銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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今回も少し長いです。
ハンターサイドの話がいつも長くなるのは、なぜなのだろうか……?


第16話.sideティナ

 私の名前はティナ・ルフール。人類最強のハンターとか言われている15歳の少女です。うぅ、この自己紹介的なの、本当にやるんですか? 仕方ないですね……

 巷では人類最強だとか、龍討の英雄だとか、そんな感じに呼ばれてます。

 

 え? 古龍の単独討伐がどれぐらいすごいのですかって? そうですね。古龍といえば生きた天災とまで言われる存在であり、そこにいるだけで災害をもたらす超危険生物です。

 それを討伐するということは、人の身で大自然に喧嘩を売るようなもの。私が言うのもなんですが、到底敵うわけがありません。

 古龍を討伐するときは、通常熟練のG級ハンターが、特別指令により構成された20人のパーティで当たるのが基本です。それでも生きる天災こと古龍に勝てるかどうかはわからないほどです。現地に撃龍槍を運び込むなんてこともありますね。

 

 そもそも古龍が人の住む領域にやってくることなんて、滅多にあるものではありません。私の時は本当に運悪く二箇所で同時に古龍が出現し、片方の時間稼ぎのために私が送り込まれました。

 実際はその古龍を単独で討伐までして、今の称号を得てしまったわけですが……

 

 え? 普段どんなことをして過ごしているか、ですか?

 そうですね、普段はですね…………

 

 

【月刊「狩りに生きる」『特集! 人類最強のハンター!!』より抜粋】

 

 

 

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 特異なジンオウガの調査にティナと、カナト、エリンで行くと決まってから3週間が経った。

 すぐに行動に移したいと言ったカナトだったが、なんの情報もないまま調査に赴いても、結果が伴わないのは目に見えている。なので、先の戦闘やこれまでの調査の報告書が出来るまで待機を命じられていた。

 

 その間を無為に過ごすのは勿体ないと考えたティナは、カナトとエリンを特訓に誘ったのだが……

 

「ティ、ティナさん……僕もう限界です……っ」

「カ、ナト……しっかりしなさ……うぅ」

 

 ティナの言うところの、ウォーミングアップ(・・・・・・・・・)の段階で2人とも限界が来てしまったようだ。

 滝のような汗を流しながら、白目をむいて倒れ込んでしまった。

 

「様子を見に来てみたら、すでに手遅れだったか……」

 

 突然倒れてしまった2人にティナがあたふたしていると、本部ギルドマスターのキールがやってきた。

 ティナからするとキールは幼少期に1人だった自分を拾ってくれた恩人であり、ハンターとしてのイロハを教えてくれた恩師でもある。

 そんなキールの登場に、ティナは少しばかり安堵した。

 

「キールさん! 大変です、2人が倒れてしまったんですよ!!」

「まぁ落ち着きたまえ。なんとなく予想はしてはいたのだがな……ティナくん。君、どんなことをしていたのかね?」

「え? えーとですね。朝6時から体作りのためにウォーミングアップを始めました。そしたら2人とも倒れてしまったんですよ……」

 

 そこまで聞いた途端、キールの顔に苦笑いが浮かんだ。

 

「そのウォーミングアップとやらの内容を、教えてくれないか?」

「はい。まずは腕立て伏せ1万回、腹筋2万回、背筋1万回、スクワット5千回。これを5セットやりました。その後は100キロマラソンを1時間以内に3セットし、あとは……」

「も、もういい。その辺で結構だ……」

 

 キールは深いため息を吐きながら思う。この娘は悪い子ではないんだが、何故こう、限度というものを知らないんだろう、と。

 

「ティナくん。それは君にとってのウォーミングアップだろう。一般人からしたら地獄のトレーニング以外の何物でもないぞ」

「え!? あちゃ〜またやってしまいましたか……腕立て等のセットを2セットにするべきでした」

「違う! そうじゃない!!」

 

 珍しく大きな声を上げるキールを見て、飛び上がって怯えるギルド職員がいたとかいなかったとか。

 

「はぁ、まあいい。カナトくん達は今日はもう限界だろうし、トレーニングはここまでにしておきなさい。この2人には後日然るべき教官をつけておこう」

「すいません……どうやら私は人にものを教えることが苦手なようです。教官さんにはよろしく言っておいて下さい……」

 

 トボトボと帰って行くティナの後ろ姿を見ながら、「そういう問題じゃないんだよなぁ」と呟くキール。

 その後、空いているギルド職員に2人を医務室に運んでいくよう伝え、自分も執務室へと戻っていった。

 

「それにしても、何故あんなにハードなトレーニングをしているのに、見た目は華奢なんだろうか……? まあ、筋骨隆々な15歳の少女なんて悪夢でしかないが……」

 

 

 

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「はぁ、またやってしまいました……」

 

 自分の部屋の中で、ティナは1人ため息をついた。

 ハンターはギルドに登録した時、各々部屋が貸し与えられる。それは上位になればなるほど待遇が良くなっていくのだ。下位は4〜6人の相部屋、上位は2人部屋、そしてG級ともなれば個人の広い部屋が与えられる。

 ギルド最高戦力のティナとあれば、その待遇はまさに破格の一言。超高級宿屋の一室よりなお広い部屋が与えられ、備え付けられた家具も、一流の職人が手がけた高級品。そんな目が飛び出るほどの値段がつくベッドの上で、ティナは突っ伏している。

 

「私の身体能力が異常なことなんて、分かってたことじゃないですか。何故彼らにあったメニューを作らなかったのか……はぁ〜〜」

 

 1人反省会に耽るティナの表情は暗い。彼女は以前にもその実力を買われて、ぜひ士官へという上層部の提案を受けたことがあったのだが、僅か1日目で生徒全員がぶっ倒れるというある意味伝説を作ったことがあったのだ。

 

「うぅ〜、うぅ〜」

 

 こうなるとティナはめんどくさい。根は真面目でいつも優しい彼女だが、同じ轍を踏んだりとどこか抜けている部分がある。そしてそれ関係で失敗するとすごく凹むのだ。年相応というかなんとういうか、ティナも15歳の少女なのだと実感する一面である。

 戦闘ではその天賦の才も相まって、ミスすることなどまず無いのだが、それ以外の面では……まぁ、そういうことだ。

 

「ご主人様、いつまで凹んでるニャ?」

 

 彼女のルームサービス係であるアイルー、テオがティナにそう問う。

 

「うぅ〜、テオ〜!」

「うニャア! いきなり抱きつくのはやめるニャ!!」

 

 そしてこういう時、ティナはいつもテオに抱きつくのだった。

 戦闘時は冷静沈着、それ以外は真面目で親身なティナ。彼女の自室での性格を知っているものはそうはいない。

 

「ゼェ、ゼェ、なんて馬鹿力ニャ……ってそうじゃなくてご主人様! 例の報告書が上がったから、明日執務室まで来るよう連絡が来てるニャ!」

 

 なんとかティナの抱きつきという名の羽交い締めから脱出したテオが、そう告げるが……

 

「いいんです。どうせ私なんてポンコツ。戦闘するしか脳のない脳筋なんですよーだ…………」

 

 非常にめんどくさい……

 

「ご主人様、しっかりするニャア──!!」

 

 テオの哀しい叫びがこだました。

 

 

 

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 結局ティナのいじいじは翌日まで続いたのだった。

 なんとか復活したティナが執務室に向かうと、そこにはもうカナトとエリンが揃っている。

 

「すいません。私的な用事(・・・・・)で少し遅れてしまいました」

 

 この女、ふつうに誤魔化した。カナト達はティナの私的な用事とやらに興味津々なようだが、幼少期より付き合いのあるキールにはバレバレのようだ。

 

「ゴホン。今日君たちに集まってもらった理由は、もう聞いていると思うが、例のジンオウガについての調べが終わった。現段階で分かる限りのことが書かれてある報告書も、すでにここにある」

 

 キールが手にしたのは、なかなかの厚さのある冊子だ。まだ確認すら取れてないモンスターのことをここまで調べられたのは、流石ギルドの最高峰、本部の調査班が赴いただけのことはある。

 

「中身については後日ゆっくりと見てもらおう。さて、これを作るのにだいぶ時間がかかってしまった。君達には早速だが本格的な調査に赴いてもらう」

 

 その言葉を聞いて、カナトとエリンの表情がわずかに強張った。恐らく緊張から来ているものだろう。

 

「この案件は特別重大任務だ。可能な限り他言無用を要請する。では君たち3人の調査結果を心待ちにしているぞ。以上!」

 

 キールの話はとても短く締めくくられた。カナトとエリンの為にも、早く調査に行ってこいという、粋な計らいだ。

 3人は1人ずつ礼をしてから、執務室を後にした。

 

 

 

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 執務室を出て少ししたのち、ティナが2人の方を振り返る。

 

「あの、その……昨日はすいませんでした!」

 

 そしていきなり謝った。

 カナトとエリンからしたら、自分より遥かに格上の人物が頭を下げているので、ものすごく動揺する。

 

「ティ、ティナさん!? いきなりどうしたんですか!?」

「私の配慮が足りないばかりに、お二人にはキツイトレーニングをさせてしまったので……」

 

 その言葉を聞いて、2人は思わず顔を見合わせる。そして2人同時に笑い出した。

 

「なんだそんなこと! 全然気にして無いですよ。それより、ティナさんの強さの片鱗が見えた気がして、嬉しかったぐらいです!」

「そうそう。私たちこんな凄い人と一緒に行けるんだって、2人で舞い上がってたところですから! こんな私たちを連れて行ってくれるなんて、感謝感謝ですよ」

 

 ティナの心配事は杞憂に終わったようだ。肩の力が抜けたのか、ほっと息を吐いた。

 

「そうですか……私、お二人には理不尽を押し付けてしまったとばかり……ですが今の言葉で救われました。こちらこそ、ありがとうございます!」

 

 そう言ってティナはにっこりと笑った。

 ここで補足説明だが、ティナは美少女である。その戦闘能力を知らなければ、庇護欲がそそられること間違いなしの容姿をしている。そんなティナの笑顔を男が向けられたら……

 

「………………」

 

 目を奪われること間違いなしであろう。

 実際カナトはボーっとティナの顔を見つめていた。それがエリンに見つかって腹をつねられたのはいうまでもない。

 

「あ、あと、お二人は私よりも年上なのですから、敬語は使わなくても大丈夫ですよ?」

「いやしかし僕達程度がティナさんにタメ口なんて……」

「いいんですってば。一時的とはいえ仲間になるんですし、仲間によそよそしくして欲しくはないですから」

 

 カナトとエリンはお互いに見合い、うなずきあう。

 

「そういうことなら……改めてよろしく、ティナさん」

「私からもよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 これからの調査のため、仲間意識をさらに強くしたところで、カナトが切り出した。

 

「それで、ギルドマスターから許可も貰ったことだし、今日から調査をしたいと思うんだけど。ティナさんは準備とか大丈夫?」

「私はいつでもいけますよ」

「よし、じゃあ早速出発……と行きたいんだけど、どこに行こうか?」

 

 カナトが2人にそう問いかけると、僅かにドヤ顔をしたエリンが話し出した。

 

「ふっふーん。実は有力な情報を観測隊から聞いてきているのでーす。なんと、ここからやや北側にある森の中で、オレンジ色の強い光が発光してるのを見たらしいわ!」

「オレンジ色の光といえば、あのジンオウガの雷の色。でかしたエリン!」

 

 カナトが大袈裟に褒めたのを見て、ティナがクスリと笑う。

 

「ではその情報に従ってみるとしましょう。目指すは北方です」

「北側かー。確か火山があるんだっけ?」

「そうね。とりあえず道なりに進んで火山を目指してみるのもアリかも?」

「ふふっ、それも考慮しておきますか」

 

 こうしてティナとカナト、エリンの3人は謎のジンオウガの足跡を追うため旅に出た。

 最強のハンターとリベンジを望むハンター達。彼らと転生した雷狼竜が出会う日は近い……

 

 

 

 

 




ハンター達のプロフィール


⚪︎ティナ・ルフール(15歳)
使用武器:太刀
身長:155cm
髪:銀髪のセミロング
目:真紅

⚪︎カナト・アルマール(17歳)
使用武器:スラッシュアックス
身長:173cm
髪:青
目:スカイブルー

⚪︎エリン・シューザック(17歳)
使用武器:弓
身長:166cm
髪:栗色のポニーテール
目:イエローグリーン


あ、ちなみにティナのウォーミングアップですが、マラソンは論外として腕立てなどのセットは1セットならカナト達も余裕でできます。彼らはモンスター(な)ハンターなんですからね。

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