銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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第3話.はじめての狩り

 体が成長するまで、俺はただひたすら待った。このあいだのような失態を犯さぬべく、より慎重に行動したわけだ。

 

 幸いあの実験のおかげで各種状態異常に耐性を持てたので、より一層食料には困らなかった。味はマジでうまいとは言えないんだけどな!

 そんな時にはハチミツよ。これはマジで素晴らしい。毎日食べても飽きないほどには素晴らしい。

 

 あ、あと余談だが、この体はなんと鉱石までも食べられるらしい。

 少しばかり冒険しようとエリア8まで行った時だ。まぁご存知の通りあそこは飛竜の巣以外ロクなものはないわけだが、エリア9ばかりに引きこもってるのもなんだと思って行ってみたわけだ。

 

 その時鉱石を発見し、ある考えが浮かんだ。薬草から耐性を得られるなら、鉱石を食べたら防御力アップに繋がらないだろうか、と。

 鉱石には特に危険は感じられなかったし、何より石を食べる生物もいる。モンスターが生物の枠に囚われないなら、いけると思ったわけ。

 

 結果は大成功。鉱石を食う前より鱗が硬化したことが実感できた。それからは毎日少しずつ鉱石を食べるようにしている。

 

 そうして体の成長を待つこと1ヶ月が経った。

 

 

 俺の体は幼年期から青年期へと至っていた。依然成体に比べると大きさは劣るし、身体能力は低い。だが幼年期に比べて格段に成長したのも確かだ。

 なので、今日は初めて渓流を探検してみたいと思う。今の俺なら、ある程度のことならなんとかなりそうだし、大型モンスターに出会っても逃げ切れるだろう。

 

 てか何より、そろそろ肉が食いたい!!ジンオウガなのに、1ヶ月間ハチミツと草と石しか食べてないんだぞ!?流石に食いたいだろ、肉!

 とりあえずエリア1から行ってみるとすっか。

 

 

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 渓流といっても、ゲームのようなエリアのみが存在しているわけではない。ちゃんとエリア間の道や、エリア外にも世界は広がってる。当たり前のことだが。

 

 そんなわけだから、エリア9からエリア1に行くことも可能ってこと。

 ふむ、見た目はゲームの時とほとんど変わらないな。そしているいる、ガーグァが。

 

 ガーグァは食事でもしているのか、時折地面を嘴でつついている。当然こちらには微塵も気づいていない。

 

 これは絶好のチャンスだ。奇襲をかけて一気に仕留める。意識を集中……奇襲ならよく使っていた手段だ。失敗するわけにはいかない。

 いまだ!

 

 ガーグァが反対方向を向いた一瞬の隙に、茂みから飛び出す。そして躊躇わずにその喉元に噛み付いた。

 一拍遅れてガーグァが反応するが、時すでに遅し。俺の牙はすでにその喉元に深く刺さっている。

 暴れるガーグァの体を後ろ脚で押さえ込み、頭と首を前脚で固定。逃げられないようガッチリと捕らえる。

 

 ここまでくれば一安心だ。もう仕留めたも同然。その証拠に、ガーグァはピクピク痙攣するだけで、抵抗する力はなくなっている。

 狩りをする為に、色々デモンストレーションをしといてよかったな。生前テレビで見た、ライオンがインパラを仕留める映像が役に立った。

 

 ……よし、完全に絶命したようだ。初めてのこの体での狩りにしては、上出来といってもいいだろう。

 さて、早いとこ移動した方がいいな。血の匂いにつられてどんな大型モンスターが来るとも限らんし。とりあえず家に帰るか。

 

 

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 さてさて、早速お楽しみの食事タイムだ!

 

 目の前には仕留めたばっかりのガーグァが一体。さて、どう調理してやろうか……なーんてな。この体では調理なんか無理だし、そもそも火も調味料もないし。このままかぶりつくしかないな。

 しかし生肉をそのまま食べるとは……人間だった俺からしたら、なかなかハードな案件だぞ。

 

 むぅ……悩んでも仕方ない、か。この先何回も経験することなんだし、早いとこ慣れる方がいいだろ。

 

 そう考え、一思いにかぶりついた。

 

 む?これは……うまい!!滴る血もただの生肉も、全く問題じゃねーな!普通にうまいぞ!味はやはり鶏肉が近いか?

 

 恐らくジンオウガになった影響だろう。血抜きもしてない肉を食べてるのに、特に忌避感は感じなかった。そんなことより、1ヶ月ぶりに肉にありつけた喜びの方が大きい。

 俺と同じぐらいの大きさがあるガーグァを食べ終わるのに、20分もかからなかった。

 

 ふー、美味かった……やっぱ肉が一番だなぁ。鉱石とか薬草とかは、体を強化する目的で食べてたにすぎないし。ジンオウガが本来食べるものが、一番美味く感じるのは道理だな。

 

 さて、腹ごしらえもしたし、探検を続けよう。

 

 

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 今度はエリア7にやってきた。理由としては水が飲みたかったのと、やはりまだ成体じゃないというのを考慮して、出来るだけ家から近いところが良かったのだ。

 

 そんな俺の目の前には、この世界にきて初めて敵が立ちふさがっている。

 黄色い皮に全身を覆われ、トカゲのようなワニのような見た目。海竜ルドロスだ。鋭い牙をむき出しにして、盛大に威嚇してきている。

 

 ルドロスのサイズは今の俺より小さい。しかもロアルドロスの姿も無ければ、仲間のルドロスもいない。

 いい機会かもな。ここでこの体での戦闘に慣れておこうか。この世界にきて1ヶ月、一度も戦闘らしきものはしていない。このままだと体も鈍っちまう。

 よし、やるか……

 

 意識を戦闘モードに切り替える。精神が研ぎ澄まされ、より感覚は敏感に、より冷静に相手の動きを見極めるため。もはや少し懐かしい、戦闘の心構え。大丈夫、まだ忘れていない。前世で培った経験は、こちらでも役にたつだろう。

 

 ルドロスが真っ直ぐ突っ込んで来た。その動きは知性のない獣の突進と同じ。相手の動きが手に取るように分かる。

 ぶつかる寸前で真横に飛び、突進を回避。急ブレーキをかけるもすぐには止まらず、隙を作るルドロス。

 

 こい、雷光虫!!

 そう念じるだけであたりの茂みや草むらから、小さく放電する雷光虫が無数に集まってくる。そう、体が成長するに伴って、雷光虫を操れるようになったのだ。

 まだ超帯電状態にはなれないが、自身の攻撃に雷属性を付与することはできる。

 

 右前脚に雷をチャージし、無防備なルドロスの背中に向かって思いっきり振り抜く。バチっという音とともに小規模な放電が発生し、お手攻撃で傷ついたルドロスの背中を、さらに焼いていく。

 

「ーーーー!!」

 

 声にならない悲鳴をあげたルドロスはしかし、まだ諦めてなどなかった。首だけをグリンとこちらに向け、その口をガパリと大きく開ける。

 咄嗟に危険を察知した俺は、その場から大きく飛びのく。次の瞬間、さっきまで俺がいた場所に水の塊が通り過ぎていった。ルドロスの水球攻撃だ。

 

 あっぶねぇ……今のはあと少しで直撃もらうとこだったぞ。やはりモンスター、人間を相手にしてる時とは訳が違うな……だが!

 

 俺は尻尾を地面スレスレに振り抜く。その尻尾はルドロスの脚をとらえ、転倒させることに成功した。そしてもがくルドロスの腹に向かって、再び雷を纏わせた脚をぶち込んだ。

 

「ギャアァァ……」

 

 ルドロスの目から生気が失われ、ピクリとも動かなくなった。死んだようだ。それを確認した俺は、戦闘用のスイッチを切った。

 

 はぁ……なんとか倒せたー。やっぱ少し鈍ってんなぁ。まぁ人間の時とは体の構造がまるで違うし、しょうがないといえばしょうがないんだが。

 でも初勝利だ。今ので大体のコツは掴めたし、次はもっと上手く立ち回れるように頑張ろう!しかし疲れたな……やっぱ一番の問題はスタミナかなぁ。

 

 疲れる体を引きずるようにして、俺は家へとその歩を進めるのだった。

 

 あ、ちなみにルドロスはペロリと平らげたぞ。味は……うーんそうだな、水浸しの魚肉って感じ。要するに不味かった!

 

 


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