銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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第24話.帰還

 火山を後にした俺は、のんびり気ままに渓流への道に歩んでいた。ウイルスのことは心配だが、残念ながら俺にウイルスを根本からどうにかする力はない。どういう症状かは知ってるから、せいぜい拡散を防ぐぐらいだろうか。一応あれから毎日ウチケシの実を食べるようにしてるし。

 

 そういうわけだから、のんびり進んでいるわけ。この世界に来た第一目的は、自由に生きること。この頃戦闘ばかりであんましこの世界をよく見れて無かった。それはあまりにももったいない。強くなるために戦闘を重ねることは大切だが、それで生き急いでいては本末転倒だしな。たまには戦闘のことは頭の隅に置いといて、観光気分で歩いてみても文句はないだろう。

 

 のんびりじっくりこの世界を歩いてみて分かったことだが、まず空気がうまい。これは当たり前か。前世の地球は排気ガスやら何やらで汚染された空気を吸ってたわけだし。それに比べてこの世界は排気ガスなんてものはないのだろう。普通に歩いていても、まるで深い山の中の空気のように澄んでいるのだ。

 

 後は多分だけどこの世界というかこの星、地球よりかなりデカい。前にとてつもなく大きい湖に立ち寄ったことがあるんだが、その時見えた地平線の湾曲具合が地球とは比べ物にならないぐらい水平に近かった。これだけで考えても、この星がデカいというのが想像できる。

 だけどこれも当たり前かもな。だった考えてもみろ? この世界はモンスターという巨大生物が至る所に存在するんだぜ? もし地球と同じぐらいの星だったら、すぐさま土地が足りなくなり、生前競争の果てにモンスターは絶滅するかもしれない。かつて地球にいた大型生物たちのように。それがないってことはモンスターが沢山いてもなお余る土地があるに違いない。

 そう考えると俺が旅してきた道も、この世界のほんの一握りなんだろうなぁ。なんだかワクワクしてくるなぁ。まだ見ぬこの世界の全てを、いつかはこの目に焼き付けたいものだ。

 

 

 そうして歩くこと数週間。特に変わったこともなく俺は砂原付近まで戻ってきていた。照りつける太陽の日差しも、焼けるような砂漠の砂の暑さも、なんだか懐かしく感じる。

 

 ついにここまで戻ってきたか……思えば砂原ではいろいろなことがあったよな。特に古代竜人と会ってなければ、今でも俺は怒り状態の問題を抱えていたかもしれん。もしそうだとしたら、いつか俺は完全に化け物へと変貌していたかもしれないな……それにアイツからはいろいろなことを教わったし、今度あったら改めてお礼を言わなくちゃいけないな。

 

 そう考えながら歩いていると、前方に見たことのあるシルエットが浮かんできた。あれは……あの時のアイルーじゃないか! 

 久しぶりの再会に嬉しくなった俺は、竜車に乗ったアイルーに駆け寄っていく。しかしそれが不味かった。当然だろう。相手からしたら見たこともない真っ白なジンオウガが、自分の方に向かって走ってきているのだから。普通に怖いわ。

 

「ギニャァァ!! な、なんかわからないモンスターがこっちきてるニャ!?」

 

 あ……そういやそうだった。俺ってばあの時からだいぶ見た目が変わったんだった。

 

「落ち着け! 俺だ俺。前に世話になったあのジンオウガだ!」

「ニャニャ!? 喋るジンオウガ……あぁ、あの!」

「グワァ!?!?」

 

 どうやら思い出してくれたようだ。安心したぜ。若干一体安心できてない奴がいるようだが、ここは我慢してもらいたい。

 

「久しぶりだニャア。こっちは変わらずだけど……そっちはだいぶ変わったようだニャ。こりゃ、暴れるニャ!」

「すまんな。こんなに間近にジンオウガがいたら、ガーグァからしたら怖いわな」

「気にしないで欲しいニャ。こいつってば少し臆病なところがあるから……おっとと」

 

 暴れるガーグァから落ちそうになりながらも、アイルーはそう言って笑ってくれた。あ、今半分落ちかけたぞ。マジですまん……

 

 それから俺たちはこの数ヶ月の間にあったことを話し合った。アイルーたちは、俺がハプルボッカを倒したことによって、交易がしやすくなったと喜んでいた。砂原に住むアイルーからしたら、森や海の資源が無くなると辛いんだとか。あとあのハプルボッカは人間の竜車も襲っていたらしく、俺は知らぬ間に砂原の安全を守ってしたらしい。

 俺の方はいろいろ噛み砕いて伝えたが、キリンに出会ったことには驚いていたな。やっぱ真龍が住処を離れて行動するのはほぼないことらしい。そりゃそうだよな。あんなのがうろちょろしていたら、安心して生活できないってもんだ。

 

 あと収穫もあった。あの白い装備の太刀使いの少女のことだ。このアイルーの集落には、昔オトモとしてハンターと共に行動していたアイルーがいるそうで、そいつから聞いた話なんだと。

 なんでも、彼女の名前はティナ。12歳でハンターになった天才少女で、14歳で人類史状初の古龍の単独討伐に成功した英雄らしい。

 古龍の単独討伐って……化け物か何かですか? 俺が会った真龍であるキリンよりは格下の古龍なんだろうけど、それでもあの規格外の存在を人間の身で、それも1人で討伐するとか……話を聞いただけなら絶対信じられないだろうな。でも実際会ったから分かる。あのそこしれないエネルギー。彼女ならあるいは、そう思わせるだけのものがあった。

 

 これはいよいよ彼女とは何があっても敵対するべきではなくなってきたな。流石に今の俺では勝てる要素が皆無だし。というか本当にティナは人間なのか? 実は古龍が人間に化けてるだけなんじゃ……なーんて、そんなことあるわけないよな。もし人化できたとしても、古龍が人間に味方する理由がないし。

 

「狂竜ウイルスかニャ? いや、聞いたこともないニャア」

「そうか……でも気をつけてくれ。アレは生物なら何にでも感染する厄介なものだ。アイルーにも影響がないとは言い切れない」

 

 念のため狂竜ウイルスのことも聞いてみたが、残念ながら知らないようだ。どうやら長いこと狂竜ウイルスが流行ったことはないみたいだな。となると、休眠期に入っていたゴア・マガラが活動を始めたのか……? 

 とりあえずアイルーにはウチケシの実を集めておくよう言っておいた。仲良くなったアイルー達がウイルスにやられるのは、後味悪いし我慢ならないしな。

 

「じゃあ俺はいくよ」

「渓流にも仲間達はいるニャ。何か用があったら、彼らのところを尋ねるといいニャ」

「分かった。じゃあ達者でな!」

「お世話になったニャー!」

 

 そうしてアイルーと別れた俺は、渓流への道を進んでいくのだった。

 

 

 

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 ついに……ついに帰ってきたぞー!! 

 

 砂原を出てから随分経ってしまったが、ようやく渓流に帰ってくることができた。久々に見る渓流はどこも変わった様子はなく、火山のようなギスギスした感じもない。どうやら狂竜ウイルスの影響は、ここには及んでないようだ。ひとまず安心安全。

 

 とりあえず一直線に家に来たわけだが、エリア9にあるこの家もだいぶ狭くなっちまったな。それだけ俺が大きくなったということなんだろうけど。一応新しい住処についても検討してみるとするか。ハンターを避けるためにも、もっと森の中に住処を作ってもいいかもしれん。

 まぁそれは置いておくとして、今は飯だ! 旅先ではあんまりガーグァを食べられなかったからな。やっぱガーグァの肉が一番旨いんだよ。早速狩りに行こう。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

 渓流のエリア1。ガーグァがよく休んでいるその場所で、俺はそこに広がる光景に驚いて立ちすくんでいた。

 エリア1はすでにガーグァの血で真っ赤になっていたのだ。そして宙を舞う無数の雷光虫。その中心に立っているのは……

 

「「アオオォォォォーーーーン!!」」

 

 2匹の雷狼竜。この世界に来て初めて出会った俺以外のジンオウガが、高らかに遠吠えをしていた。

 

 

 

 

 




今回で成長編は完結となります!

ここでお知らせなのですが、次の章のプロットを練るため2週間ほど投稿をお休みさせて戴きます。完成し次第バシバシ投稿していきますので、銀滅龍の次章をお楽しみに!

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