「「アオォォォォーーーーン!!」」
間違いない……ジンオウガだ。しかも2体。前に渓流にいた頃は一回も見たことがなかったんだが。獲物が少なくなってここまで出てきたのか? それとも……
目の前に自分と同じ存在があることにひどく驚いてしまった。驚いたからと言って取り乱したりはしないが、それで奴らから隠れられているとも思わない。ジンオウガというのはぶっちゃけ隠れるのに向いてないのだ。流石は無双の狩人。隠れず堂々と獲物を仕留めるってか?
閑話休題。現に目の前の2体のジンオウガは、俺が隠れている茂みの方をじっと見つめている。時折低く唸っているところを見るに、警戒しているのだろう。時折お互いの目を見合っては何かを確認しているような仕草を見せるところから、この2人は仲間か?
これ以上隠れても無駄だと感じた俺は、ゆっくりと茂みから出て行く。自分より一回りも大きく色も違うジンオウガが出てきたことに驚いたのか、一瞬奴らの動きが止まった。が、すぐさま警戒態勢をとりこちらに隙を一切見せてこない。成る程、なかなか場馴れしているようだ。
これは手強そうな相手だな……そう思い、密かに電力を溜め始めたその時だった。
「お前、何者だ?」
なん、だと!? 今、確実に奴が言わんとしていることが分かった。勿論本当に喋った訳ではない。ただ奴の身振りや唸り声を聞いていた結果、何を言っているのかが分かった。というところだろうか。
そういえば前世で犬や猫はお互いにコミュニケーションを取れる、というのをテレビで見たような記憶がある。確か……カーミングシグナルとか言ったような気がする。もしかするとこれの一種のようなものだろうか? 今まで沢山のモンスターを見てきたが、こんなことはなかった。同じジンオウガだから、喋れずとも意思を伝えることが出来るのだろうか?
「何者だ、とはどういうことだ?」
「あぁ!? テメェみたいな見た目の
初めに話しかけてきたのとは別のジンオウガが、まるでヤンキーかなんかのように絡んできた。何者かって聞かれてもなぁ。
「俺はジンオウガだが」
「ジンオウガ? ……あぁ、そういえば人間たちは我らのことをそう呼んでいたな。自らを人間が勝手に付けた名で名乗るとは、とんだ恥さらしめ」
妙に上から目線でそう言ってくるのは、最初に話してきたジンオウガ。てか全員ジンオウガっていうのもめんどいな……よし、絡んできた方をヤンキー、上から目線の方を堅物と呼ぼう。
「それに貴様が我らと同じだと? その色合い、異形な尾。あり得ないにも程がある。ふむ、成る程な。貴様は奇形児に生まれ、異端として親に捨てられた。だから群れにも入らず、1人でうろついているのだな?」
おいおい堅物さんよ。あんまり勝手に決めつけてくれるなよ……それに随分な言いようじゃねーか。あんまり煽られるとぷっつんいっちゃうよ?
「はっ! 図星を突かれてお怒りってか? かわいそうだねー。親に捨てられた坊や?」
ヤンキーが煽る。堅物も一見冷徹に見えるが、その目の奥には蔑みの感情が見て取れる。え? なんなの? なんで会ったばかりの奴らに、一言喋っただけでこんなにバカにされなきゃいけないの? 流石に堪忍袋の尾が切れた。少し痛い目にあってもらわねーとなぁ!!
超帯電状態に移行。生み出された衝撃波がエリア1に流れ出ている水を全て吹き飛ばした。
「なに!?」
「はぁ!?」
突然超帯電状態になった俺を見て、2人も焦って雷光虫を集めようとする。だが、無駄だ。俺はこの場にいる全ての雷光虫に指示を出し、全員が俺の元に来るよう誘導する。雷光虫の本来の目的は自衛。だったら彼らより強い俺に集まるのは当然だよなぁ?
「何故だ! 雷光虫が集まってこぬ!」
「くそガァ! テメェなにしやがった!」
堅物とヤンキーが何やら騒いでいるが、すでにぷっつんいってる俺の耳には入らない。ただ少々煩かったので、一言だけ言った。
「黙れ」
その一言から何かを感じ取ったのか、2人はピタッと騒ぐのをやめた。先ほどよりより激しく警戒心を抱いているようだ。恐らく2人は気付いていないだろうが、僅かに足が震えている。心では否定しても、本能が感じ取ったのだろう。俺と奴らとの力の差を。
それを見た俺は超帯電状態を解除した。途端に放っていたプレッシャーが消え、2人がドサっと座り込んでしまう。相当緊張していたようだ。
「分かったか? 力の差ってやつが」
「くっ……」
どうやら落ち着いてくれたみたいだな。久々にぷっつんきてしまったが、初対面の相手に舐められたんだからしょうがない。うん。結果的にマウント取れたしOKです!
「それで、お前らはどこから来たんだ? 前までこの辺には居なかったよな?」
「いうはずねーだろ!」
「ほう……?」
ヤンキーがまだ抵抗する意思を残していたので、濃密に練り上げられた殺気をヤンキーに放つ。途端にヤンキーはぶるぶると身を震わせて黙ってしまった。
「で?」
「チッ、分かったから許してやってくれ。縄張りを荒らされてイラついてたんだ。早とちりしすぎた」
どうやら堅物は話のわかるやつのようだ。堅物が認めたからか、ヤンキーも渋々謝ってきた。堅物の方が奴らのコミュニティー内の位は上なのだろう。
「我らは『雷狼の里』からやってたものだ」
「雷狼の里……?」
「そうだ。我ら狼が暮らす場所。いわば集合住処といったところか」
雷狼の里! そんな場所があったなんてな。そういえばジンオウガは深い森の中で群れを作って子育てをするんだったか。興味が出てきたな。1人で毎日過ごすのも少々寂しいし、同胞たちがいるなら仲良くなっておいて損はないだろう。
「ふむ、そこに案内してくれないか?」
「……いいだろう」
「おい、いいのか!? こんな得体の知れない奴を、俺たちの群れに連れてっても!」
ヤンキーが何やら焦っているようだな。先ほどの殺気を浴びて、俺が只者ではないとでも思ったのだろうか。
「強い個体に従うのが我ら狼の掟。忘れた訳ではあるまい。あやつは力を示した。強者の力を」
「クソ!」
「ついて来い。里に案内しよう」
そう言って2人のジンオウガは、渓流とは真逆の方向に歩き出した。どうやら本当に森の中に、その雷狼の里とやらはあるらしい。とりあえずついて行ってみるとしよう。
……Now loading……
「なあ、あれって霊峰か?」
俺の目には遠くにそびえる山が写っている。上に行くほど細くなるその円柱状の山は、雲に隠れてその頂上を拝めないほどに巨大だ。
「霊峰は知っているのか。そうだ。あれこそ我ら狼の聖地たる霊峰ハクサン。この広大な森に住む無数の狼の群れは、どいつもこいつもあそこを自らの縄張りに入れようと日々争っているのだ」
ほへー。あの霊峰って名前があったのか。ハクサンねぇ、前世にもそんな名前の山があったような……まあいいか。それより気になるのは、無数の狼の群れというところだ。
「この森には他にもジンオウガの群れがあるのか?」
「そうだ。大小様々な群れが存在している。この森はとても広大だ。我ら狼以外の大型生物も多く生息しているのだ。中でも我らが雷狼の里は、勢力縄張り共に最大クラスよ」
成る程なぁ。エリア9の裏手に森が広がっているのは知っていたが、そこまで巨大だったとはな。確かここはドンドルマがある大陸とは別の大陸だったよな。まだ人の手がほとんど及んでないのだろう。
それにしても日々争っている、ね。こりゃあ安息の地にはなり得ないかもなぁ。毎日争いが起きているなら、ドンドルマがある現大陸に渡るのもありか? それともいっそのこと、この森を併合してしまおうか……? なーんてな。流石にそれは俺でも無理だろう。ま、後のことは後で考えるとしよう。
「さて着いたぞ。ここが雷狼の里だ」
堅物にそう言われて思考の世界から帰ってきた俺は、思わず目を見開いた。なんとそこはジンオウガだらけの場所だった。木の上で辺りを見渡している者、木の穴の中で寝ている者、広場でくつろいでいる者、全てがジンオウガだ。
す、すげぇ!! 本当に雷狼の里じゃねーか! 見渡す限りジンオウガしかいない。本当に群れを作って生活してるんだな。あ、あそこにいるのはまさかジンオウガの子供!? か、可愛い……
ジンオウガ好きの俺からしたら、たまらない光景だった。しかし向こうはそうは思ってない様子。いかにも戦えそうな奴らがゾロゾロとこちらに向かって歩いてきていたからだ。流石に白いジンオウガってのは目立ちすぎか?
「長が通られます!」
集まってきた奴らの1人がそう叫ぶと、サッと全員が左右に分かれた。そしてその間を通ってやってきたのは、通常のジンオウガより少し大きい俺より、さらに一回り大きい歴戦を感じさせるジンオウガだった。
主人公以外のジンオウガは喋っていません。オウガさんが彼らの身振りや唸り声、その声のトーンなどを見聞きして分析し、脳内で変換して会話を成り立たせています。彼らの口調はオウガさんの想像ですね。
コミュニケーションが取れるのは、ジンオウガ間のみです。