片山「準々決勝の相手は八川大学第三高等学校。春から練習試合を含め31勝3敗の超実力校。去年の夏秋ではどちらも準優勝の実績だ」
「ただし、ウチは成田が好調だったお陰で春大は勝たせて貰っている」
「だが、まさかありえんとは思うが、舐めてかかると惨敗するぞ。そのぐらいの相手だ。慢心に溺れるなよ」
「「はいっ!!」」
片矢「よし。それでは八高の戦力を見ていくぞ」
「まずは投手陣から。エースナンバーを背負う武良木は最速143キロの本格派右腕。球種はスライダーとスプリットを軸に、時折緩いカーブを交えてくる。特に身をもって知っているとは思うが、武良木のスライダーはかなり手元で曲がり始める厄介な決め球だ。コントロールもよく、平然とバックドアやフロントドアを使ってカウントを取りに来る」
結城「春にイメージを掴めているのは大きいが、相手もどれぐらいに成長しているのかわからないからな。警戒をするに越したことはない」
大地「左打者の自分からしてもスライダーを膝下一杯に決められると厳しいかもですね。早打ちは論外かもしれませんが、カウントが浅いうちに打っていきたいですね」
片矢「続いて背番号10の2年生変則サウスポーの柚木についてだ。対左に異様に強い理由は、スクリュークォーターとオーバースローからの投球フォームを確立しているからだ。最速こそ130後半台だが、左打者からすれば果てしなく遠く感じるスクリュークォーターとスピン量が多く高めに釣られるオーバースローに気をつけたいところだな。コイツの決め球はチェンジアップとスライダー。あと、ここ最近では縦のカーブを習得しているようだ。意識しておけ」
秋野「春には中盤から登板してたよね。超打ちづらかったのを覚えているよ」
田中「あぁ、左バッターは打ちづらすぎるピッチャーだな」
空「でも、逆に言えば右バッターには攻め切れてない印象が強かったですよ。現にオレもコイツから2安打ですから」
片矢「そして、最後に昨日初登板した大型一年生、背番号18の浦山恭介について」
宗谷「浦山って、浪速ガンバーズの浦山ですか?」
結城「知ってるのか?」
宗谷「はい。というか、僕たちの世代でコイツのことを知らない奴の方が少ないんじゃないですかね」
大地・空「「……」」
笠元「……アカン、天地コンビが自分らの世代やのに誰か分からへんからフリーズしてもーたぞ」
帯刀「時々忘れんだけどさ、コイツら一応軟式出身だもんな。そんなに硬式の奴らを知ってるわけじゃないだろ」
片矢「とりあえず、宗谷の疑問に対してはイエスだな。U-15日本代表にも選出された2メートル右腕、浦山恭介だ」
「最速は2回戦で出した153Km/h。超剛腕スーパー一年生。平均は140後半を記録している超速球派の投手だ。日本人では珍しくステップ幅が小さく、リリースポイントを更に高くしているため、低めに決まれば決まるほど天下無双の剛球になる。実質的なエースはコイツと見て間違いないだろう」
宗谷「僕たちの世代には、あと3人のスーパー投手がそれぞれ違う方面にいて、その4人の投手を含めてプレミア世代って呼ばれてましたね」
片矢「宗谷の言う通り、成田や咲山以外にも頭ひとつ抜けた1年生が多数いることが、この世代の特色といえるな」
「そして変化球も一級品。高さのあるリリースポイントから投げ込むスライダーは打者の手元で鋭く曲がり、フォークは落差が激しく途中視界から消えるとも言われているが、こいつの最大の決め球は、これまた日本人では中々お目に掛かれないパワーカーブだ」
「通常のカーブと比較すると、トップスピンが速く強いため、あまり減速しない速い系統の変化球だ。特にスラーブみたいに曲がりながらもしっかりとした球速を出せるので、打者からすれば大変打ちづらいボールだ」
「カウント球にも使える上に、空振りや内野ゴロを打たせることでも効果を絶大に発揮させる驚異的なスパイクカーブとして、プロやメジャーでも注目されつつある変化球といえるな」
「このスパイクカーブがあるお陰で、浦山のピッチングには大きな幅ができたのは事実だ。実際、高校に入って習得したパワーカーブのおかげで、空振り率は10%以上増加している」
「威力あるストレートでカウントや凡打を築き、パワーカーブで目線も釣り上げつつカウントを整え、要所でスライダーとフォークで三振を奪う。これが浦山の最も多い投球パターンだ。ようはカーブのおかげでストレートの効果は更なる次元に押し上げられたといったところか」
「そこで対策法だ」
大地(……一回だけビデオで見たことあるけど、あのボールを叩くのは至極困難だ。どうやって打ち崩すかな?)
結城(単純に打ってみたいな)
帯刀(……哲と大地の目が燦々と輝いている。コイツらに未知への不安はないのか?!)
片矢「対策は、虎金のサークルチェンジ同様にパワーカーブを捨てるぞ」
大地「なるほど……慣れ、ですね?」
空「慣れ?」
片矢「パワーカーブは一般的なカーブに比べて速く鋭い変化を見せるが、カーブであることに間違いはなく、一瞬軌道が浮く。それがカーブの利点でもある」
「ただ、一瞬軌道が浮く分、どうしてもボールは弧を描くため、ミット到達までに時間がかかる」
「要は慣れたら勝手に反応して打てる球ってことだ」
「カーブはその慣れに一層弱い。だから、近代的にカーブを決め球として使用する投手が減少傾向にあるわけだが、パワーカーブは通常のカーブよりも速いから慣れにくい」
「だからまず狙いから逸らす。慣れない場合もあるからこそ、パワーカーブは手を出す必要はない。もし誤って手が出てしまっても、気負わずに振り抜け。それが相手へのプレッシャーにもなるからな。だがカーブに目線を奪われるようなことだけはするな」
「カーブは打てない時はとことん打てないし、打てる時は勝手に反応できる。カーブは本能に委ねろ。見るのはストレート、スライダー、フォークだけで良い」
空「なるほど、ありがとうございます」
結城(本能だけで打てば良い……俺の得意分野だな)
大地(……使えるかわかんねぇけど、【無我の境地】に頼る場面が来るかもな)
片矢「カーブに目を奪われるのは三流。相手の思うがままになるだけだぞ」
片矢「続いて、打撃陣についてだ」
「1番に打撃能力の高いチームの司令塔的存在の松井を置き、2番に俊足で出塁率も高い見谷美を据え置き、3番2年生スラッガー対島、U-15日本代表の3番を任されていた天才スラッガー三木で得点を重ねる。これが八高の主な得点パターンとなっている」
笠元「八高は黄金時代を築いとるなぁ。U-15が二人も新加入してるやんか」
田中「三木といえば、180に満たない身長でありながら強打が有名だよな。コンタクト能力も高いって聞いたことがあるし、中々厄介だな」
空「身長180未満で強打がウリ。その上、コンタクト能力が高い選手……」
結城「……そういえば、ウチにも似たような奴がいたな」
大地「ん?」(身長178cm、通算41本塁打、打率.636)
片矢「たしかに右左の違いはあるが、三木も咲山同様、どのコースにも苦手意識がなく、中左右均等に長打が打てる器用なスラッガーだ。打ち取るには一苦労するだろう」
「下位打順は固定されていないが、基本入れ替え方式で勢いある選手を思い切って起用してくることが多い。気を配らなければ、甘くみていると噛み付かれない危険な人物もいるので要注意だ」
「それで明後日の先発だが……」
空「……」
雪村「……」
吉村「……」
片矢「成田、お前に任せる」
空「はいっ!!」
片矢「相性的にも成田をぶつける方がいいとした判断だ。雪村、吉村は初回から様子を見つつ肩を作れ。いつでも行けるようにな」
雪村・吉村「「わかりました!!」」
片矢「皆、知っているとは思うが、今日の不慮の事故で我妻が今年の夏大会に出れる可能性は低いだろうと診断された」
大地(利き手の骨折だもんな。流石に無理はさせられねぇ)
空(……そういえば、さっき花咲川の監督と虎金さんが我妻に頭下げに行ったって聞いたな。本人はいらないって言ってたらしいけど、渋々受け取ったとか)
片矢「ここ最近、アイツの成長度合いには眼を見張るものがあっただけに、この途中退場は本人にとっても相当な痛手だろう。俺らにとっても残念で仕方がない」
「だからこそ勝つぞ」
「アイツが繋いだバトンを、次に繋げるために、明後日の一戦……必ずとるぞ!」
全員「「はいっ!!!!」」
片矢「それでは、今日はこれで解散とする。我妻の見舞いに行く奴は病院に迷惑をかけず、静かにしろよ。品行方正で行け。では、解散。お疲れさん」
全員『お疲れ様でしたっ!!』
帯刀「どうする? 我妻の見舞いにでも行くか?」
結城「そうだな。流石にまだ寝ているかもしれないが、一応顔を見せに行くぐらいはしておいた方がいいだろう」
空「なら勝利以外の手土産が要りますよね? 何にしますか?」
笠元「やったら、羽沢珈琲店のケーキでも持ってったろか。アソコ、最近、ケーキのテイクアウトOKやからな」
田中「さすがに北沢精肉店と山吹ベーカリーの物を持っていくのは、相手方に変な気を遣わせかねないしな。それが無難だろう」
秋野「タチはどうする?」
舘本「……大勢で行ったら迷惑……だから、やめとく……」
村井「うが。俺も辞めとくよ。矢来ちゃんに迷惑になるかもだしな」
宗谷「咲山はどうするんだ?」
大地「ん? あぁ……やめとく。というより、みんなやめといた方がいいと思いますけどね」
空「? なんで?」
大地「ま、男女の間柄に俺らが入り込むっていうのは、不躾ってもんだろ」
そう言って、大地が部内にいる部員に、手元に納めていたスマホの写真を見せる。それを見た瞬間の顔色は十人十色だったが、皆一様に理解した。たしかに、この間に入るのは無粋だ、と。
結城「……なんか口の中が異様に甘いな。誰かバッティングに付き合ってくれないか?」
帯刀「いいぜ。俺もちょうどそう思ってたところだしな」
田中「無性に練習がしたくなってきた。乗った」
全員立ち上がって、今日の試合の疲労すら度外視して、練習に精を出す為にグラウンドへ出る。
大地「……単純だなぁ。ま、それが男の子のいいところか」
微笑を浮かべてそう言った。手元のスマホに視線を移すと、和やかな顔付きで眠る少年を献身的に支えようとする水色少女の儚い一枚が表示されていた。
メールの差出人は黒服とされており、文面には邪魔立てしてはなりませんよ。とだけ記載されていた。
ま、今日ぐらいはね。がんばったアイツにご褒美くらいあったっていいだろう。
空「オラァ! 大地!! ブルペン行くぞー!!」
大地「はいよー」
こうして、ベスト8を進出を決めた羽丘野球部の長き1日は幕を閉じた。
ヒロインは何処から選ぶべき2
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アフグロ
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