銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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第2話.俺、異世界に降り立つ

 眼を覚ますと、そこは真っ暗な空間だった。その上狭く、身動きも十分に取れない。

 

 確か幼女に転生させてもらって……ということは、ここは卵の中か?てか身動き取れねぇ!体当たりでもしてみるか。

 

 そうして体当たりを続けること数十分……

 

 割れねぇ!この卵の殻硬すぎなのでは!?普通すぐに割れて外の世界へ飛び出すところだろ!だがまぁ、ほんの少しだが光は差し込んだ来た。もうちょい頑張ろう……

 

 そこからさらに数十分後、ようやく卵は割れた。

 

 ゼェ……ゼェ……や、やっと出れた……もしかしたら、まだ生まれる時期じゃなかったのかもな。そこに俺の意識が宿っただけで、少し早かったのかも。

 

 そんな俺の気持ちも、目の前に広がる景色を見た瞬間に吹き飛んだ。どこまでも広がる森や山に、地球では考えられないほど澄んだ空気。右手には大きな湖が広がり、少し離れた場所なのに水の中が見えるほど透明。

 

 おぉ……これは、すごいな……

 

 我も忘れてその景色に魅入ってしまうほど、美しい景観だった。そして自分が今いる位置を知ることも出来た。何故ならそこはゲームで馴染み深い場所。渓流のエリア9、ハチミツが採取できるところにある大木の上だ。大木の上はなかなか大きな平地になっており、そこに巣があったらしい。

 

 さて、無事にモンハン世界に転生出来たわけだが……とりあえず水だな。水ならエリア7に湖がある。そこに行ってみるか。

 

 

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 ゴクゴクゴク……

 

 湖の水はとてつもないほど澄んでおり、その見た目通り飲んでもなんの問題もなく、むしろ美味かった。

 

 プハー。美味いなこの水。それにしても、すぐに水の大切さに気づけたのは僥倖だったな。これもあの経験のおかげか……

 

 俺の脳裏には思い出したくもない思い出が浮かぶ。まだ5歳の頃、特訓とかぬかして親父に一人で山の中に放置されたのだ。おかげでサバイバル術は身についたが、今でも人間のすることではないと思っている。

 

 いや、こんなくだらないことを考えるのはやめよう。俺は生まれ変わったんだ。前世に縛られ続ける俺ではない!

 それにしても、見事にジンオウガになってんな……青い鱗に黄色い甲殻。鋭い爪に二本の立派な角。そして身の丈の半分程はありそうな大きな尻尾。水面に映った俺の姿は、完全にジンオウガのそれだった。鋭い牙は肉を容易く噛みきれそうだ。

 

 いざジンオウガになってみると、なんか不思議な感じだな。まだ現実として捉えられてないというか。この四足歩行の慣れなさが、強く現実を実感させては来るんだけれども。

 とはいえ、今の未熟な体じゃできることは少ない。とりあえず家に帰るか。

 

 

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 エリア9まで帰ってきたんだが、そこである重大なことに気づいた。それは……

 

 飯がねぇ!

 

 ということだ。いや決してふざけてるわけじゃないぞ?ぶっちゃけかなり深刻な問題だ。

 ジンオウガの主食は肉。そしてここは自分以外味方のいない大自然の中。俺の体はまだ幼く、獲物を捕らえる能力が乏しい。つまり、だ。

 

 俺、生まれて早くも命の危機では!?

 

 ガーグァとかケルビならなんとかなりそうだが、人間の少年ぐらいしかないこの体では、奴らの逃げるスピードに追いつけないかもしれない。というか、不用意に歩き回ってほかの肉食モンスターに出くわしたくない。

 

 やばいな……ジンオウガって肉以外に何食べるんだ?そこらへんに薬草っぽいのは生えてるし、俺の家の下にはハチミツもある。一応食べるものはあるんだが……

 

 問題はそれらをジンオウガが食べても大丈夫なのか、というところだ。生物の体は、その生物が食べるものによって違う。

 人間は雑食なので問題ないのだが、肉食獣には草を消化する能力がないと聞いたことがある。もしもジンオウガにもそれが当てはまるなら、最悪の場合体調不良に陥るだろう。

 

 たかが体調不良と言ってもバカには出来ない。俺が成体ならいざ知らず、幼いこの体では、自然の中で生きていくには時には逃げることも必要だろう。この逃げるという行為が封じられた場合、待っているのはそれこそ死だ。

 それはサバイバル生活の時、嫌という程思い知らされた。

 

 しかし、このまま餓死するよりははるかにマシか……しょうがない、覚悟を決めよう。

 

 少しでも安全を確保するため、大木の上の家で食べることにする。爪で器用に薬草を刈り取り、ハチミツは蜂の巣ごと持って帰る。たかが蜂程度の針では、幼体の俺の体でさえ貫くことは不可能なのだ。

 

 さてさて、食べてみますかね。まずは薬草から……ムシャムシャ。

 ウッ!予想してたが、やっぱり苦いな。好んで食べるものではないだろう。だが、心なしか少し元気になった気がしなくもない。これが回復効果ってやつかもしれんな。

 

 お次はハチミツを……ペロッ。

 おお!これは美味いぞ!日本で食べたものよりコクが深いな。しかも採りたてっていうのも大きいだろう。うん、これはいくらでもいけるぞ!

 

 先程考えてた危険性は何処へやら。腹が減っててろくな思考が出来なくなってた俺は、そのままハチミツを食べ続けた。

 

 

 

 ふいー。食った食った。腹も膨れたし、食べた感じあのハチミツは栄養価も高そうだ。当分の間はこれを主食にしてもいいかもな。

 あとはきちんとこの体に、肉以外のものを消化する機能が備わってればいいんだが……

 

 まぁ今考えても仕方ないだろう。この大木の上なら、大型モンスターもそう来ないだろうし、気配の消し方なら嫌という程学んできたしな。とりあえず休むか……体が幼体だからか、まだ日は高いのにすごく眠い……

 

 

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 そのまま寝続けて、気づいたら翌日になっていた。

 俺の心配は杞憂だったらしく、一日経った今でも体に異常はない。俺の体は肉以外のものも受け付けるということが分かったわけだ。

 

 何気ないようだが、これはなかなか重要なことだぞ。これからは食料の心配をしなくていいってことだ。

 もちろん肉を食べるのに越したことはないが、肉が取れない日が続くこともあるだろう。そんな時には薬草やキノコの出番ってわけ。

 

 今のうちにキノコとかも食べておこうかな。

 

 そう思い、おもむろに目に入ったキノコを齧ってみた。あんなに慎重に動いてたのに、なんの警戒なしにこんなことをしてしまったのは、新たな事実が分かって気が緩んでいたからだろう。

 

 アバババババババ!?!?

 

 キノコ食べた途端に体が痺れて動けなくなってしまった。これはどう考えても、マヒダケを食べてしまったに違いない。

 痺れてしまった体は言うことを聞かず、そのままその場に倒れてるしか俺にできることはなかった。

 

 

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 ハァ……ハァ……油断した……

 少し考えれば危険なキノコが生えてるって分かるだろ。あの時の俺は、この世界に生えてるキノコはアオキノコだけだとでも思ってたのか?

 だが、これにも見返りはあった。なんとこれ以降にマヒダケを食べても、麻痺状態にならなくなったのだ。

 

 一体どう言うことだろうか?麻痺状態を体験したことによって、麻痺耐性がついたのか?一回で耐性がつくとは思えんが……

 よし、ものは試しだ。全部調べてやれ!

 

 そこから集められるだけの薬草やキノコを集めまくった。そしてその全てを食った。もちろん今回は大木の上でだ。エリア9が採取に向いた場所でよかったぜ。

 ネムリダケを食べて昏睡したり、ドキドキノコを食べて幻覚を見たり、火薬草を食べて口の中で爆発したり、ぶっちゃけロクな目に合わなかった。

 

 しかし、その全てに耐性を持つことに成功した。耐性といっても効果の小さいもの限定かもしれないが、何もないよりはマシだろう。

 

 もしかしたらこれが、幼女が言ってた加護ってやつなのかもな。なんの加護なのかはサッパリ分からんが。

 よし、少し成長したら、モンスターでも同じことが起こるか調べてみるか!


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