにヒット性のあたりだと尚更だろう。
だから、自身に迫る危機に気付くのに遅れてしまった。はっと気が付いてグローブを前に突き出しても、もう遅い。
大事なことを失念した。その後の末路は、我妻矢来自身の身をもって知らされることになった。
ゴッ……!
何か硬いもの同士がぶつかり合う音が、矢来の耳朶を打つ。
衝突音が聞こえた後、すぐさま視界がフラッシュする。
直後、身体が揺らぐ。
(な、に……が……)
意識が途切れ途切れのなか、矢来は力無く仰向けに倒れ込む。
虎金がファーストベースを駆け抜ける姿と、大地が焦燥気味に駆け寄ってくる姿に漸く自身の置かれた状況を理解する。
(頭にボールがぶつかったのか……)
や、矢来ぃぃぃぃい!!
ヒロインは何処から選ぶべき2
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アフグロ
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