偽から出た真   作:白雪桜

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第四十四話 間に合わなかった手

 

 ――何という事のない日常こそ、掛け替えのないモノなのだと。

 

 六十年前の“あの夜”に、思い知った筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛~……疲れる~……」

「ホント、お疲れさまみたいね」

 

 お気に入りの甘味屋“流翠庵”にて、朔良は乱菊と向かい合いあんみつをつつきながらぼやいた。

 

「白哉もルキアも、全っ然進展しないんだからな」

「あんたが色々助言してもまだなの? もうあれから何年よ?」

「そうなんだよ。そもそもあの馬鹿白哉が悪いのさ。ルキアの方からはどうあっても歩み寄りにくいんだから、あいつが頑張らないといけないのに」

「意外と苦労人よね、あんたって」

 

 乱菊の労いに溜め息で答える。

 

 朽木兄妹の仲はまるで縮まっていなかった。朔良としては白哉にできる限り働きかけているのだが、彼は未だに緋真の姿を妹に重ねてしまうらしい。

 

「何なのかな……。男って、肝心な時に臆病なものだよな」

「そうよね、女の方が強いわよ。あたしやあんたがそのいい例じゃない」

「言えてるよ」

 

 ようやくくすりと笑いを零せば、彼女もほっとしたように微笑んだ。

 

「あんたはよくやってるわよ朔良。言葉遣い変えていったのだって努力したんでしょ?」

「んーまあな。十兄様の口調をちょっと真似てるだけなんだが」

「あたしと違って朔良小さいものねー。子供に見られないよう頑張ってんじゃないの」

 

 そうなのだ。朔良は小柄で、150㎝弱しかない。そのため実際の年齢よりもずっと幼く見られ易く、舐められないよう子供っぽい口調を少しずつ直していったのである。自分の方がちょっと年下とはいえ乱菊とそこまで差はないと言うのに。……確かに彼女は色々大人なのだが、自分とてそれなりに――

 

「着痩せするって損よね。意外と良い身体して……」

「それ言うなあっ!」

 

 ……女としての密かな悩みだ。女性の親しい人達しか知らないが。

 

 ちなみに浮竹の口調を選んだのは、真似易いためだ。部下に対してまで敬語は柄ではないし、女言葉もしっくりこない。軽すぎる――例えば京楽のような――喋り方は論外だ。以上の点から、相手によっては柔らかくも厳しくもなる言葉遣いをする身近な人物、浮竹を選んだ訳である。

 ……一番最初の練習相手が自らの斬魄刀『珠水』だったことは一生の秘密だ。

 

「……さて、そろそろお暇しようか。もうすぐ休憩時間も終わりだ」

「えぇー、もうちょっといいでしょー」

「だめだよ。副隊長がそんなことでどうするんだ。ほら、奢ってあげるからさ」

「きゃーご馳走になりますー!」

 

 すぐこの調子だ。毎回のことだが。

 

 店を出て護廷隊詰所に戻る道中、乱菊が「でも」と訊ねてくる。

 

「良いの? いっつも奢ってもらっちゃって」

「私が護廷隊と四楓院家当主補佐を兼任してることは知ってるだろう? お金はそれなりにあるから平気さ」

「なぁーによ、まるで嫌味ねー」

「訊いてきたのはそっちだよ」

 

 冗談など掛け合いながら歩き、詰所が見えてきた辺りで近くに見知った霊圧を感じた。

 

「ん?」

「何よ?」

「あそこできょろきょろしてるの七緒じゃないか?」

「あ、ホントだ。七緒ー!」

 

 手を振って名を呼ぶ乱菊に気付いたらしい。いつものように眼鏡をかけ本を抱えた八番隊新副隊長の伊勢七緒は、こちらへ駆け寄ってきてくれた。

 

「お疲れ様です朔良さん、乱菊さん」

「おっつかれー!」

「お疲れ。どうしたんだ? 誰か探してるのか?」

「ええ……うちの隊長見ませんでしたか?」

「んー今日は見てないわよ? でもまだ休憩時間中だしいいんじゃないの?」

「いえ! いつもいつも休憩時間が終わってもお帰りにならないので、今日は少し早めに戻って頂こうと思ったんです。それで……」

「今探してる所なのか」

「はい。しかし何処へ行かれたのか……」

 

 以前副官であった矢胴丸リサは、その強気な性格もあってか上手く扱いこなしていたようだったが、やはり七緒にはまだ難しいらしい。

 

「まったく、春兄様にも困ったものだ。迷惑をかけてすまない」

「貴女が謝ることでは。これも副隊長としての務め……あら?」

「どしたの七緒?」

「いえ。あの朔良さん、あそこに見えるの朽木隊長と妹君ですよ」

「何?」

 

 彼女が示した先。屋外に面する上階の通路に、確かに白哉とその後ろを歩くルキアの姿があった。

 七緒も朔良とは長い付き合い、当然彼と幼馴染みという関係性も知っている。その為多少は気に掛けてくれていた。

 

「って言うか遠っ! あんたよく見つけたわね」

「偶々視界に入っただけです。しかし、妹君は詰所内でも時々朽木隊長とご一緒してますよね」

「一応兄妹なんだし、当たり前でしょ」

「それはまあそうなんですが」

 

 七緒の言いたいことは判る。遠目に見ても、仲睦まじい兄妹とはとても言えそうにない微妙な距離感。……自らの努力が報われていないのが明らかにされているようで、虚しい。

 道のりは長いと溜め息をつき、話を戻そうと口を開く。

 

「なるようになるだろうさ……。ところで七緒、春兄様の行きそうな場所は当たったのか?」

「え? あ、はい。お茶屋さんは一通り見て回りましたし……」

「それじゃきみの方が休憩にならないだろ……。仕方ない、少し待っていてくれ」

「はい?」

 

 二人から一歩離れて目を閉じる。

 元より鋭敏な霊圧知覚を更に上げ、感じ取れる範囲を広げ目当ての人物を捜していき――

 

「――捕捉。十三番隊の屋内鍛錬場だな。屋根の上で昼寝でもしてるんじゃないか?」

「あ、ありがとうございます朔良さん!」

「さっすが、護廷隊一の霊圧探知能力者ね!」

「そんなことは……」

「いえ、本当にお見事です! では失礼します!」

 

 姿勢を正し礼を取ってから立ち去る様は、彼女の真面目な気質をよく表している。

 

「やれやれ、あの()も大変だな」

「ソレあんたが言う?」

 

 確かに自分もかなり大変だ。――主に朽木兄妹関連で。

 

 

 

 

 所変わって休憩時間終了後、十三番隊舎。

 

「奇妙な虚の調査、ですか」

「ああ。流魂街に別件で出てた死神が結構やられてる。討伐に出た連中もだ。遭遇した奴は誰一人として帰ってきてねえから能力、戦闘力、姿形さえもが一切不明だ。その先遣調査隊の指揮を都に任せることになった」

「……いいんですか? そういう任務は私の方が適任では……」

「あら、私では役者不足かしら?」

「都三席」

 

 開いたままの扉からひょこりと顔を覗かせたのは当の本人で。

 

「別にそういうわけじゃないんですけど……」

「それならいいでしょう。海燕さん、明日にでも部隊を連れて出立します」

「お? おう」

「……あの海燕さん、都さん。真面目な話、やっぱり私が行きますよ。それが駄目なら同行させて下さい」

 

 呼び方を変えたことに気付いたのだろう、二人の表情が僅かに変化する。

 

「何だ? 珍しいな、お前が任務にそこまで口挟むの」

「そうね、どうかしたの?」

「どうかした、と言いますか……」

 

 正直な所、何故行きたいのかはよく判らない。漠然とした不安というか、胸騒ぎというか。どうしようもなく嫌な予感がして仕方がないのだ。これが俗に言う“虫の知らせ”なのか。

 

「大丈夫」

 

 その思考も、彼女の言葉に遮られる。

 

「私の任務は調査よ。無茶はしませんし、討伐は貴方達に任せますから」

「都さん……」

「こう言ってんだ。信じてやれよ朔良」

「別に信じていない訳では……」

 

 

 ――信じていないと答えていれば良かったのかもしれない。

 

 

「……都さん、お気を付けて」

 

 

 ――これが、崩壊の序章だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……部隊は全滅だそうだ。彼女一人を除いて」

 

 隠密機動からの報告では、都は今例の虚のもとに居るらしい。近付けてはいないが霊圧で生存は確認しているそうだ。

 

 脳が情報を処理するのに時間を掛けている中、浮竹の言葉は続いた。

 

 “能力不明”“姿不明”――それは、先遣隊の成果がまるでなかったことを意味していて。

 

「……判っていることが二つだけある……」

 

 敵が一箇所に留まり巣を持つ常駐型の虚であることと、その棲み処。

 

「助けに行きます」

「……海燕。判っているのか」

 

 彼女一人だけが生き残っているという不自然な状況を考えれば、十中八九そこに『何か有る』と警戒すべきだ。相手は多くの死神を喰らい、その味を占めている。と、するならば。

 

「これは罠だ」

「承知してます。それでも……行かせて下さい、隊長」

「……判った。俺も一緒に行こう。朽木も来い」

「は、はい!」

 

 ルキアが声を発したことがきっかけとなり、朔良の時間も戻ってくる。

 

「……か、いえん、さん」

「責めるんじゃねえ」

 

 ようやく絞り出した声は、みっともないほどにたどたどしくて。けれどそれを咎めるでもなく、背を向けていた彼は振り返った。

 

「オメーのせいなんかじゃねえ」

「……でも」

「オメーの提案下げたのは俺と都だろうが。何で責任感じてやがるんだよ。大体オメーが付いていったっからって何も変わらなかったかもしれねえ。気にすんな」

 

 ――嘘だ。

 朔良の実力は、海燕が誰より知っている筈。いつもいつも、秘密の(・・・)鍛錬に付き合ってくれていたのだから。

 その彼が、朔良が同行していればこんな状況になどならなかったことを理解できない訳がないのだ。

 

「……今度は、私も行きます」

「おいおい朔良、だから……」

「行かせて下さい! お願いします!」

 

 自分が懇願するなど滅多にない。海燕だけでなく周りの皆も目を丸くしている。

 彼は息を吐いた。

 

「オメーは駄目だ」

「でも!」

「来るなって言ってる!」

「……十兄様!」

 

 静観していた兄弟子(あに)に目を向ける、が。

 

「……朔良、海燕の言う通りだ。お前は残れ」

「そんな……!」

「今のお前には冷静さが欠けている。そんな状態で同行してどうするつもりだ」

「っ!」

 

 正論(・・)だ。皮肉なことに。

 

「朔良、仙太郎、清音。お前達は残って隊を頼む」

「「はい! 判りました!」」

「……はい」

 

 どうにか了承の意を返し、俯いて拳を握り締める。――と、頭にぽんと手が乗せられた。

 

「心配すんな」

 

 下りてくる声に目線を上げれば、頼もしい笑顔がそこに在った。

 

「俺と隊長が行くんだぜ? 朽木もな。大抵のことなら大丈夫だ。そんなカオすんなよ」

 

 ――ああ、この人はこうだから。

 

「ったく、いつもの超生意気な態度は何処行ったんだ?」

「……別に、生意気言いたくて生意気言ってんじゃないです」

 

 だから、皆が集まるのだ。

 

「……じゃあ……髪の毛ください」

「は?」

「髪の毛ください」

 

 全員が呆気に取られているのが判る。しかし本気だった。

 

「ほんのちょっとでいいです。お守り代わりにしますから」

「いや……そういうのは聞いたことあるけどよ……っつーか逆じゃねえか」

「なら海燕さんが帰って来たら燃やします。貴方だと思って」

「どういう意味だコラ!? ……ったく」

 

 斬魄刀を抜こうとする彼に、懐から出した暗剣を差し出す。

 サクッと微かな音を立て、2㎝ほどの長さに切り取られた髪。手ぬぐいの端を小さく破き、簡易に仕立てた紐で縛る。

 

「ほらよ、我儘娘」

「一言多いですがありがとうございます」

「いつも一言多いのはオメーの方だ」

 

 変わらない、“日常”のやり取り。

 

「じゃーな」

「『おう、行って来い』」

「心配してんならちゃんと見送りしろよ! ここで俺の真似とか……いや“まねっこ”だったか、お前は」

 

 嫌な感じは続いていて、胸のざわめきは強くなるばかり。しかし、朔良はそれらを呑み込んだ。堪えて、我慢して。一生懸命に笑う。

 

「“こう”じゃなきゃ、私じゃないでしょう?」

「……だな」

 

 彼が“誇り”の為に戦いへ向かうのだと、理解できた故に。

 

 

「――行ってくるぜ、朔良。『ちびっこ(・・・・)』はいい子で待ってな」

 

 ……久しぶりに聞いたその呼び名に、固まってしまったのは一瞬で。

 

「――行ってらっしゃい、海燕さん」

 

 

 ――夢にも思わなかったのだ。

 

 今日が“あの夜”と同じ、後悔の日として生涯心に刻まれることになると。

 

 あの言葉が届けられるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隊舎の庭から夜空を見上げた。月はこんなに綺麗なのに、と溜め息をつく。

 

「なぁーに辛気臭い顔してんのよ雲居さん!」

「……清音ちゃん」

 

 すぐ傍に居たことには気付いていた。けれど、警戒する理由もないので放っておいた。

 彼女は今の上司だけれど、朔良にしてみれば四番隊時代の後輩の妹でもある。その為呼び方には悩んだが、結局ちゃん付けに落ち着いた。ちなみにあまり差があると五月蠅そうだということで、仙太郎はさん付けにしている。

 

「報告の通りの場所なら……もう戦闘始まってるわよね」

「…………」

「だいじょーぶよ! 隊長が一緒に行ってらっしゃるのよ? 何かある訳ないじゃない!」

「……そうだな」

「そーよ? じゃ、あたし先戻るわね!」

 

(元気いいなあ……)

 

 他の部下達を不安にさせない為にも気丈に振る舞い、励まそうとしてくれているのが判る。何しろ朔良はさっき、ルキアの前であからさまに動揺してしまったのだから。

 

(……まだまだ甘いな、私も)

 

 こんなことでは、来たるべき時にまともに動けは――

 

 

「――こんばんは、朔良ちゃん」

 

 

 ――呼吸が、止まった。

 

 思考を占めたのは、『何故』という疑念。

 

 何故、今、一体どうして――

 

 

「……ギン……!」

 

 

 彼が此処に居る――!?

 

 

「お久しぶりやね。随分会えてなかったさかい、寂しかったんやで?」

「……そう」

 

 相変わらず読めない男だ。

 庭先に居る朔良と中央付近に立つギンとは多少の距離があるものの、藍染に次ぐ危険人物である筈のこの男の接近に気付かなかったとは余程物思いに耽っていたらしい。

 

「何や、十三番隊さんは今日はえらい大騒ぎみたいやけど。まあええわ」

 

 こちらの方へゆっくりと歩き始めたギンに、より細かく注意を払う。一挙一動も見逃さないよう。

 あと一歩近付き手を伸ばせば触れるという距離で、再び彼が口を開いた。

 

「今日はな、君にお手紙持ってきてん」

「……お手紙?」

「せや。藍染隊長からの大事なお手紙」

 

 思いもよらない言葉に絶句している間に、懐から差し出されたのは何の変哲もない紙。手紙と呼ぶには薄すぎる、三つに折り畳まれた一枚の紙切れだ。

 霊圧を探ってギンが何も仕掛けていないことを確認し、ぱっと奪うように素早く取る。

 

「意外と手癖悪いなあ」

「……五月蠅い」

「はいはい」

 

 彼が背を向けてから周囲を探り、すぐ近くには他に人が居ないことを確認して紙を開く。

 そこには一行。

 

 

『五番隊隊長として、お悔やみ申し上げます』

 

 

「……?」

 

 一体何のことだと疑問符を浮かべ――

 

 

「まあ、今夜(・・)のことやけどね」

 

 

 ――目を見開いた。

 

「――――っ!!」

 

 僅かに動揺した隙に、彼の姿が掻き消えた。

 疑問は多い、引っかかることもある。しかしこの手紙の意味と目的が何か、最後のギンの一言で凡その見当はついた。

 

 少しの間思考に耽っていると、足音が聞こえた。

 

「おー雲居六席! そこで何ぼんやりして……」

「仙太郎さん」

「ん? 何だ?」

 

 ――見当はついた上で、乗せられてやろう。

 

隊のこと(ここ)、頼む」

「は?」

 

 更に聞き返される前に瞬歩で消える。向かうは当然、海燕等の元。霊圧を探ればより正確な場所が判る。

 

 今回の虚について、恐らく藍染は詳細を知っている。危険性の極めて高い虚であると。朔良の前にギンが現れ言葉を残したのはそれを示し、その場へ行かせる為だ。隊長と副隊長の両名が出向いた時点で大抵は問題ない筈だが、無論“例外”はある。その“例外”が――“あの夜”の出来事が朔良自身を縛りつけていることに、あの男は気付いているのだ。

 更なる重荷を背負わせるか、あわよくば“全力”を引き出させようという魂胆なのだろう。しかしそこまで付き合うつもりはない。このまま待っていたとて何も変わらないし変えられない。“全力”を出さずとも自分は強くなった。仮に出さざるを得ない状況に追い込まれたとしても、その時はその時。どうにかするまで。

 

(そんなことよりも)

 

 何より恐ろしいのは、また(・・)何もできずに失うことだ。

 “あの夜”の無力でしかなかった自分とは違う。“現在(いま)”の自分には力が在る。だから。

 

「……間に合えっ……!」

 

 “あの夜”のように、けれどもっとずっと疾く。

 

 だが。

 

「っ!?」

 

 流魂街へ出た辺りで、変化した霊圧。

 それは紛れもなく海燕のもので。

 

「……これは……!」

 

 ――“あの夜”の彼等に起きた変化とよく似たそれ。

 まるで虚の霊圧(ソレ)が混ざったような――

 

(駄目だ)

 

 走りながら(かぶり)を振り、最悪の想像を追い払う。

 

 考えたくも無いのだ。

 

 

 “おーし、じゃあお前は今日から『まねっこ』な!”

 

 

 彼が、変わり果ててしまう未来など。

 

 

「……はっ……はっ……はぁっ……!」

 

 もう目前だ。霊圧を把握する。……しかしその中に、都のものはない。

 

(! 見え――)

 

 同時に雨が降り始めて。

 目に映った光景に、愕然となった。

 

「…………え………………?」

 

 

 ――想像していた“最悪”は甘かったと、何処かで痛切に感じる。

 

「……海燕さん……?」

 

 一体何が起こったのか。

 

「……ルキア……?」

 

 心は現実を拒否しているのに、頭の冷静な部分が分析を始める。

 

 

 先程感じた海燕の霊圧の変化。

 ルキアに凭れ掛かるようにして崩れ落ちている深手の彼。

 少し離れた場所に抜刀したまま立つ浮竹。

 そして――

 

 

「……海燕……殿……!」

 

 

 ――そのルキアの慟哭と雨に打たれて尚血塗れた彼女の斬魄刀が、何よりも雄弁に語っていた。

 

 

 

 

 


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