銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

23 / 61
第23話.凶兆

 ハンター達との邂逅から2週間ほど経っただろうか。最近火山の様子がどうもおかしい。なんか殺気だってるというか、ギスギスしてるというか……ともかく居心地が悪いんだ。気のせいか空気もどんよりしてる感じ? 何かよくないことが起きてるんじゃねーだろうな? 

 

 それにこないだ見てしまったんだよな。ティガレックスとウラガンキンが、激しく戦っているのを。いやまあモンスターどうしが戦うなんてことは珍しくもなんともないし、それ自体は普通なんだが……あいつらの行動は常軌を逸していた。

 おそらく縄張り争いをしていたんだろうが、お互いに一歩も引かないのだ。しかもその具合がやばい。ティガレックスは翼膜というか前脚が再生不可能なほどボロボロだったし、ウラガンキンは顔の右半分が削れてなくなっていた。それなのに、お互い戦うのをやめないのだ。逃げる素振りなど微塵も見せないまま、結局彼らは死ぬまで争っていたのだった。

 

 あの光景を見た時、寒気が走ったね。明らかに異常な行動。それも確実に我を失っていただろう。

 確かゲームのモンハンでもこんな事件があったよな……あ、そうそう。4で出てくる狂竜ウイルスだ。ムービーでイーオスが明らかに格上なジンオウガに向かっていくシーン。先の2体の戦いは、このムービーから感じられる狂気が伺えた。

 

 まさか本当に狂竜ウイルスが蔓延し始めてるのか? だとしたら俺もやばいかも知れん。なるべく早めに火山から立ち去るべきか……? 

 

 と考えていた時だった。不意に背後から強烈な殺気を感じ、咄嗟にその場から飛び退く。数瞬後、先ほどまで俺がいた場所に何かが飛び込んできたと思ったのも束の間、地面が吹き飛ぶほどの大爆発が巻き起こった。

 モクモクと立ち昇る砂煙が晴れるとそこには奴がいた。特徴的な前足と頭を持ち、その圧倒的戦闘力でいく人ものハンターを葬ってきた獣竜種。そう、砕竜ブラキディオスが耳をつんざくほどの咆哮をあげながら、クレーターの中心に立っていた。

 

 ブラキディオスだと……火山地帯で一番当たりたくないモンスターと出逢っちまったようだな。ブラキは火力も高いし防御も硬い。こりゃ苦戦必至か? とはいえ……

 

 そう思って今一度ブラキディオスの方に向き直る。地面にクレーターを作ったやつは、何をとち狂ったのかその場でジタバタと暴れ始めた。目の前が見えてないかの如く、手当たり次第に暴れまわっている。

 そう、やつの様子がおかしいのだ。控えめに見ても、薬でイッちまった奴のようにしか見えない。

 

 こりゃあ、本格的に狂竜ウイルスの線が濃厚になってきやがったな。狂竜ウイルスで狂ってしまったと考えれば、色々辻褄が合う。火山の様子がおかしいのも、やはりこれが原因で間違い無いかもな。

 とはいえとりあえずはこのブラキディオスだ。放っておくと何をしでかすか分からないし、ここで倒しておくのが俺からしても、火山の連中からしても無難だろう。よし、やるか!! 

 

 雷光虫を呼び寄せて電力をチャージ。超帯電状態に移行する。そして雷光虫から得た電力を惜しまず使って、そのまま真帯電状態まで移行した。

 純白の鱗に緋雷を纏い、全ての帯電殻が展開していく。帯電殻の裏にある電気を溜める器官から光の粒子が立ち上り、刃尾の刃の部分が蒼色に発光する。

 これが古龍の力を手に入れた俺の最強形態である真帯電状態の姿だ。これでも龍脈の力は使っていないのだ。見た目の変化は今はどうでもいいか。

 

 暴れ回るブラキディオスは近くで大放電をした俺に気づいたようで、ギョロリとその目をこちらに向けてきた。そこで初めて気づく。やつの目が紫色に怪しく染まっているのを。狂竜ウイルスの線が濃厚になったな。

 こちらを視認したブラキディオスは、狂ったような雄叫びを上げながらがむしゃらに突撃してきた。その動きは単純にして明快。余裕で回避することができるだろう。

 現にその場を飛び退くことであっさりと回避できた。しかしその後に俺は目をむくことになる。ブラキディオスが拳を地面に叩きつけたんだが、明らかにその威力がおかしい。振りかぶってもないパンチとそれに伴う爆発だけで、地面に深々と穴が空いたからだ。

 

 なんだあの馬鹿げた威力は!? 確かに狂竜化すると身体能力が上がるって話だったが……だとしてもおかしいだろ! 

 

 あれはもう身体能力が上がるとか、そういう次元の話じゃない。脳のリミッターを外すどころか限界突破させて、攻撃力を上げているとしか思えない。確かに威力は上がるが、そんなものは自殺行為だ。行動一つ起こすたびに寿命が縮まっていると考えてもおかしくはない。

 本当はやつもさぞかし苦しんでいるのだろう。だがウイルスがその感情を殺して、破壊行動を続行させているのだ。

 何という酷いことを……! 

 

 地面に埋まった拳を引き抜いたブラキディオスは、ゆっくりと此方に振り向いた。そして次の瞬間、両足にグッと力を入れてジャンプをしながら飛びかかってきた。

 確かにあの拳に当たれば今の俺でさえ無事ではいられないだろう。だが、そんな知略も戦略もない攻撃が当たるわけもない! 

 飛びかかってくるブラキディオスを、体を引いてその身を低くすることで躱す。そしてすれ違いざまに、半身回って刃尾で腹を深く切り裂いた。剣道でいうところの、カウンター技のようなものだ。

 相手の勢いも利用して叩き込んだそれは、ブラキディオスを戦闘続行不可能にするほどの傷を負わせたはずだ。しかし、脳のリミッターが壊れているブラキディオスは、この程度では止まってくれなかった。

 

「ォォォォオオオオオアアアア!!!」

 

 恐怖心を掻き立てるような悍しい雄叫びを上げながら、腹から贓物が飛び出ているのにもお構いなしに向かってくる。その目はより狂気に染まり、怪しく紫色に輝き出していた。

 

 命の冒涜。ふとそんな言葉が脳裏に浮かんだ。

 苦しいだろう……せめて一思いに楽にしてやるよ。

 

 龍脈の力を解放する。その瞬間落雷の如き放電が迸り、世界を赫に染め上げた。纏う緋雷はその電量を増し、オーバーヒート寸前の炎の様に煌々と光を発している。緋色に光る雷光虫が、激しく渦巻く炎の様に周囲を飛び回り始めた。

 龍脈で強化した真帯電状態。赤とオレンジの炎を纏っている様なその見た目から【炎雷状態】と名付けていたものだ。

 

 半狂乱で走ってくるブラキディオスに対して、俺は口をガパリと開いた。口内に収束されていくのは、真っ赤な真紅。徐々に膨張していくエネルギー塊は、軋みを上げながら真紅の光を放つ。

 そして臨界点に達したそれを一気に解き放った。解き放たれた赤き稲妻は、一条の光となってブラキディオスの体を飲み込む──

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…………

 

 炎雷状態を解除した途端、俺は地面に倒れ込んでしまう。あの状態は消耗が激しいので、使った後はいつもこうなってしまうのだ。

 

 しかし今は疲れている場合ではない。問題は狂竜ウイルスと思われるものについてだ。ブラキディオスは最後のブラスターで消し飛んでしまったから確認が取れないが、やっぱりあれは狂竜ウイルスと見ていいだろう。不可解なのは、狂竜ウイルスにしてはやつから感じた狂気が凄まじかった点だ。

 狂竜ウイルスの実物を見たわけじゃないから何ともいえないが、ブラキディオスを蝕んでいたものは、狂竜ウイルスより厄介なものの気がしてならない。狂竜ウイルスはシャガルマガラが原因のものだが、もっと別の……シャガルより強大な何かがある様な気がするんだよな。まあ憶測でしかないが。

 

 何より許せないのは、その強大な何かが命を弄んでいること。無理やり脳のリミッターを外して、その上で上限以上に力を引き出すとか、全く反吐が出るぜ。命を道具か何かと思っている奴が、この世界にいるかもしれないってことだ。もしかしたら次は自分の身に何かあるかもしれない。用心しなければ……

 一回渓流に戻るべきかもしれんな。俺の第二の故郷である渓流が、ウイルスに汚染されるのは我慢ならないので。

 

 よし、そうと決まれば早速渓流に帰るとしますか! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。