あと活動報告にお知らせがあるので、時間がある時見ていっていただけると幸いです
『やっぱお前はすげーよ。とても10歳児とは思えねー。流石政府の秘蔵っ子、黒狼様だな』
『そりゃどーも』
『なんだよ連れないな。俺たちゃ仲間じゃねーか! な?』
『ふん……』
俺は政府に所属する、主に暗部と呼ばれる組織の一員だった。まあ一員といっても、親父に頼まれた時に手助けとして作戦に加わる程度だったが。それでも結構働かされてた気がするけど。
暗部の存在は公には公表されていない。完全に裏の組織だ。その仕事は他国へのスパイだったり、政府要人の護衛など多岐にわたる。
その中で俺は特に、自国や他国の邪魔な人物の排除を行なっていた。誰にも気付かれず、単独で、かつ確実に殺る。そんな俺のことを前世のお偉いさん方は口を揃えてこう言ったものだ。
返り血が黒くなるほど血を浴びながら、単独で獲物を狩る一匹狼。すなわち「黒狼」と。
……Now loading……
随分と懐かしい夢を見たな……生前の記憶か。中学生になるまでの俺は、だいぶ荒んでたからなぁ。
いや忘れよう。どうせ過去のことだ。今の俺には何ら関係ないことだしな。
それよりも、一体あのキリンは何だったんだ? 角が折られたことに驚いて逃げたとか? それはないか。キリンからしたら俺なんて、いつでも殺せるはずだし。これも気まぐれの結果とか?
いや待てよ? そういや古代竜人が言ってたよな。意思ある龍の言葉が分かるって。言葉が分かるってことは、古龍は会話が出来る個体がいる。つまり人間と同等か、それ以上の知能を持つ古龍が存在している?
だったら、原初の真龍とまで言われてるキリンが、知能を持たないとは考えにくい。そう仮定すると、俺の前に現れたのにも何か意味があるのかもしれない……
うーん、ぶっちゃけ情報が少なすぎて、だからなんだ? 状態だなあ。キリンが何の意図を持って現れたのか、この問題については一旦保留! 考えても分からないことは、考えるだけ無駄なのだ。
それより問題はこいつよ。俺が切り落としたキリンの蒼角。先端部分が少し折れただけなのに、その切り落とした蒼角からは未だに圧倒的なエネルギーを感じる。
これ、食っても大丈夫なんだろうか……? 食べたら絶大な力を得られるかもしれない。だが、秘薬というものは時として毒になりかねない。許容量をオーバーした力を取り込んだ結果、とんでもない後遺症が残るとかいう事態になったらと思うと、少し尻込みしてしまう。
だが、パワーアップとしては絶好のチャンスだ。この世界の頂点の一角にある存在の力なんだ。逃すにはあまりにも惜しい。
ここで尻込みしてても仕方ない、か。古龍の素材なんてこの先いつ手に入れられるか分からないし、食わない選択肢はないだろ!
覚悟を決めてパクっと蒼角を飲み込む。
……案外、何ともないか? ウッ!?
次の瞬間には、俺の体中を激痛が走りまくっていた。体が内側から破裂しそうな、それでいて外側から圧縮されてるような。そんな変な感覚が俺を襲う。
「グゥゥ……ガァァァァアアアア!!!」
あまりの痛みに頭を地面に何度も叩き付ける。それでも全く効果はなく、形容しがたい痛みは俺の体を容赦なく蹂躙していく。
そして次第にミシミシとなってはいけない音が体から鳴り始めた。それに合わせて痛みはさらにそのレベルを上げていく。
こ、れは……本格的に、や、ば、い……!
永遠に続くと思われた地獄の中で、俺は気を失っては痛みで飛び起き、また気絶するという二重苦を味わい続けていた。そして……
……Now loading……
あれからどれぐらいの時が経っただろうか。体中を苦しめていた痛みはいつしか引いていき、体から鳴り響いていた形容しがたい不快な音も聞こえなくなっていた。
ぐ……あ……終わった、のか?
地面に仰向けに倒れていた体を起こそうと思った時、
それだけなら見間違いと切り捨てることもできた。しかし、それ以上の変化があれば、いやでも現実を理解させられる。
白い。青かった鱗も、黄色がかった甲殻も、全てが真っ白になっているのだ。純白の鱗と甲殻は、太陽の光を反射して眩く輝いている。そんな俺の体を銀色の体毛が覆っているのだ。唯一変わりがないのは腹の方。鱗でも甲殻でも守られていない部分は、相変わらず灰色の皮のままだった。
いやいやいやいや! 何だよこれどうなってんだよ! あまりの痛みに体の色素が死んだ……? だとしてもそんなレベルじゃねーな。キリンの蒼角を取り込んだからってのは確実だが、それだけじゃ説明つかないぞ……
そう思って体に異常が無いか確かめるべく、ピョンピョンと少し飛び跳ねようとして足に力を込めたのがいけなかった。
次の瞬間、俺は飛んでいたのだから。いや飛んだのとは少し違う。ジャンプ力が強すぎて、一瞬で空まで打ち上がったのだ。
先程までいた場所が、片手で収まるぐらい遠くに見える。それほどの高さまで跳び上がっていた。
……はい!?
脳が理解するより早く、落下が始まった。相当高く跳んでいたので、落下のスピードもマジでシャレにならない。真っ逆さまに落ちていき地面に激突、はしなかった。
この巨体が新幹線レベルの速度で起きてきたにもかかわらず、着地は静かなものだった。それはもう、そよ風が起きるぐらいの。自分でも驚くほどの、完璧な身体制御によってなせる技だ。それが咄嗟に出来た驚きよ。
すまん、もう無理……
一気に膨大なデータが流れ込んできた頭は、先程の疲労も相まって考えることをやめた。
……Now loading……
次の日目が覚めてから、俺はいろいろなことを試した。そして分かったことだが、訳がわからなかった。
自分でも何言ってんだとは思う。思うが……それ以外に言葉が見当たらないのだよ。
身体能力は昨日やった通り、もはやバグなんじゃ無いかってぐらい強化されている。これで真帯電状態になんてなったら……うん、考えないでおこう。
あと身体的特徴としては刃尾と爪が変わっていたな。刃尾は完全に剣になっていた。刃の部分は薄っすらと灰色になっており、全体的に体毛が無くなって金属感が増した。切れ味は、試した鉄を含んだ岩が軽く真っ二つです。やばいっすこれ。
あと爪はさらにヤバかった。前足の爪だけなんだが、5本とも黒くなっていたのだ。元々黒かったのだが、漆塗りの陶器みたいに光沢があるのだ。何でかは知らない。というか俺が聞きたい。ただ、硬度は半端ないことになっていたな。切れ味? 刃尾より上というところで察してくれ。
一応超帯電状態にもなった。結果はこちらも凄かったよ。毛が逆立ち、甲殻が展開するまでは良かったんだが、展開した甲殻が淡く青色に光るのだ。元々ジンオウガの背中の甲殻は雷電殻と言って蓄電能力を備えたものだったが、ライゼクスの能力を得たことによって発電器官として運用していた。
発電した雷が漏れ出すことはあったが、淡く光るって何だよ……また新しい能力を得たのかもしれんな。
あ、電気量が上がったのは当然のことね。もうそれぐらいでは驚かないよ。うん。
後なんか角も変化があった。キリンよろしく蒼くなっていた。とは言っても真っ青ってわけでも無い。薄く青色になっている程度かな。
もう何が何だか分からん……と、最初は途方に暮れていたんだが、自分の能力を確認しているうちに次第にある考えが浮かんだ。
もしかしてこれ、古龍の能力を手に入れたからか? ってな。何当たり前のこと言ってんだって言われるかもしれないが、まぁ聞いてくれ。
この世界の古龍ってのは、本当に化け物だ。これは古代竜人から話を聞いただけだから信憑性は無いが、嘘は言ってなかったと思う。
ゲームの中でこそ少し強いだけの存在だが、現実世界では違うってわけだな。そこで、竜と龍の違いについてだ。
この違いは知っての通り、古龍かそうじゃ無いかって事だな。呼び方の問題だ。俺のようなジンオウガは竜。キリンなどの古龍は龍。
しかし、竜と龍では何が違うのか? 古龍とは一括りに行っても、沢山の種類がある。真の古龍とやらは少ないらしいが、それでも古龍と呼ばれる生物達が規格外の強さを持っていることは、周知の事実だ。
なら、古龍を古龍たらしめんとする根拠は? 前まではただ強い生物なのだと、漠然と思ってるだけだった。だが、それは違う。ここからは仮説だが、古龍とは地脈……いや、少し別物だし龍脈と呼ぼう。この力に干渉できる生物のことだ。
龍脈とは俺が勝手に名付けただけだが、的を得ていると思う。この世界にはまるで地脈の流れのように、巨大な生体エネルギーが循環していると思われる。強大な古龍等が死んだ時、そのエネルギーが龍脈の流れによって世界を巡り、新たな命の誕生を促す。そんな感じ。竜の力が流れる地脈だから、龍脈ってわけだ。
古龍はこの龍脈に干渉して、力を引き出せる存在なんだ。自然の化身たる原初の真龍達は、この力がとんでもなく強いんだろうな。
え? 何でそんなこと知ってるのかって? それが、俺にも不思議なんだが、感じ取れるんだよな。その龍脈の流れってやつが。あとそれの使い方と、何で存在してるかもぼんやりと分かる。
ここで話を戻すが、これって俺が古龍になりかけてるから何じゃ? と思ったわけだ。そう考えると色々と納得がいくしな。能力吸収の加護が変な作用を起こしたのかも。
まあ、古龍になろうがならまいが、俺のやることは変わらんがな。この世界を自由に生きる。この弱肉強食の世界を生き抜くために、戦う力をつける。その過程で古龍に近づくんだったら、それも受け入れようじゃないか。
それに龍脈やら自然の力やら、なんかカッコいいしな。それが自分の力になるなら、全然ウェルカムだ。
それにしても……生前黒狼とか呼ばれてた俺が、転生したら真っ白な雷狼竜か……全くの真逆になったなぁ。ま、これはこれでありだけどな!
さーて、思わぬ道草を食ってしまったが、火山に向けての旅を再開させるとしようか。