銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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今回の話は独自設定多めです。ご了承ください。特に今回は公式設定を一部改変している部分があるので、ご注意を。


第17話.真なる古龍

 今俺は、この世界に転生してきてから最大最悪のピンチに陥っている。この窮地に比べれば、このあいだのディノバルドとの死闘なぞ可愛く見えるほどだ。

 

「フォォォオオオオオン!!」

 

 たなびく白い鬣に、青白い皮が全身を覆うその出で立ち。頭に生える蒼角は、多量の電気を帯びて激しく火花を散らしている。小柄な体躯からは想像できないような、圧倒的な威圧感とエネルギー量。

 真なる古龍の一柱。幻獣キリンが俺の前に悠然と佇んでいる。

 

 なんでこんなことになってるんだ……俺は普通に火山への道を進んでただけなのに。

 いや、今は嘆いてる場合じゃない。目を離すな。一瞬でも気を緩めたら死ぬ。それぐらい力の差があるってことが、ひしひしと伝わってくる。あいつから聞いた通りだ……

 俺はキリンから目を離さないまま、古代竜人が言っていたことを思い出していた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

『なぁ、この世界の古龍ってどれほどの強さなんだ?』

 

『古龍は強大。あまりの強さ故、生物の定義で捉えることすら、難儀』

 

『じゃあもし今ここに古龍が来たら?』

 

『瞬きの間に殺される。でも、古龍といえど、その内分け、複雑』

 

『というと?』

 

『祖龍様が直接創った古龍、5体のみ。火の炎王龍、水の溟龍、氷の冰龍、風の鋼龍、雷の幻獣。彼らのこと、真の古龍という』

 

『真の、古龍……』

 

『祖龍様認めし古龍、最初はこの5体だけ。後から増えた真の古龍、一応何体かいるけど。嵐龍とか、霞龍とか。それ以外の古龍、人間が勝手に分類した』

 

『たしかに古龍って種族は統一性ないよなぁ。でも待てよ? 確かラージャンって、キリンの角を餌にしてるんじゃなかったか?』

 

『なんの話?金獅子が幻獣に挑むとか、自殺行為。雷の化身たる幻獣に、勝てるわけない。そもそも幻獣、世界に一体だけ。何体もいる金獅子が餌にしてたら、何本生えて来ても足りない』

 

『そうなのか……やっぱゲームと現実は違うってわけか』

 

『何のこと?まあいい。でも気をつけて。最初の5体。原初の真龍達の力、他の古龍の比じゃないから』

 

『大丈夫だって。この世界って古龍の数は少ないんだろ? だったらそうそう会わないだろうさ』

 

『だといいけど』

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 完っ全にフラグだったな……まさか原初の真の古龍の一柱であるキリンと出くわすとは。

 あいつの話によると、原初の真龍達は己が内包する属性をこの世界にもたらしたとされている。この世界を創った祖龍ら禁忌に次ぐ存在なんだとか。

 ジンオウガが宿すこの雷の力も、元はといえば目の前のキリンが生み出したものってことになる。

 

 いやいや冗談じゃねーよ! 要するに神の一員みたいなもんじゃねーか。そもそも生物としての次元が違う。格が違う。そんな奴が相手とかどうすりゃいいんだよ……

 

 キリンは俺のことを逃してくれそうにない。一見ただ立っているだけに見えるが、恐らく一歩でも動けば攻撃が飛んでくるだろう。

 こいつらの行動原理って、ほとんど気まぐれって言ってたな。自分を脅かす存在なんていないから、敵対心を抱くことも、仲間意識を持つことも無いんだそうだ。

 

 要するに、俺の前に立ち塞がったのもただの気まぐれ。そんな、そんな理不尽が許されてたまるか……気まぐれで殺される? それこそ冗談じゃない。いいさ、そっちがその気なら、最後の最後まで足掻いてもがいて見せてやらぁ!! 

 

 出し惜しみをしている場合ではない。即座に超帯電状態になり、行動を開始する。本当は真帯電になりたいんだが、真帯電になるにはチャージ時間が必要だからな。そんな時間をかけている暇はないだろう。

 

 両前脚に雷エネルギーをしこたま溜め込んでジャンプ。ディノバルド戦でも使った、落雷スタンプを繰り出す。

 キリンはこちらには目もくれず、当然何もしてこない。そのまま攻撃がキリンの顔面に入り、放出された雷が辺りを焼き尽くす勢いで解き放たれた。地面が少し陥没し、砂煙が舞い上がる。

 

 今出せる俺の最高威力の攻撃だ。少しはダメージが入ったんじゃないか……? 

 

 砂煙が収まるとそこには、全くダメージを負ってないキリンが、先ほどとなんら変わらぬ姿勢で立っていた。

 

 うっそだろおい……まさかのノーダメージかよ。いくら雷に耐性を持っているといっても、今の攻撃を無傷とかありえないんですけど? 

 

 相変わらずボーっと立っているだけのように見えるキリンだが、次の瞬間には動きを見せた。どこか遠くを見つめていたキリンの瞳が、真っ直ぐに俺のことを捕らえたのだ。

 たったそれだけで、全身の毛がよだつのが分かる。竜の本能がけたたましく警鐘を鳴らしている。油断するなと。

 

 俺のことを視界に捕らえたキリンが、僅かに唸ったように見えた。それだけ、それだけの行動で今まで雲ひとつない快晴だった空に暗雲が立ち込め、雷が矢継ぎに落ちてくるようになる。

 唸るだけで天候を操作するとか、本当に自然の化身かよ……

 

 そのあり得ない光景に気を取られたのがいけなかった。目を取られた僅か数秒の間に、30メートルは離れていたキリンが目の前に立っていたのだ。

 咄嗟に身を翻して距離を取ろうとしたが、それより速くキリンの神速と言える速度の後ろ蹴りが俺の胴体を抉った。

 

「ガッ…………ハ!」

 

 激しく吹き飛ばされた俺は地面を数回バウンドした後、前脚の爪を使ってブレーキをかけることでなんとか停止した。

 その途端吐き気が込み上げてきて、激しくむせ返ってしまう。見ると、吐き出したのは胃の中身ではなく血の塊だった。

 

 まじ、かよ……!! 今の一撃で骨どころか、内臓の一部まで持ってかれたぞ……! くそ、強すぎるっ! 

 

 先ほどのスタンプ攻撃でキリンのスイッチが入ったのか、休む暇もなく攻撃し続けてくる。キリンの角が僅かに光ったと同時、俺の周りに極大の落雷が降り注いできた。

 痛みを堪えながら何とか立ち上がり、雷で筋肉組織をドーピングして避ける。

 ちょこまかと逃げる俺に嫌気がさしたのか、キリンが次の行動に出た。鳴き声をあげながら大きく仰け反ったのだ。

 

 やべ、これは……! 

 

 ドォガァァァァアアアアン!!! 

 

 次の瞬間、超広範囲に雷の塊が落ちてきた。俺が起こした雷が児戯に見えるほどの電量と電圧。圧倒的なまでの威力に、地面は焼けこげるどころかガラス化してしまっている。

 そんな必殺の一撃を受けてしまった俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特に何ともなかった。

 

 あれ? 俺生きてる……? 確かにキリンの特大落雷を食らった筈なんだが……

 いや待てよ。そういえばジンオウガの鱗って、自分の雷で傷を負わないよう絶縁体になってるんだったな。ということは、ジンオウガは単に雷耐性が高いんじゃなく、雷が効かない? 

 確証はない。だが、あのキリンの攻撃を凌いだ時点で、信憑性が高まったのは確かだ。

 だとすれば十分に手は残されてるじゃないか! 気をつけるべきは奴の直接攻撃のみ。雷による攻撃は全て無視して突っ込む!! 

 

 未だに健在な俺に対して、キリンは無造作に雷を落としてきている。狙いは適当でほとんど当たってないが、適当だからこそ避けにくくなっているな。

 だか、そんなものは既に関係ない! 

 

 当たる雷も当たらない雷も全て無視して、キリンを目指して駆けた。先ほど受けた雷のおかげで電力が賄われ、既に真帯電状態にもなれている。

 古龍はやはりそれ以外の生物のことなど、どうとも思ってないのだろう。俺に雷が効いてないと分かってからも、キリンが特に行動を変えることはなかった。

 

 何もしてこないキリンに対して、帯電した雷の半分を込めたお手攻撃を両前脚で繰り出す。2発とも顔面にヒットするが、多少頭を揺らした程度でダメージは少なそうに見える。

 頭を揺さぶられたキリンが、鬱陶しげにこちらを睨んだ。そして放たれるは先ほどと同じ神速の蹴り。

 だが、来ると分かっていればいくら速くても避けようはある。小さくバックジャンプをし、紙一重で避けた。

 

 今まで散々舐めた態度取ってくれたな……これでも食らえ!! 

 

 ここまで隠しておいた奥の手。残された全ての電力を刃尾(・・)に集め、さらに不安定だから普段なら絶対しない、属性の重ねがけもしていく。雷属性に強い耐性を持っているキリンに対する、苦肉の策だ。持続時間はほんの数秒だが、俺の刃尾には氷以外の全ての属性が込められた。

 拒絶反応を起こして灰色に輝く刃を、キリンの角に向けて思いっきり振り抜く! 

 

 ギイイイイィィィィィィィン!! 

 

 甲高い音が響いたと同時に、パキッという何かが砕けた音が聞こえた。それも二ヶ所から。

 一つは俺の刃尾から。属性の重ねがけという無茶をした結果、刃尾の刃の部分が綺麗さっぱりかけてしまっている。

 そしてもう一つは、キリンの角から。圧倒的なエネルギーを内包した蒼角が、3分の1ほどかけているのだ。

 

 は、は。ここまでやって角がかけた程度のダメージか……電力は全て使い果たしたし、無茶したせいで体がうまく動かねぇ。ここでおしまいか……

 

 そう思いキリンの方を見ると、キリンは唖然とした表情で固まっていた。恐らく角がおられたことに衝撃を受けているのだろう。

 そしてそれはだんだんと怒りに変わって……いきはしなかった。それどころか、どこか満足気な表情を浮かべているようにも見える。

 怪訝に思いそれ見ていると、キリンはこちらを一瞥した後、稲光とともに姿を消したのだった。

 

 キリンが去ったことにより、雷雲がたちまち晴れて太陽がその顔を覗かせる。

 そして俺はというと、安堵と疲労から無様にもその場で気を失ってしまった。

 

 

 

 

 




ゲームの中のキリンって、なんであんなに弱い立ち位置なんですかね?天候変えられるし、古龍としてのレベルは高いと思うんですけど……
因みに真の古龍は天候を変えることができるなどの、自然に強く干渉できるドス骨格古龍から選びました。キリンは、雷系統の古龍がほかにいなかったので採用。

それにしても昨日のMHW:Iのアプデで、ラージャンがキリンを襲うって設定を公式が使ってきたのには驚きました。お陰でこの話を書き直すか随分悩まされましたが。
この世界ではキリンを格上の存在にするために、この公式設定を一部変更しております。

古龍について興味が出た方は、YouTubeで考察動画を見ると楽しめると思いますよ。

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