【英雄】は止まらない   作:ユータボウ

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 ベル君にヤケクソ強化を入れても原作だって大概だから「これ強くなってる……?」って不安になりますね。

 あと鹿の鳴き声って結構すごいんですね。調べて少し驚きました。


第14話

 立ちはだかるソード・スタッグへ果敢に立ち向かったベル。自らを囮とする彼の行動の結果、ヘスティアとヴェルフは無事中央広場(セントラルパーク)まで到着することが出来た。

 

「はぁ、はぁ……。ここまで来れば、もう大丈夫かな……」

「はい。とりあえず、ここらで少し休みましょうか」

「そうだね、そうしよう。ふぅ~……」

 

 一秒足りとも足を休めずに走り続けていたヘスティアは、既に息が上がっており、中央広場(セントラルパーク)に着くや否や、近くにあった長椅子に腰を下ろした。

 一方、『神の恩恵(ファルナ)』を与えられた冒険者であるヴェルフは、ヘスティアに合わせて走っていたということもあり、さほど呼吸は乱れていなかった。しかし、その面持ちは依然として硬いままだった。

 

「……ベル君が心配かい?」

「……えぇ」

 

 ヘスティアの問いかけをヴェルフは肯定した。

 ソード・スタッグはLv.2のモンスター。下級冒険者が一人で挑むには強大すぎる相手だ。ベルはすぐに他の冒険者が来てくれると言っていたが、到着まで彼が立っていられる保証はどこにもない。いや、普通に考えるなら敗れる可能性の方が遥かに高いだろう。

 

「大丈夫だよ」

 

 しかし、ヘスティアは断言した。

 

「ベル君はあんなモンスターには負けない」

 

 女神の名に相応しい、優しさに満ちた微笑を浮かべて。

 そんな彼女につられて、ヴェルフもまた硬かった表情を緩めた。

 

「……信じてるんですね、ベルのこと」

「もちろんさ。主神であるボクがベル君を信じてあげなくて、誰があの子を信じるっていうんだい?」

 

 ふふんと得意気に鼻を鳴らしながら、ヘスティアはその豊満な胸を張った。

 

 ──あぁ、そうだ。

 ──ベル君は絶対に負けない。

 

 雲一つない青空を見つめる彼女の脳裏を、別れる直前に更新したベルの【ステイタス】が過った。

 

 ベル・クラネル

 Lv.1

 力:E442→C615 耐久:F304→393 器用:D584→B788 敏捷:D561→A803 魔力:I0

 

 《魔法》

 【】

 《スキル》

 【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 ・早熟する。

 ・懸想(おもい)が続く限り効果持続。

 ・懸想(おもい)の丈により効果向上。

 【英雄証明(アルゴノゥト)

 ・能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 

 全アビリティ熟練度、上昇値トータル700オーバー。

 更新以前の【ステイタス】でもミノタウロスを下したベルが、ここで更なる飛躍を遂げたのである。

 ヘファイストスの眷族であるヴェルフにこのことを話すことは出来ないが、この事実を知るヘスティアは、ベルがソード・スタッグに敗北するとは微塵も考えていなかった。

 

「──早く帰ってくるんだぜ、ベル君」

 

 東側のメインストリート、その先で今も命を懸けて戦っているであろうベルに向かって、小さな女神はポツリと囁いた。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 (ソード)の名に恥じない研ぎ澄まされた二本の角が、僕の目前で空を切る。二度、三度と立て続けに襲いくる追撃、それらを両手に握った得物で捌いていく。

 一撃を受け流す毎に手が痺れる。だが、決して我慢出来ないほどではない。神様に【ステイタス】を更新してもらったおかげだろう。体の方もシルバーバックと戦ったときよりずっと動く。

 

「ふっ、はぁっ!」

 

 目を狙った刺突、しかしそれが当たることはない。頭を下げたソード・スタッグの剣角に阻まれ、キィンと甲高い金属音を鳴らすに留まった。ならばと横に一歩を踏み出し、体の側面を斬りつけようとするが、こちらも軽やかな足運びで躱されてしまう。

 単純な素早さや身のこなしならばあちらに軍配が上がる。一番の武器である敏捷さで上回られている僕にとって、相性が悪いと言わざるを得ない。ある意味ではミノタウロスよりも強敵だ。

 

「……」

『フー……フー……!』

 

 数(メドル)の間隔を空けて対峙する僕とソード・スタッグ。その一挙一動を細かく観察しながら、ゆっくりと深く息を吐き出す。 

 神様とヴェルフを逃がすという目的は既に達成している。ここからは僕自身がどうやって生き残るかだ。

 思考は、そこで中断される。

 

「っ!」

 

 地を蹴って方向転換し、存分に助走をつけてから突進してくるソード・スタッグ。その三日月刀(シミター)を彷彿させる湾曲した角が、凄まじい速度で迫った。

 警鐘を鳴らす直感に任せ、形振り構わず身をよじる。刹那、一瞬前に僕の立っていた場所を、銀色の刃が通り過ぎていった。その勢いに煽られた僕は、ゴロゴロと地面を転がる。

 少しでも行動に移るのが遅れていれば、この命はなかったかもしれない。

 肝を冷やしながら立ち上がり、全身に響く鈍痛に顔をしかめた。

 

 思っていた以上に厳しい、というのが正直なところだ。

 レベル差がある時点でこちらが不利は承知の上だが、やはり速さで負けているというのが大きい。ミノタウロスのときと異なり、そもそも攻撃が当てにくいという事態に陥ってしまっている。

 僕には『スキル』がある。格上のモンスターすら倒し得るその力も、しかし当たらないことには意味をなさない。今のままでは不発に終わることは明白だ。

 

『キィアアァアアアア──!!』

 

 鋭い咆哮を上げ、再びソード・スタッグが走り出す。またしても繰り出される必殺の突撃に対し、僕が出来ることは回避だけ。それ以上のことをしている余裕はとてもない。

 

 ──こうなったら、『英雄の一撃』を突撃に合わせて叩き込むか?

 

 そんな考えが思い浮かんだが、すぐに頭を振って却下する。

 突っ込んでくるソード・スタッグの正面に立つなど、いくらなんでも捨て身すぎだ。万策が尽きた場合の最終手段としてならともかく、一番最初から試していい手ではない。

 けれど、それ以上に何も思いつかないのもまた事実。ほんの数秒だけでも動きを止めることが出来れば、まだこちらに勝ち目があるというのに。

 

「……ん?」

 

 後ろから聞こえたメキメキという音に振り返ると、ソード・スタッグが路肩に並ぶ屋台を薙ぎ倒しているところだった。

 あれだけの速度だ、止まろうにもすぐに止まることが出来なかったのだろう。

 とはいえ、あのモンスターが屋台に激突したくらいで堪えるとは思えない。これがもっと頑丈な物であったなら話は別なのだが──。

 

「……ん?」

 

 そのとき、頭の中で何かが閃いた。

 

 ──激突。

 ──頑丈な物。

 ──……壁?

 

「……試してみる価値はある、かな」

 

 上手くいくかは分からない。

 それでも、現状を打破出来る可能性が少しでもあるのなら、賭けてみるには十分だ。

 小さく頷いた僕は《絶影》を鞘に収め、蓄力(チャージ)を開始した。《神様のナイフ》が白光に包まれ、リン、リンと鈴のような音を鳴らす。

 

「さぁ、勝負だ」

 

 屋台の残骸を踏み越え、悠々と現れたソード・スタッグを、白く輝く得物越しに睨みつける。

 一秒、二秒、三秒と。

 沈黙が漂う中、時間だけがさっきまでと変わらずに流れていく。

 

『フー……! フー……! アァアアアアァア!!』

 

 そしてとうとう、痺れを切らしたソード・スタッグが動いた。ダンッと踏み締めた地面を力強く蹴り、疾走を開始する。

 僕はそんなソード・スタッグを限界まで引きつけ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その壁をも足場にして、更に高く跳躍する。

 

『!?』

 

 ソード・スタッグは止まらない。否、止まれない。

 先程の屋台とは異なり、建物の厚い壁はソード・スタッグの突進を見事に耐え抜いた。その結果、ソード・スタッグは跳ね返ってきた衝撃によろめき、その動きを止めるに至る。

 空中を漂う僕の前に、絶好の隙を晒した。

 

 蓄力(チャージ)時間はおよそ十秒。

 やや心許なさはあるが、急所を穿つにはこれで事足りる。

 

「くらえっ!!」

 

 自由落下の勢いを乗せた『英雄の一撃』。直上から放たれた純白の一閃が、ソード・スタッグの魔石に届く。

 硬直し、そして灰へと還る体躯を横目に、着地した僕は深く息を吐き出した。

 その直後だった。

 

『ォオオオォオオオオオオオ!!』

 

 突如として轟く咆哮に、弛みかけた緊張の糸が再び張られる。

 顔を上げ、闘技場の方を見た僕の視界に映ったのは、四(メドル)ほどの巨体を揺らしながら歩いてくる、醜悪な顔面をした人型のモンスターだった。その目は間違いなく僕のことを捉えており、逃がさないと言うように唸り声を漏らしている。

 

「っ、『トロール』……!」

 

 20階層以下に出現するモンスターと、まさかの連戦である。悪態の一つでもつきたくなる気持ちを抑え、ゆっくりと《神様のナイフ》を構える。

 こちらは既に体力を消耗しており、戦闘が長引けばその分だけ不利になる。時間の許す限り蓄力(チャージ)し、最初の一手で頭部か魔石を貫くしかない。

 

 ──諦めて堪るもんか。

 ──僕は、絶対に生きて帰るのだ。

 

 得物を握る右手に力を込め、すぅと息を吸い込む。

 燐光が刀身に灯り、儚い音色を奏で始める。

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()

 

「──あ」

 

 口からこぼれたのは、そんな情けない声。

 僕の意識が、一瞬だけトロールから外れる。

 その一瞬で、既に勝負はついていた。

 

『ォ……オォ……』

 

 短く呻き、トロールが地面に倒れ伏す。灰に還り出したその体には、たった一つだけ斬撃を受けた痕が残っていた。

 一撃必殺。

 僕が成そうとしたことを、〝彼女〟はいとも簡単にやってのけたのである。

 

「久しぶり、ベル」

「……はい。お久しぶりです、アイズさん」

 

 見せつけられた圧倒的な実力の差に苦笑しながらも、少しだけ得意気な様子のアイズさんに頭を下げた。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 あれからアイズさんに助けられた僕は、その後モンスターに出会うことはなく、無事本拠(ホーム)に帰ることが出来た。

 絶えず集中し続けていた反動か、いつも以上の疲労感を背負うこととなった訳だが、とにもかくにも、神様との約束は守ることが出来たのだ。隠し部屋の扉をくぐった直後、抱擁と共にかけられた「おかえりなさい」の一言には、思わず涙腺が緩んでしまった。

 

 それにしても、戦闘中に感じていた()()()()()()()()。まるで僕を試すように、あるいは値踏みするように向けられたそれが、記憶が正しければ〝あの女神様〟のものだった。となると、今回の一件も彼女の手によって引き起こされた可能性が高い。

 僕を試そうとすることについては百歩譲っていいとしよう。しかし、ヘルメス様もそうだが、どうして僕の大切な人まで巻き込もうとするのかが理解出来ない。神の気まぐれと言われればそれまでなのだが、周りのことを少しは気にかけてほしいものである。

 

 何はともあれ、怪物祭(モンスターフィリア)の騒動はこうして幕を下ろした。シルバーバックに加え、ソード・スタッグという強敵とも戦うことになったものの、怪我をした人は──少なくとも僕の身の回りでは──出ていない。一件落着と言っても問題はないだろう。

 

 そしてその翌日、僕はとある神様に向けて手紙を(したた)めていた。

 

「ねぇベル君、一体何をしてるんだい?」

「ヘファイストス様にお手紙を。ナイフを打っていただいた、せめてものお礼をと思って」

 

 正確にはそれに加え、神様がご迷惑をかけたことについても記しているのだが、それを神様に言う必要はないだろう。

 なんでも神様はヘファイストス様に武器を作ってもらうため、極東に伝わる秘技、土下座までして頼み続けていたらしい。無論、僕のためにそこまでしてくれた神様には感謝しかないのだが、それはそれ、これはこれだ。

 書き終えた手紙をあらためて見直し、おかしな部分がないことを確かめてから封をする。ただ、このまま普通に出しても届かないことは明らかだ。

 

「神様、もしヘファイストス様にお会い出来たら、この手紙をお願いします」

「うん。ヘファイストスは多忙だから今日会えるかは分からないけど、でも必ず渡しておくよ」

 

 神様はこれからアルバイトに行く。いつものジャガ丸くんの屋台にではなく、摩天楼(バベル)にある【ヘファイストス・ファミリア】のテナントにだ。

 僕の武器を買うために背負った、二億ヴァリスもの借金を返済するために。

 

「それじゃあ、いってくるぜ!」

「はい。お気をつけて」

 

 ぐっと親指を立てて神様が出ていく。その後ろ姿を見送り、僕もまたすぐに準備を開始する。

 静まり返った部屋の中、防具の金具だけがカチャカチャと擦れ合っていた。

 

「さて、いってきます」

 

 誰もいない部屋に向かって、最後に小さく言い残す。

 それに応えるように、閉まった扉がパタンと音を立てた。

 




 第1章はこれで終了です。次回から第2章に入ります。引き続き、応援をよろしくお願い致します。
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