銀雷轟く銀滅龍   作:太刀使い

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少し構成が甘いかもしれませんが、ご容赦ください。時間がなかったんです……


第30話.殲滅

 ジンオウガの群れが子供の奪還に動き始めていた頃、ハンター側でも動きがあった。長年追い続けていた密猟団の情報が舞い込んできたからだ。その密猟団は主にモンスターの子供をメインに狙っている者達で、捕らえた子供を闇オークションにかけて高値で取引しているという。また違法な狩りも行っており、定価を遥かに超えた値段で素材を取引しているとか。

 

 別の案件(・・・・)で違法ハンターを取り締まるギルドナイトが出払っている今、彼らは好き勝手に行動を繰り返していたのだ。そんな彼らは欲に目が眩んだのか、いつもなら絶対にしないミスで自分達の痕跡を残してしまった。今回はその情報が伝えられてきたというわけだ。

 

「それで私たちに話が回ってきたというわけですか」

 

 ユクモ村のギルドマスターの執務室で、キールにそう問うティナ。

 

「うむ。事が事だけに私もこちらに来たのだ。全く、最近はユクモ村周辺で異変が多いな……まぁいい。知っての通り今はギルドナイトを動かす事ができない。だが、ようやく掴んだ奴らの尻尾を離すわけにもいかん。本当はハンターに頼むのは規約違反なのだが……頼まれてはくれないだろうか?」

「私は構いませんが、お二人はどうしますか?」

 

 後ろを振り向いたティナの目線の先にいるのは、カナトとエリンの2人。ティナの元で修行を始めて約2ヶ月。初めは無理難題だと思っていた彼女のウォーミングアップも今では鼻歌混じりにこなし、その後の模擬戦を含めた特訓にもついてきている。

 元々ハンターとしての才能があった2人は、この短期間でG級ハンターと比べても遜色ないと言われるほどに成長していた。

 

「僕たちのユクモ村で悪さをする奴は放っておけない。そうだよねエリン?」

「えぇ。自然との調和を務めるのがハンターの役目。それを壊す不届き者は痛い目に合わせてあげるわ」

 

 随分と頼もしくなった彼らを見て僅かに笑みを浮かべたティナは、キールに向き直る。

 

「というわけです。今回の密猟団捕縛作戦は、私と彼らの3人で執り行います」

「本当にすまんな。今回限り、ハンターが人に武器を向けることを許そう。本来ギルドナイトの仕事を押し付けてしまうとは、なんとも情けない限りだ……」

 

 最後まで申し訳なさそうに頭を下げるキールをなんとか宥めながら、3人は執務室を後にした。

 

「さて、情報によると密猟団は渓流に近いこの森に潜んでいるそうです」

 

 ティナが地図を広げて指差した場所は、渓流の奥に広がる大陸の半分を占めるほどの広大な森林だった。

 

「この森の中から奴らを探すとなると、結構骨が折れるね……」

「安心してください。彼らの居場所にはおおかた予想がついています」

「というと?」

 

 エリンが首を傾げてそう聞くと、ティナは得意げにこう答えた。

 

「昨日のうちに私が直々に彼らのアジトを見つけていたからです!」

 

 舞い降りる沈黙。ティナの身体能力や動体視力、その他諸々が常人に比べてずば抜けて高い事は知っている。だが何か特別な道具や方法での解決を予想し、少し期待していた2人は肩透かしを食らった気分になってしまった。

 

「ま、まぁとにかく! アジトの場所はすでに分かっているので、早速向かうとしましょう!」

 

 2人のコレジャナイという目に晒されたティナは、強引に会話を切り上げてスタスタと歩いて行ってしまった。

 残された2人は、少し悪いことをしてしまったなと苦笑いを浮かべながら、その背中を追いかけて行った。

 

 

 

 ……Now loading……

 

 

 

「な、なんだこれは……」

 

 数時間後、密猟団のアジトにたどり着いたティナ達が見たのは、今まで見たこともないようなあり得ない光景だった。

 密猟団のアジトはすでに壊滅しており、至るところから煙が上がっている。彼らが住んでたであろうテントは焼き払われ灰に、そして彼ら自身もそれと同じように消し炭になっていたのだ。

 

「「「「「「アオォォォォォォ────ン!!」」」」」」

 

 そしてそんな焼け野原の残骸の上で高らかに遠吠えをあげるのは、20を超える数のジンオウガ。一斉に天に向かって吠え、勝鬨をあげているのだった。

 

「ジンオウガの群れ!? なぜこんなところに……」

 

 カナトとエリンが木陰からその光景を茫然と見ている中、ティナは即座に彼らの戦力分析を行なっていた。その結果、この2人では勝てない個体が三体、自分でも時間稼ぎに徹することになりそうな個体が一体いる事がわかった。その事実にティナは驚愕する。少なくともG級のジンオウガが4体いるのだ。明らかにパワーブレイカー。生態系を破壊しかねない存在達だ。

 

(あるいは、これほどの戦力を持たないとこの森では生きていけないとか……?)

 

 この森はまだ人間の手が全くと言っていいほど入ってない森だ。もしユクモ村に近いこの森がそんな魔境だったとしたら、ただ事ではない。

 すぐさま戻って報告をしようと思ったその時だった。彼女をさらに驚愕させる出来事が起こる。

 瓦礫に隠れて見えてなかったのか。突然それは現れた。全身を覆う白い鱗と甲殻。それを包む白銀に輝く体毛。あの火山で出会ったジンオウガだと、ティナは一瞬で気づいた。そしてそれは横の2人も同じ。

 

「な!?」

「あれは!」

 

 そしてあまりの動揺にガサッ! と大きな音を立ててしまった。そして狼の名を冠するジンオウガが、その音を聞き逃すはずがない。

 

 バッ! と全てのジンオウガが3人の隠れている茂みに目線を向けた。そこそこ戦えそうな個体が今にも飛びかかろうとしたが、一際大きいジンオウガがそれを制した。かなりの知能がある、そう判断したティナは状況は最悪だと分析した。知性なき獣ならいざ知らず、少なくとも群れを統率する個体が存在し、さらに上下関係までしっかりしてるとなれば、一方的に蹂躙されるのは目に見えているからだ。

 

 自分が飛び出して場を荒らし、2人を逃す時間を稼ぐしかない。ティナがそう判断して太刀に手をかけようとした時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「お前……あの時のハンターか?」

 

 いつの間にか、ジンオウガの群れの先頭にあの白いジンオウガが立っていたのだ。この天狼竜には言葉が通じる。ティナは藁にもすがる思いで語りかけた。

 

「そ、そうです。奇遇ですね。こんな森の中で」

「流石に奇遇ってのは無理あるだろ……んで? お前らは何しにここまでやってきたんだ? 状況からある程度は察することは出来るが……」

 

 ティナは密猟団を討伐しにここまでやってきたこと、ジンオウガの群れを発見したので隠れてやり過ごそうとしたことを伝えた。その間天狼竜が他のジンオウガ達のことを牽制してくれていたので、話はスムーズに進んだ。

 

「なるほどねぇ。だが一足遅かったな。その密猟団は俺らが狩っちまったぜ。俺らの群れから子供を攫いやがったからな」

「そうですか……」

 

 子供のために群れ単位で行動を起こすという、ジンオウガの生態の新事実に多少驚愕しつつ、ティナはほっと胸を撫で下ろした。このジンオウガ達が人間という種族に対して敵対心を持っているわけではない、と分かったからだ。

 

「俺らの長はお前らが何もしなければ、このまま見逃していいと言っている。用事が済んだら早めに出て行ったほうがいいぞ。群れの中には人間をよく思わない連中もいるからな」

「ご忠告ありがとうございます。少しの調査の後、すぐに帰還することをここに約束しましょう」

 

 そのティナの言葉を天狼竜が長に伝えたところ、満足したのか他のジンオウガを引き連れながら森の奥へと帰っていった。残された天狼竜とティナがしばし見つめ合う。

 

「貴方があのような大規模な群れに入っているとは驚きました」

「まあ入ったのは最近だけどな。結構いい奴らばかりで居心地はいいぞ」

 

 ニヒッと笑ったような顔をする天狼竜。ジンオウガの笑い顔など見た事がないのでティナからしたら判断するのに困ったが。

 そしてそのまま天狼竜も森の奥へと帰って行こうとしたので、ティナは咄嗟に聞く。

 

「貴方は! ……まだ人間の味方ですか?」

 

 足を止め、ゆっくりと振り返った天狼竜がこう言った。

 

「勿論、前に言った通りだ。あ、でも仲間達に手を出されたら、という理由も追加かもな。そんじゃ!」

 

 今度こそ天狼竜は森の奥へと消えていく。カナトとエリンに話しかけられるまで、ティナは彼が去っていった方をボーッと見つめていたのだった。

 

 

 

 


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