銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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第22話.sideカナト②

「どう、カナト。落ち着いた?」

「あぁ、ありがとうエリン……」

 

 ティナが調査の報告に行っている間、カナトとエリンはユクモ村の中心部にある広場に来ていた。ここは普段住民達の憩いの場になっているところで、外の風に当たった方がいいと考えたエリンは、カナトをここまで連れてきたのだった。

 空いていたベンチに2人で腰掛けてしばらくすると、カナトから焦りのような表情がなくなったように思える。時間が経って頭の整理がついてきたのだろう。

 

「全く、カナトらしくないわよ? もっと冷静に分析してから行動するのが、いつもの貴方でしょうに」

「ははは……面目ない。たしかに僕は気が動転していたようだよ」

 

 そう言うカナトの表情は暗い。頭の整理がついたことで、あのジンオウガと自分たちとの力の差を理解したからだろう。そして知ってしまった。自分たちではどう足掻いても勝てないということを。

 

「……そうね」

 

 そしてそれはエリンも同じだ。まるで歯が立たない。もし戦っていたとして、何分立てていたか……そう考えると恐ろしくなってくるのだった。

 

「だけど、ティナさんに迷惑をかけてしまった……僕の暴走で。なんて言ったらいいか……!」

 

 カナトはティナに迷惑をかけたことを、心底反省しているようだ。普段真面目な彼からしたら、これはとても大きな問題だと言えよう。表情が暗い理由は、これも含まれていそうだ。

 

「それは……普通に謝るしかないんじゃない?」

 

 エリンが控えめにそう言った時だ。

 

「お二人ともここにいたのですか。探しましたよ」

 

 そこに報告を終えたティナがやってきた。手には一枚の紙を持っている。

 

「ティナさん、ギルドマスターはなんて言ってたの?」

「調査中ということにするそうです。基本的には討伐は禁止。触らぬ神に祟りなしといったところでしょうか」

 

 そう言ってティナは2人に、手に持った紙を見せてきた。その紙には、天狼竜ジンオウガ特種という名前と、調査中につき見かけ次第ギルドに報告せよ。というお触れが書かれてあった。と、その時。

 

「ティナさん! さっきは悪かった!!」

 

 ティナが差し出した紙をよく見る暇もなく、いきなりカナトが頭を下げた。出発する前はティナがいきなり頭を下げたのだが、今度はカナトが下げたのだった。

 そしてこちらも同じように驚くティナ。

 

「え、え!? どうしたのですか?」

「ティナさんの忠告も聞かず、勝手な行動をしてしまった……頭に血が昇っていたとはいえ、仲間を危険に晒したことに違いはない。だから……!」

 

 言葉に詰まったのか、カナトが顔を上げた。その顔は悔しさや申し訳なさなど、様々な感情が浮かんでいる。そんなカナトを見たティナは、フッと優しく微笑んだ。

 

「自分で間違いに気づき、自分で反省することができる。これだけでもとても大切なことです。そしてカナトさんはお一人でそこにたどり着くことができた。ならば私からいうことはありませんよ。ただし! 次からは気をつけてくださいね?」

「っ……! はい!」

 

 緊張の糸が緩んだのか、ヘナヘナとその場に座り込んでしまうカナト。慌てて手を差し出すティナ。それをみてエリンがやれやれという具合に頭を振る。

 少しばかり、はじめの暗い表情が晴れたように感じた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 しばらくして落ち着いたあと、ティナはキールと話したことを2人に教えた。

 

「天狼竜ジンオウガ特種……か」

 

 エリンとカナトは特種という聞き慣れない言葉に、戸惑いつつもどこか納得してしまう。あの規格外のモンスターだったら、そんなことがあってもおかしくないな、と。

 

「私たちの任務はここで終了ですね。短い間でしたが、共に旅ができて楽しかったです。まだ話したいことはありますが、すいません今日はちょっと時間がないので、また明日ということで!」

 

 この後もキールの手伝いがあるとかいうことで、ティナは足早に去っていく。残されたエリンとカナトはその場に呆然と立ち尽くしていた。

 

 なんだか嵐のような出来事だった。突然現れたモンスターにバスクがやられ、ギルドマスターに呼び出され、ティナと旅をしてあいつに再会した。でも再会したあいつはとんでも無く強くなってて、焦りで前が見えてないうちに全ては終わっていた。

 

「エリン、これで終わりなのかな? これで……」

「カナト……」

 

 再び沈み出したカナトに、エリンは閃いたようにこう言った。

 

「とりあえずユクモに戻ってきたことだし、バスクのところに行ってみない?」

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「バスク、お見舞いに来たわよ」

「おお、エリンにカナトか! よく来たな。ずっとベットの上ってのも退屈してたとこなんだよ!」

 

 病室に着くと、いつもの調子でバスクが2人を出迎える。何も変わってないように見えて、彼はもうハンターを続けることができない。そう思うと、カナトの心は締め付けられる思いだった。

 

「ん〜? どうしたカナト。なんか悩み事でもあるのか?」

 

 流石は幼い頃からの親友といったところか。バスクはカナトのほんの少しの変化で、彼が沈んでいることを見抜いてしまった。

 

「い、いや。そんなことないよ?」

「そんぐらいで騙されるかってーの。なんかあったのかよ。な、話してみろ? パーっと話せば少しは楽になるかもしれないぜ?」

「バスク……」

 

 親友のその一言は大きかったらしく、カナトはポツリポツリとこれまでの出来事を話し始めた。バスクはカナトの話の所々で驚きつつも、最後まで黙って真剣に聞いている。

 

「というわけなんだ」

「なるほどな。つまりカナトは、俺をやったその天狼竜に一矢報いようとしたわけだ」

「うん」

 

 バスクはうんうんと首を縦に振りつつ続ける。

 

「だが、その天狼竜は思っていたよりもずっと強くなってて、自分じゃ到底敵わないと思ったと」

「うん」

「それでちんたらしているうちに、天狼竜の狩猟は禁止になった。もうやり返すことは出来ない。どうしよう? ってわけだな」

「うん」

「お前はバカか?」

「うん……え?」

 

 突然バカにされて、思わず下げていた頭を上げたカナト。顔を上げた先には、眉間にシワを寄せたバスクがカナトの顔をじっと見つめていた。

 その顔を見てカナトは気付く。これはバスクが怒っている時にする顔だと。

 

「いつ誰がやり返して欲しいって言ったよ。え? そんなことを頼んで、もしお前らが俺と同じ、もしくはそれよりひどいことになってたら、俺はなんて思うと思ったんだ?」

「そ、それは……でも!」

「そもそもだ!!」

 

 言い返そうとしたカナトの言葉を、声を大にしたバスクのそれが阻んだ。

 

「ハンターがモンスターにやられて怪我をしたり、再起不能になるって話は日常茶飯事だろ。なのにやられた奴の仲間が毎回毎回復讐なんて考えてみろ? 全てのハンターが復讐目的で仕事をする様になっちまうぞ。ハンターはそんなことのためにあるんじゃねぇ。そうだろう?」

 

 バスクの至極真っ当な指摘に、カナトは言葉を失ってしまう。確かにハンターが復讐に走るのは良くないこととされている。ハンターは殺戮者ではないからだ。

 傷ついたり、死んでしまう覚悟のないものは、決してハンターとして大成することは出来ない。

 

「俺は復讐なんぞ望んでねぇ。あのジンオウガに思うところが無いわけじゃないが、それは俺の実力不足。その現実を甘んじて受け入れることにしている。だからカナト。俺のために無茶だけはするな」

「バ、バスク……ごめん……っ! くっ、うぅ……」

 

 そんなバスクの厳しくも優しい言葉をかけられたカナトの目から涙が溢れる。勝手に思い込んで突っ走った結果、ただバスクに心配をかけ、申し訳ない気持ちでいっぱいになったからだ。全てが空回りになっており、気持ち的にも沈んでいたため、バスクの言葉はカナトの心に深く響いたことだろう。

 

 人目を憚らず泣きじゃくる親友のことを、バスクは彼が泣き止むまで優しく見守っていた。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「落ち着いたかよ?」

「うん……ありがとうバスク」

 

 ようやく泣き止んだカナトの頭を、バスクはわしゃわしゃと無造作に撫でた。

 

「それにしても、俺がやられたことに怒って我を忘れるとか! カナトがそこまで俺のことを思ってくれてたなんて……感激だぜ!」

「え? バスクまさかあなた……」

 

 そっちの方(・・・・・)に気があるのかと思い、エリンは若干バスクから距離を取った。

 

「いやそういう意味じゃねーよ! おい引くな!!」

「ぷっ……あはははは!」

 

 バスクの慌てっぷりを見て、思わず大笑いをするカナト。そんな彼を見て、エリンは安心したように小さく息を吐いた。間近で彼の暴走を見ていた彼女は、実は結構心配していたのだ。このままカナトが壊れてしまうんじゃないかと。その心配はなくなったようだが。

 

「んで、お前らこれからどうすんだ? 任務ってのは終わったんだろ?」

 

 そうバスクが聞いてきた。ひとしきり笑ったカナトは、ぎゅっと顔を引き締めて答える。

 

「僕は、強くなる。今よりももっと」

「おいカナト、お前……」

「ううん、違うよバスク」

 

 バスクはまだあのジンオウガを諦めてないのか、そう思ったがどうやら違うようだ。

 

「次は守れるように。どんなことがあっても、もう大切なものを失わないように。僕は強くなる。手が届く範囲だけでいい。守るんだ、絶対に」

「カナト……いいじゃねぇか!」

 

 カナトの『覚悟』にバスクは嬉しそうにニッと笑った。

 

「エリンも付き合ってくれるかい?」

「ええ、勿論よ。私だって強くなる。二度と誰かさんが暴走しないように、ね?」

「エリン〜!」

 

 からかうように片目をつむりながら顔を向けてきたエリンに、カナトは抗議の声を上げる。

 

「がははは!! 俺も応援してるぞ。カナト、エリン、頑張れよ!!」

「「ああ(ええ)!!」」

 

 こうして、カナトとエリンの特訓の日々が始まった。翌日再会したティナに正式に弟子入りを頼み、彼女の元で毎日訓練に励んでいる。

 しかし例の如く地獄の訓練そのもので、何度も気絶してぶっ倒れているとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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